第161話 南大陸遠征艦隊
第161話を投稿します。
遠征艦隊が発進しますが・・・送り狼がついて行きます。
「アルベルト艦長ソナー感あります。艦船多数」
「距離はどの程度だ」
「ヤー、艦長。距離は概ね50海里です」
「まだ潜望鏡では無理だな。無音潜航で近づけるか。副艦長」
「酸素は大丈夫です。蓄電池は途中で充電が必要です」
「そうか困ったな。一度離れて酸素と充電をしよう。位置を記録」
「回頭180。取り舵。深度100で速度4ノット」
「副艦長、80海里まで離れたら浮上するぞ」
「了解」
それから8時間。海流に乗ってU-Boot60は艦隊から80海里離れた。
「副艦長。潜望鏡深度。静かにな」
「潜望鏡深度。アップトリム10。両舷中速」
「ヤー。両舷中速。トリム10」
艦隊を捕捉した「U-Boot60」は海中を2ノットで静かに浮上を開始した。
「潜望鏡深度まで20、15、10」「トリム3」
「トリム3。深度8、6、4」「トリムもどせ」
「トリム戻します」
「潜望鏡あげ」
「潜望鏡あげ」
「聴音手。近くに船はいるか」
「いません」
「よし。どれ」アルベルト艦長は全周警戒を行う。
「副艦長、船も航空機もいない様だな。静かに浮上」
「メインタンクゆっくりブロー。浮上後、対空警戒。浮上後すぐにディーゼルエンジン始動。充電と空気を貯めろ」
「了解。対空班直ちに持ち場につけ。全周警戒」
日本側は「U-Boot60」が50海里に近付く前に、そのスクリュー音を捕らえていた。
主席幕僚の吉田1等海佐が、「南海将、Uボートの様です」
「ここで発見されたか。相手が雷撃するまで静観するぞ」
「よ・い・のですか」
「まだこれからも来ると思うが、良い」
「ですが・・」
「いや。吉田主席幕僚。それに成り代わろうと思う」
「えっ」
「我々がU-Bootの代わりを演出する、そして南大陸にある司令部に通信を送ろうと言う事だ。
その為には沢山のサンプルが必要だからな。暫くついて来てもらう。
通信を始めたら全てを解析にまわして欲しい」
「そういうことですか。了解しました」
すぐにUボートは浮上してレーダーにも映っている。
「攻撃は無用。静観して欲しい。ただし雷撃に対する反撃は許可」と主席幕僚の吉田1等海佐が日本語と英語で連絡する。
日本側の通信はアメリカ海軍戦術情報システム(NTDS)に準処した戦術級C4Iシステムによってなされているが、CIC間の連絡は戦術データリンク16によって繋がっている。
これは参加している米国艦船を考慮した物となっており、各米国艦艇でも戦術リンクが見える配慮である。
なお、戦闘指揮システムACDS、艦載用新射撃指揮装置、対潜情報処理装置ASWCS、水上艦用EW管制システムEWCSなど全てがこのリンクに繋がっている。
しかも、周波数はSHF周波数帯である12-18GHzの帯域を使用したKuバンドを使用しており、当然ドルツ国はじめU-Bootも傍受不可であった。
(SHF:センチメートル波でマイクロ波と呼ばれる周波数帯である。衛星BS放送は18-24GHz帯を使用している。
蛇足だが4K衛星放送は40GHz帯を使用している、データ量が大きいためである。)
「無線室。Uボートの通信は全て記録。解析に回せ」
「了解」
思った通り「U-Boot60」は浮上し、ディーゼルエンジンによる充電と空気取り込みを開始。
ついでに無線を発信していた。
「よし通信。「我60。25004地点にて敵艦隊発見」以上。暗号化開始」
「できました」副艦長。
「よし発信」
「発信完了」
「U-Boot60」は短波による通信を開始した。
「報告。敵潜水艦から14MHz短波帯で通信です」
「記録はどうか」
「通信があれば全て記録しています」
「直ちに解析」
「了解」
「解析班より報告。解析完了。「我60。25004地点で敵艦隊発見」以上です。
暗号は上陸用潜水艦と同一」
「吉田主席幕僚。すぐに本国から返信がある筈だ」
「了解。無線室引き続き傍受」「了解」
それから1分後に通信は突然入った。
「ドルツ国から通信入っています」と無線室。
「解析開始」
「解析室と直通にしています」
「解析班、結果を伝えて欲しい」
「少しお待ちください。長文なので」
「解った。結果が出たら報告して欲しい」
「了解」
「お待たせしました。内容は・・
「司令部発、「U-Boot60」宛。当初指令変更。敵艦隊に接触し継続して指令書CX72による時間帯にて位置報告を継続。その他報告事項があれば逐次報告。以上」との事」
「よし、引っかかったぞ」
「無線室引き続き同周波数の傍聴継続」
「無線室了解」
「さて。いろいろ位置情報を教えてもらわないと。洋上訓練でも見せてあげますか」
「はは。吉田主席幕僚。腹黒い顔になっているぞ」
「あはは。南海将、程ではありません」
「位置情報だが、どう思う」
「はい。メッシュ番号だと思いますが、2つ3つ程あれば推測できると思います」
「うむ。派手な訓練が必要だな」
「ええ。派手にやります」
充電と空気取り込みを終えた「U-Boot60」は、再び潜航していた。
「どう思う。副艦長」
「艦長。敵艦隊と接触したのが我々ですから司令部としては当然の指令だと、それに敵艦隊はドルツ国を目指していると思います」
「そうだな。それが正常な見方だな。聴音手、分別はできそうか」
「敵艦艇約200以上です。特徴的4軸が混ざっていますが小型空母だと思います。残りは殆どが2軸で駆逐艦ではないかと思います」
「敵戦艦や重巡はいないと言う事か」
「現在は空母らしき艦と駆逐艦に補給艦しか確認できません。空母は250m級、殆どの船は100m級です」
「戦艦のいない艦隊ですか・・・信じられません」
「副艦長もそう思うか。儂は途中で戦艦などの艦隊と合流をするのではと思っている」
「敵艦発進しています。雑音が酷くて聞き取りにくいですが、3艦隊に別れている様です」
「どこに向かっているかは判るか」
「こちらに向かっています。速力12ノット」
「潜航ではついて行けないな」
「そうですね。こちらは海中7ノットが限界ですし、7ノット出せば3Kmしか進めません」
ドルツ国Uボートについて説明しよう。
最近実戦配備されたのは最新式UボートⅡD型があるが、「U-Boot60」はその前級のUボートⅡC型である。
UボートⅡC型は
全長:約44m、全幅:約4m。排水量:水上291t、水中341t。
最大速度:水上12kt、水中7.0kt(ktはノット)
水中航続距離:4ktで65Km、最大海中速度7ktで約3Km。水上航続距離:12ktで3500Km。
兵装:53cm魚雷発射管×3(全て艦首)、20mm単装機銃×1。
MWM RS127S 6気筒 ディーゼル機関2基、SSW PGVV322/26 複動式電動機2基。
最大深度は150m。
もともと通商破壊用に設計された小型潜水艦である。
その最大の欠点は航続距離であり「U-Boot60」では、
8ノットで浮上時6,100km、4ノットで潜航時67kmが限界である。
ただし、最新のUボートⅡD型では、
8ノットで浮上時9,000km、4ノットで潜航時90kmに航続距離が伸びた。
「深度100、無音潜航開始」
「深度100。ダウントリム15。速度3ノット。無音潜航開始」
照明が赤色に変わる。
「無音潜航。3ノット。トリム15。深度100」
ドルツ海軍所属、第1潜水艦隊、第1潜水隊の「U-Boot60」は、日本上陸隊からの連絡が消えたため、沖合から様子を探るためにドルツ国から日本に向かっていた。
たまたま「U-Boot60」は南西諸島沖合から佐渡に向けた航路を通っていたが、その途中で、新大島沖に集合している大艦隊をソナーで偶然に捕らえていた。
「両舷停止。敵艦隊を通過させろ」
「両舷停止。静穏規制発令。敵艦隊通過させます」
「うむ。酸素残量とバッテリー残量を常にモニターして欲しい、早すぎて、ついて行けないから、夜間に浮上航行で追いつく」
「空気とバッテリーモニター了解」
南西諸島、新大島沖を出発した各打撃艦隊及び補給艦隊は、送り狼を従えて、新陣形をいろいろ変えながら習熟訓練を実施していた。
「訓練開始。無線封鎖。第1打撃艦隊対空陣形。今」
無線封鎖しながら発光信号で陣形変更をする。
「壮観だな」
「CIC、僚艦の陣形は如何か」
「はい。対空陣形まで5分です」
「了解。5分です」
「そうか。3分で何とかしたいものだな」
「慣れれば行けると思います」
「次。対潜陣形。今」
「対雷撃運動開始」
第1打撃艦隊の約15艦は、航空母艦に改装された旗艦「いずも」、「いせ」、「ひゅうが」を中心とした陣形を変えながら洋上訓練を続けた。
無線封鎖を解除した旗艦「いずも」は、
「次は航空機訓練だ、各飛行隊奮闘を期待する」
「各飛行隊、直上警戒開始」
「航空隊発進許可」
「1番機、2番機、発進します」
「警報ならせ。整備員退避。飛行甲板空き次第、次機待機」
各艦から2機のF-35Bが空に上がる。
「直上警戒態勢維持」
「続いて、偵察開始」
また各艦より2機が偵察に上がる。6機は第1打撃艦隊を中心として60度に開き全周偵察を開始する。
各航空隊は交代で直上警戒及び偵察に別れ、訓練の一環として海洋をレーダー監視しながら南大陸北西200海里を目指して航海を続けている。
ときおり送り狼の「U-Boot60」の発する通信、本国の通信が入るが全て傍受され解析されていた。
「U-Boot60」は第2打撃艦隊の先行する潜水艦隊からも監視の報告が入り、訓練ではあるが対潜陣形へと陣形変更をしながら順調に航行していた。
なお、発見した「U-Boot60」以外のU-Bootについては各潜水艦隊が雷撃を行い追い払うか撃沈させている。
コンタクトしたU-Bootは既に8隻、撃沈8。
「U-Boot60」は見つかって、雷撃を受けない事を奇跡だと思っているようだ、集まって来た僚艦のU-Bootは、全て日本の潜水艦隊によって沈められてしまった。しかも・・・「U-Boot60」は日本の潜水艦隊をロストしている。
いや静穏すぎて、低速ではU-Bootの聴音装置では聞こえないのだ。
第1打撃艦隊は、対潜陣形や対空陣形でのジグザク航行をしており、「U-Boot60」はそれを直線コースで後方について行った。
U-Boot側としては、その観測装置は日本で言う第2次世界大戦前期の性能であり、周囲50海里程度の聴音機能であり、偶然見つけた日本の艦隊を逃す訳にはいかなかった。
もち論、仲間のU-Bootが沈められた音も聞いていた・・・・
U-Boot60は位置情報を短波による無線通信で南大陸本部に報告を逐次入れていた。
その通信は全て日本艦隊に傍受されて、暗号解読も行われている。
もちろん僚艦の撃沈も報告している。
しかも、「U-Boot60」の位置は、通信を第1打撃艦隊、第2打撃艦隊、補給艦隊の3艦隊による三角測定により正確に日本側は把握していたが、南大陸に近付くまでほって置いた。これも南海将が立案した作戦の一部である。
「相変わらずU-Boot60はついてきますね」と主席幕僚の吉田1等海佐。
「うむ。いざとなれば我々が代わるが、まだ良いだろう」と南大陸遠征艦隊兼第1打撃艦隊司令を拝命した南海将が話す。
南海将補は臨時に大艦隊司令となったため、特別に海将位を受けられた。これは米国に対する配慮である。
第7艦隊第11揚陸隊司令のサマーズ准将も旗艦「ブルーリッジ」で同行している為に、特別に配慮しての海将(中将)に昇格させていた。
なお、自衛艦隊司令で海将位は別格である。
(海上自衛隊の場合は、海将補と海将しか位は存在しないのだが、海上幕僚長は海将(大将位、英訳はAdmiral)、南海将はVice Admiralと訳され中将位である。ついでに海将補はRear Admiral(少将)と訳される。)
送り狼を従えた第1打撃艦隊は、ワザと気付かぬ振りをしながら、洋上訓練と監視を続けている。
なお、送り狼は浮上して速度が13ノット程度、海中では7ノット程度なので、第1打撃艦隊はワザとジグザクの対潜警戒行動を実施して「U-Boot60」が付いてこられるように航行していた。
なにしろ直ぐに振り切れるので雷撃をしなければ、今は特に害はなかった。
南大陸遠征艦隊司令である南海将の考えた作戦は、送り狼であるU-Bootを途中で沈め、その暗号文の癖をまねて、南大陸の司令部に対して日本が暗号文を送ってしまうと言う計画である。
その為にワザと南大陸との無線を記録しながら自由に通信させていた。
しかも第1打撃艦隊の行う予定の偽通信は位置をワザと変えながら、南大陸司令部に対してはゆっくりした速度で航行している様に擬装する予定だ。
この為に各艦隊旗艦は長波、中波、短波の各無線機を特別に積み込んでいた。
そのアンテナは長く・・・特別に「いずも」などは、アイランド側の甲板下に長いステーを張りだし、長いアンテナを折りたたんで装備している。
まるで第2次世界大戦中期に見られた、航空母艦の様なアンテナである。
南大陸沖200海里に迫った時に、南海将はついに、第2打撃艦隊の第3潜水隊SS-504「けんりゅう」とSS-511「おうりゅう」に、「U-Boot60」の殲滅を指示した。
いきなり海中速度を20ノットに上げたSS-504「けんりゅう」とSS-511「おうりゅう」は、U-Boot60の出すスクリュー音を追跡して、正確な位置を掴んでいた。
第2打撃艦隊も速度を上げて、スクランブルに入る。
旗艦「いずも」はU-Bootの使用する短波無線周波数帯から長波周波数帯にホワイトノイズを流し、電離層の変化を演出していた。これで浮上しても無線が使えない。
U-Boot60は、急に後方から海中を20ノットと言う途轍もない速度で追尾され、浮上迄して逃げるのだが、「けんりゅう」と「おうりゅう」は各18式魚雷にそれぞれU-Boot60の音紋とU-Bootの形を登録し発射した。
これでいくらU-Boot60が逃げても、音紋を追って迫る魚雷、たとえ機関停止しても、次は音響画像センサーが艦艇のU-Boot60の形を認識して追尾する。
U-Bootに逃げ道はない。
「けんりゅう」と「おうりゅう」はU-Boot60に対し、18式魚雷各1発を静かにスイムアウトさせ、魚雷は180ノットを超える速度で一瞬にU-Boot60に接近。
「海中突発音、後方から雷撃です」
「急速潜航、両舷最大出力、最大深度、取り舵」
「ダウントリム18。両舷最大。取り舵。最大深度」
U-Boot60はミシミシ言う外壁に緊張しながら最大深度に向かっている。
「敵魚雷追尾してきます」
「そのまま。両舷停止」
機関を停止したU-Boot60だったが、18式魚雷は艦影を追ってくる。
魚雷は追尾してくる。
「10、9、」
「全タンクブロー急速浮上、耳を塞げ」
「急速浮上。耳塞げ」
U-Boot60は控えめな警報音を鳴らしながら急速浮上する。
しかし、艦影を捕らえた18式魚雷は躊躇なく追ってくる。
「敵魚雷当たります」
「全員何かに掴まれ」
U-Bootは最初、突発音に驚き、最大深度の150mまで最大船速で潜り、魚雷をかわすつもりでいたが・・・18式魚雷2基はU-Boot60を、正確に追尾してきた。
追尾式魚雷は機関停止し、急速浮上してかわすのがセオリーである。
しかし、18式魚雷は浮上しているU-Boot60の艦影を追って、近づいたところで磁気近接信管が働き、一瞬でU-Boot60は沈み圧壊してしまった。
「おうりゅう」艦内では
「圧壊確認」「戦闘態勢解除」「黙祷」艦内ランプが赤から明るくなった。
第2打撃艦隊からU-Boot60、撃破を受け取った第1打撃艦隊は、その日からU-Boot60に成り代わり、定時に無線を打電していた。
南大陸司令部では何の疑問も持っていない。
「いずも」ではドルツ潜水艦隊が使用する暗号に変換してコンピュータによって自動発信していた。
しかもドルツ海軍式の内容でU-Boot60の癖をそっくり真似ている。
今のところは日本の艦隊について行き、位置を報告する事だけが、U-Boot60の任務であった。
撃破の報告を受けた第1打撃艦隊と第2打撃艦隊、補給艦隊は速力を20ノットに上げて南大陸に近付いていった。U-Bootの報告は相変わらず対潜警戒陣形によるジグザク航行でU-Boot60は海中4ノット、浮上して10ノットのままである・・・・・
ありがとうございました。
大胆な作戦ですね。
誤字脱字報告いつもありがとうございます。感謝です。
金曜に書いた物は、すんなりと南大陸に行くのですが・・・そんな事は無いだろうと思い書き直しました。
すると、どうでしょ、土曜日に腰をやってしまい湿布と痛み止めを飲んで書いています。
ばち・・なのですかね。元々腰痛持ちなので・・・トホ