第164話 南大陸決戦序章
第164話を投稿します。
ダークエルフが逃げます。
ドルツ国東艦隊は引きこもって出てきません。こまったものです。
「報告します南司令。現在までにUボートらしき小型潜水艦9隻。偵察機4機。攻撃型航空機25機。以上が戦果となります。以後、偵察機以外の航空機接近はありません」
「装備品の在庫はどうか」
「一部の兵器と燃料が不足しております」
「では、一旦南大陸から離れ補給をする。合流地点と段取りを決めてくれ」
「了解しました。補給は潜水艦隊への魚雷補充と戦闘機の武器、そして全艦の燃料補給となります」
「補給が終われば、南大陸侵攻第1号計画を発動する。準備も忘れないで欲しい」
「いよいよですね。了解しました。B艦隊には直前までの演習を続けさせます」
「たのんだぞ」
A艦隊はC艦隊と合流して燃料に弾薬や武器を補充している。
海域敵Uボートや艦船を近づけない為に円形陣形で中央にC艦隊、周りをA艦隊が取り囲み次々と補給を受ける。
B艦隊も燃料の補給を受けるのだが、先に日本より持ち込んだ偵察機器を陸自V-22に設置していく。
「偵察任務のオスプレイ改造は順調か」
「はい、問題ありません。日本で簡単に設置できるように改造してありますから、設置して調整だけです」
「大陸偵察の要だ、F-35Bを無作為に飛ばしてダークエルフに落とされては、人命や機材の損害は大きくなる。
ならばハイエルフを乗せたオスプレイに3D地形レーダーと画像記録を併用して地図を作れば良いと言う訳だ。ハイエルフ達が守ってくれるだろう。速度も速く一番安全だと思う」
「はい。武器も12.7mmを胴体横扉に1機、両方で2機、後部カーゴドアに2機つけています。敵戦闘機が相手ですが、対空ミサイル2基にフレアー、煙幕とレーダー妨害用にジャマーを積んでいます。
ただしドルツ軍に誘導ミサイルがあると言う情報はありませんが」
「では準備出来次第、偵察をお願いするとしよう。F-35は大陸までのエスコートを頼む」
「了解です。現在、機は調整中ですので、調整終了予定の8時間後に最初の偵察機を出発させます」
「頼む。今回の作戦はこの偵察で決まる。特に大陸東側を丹念に頼む」
「ええ、上陸予定地点ですね」
・・
偵察機仕様のV-22オスプレイは2機用意されており、ハイエルフ3名を乗せて1機が偵察に向かった。
「いずも」を出発し、南大陸までF-35Bの2機にエスコートされて無事大陸内部に侵入したオスプレイは、詳細な3Dデジタルマップの作製を開始していた。
なおジャマーとして、MF(中波)、HF(短波)、VHF(超短波)などの周波数300KHzから300MHzまでにホワイトノイズを流し、ドルツ国レーダーである50MHz帯や隊内無線を全て封鎖しながら偵察を続ける。
ドルツ国では唯一の娯楽であるラジオもノイズで使用できなくなる。
ドルツ国は電子の目を奪われ、人間の目視による警戒に切り替え、便宜上、塔や航空基地管制塔の屋上に有線電話を持ち込み監視員による警戒態勢を敷いている。
そんな中、V-22オスプレイは高度7500mを維持しての偵察を敢行し、何としても東側のデジタルマップ完成を目指している。
目視で高高度のオスプレイを発見し対空砲火を浴びせてくる基地もあるが、そんな時は最高速度に近いスピードで逃げてしまう。
また運悪くメッサーシュミットBf109やフォッケウルフFw187などの陸上機が迫ってきた場合は、自在な機動により敵機を翻弄し、近寄れば12.7mm機関砲の餌食にしていた。
航空基地から上がってくるメッサーシュミットBf109CやフォッケウルフFw187Dなどは初期型で最高時速420Km/h程度であり、オスプレイより速度や上昇も遅い為に一撃必殺で迫って来たが、速度で勝るオスプレイの敵ではなかった。
(有名なBf109Gではエンジン出力が3倍になり、最高時速620Km/hを出す名機となるが、この時は初期機であった。)
何度か危険な目に会いながらも、ハイエルフの思念も使い、危機を乗り切ったV-22オスプレイは南大陸東側全域の地図を完成させていた。
・・
「南司令、上陸に必要な地図は確保できました」
「いよいよだな。南大陸侵攻第2号計画の準備を開始して欲しい」
「了解。全艦隊に連絡します。位置は予定通りで宜しいですか」
「ふむ。ドルツ国東側艦隊が健在だが、予定通り進めて欲しい」
ドルツ国は北、西、南の各艦隊を日本近海に派遣し、上陸部隊の支援を実施する計画であったが、長崎沖にて海上自衛隊との海戦により、その殆どを消失していた。
ドルツ国本国を守る目的の東艦隊は、日本の南大陸遠征艦隊が近づいて来ても、その軍港から出撃する事は無く、静観を決めていた。
先に実施された南大陸侵攻第1号計画には、敵東艦隊撃破も盛り込まれていたのだが・・・
「南司令。あれから偵察機も来なくなり、少し不気味です」
「ドルツ国は兵器では近代的な日本に勝てない事が解って、上陸部隊を航空勢力で集中攻撃する為に温存していると思われる。儂がドルツ国ならそう考える。
消耗させるより負けると解っていても効果的場面で使うだろう。
だからこそ我々の計画が生きるのだよ。
では露払いとして、機雷の有無を確認させて欲しい」
「了解しました。SH-60Kを複数飛ばして磁気探知させます」
「頼む。機雷があれば上陸部隊は近寄る事も出来ないからな」
こうして各護衛艦に割り振られたSH-60Kは2機編隊となり、南大陸東の入り江を探査していく。
上空にはF-35Bによる護衛が付いている。
・・
一方ダークエルフが住まうドルツ国王宮殿では
「わらわは魔界に戻る。神からも戦いに手を出すなと言われている」
「そんなダークエルフ様、ご命令により多くの命が散りましたのに、今更私たちを見捨てるのですか」
悲痛な声でドルツ国首相が上座のダークエルフに向かって言っている。
「すべては神のご計画、私も駒の一つでしかないですよ」
「それでも、我々はダークエルフ様に忠義を尽くす者として、手出ししなくても御傍に控えさせてください」
「そうさせてあげたいのですが、魔界も混乱が生じています。これを正せるのは私だけ、私が受け持つ本来の仕事なのです」
「ですが、ダークエルフ様、そろそろ敵の侵攻が始まると思います。そんな時に・・・」
「形だけで良いなら、ここにいる事にすれば良いではないか、元々ここにはそなた以外入れぬのだから」
「ですが、いらっしゃると、いらっしゃらないのでは、士気にかかわります」
「だからいる事にすれば良いと言っているの」
「そうですか・・御意思は曲げられませんか」
「くどいぞ」
「わかりました」
首相は肩を落として謁見の間から退出していく。
ダークエルフは思う、首相の言う通りもうすぐ日本軍の上陸作戦だろうと、そんな時に居ない事はドルツ国軍の士気が低下する事は判っている。
だが、神の指示により手出しはできない。
少し日本艦隊を見たいと思っただけで、左腕を無くす結果となり、再生魔法があるから死にはしないが、心に大きな傷を受けてしまった。
次に対峙した時に冷静でいられる自信がない。
空間移動と呪いの思念だけでは、攻撃範囲も狭く迎撃されるだろう。また体が・・・
それに神のクリスタルも使用禁止にされている現在では実質手出しはできない。
そのおかげで、ドルツ国を時間停止して、侵入者達が入れない様に作った、南大陸を覆いつくす程の結界が張れず、やすやすと日本の偵察機が入り込んでしまう。
またその偵察機にはハイエルフの思念も感じる・・・・
ハイエルフを思い出しただけで、心の傷が疼く。
「あんなに脆弱な種族なのに」と呟いてしまった。
同じ神により創造された種族なのに優劣を思ってしまった。
一通り思いを巡らせたが、結局魔界に退避する以外の案は出ない。
「さて、行くか」と一言呟くと、一瞬で南大陸中央にある「魔の塔」に空間移動で転移した。
ダークエルフは「魔の塔」最上階のダークエルフだけが使える「神の扉」を開き魔界に通じさせた。
扉の奥からは禍々しい気配が漂ってくる。
ダークエルフは無言で神の扉を抜け、魔界の宮殿に移動する。
「いざとなったら、魔界の魔獣を送り込んで、混沌とさせてやる」
と言いながら神は許さないだろうなとも思う。
・・
「南司令、一部ですが機雷敷設パターンが判明しました」
「そうか、だが海路が狭いのではないか?」
「ええ、それもあります。それと防波堤に装置がありますので防潜ネットも敷設されていると思われます」
「それとだ、東艦隊はまだ出てこないのか。引きこもられていると厄介だな。上陸隊が発進するまでに何とかしたいものだ」
「はい。計画自体が変更の可能性があります」
「どちらにしても機雷位置の確定は進めて欲しい」
「了解しました」
・・
A艦隊は機雷パターン解析の為に、海軍基地から飛んでくる戦闘機や対空砲火を黙らせる為にF-35Bによる攻撃を何度も実施する。
次第に対空砲火も止んできてはいるのだが、水密扉に閉ざされ、対空ネットが張られた艦隊ドックへの攻撃は見送られていた。
「南司令、機雷パターンの解析が完了しました」
「うむ」
「ですが、相変わらず敵艦隊は動きを見せません」
「ではおびき出しするか。
計画第1号の対ドルツ国東艦隊対応を一部変更し、A艦隊が入り江に近付き、対艦攻撃を実施。
A艦隊に向かってきたら対応する。至急詳細計画を詰めて欲しい」
「畏まりました」
こうして南大陸侵攻第1号計画(改)が策定され、引きこもっているドルツ国東艦隊殲滅を意図した計画が始まった。
変更計画の要旨は東艦隊の殲滅。
最初にA艦隊が入り江まで100Kmまで接近してF-35Bによる偵察及び座標確定を実施。対艦誘導弾によるドック及び空爆を敢行、そして出港してきたドルツ国東艦隊を撃滅する作戦である。
出港して来なくても使用不能にしてしまえば良いとの考えである。
制空権確保に向かってくるであろう敵空母飛行隊はF-35B飛行隊と艦隊にて対処をする。
すこし賭けであるが、敵艦隊を引きずり出す準備はできた。
ありがとうございます。
いよいよ南大陸侵攻第1号計画が改定され南大陸侵攻第1号計画(改)として実施されます。
うまく行くのでしょうか・・・