第165話 南大陸東海岸強襲 その1
第165話投稿しました。
短めです。戦い前夜とでも言うのでしょうか。
様々な先手を打ち自衛隊は作戦開始を待ちます。
一方ドルツ国兵士は・・・
南大陸の東に近い北の海岸は崖になっている。
月が隠れ、暗闇の中で崖を登る人影が動く、2人だ。
ベルトに付けた金属にロープを通し、二人は崖を素手で登っていく。
幸いなことに二人の登る崖は、絶壁ではなくきつい傾斜のついた岩肌である。
男たちは何も言わず、呼吸を整えながら14mの崖を登っていく。
やがて上に到着した2名は、近くの大木にロープを2重もやいで結び、ロープを2回大きく振る。
すると崖下で二人を見守っていた人々が、二人が垂らしたロープを伝い登っていく。
その背中には30Kgもの荷物を背負いながら、彼らも息を乱すことなく一気に登っていく。
次々と隊員はロープを使い崖上に集合し、態勢を低くして全員の到着を待つ。
全員が昇り終わり、何事かをハンドサインでやり取りしてから、2名、4名、6名のチームに別れ、別々の方向に歩き出す。
・・
やや遅れてゴムボートが防波堤の先に到着する。
これは外国人の様だ、6名の隊員は防波堤の内側に入り、泳ぎながら防波堤の先端を目指す。
防波堤の先端にはロープを編んだ梯子とその上には防潜ネットの操作室がある。
二人のドルツ国兵士が見張りを兼ねて監視および防潜ネット操作を担当している。
通常、ドルツ国東海岸指令室から有線電話で指令が入るとネットを操作する。
海を泳ぎながら男たちは夜に紛れる色の戦闘服を着ており、監視所兼操作室に近付くとサイレンサー付きピストルで2名を同時に射殺する。
一人が防波堤に立っている電柱に登り、電話線を切断する。
男たちは防潜ネットを下げる操作をした。
ネットが下がり切った所で、装置に負荷をかけて電気的に破壊する。
もうモーターごと取り換えなければネットを動かす事も出来ない。
男たちは防波堤を姿勢を低くして陸地側を目指して走り出す。
ゴムボートは防波堤の途中にある鉄輪に括りつけてある。
ドルツ国東海岸司令部が気づくまで此処を死守するつもりだ。
一方、崖の上で別れた4名は、山中を抜け、東海岸が見える小高い山の上に立つレーダー施設に向かっていた。
ドルツ国のレーダーはVHFの50MHz帯を使う旧式な物だ。
山の上に20mの鉄塔を建てて、その上に3mのアンテナが4連で設置されていた。
指向性を鋭くするために、1組のアンテナは3本で構成されている。
短い順に説明すると、導波器、輻射器(送受信部)、反射器となる。これが1.5m間隔で4組横一列に並んでいる。
この大きなアンテナはローターによって左右に50度ずつ計100度の方向を見張っている。
常に動いている大きなアンテナは目標としても大きな物である。
現在の日本では、アマチュア無線家位しか建てないアンテナ構成である。
(現世では八木アンテナと呼ぶが・・この世界では何と呼ぶのだろう)
送受信設備はアンテナに影響を与えない為に20m以上離れている。
現代日本ならアースを取れば送受信機に対する影響を抑える事が簡単であるが・・・
ドルツ国兵士に気付かれる事無く彼らはアンテナ根元に到着し、無線起爆式のC4爆薬を鉄骨に張り付けていく。見つからないような場所に高く、低く設置していく。
6名の隊員と2名の隊員は合同で東艦隊が停泊しているドックを兼ねた停泊ヤード後方の山を目指していた。
そこには対空砲火施設が並んでいる。
隠れて様子を見ると、30分毎に2名のドルツ国兵士が見回りを行っている。
時間は正確だ。
男達は見張りが来る30分間で、対空砲の下部にC4爆薬をセットしていく。
作業は30分で止め、見回りが通り過ぎると次々とセットして回る。
ドルツ国兵士の隊舎は対空砲の後方20m程度のテントである。
男達は音を立てずに隊舎や車両にも爆薬をセットしていく。
侵入したメンバーが弾薬庫を発見した。
少し離れた対空爆仕様のかまぼこ型倉庫である。
C4では破壊しきれないと見た隊員達は少し離れて監視を続けた。
その間、同行していた2名は対空砲陣地からかなり離れた森の中に測量機器を並べ、上からカモフラネットを張り、見つからない様に東海岸全体を見渡せる位置に陣取った。
対空砲陣地の破壊工作に向かった隊員から予定変更の連絡が入る。
オレンジ色のディスプレイに並ぶ文字を確認する。
それは同時にB艦隊の旗艦「かが」内に作られた陸戦司令室に届いていた。
「特務レンジャーB班から連絡。「敵対空砲陣地弾薬施設発見。監視任務に入る」以上です」
「了解。「監視任務続行。座標位置知らせ」と返信」
「了解」
アンテナ破壊工作を終えた4名は大きく迂回して、湾内を観測するチームに合流していた。
作戦開始まで、観測チームの護衛を彼らは実施する。
・・
「南司令、防潜ネット無効化成功しました」
「よろしい、予定通りだな。ところで観測員は位置についているか」
「はい、現在観測員からの通信を受信しております」
それは観測装置により、港湾内施設の精密な位置がデータとして艦隊に齎されていた。
「宜しい。予定通り作戦実施とする」
「了解。夜明け次第F-35Bが飛び立ちます」
「対処は作戦通り正確に頼む。何しろ友軍がすでに上陸しているのだからな」
「はい。米国海兵隊フォースリーコンと第1水陸機動連隊の志願チームですね。気を付ける様に指示しています」
「ところで、最大の問題はドルツ国東艦隊の殲滅だな。出てくるように手は打っているが、どうだろう」
「ええ。私もそれが一番心配です。ただ第二手段として湾内での破壊を考慮した攻撃となっています」
「A艦隊が中心となって空と海から対艦ミサイルで破壊か・・あまり効率よいと思えないのだがな。だが他に手がない以上はそれで行くしかないな」
「各飛行隊に目標割り振り終わりました。いつでも行けます」
・・
「訓令。南司令より」
「いよいよ南大陸上陸作戦が開始される、それに先立っての予備攻撃が諸君の任務だ。ドルツ国も必死で立ち向かってくる筈、各員油断はできないと知ってほしい。以上だ」
各空母化した艦艇ではF-35Bの発進準備が慌ただしく進められていた。
・・
「南司令提案です。そろそろ第2輸送艦隊の出港をお願いしても良い頃だと思います」
「そうだな。この予備戦闘で相当消耗するからな。Uボートに気を付けて送り出してもらえると助かる」
「了解しました。超長通信で要請します」
「さて、私は作戦計画を持って「かが」に行こうと思う。上陸部隊には直接説明したいのでね」
「用意いたします」
ありがとうございました。
次話では予備戦闘が開始されます。