第14話 「トメス」 (改)
第14話を投稿します。
ハイエルフを救うことになった陸上自衛隊。どうなる。
皆様の過分なる評価、感謝しております。
2020/05/29 改訂
F-2からのアプローチ無線が聞こえた。
「ドラゴンリーダーよりチャーリー、マーカーチェック、タリホー」よりによってドラゴンかよ。と一瞬おもったが気を取り直した。
タリホーとはキツネ狩りでキツネを見つけた合図である。
対象を目視して旋回し、再アプローチで攻撃だ。「チャーリーラジャー」
第3偵察小隊が「チャーリー」である。
「曹長手本見せろ」と指示。「了解」と言いながら、曹長は01式軽対戦車誘導弾を射出した。
01式軽対戦車誘導弾はトップアタックモードとダイレクトヒットモードを選択できる。今回は全員にダイレクトヒットモードを指示している。
熱源が弱いからだ、曹長は下方から腹を狙った。
当たれば、成形炸薬弾頭が点火して、ヒットポイントに対しメタルジェットを噴射し、圧力と温度によって装甲の一部に穴をあけるものである。決して焼き切る兵器ではない。
ヒットした。「効果みとめられる」よしいける。「トメス」は唸りをあげて後ろ足2本で立ち上がった。
30m位ある。「再射下方から腹を狙え」同時に4基発射した。「トメス」は後ろの山肌によりかかった。
腹には焼かれた跡が5つある。最後の力で吠えた。「ドラゴンリーダーアプローチ、ファイアー1」
「ドラゴン2ファイアー1」
「トメス」の前方5kmから青い空に2筋の白い細い雲が伸びていく。突然「トメス」が爆発した。
ヒットしたのだ、地響きを立てて前に倒れて動かなくなった。
「やったか?」「ドラゴンリーダーこちらチャーリー、目標は停止。駆除確認を行う」「ドラゴンリーダーラジャー」旧式とは言え、80式空対艦誘導弾(改)の炸薬量は150kg。戦艦にも穴をあけ、中で誘爆させられる程だ。
小隊長から「施設作業車は対象に接近して100mから再射、駆除確認を実施せよ」
「了解」12.7mm重機関銃を100mの位置から撃った。反応がない。死んでいる様だ。
「ドラゴンリーダーこちらチャーリー対象物の駆除を確認した。ありがとう」
「ドラゴンリーダーラジャー。健闘をいのる、RTB」(RTBはリターンツーベースの意味)
終わった。意外とあっけなく魔獣と言われる「トメス」に勝った。小隊長はほっとした。緊張がほどけた。
本部に報告し、引き続き調査偵察を実施することを伝えた。
娘は初めて聞く爆音に耳をふさぎ、目だけは「なにも見逃さない」とでも言うように見開いていた。
「トメス」が短い時間で次々爆発し、最後の2発は当たった瞬間まぶしくで、まるで「トメス」の命が消えていくようであった。
50年も私たちを苦しめたのに。意外とあっけない最後だった。日本と自衛隊に強い興味を持った。
(おさ、「トメス」の材料持ち帰ってよい?)
「なにかに使うのか、いいよ宿敵だったのだろう。それに亡くなった仲間の供養もできるだろうし」
(なかま死んだら天に上る、ここにはいない)
微妙に話が合わない。
娘は魂が抜けたようにボーっとしている。
第3偵察小隊は当初の予定通り山岳の鉱石サンプル確保と麓を横に移動して、地層を写真や動画に収めていく。
いろいろ金属を含んでいると思う鉱石に、きれいな青い色の鉱石、黄色い硫黄の様な匂いの塊も見つかった。温泉があるのか。
最後に黒い水晶の様な鉱石を見つけた。娘が(あっ魔晶石!)
「これわかるのか」
(うん、魔法を使うとき使うと威力がふえる石。)魔力か・・・無縁だなと小隊長は思う。
(・・おさはまほうつかえない?)
「我々は使えないよ。聞いた事はあるが」小隊長は某映画を思い浮かべている。
(へんな人間、つかえる者いるのね)
やば、のぞかれた・・・「いや想像の産物で本当に使える人間はいないよ」
(ふーん。いないんだ)
十分なサンプルと地層撮影を行い、村に戻る。部下に本部に連絡するように指示、ついでに撮影した画像データと動画データも送る。
小隊長と娘が歩いて広場まで行く。族長が待っていた。
(やったのですね。最後に「トメス」の意識が流れてきました。少し安堵していたような、きっと魔物に生まれた運命を恨んで、最後は幸せだったのかもしれません。
いままで何度も「トメス」と思念通話を試みたのですが、今回初めて「トメス」の気持ちがわかりました。
神は残酷ですね。
私たちは使徒に近い存在と言われるハイエルフ。
だけど神の存在は信じられません。神を感じられないから)
「日本人は八百万の神と言って、神そのものではなく、万物に神が宿っているから感謝なさいと教えられます。食べ物も、命を頂いているのだと、植物、動物全ての命を頂いて人間は生きているのだから、感謝を忘れてはならないと教えられます」
(良い考え方です、我々も感謝をしていますし、「神」と言うより現実的ですね)
小隊長は思い出すように言った。
「実は基本的な事についてお聞きする事を忘れていました」
(なんですか)
「ハイエルフの方々は何人いらっしゃるのですか」
(現在38人)
「普段何を食べていますか。娘さんはわれわれの白米しか食べられませんでしたが」
(普段は森の木のみや果物、動物や昆虫は食べられない。からだが受け付けないのです)
「一部で良いので、あなた方の食べている物を分けていただけますか」
(もんだいない。恩人だから)
「ところで、西から逃げてきた道はどうしたのです。追手はこなかったのですか?」
(山の途中にゴーレムの村がある、思念でゴーレムに許可を貰わないと通してはもらえない)
「ゴーレムですか」見てみたいと小隊長は思った。
(人間はすぐに死んでしまいます。ゴーレムの力には敵いません。)と族長は笑いながら言った。
「では逃げてきた道は残っているが、ゴーレムが守っているので大丈夫という事でよろしいですか」
(そのとおりだ)
「提案があります。われわれはこの世界の事を知らないので、ハイエルフの皆さんに教えて頂きたいのです。せめて大陸、ドーザ大陸の事について、言語や貨幣に流通なども、そして他の国や他の大陸についても教えてほしい」
(そなたたちには必要な情報という事ですね)
「はい、言語が解らなければ交渉もないですから」
(それで、なにがのぞみだ)
「できれば皆さんを日本で保護できないかと、難民ですし。生活を変えるのも限界がある様でしたら、代表の方だけでも。いかがですか」
(かんがえさせてくれ)
「では私たちはこの先少し行ったところでキャンプしますので、明日お会いしましょう」
小隊長は族長と別れて少し考え事をしていた。族長が言った「トメス」の最後。人間みたいな意識だったなと、「最後にしあわせか」とつぶやいた。
さてさてハイエルフは日本に行くのでしょうか