第143話 ドルツ国艦隊
第143話を投稿します。
ついにドルツ国から艦隊が日本に向けて出港したようです。
しかも・・秘密兵器まで出港した様子。
平和な時は4か月を過ぎ、突然のアラートに職員一同は身構えるのであった。
「立川統合幕僚長、ドルツ国から艦隊規模の戦闘集団が出港した模様。至急指揮指令所にお越しください」
「今から向かう。分析を頼む」
「了解」
防衛省でアラートが発令されると、防衛省警備の一般人警備員に加え、練馬駐屯地から第1師団第1普通科連隊の中隊規模が特別警備に派遣される。
一般人警備員は公募での募集であり、自衛官ではない為に銃さえ持っていない。
急いで執務室から地下3階の指揮指令所に飛び込んだ立川統合幕僚長は次々と指示を飛ばす。
「分析班、確定できたか」
「はい、衛星画像から判断して、1個艦隊規模だと分析します」
「で、構成は」
「はっ、衛星画像から推測するに、戦艦2、空母2、重巡4、駆逐艦8、他に補給船4隻です」
「なんと、たった戦闘艦が16隻。これは少なすぎる。出港は南大陸のどの位置だ」
「はい、南と思われます」
「前回の駆逐艦隊が出港したところか。なら潜水艦隊も随伴している筈だな」
「速度は次の走査をお待ちください」
「了解した。ただし、これで終わるわけないと思う。南大陸全体を監視して欲しい」
「了解しました。広角カメラと同時に走査し、走査間隔を最短の0.5秒に設定します」
「衛星班頼むぞ」
「操作指示は送信済みです」
「了解した」
「静止衛星はどうなっている」
「現在最終移動を行っています。約5時間程お待ちください」
「了解した。間に合わなかったか」
防衛省では静止衛星による南大陸監視を計画しており、2か月前にマイクロ衛星を打ち上げていた。
・・
「次の衛星画像入ります」
「入ればすぐに分析」
「了解」
アラームから30分後に次の画像データが送信されてきた。
「中央スクリーンに出します」
中央スクリーンには南大陸の画像が合成されて表示される。
発見した艦隊は前の位置と最新の位置が表示されて、コンピーターにより時速16ノットと同時に表示される。
進行方向は南大陸南側から20海里進んだところで西に進路を変えていた。
「立川統合幕僚長、ずいぶん遅いですね。前回航行速度は18ノットと出ていましたが」
「うんこれは、合流を前提の時間調整だと判断する。進行方向を予測させてくれ」
中央スクリーンに艦隊進路が赤と黄色で表示される。
赤が確度90%以上、黄色が確度60%以上。他に青い線も表示されているが、これは日本に向かうとコンピーターが予測して引いた線である。確度30%以下。
「まだ、西が確定だが北への転進点は不明か」
「情報不足です」
「そうか、まだ騒ぐには早い時間だな」
「南大陸から外洋に抜けるまで、まだ21時間程かかると思われます。更に南大陸の西中央までは更に30時間必要と思います」
「海幕長、護衛艦隊と潜水艦隊を進路予測上に配置して欲しい」
「今から出港すれば余裕で待ち伏せできます」
「ただし、敵先行潜水艦隊には注意して欲しい」
「了解です。哨戒を増やします」
「頼むぞ」
「空幕長、E767での電子偵察を実施して欲しい。先行潜水艦隊が来ていれば何等かの反応がある筈」
「了解です。300海里までの電子偵察を実施します」
「長時間監視になるから頼むぞ」
ドルツ国潜水艦隊は、なりを潜め、決して電波を発する事は無かった。
「もう45時間になりますが、捕まりませんね。地上の空自レーダー施設でも傍受をしていますが、どこにも感はありません」
「思い過ごしだと良いのだが、感では「来ている」と言っている。ザワザワが止まらん」
「立川統合幕僚長も特殊能力をお持ちになったようですね」
「まだ時間もあるから冗談も言える時間でもある。
ただ・・・私が相手の作戦参謀なら、必ず潜水艦隊を先行させている筈。そして日本になぜ近づくのがバレたのか必死に考えている筈。
そして一番わかりやすいのが電波発信源を探求される事だ。
無線の世界では「フオックスハンティング」と言ってつまり平たく言うと「キツネ狩り」だな。
電波発信源を特殊アンテナで方向と距離を推定して犯人を捕まえるゲームがあるのだが、相手も無線を使うと言う事は、これを知っている筈、ならば、作戦実施時刻まで無線封鎖をして、作戦開始時刻に極短時間の特殊信号を発して準備ができた事を確認するはずで、その後また無線封鎖すると思う」
「我が国は高性能レーダーを持っています」
「そうだな、ステルス艦は我々の世界の技術だ、相手は知る由もないだろう。それに超短波程度の周波数では探査は無理だな」
「ええ、それに海底音響ケーブルにも反応はありませんからね」
「油断はしない事だ。日本版SOSUSはまだ範囲が限られていて、元は対北朝鮮、対中国用に通過海域に敷設した物だ。その範囲を超えた所に潜まれると発見は困難であるから、過信してはいけない」
「はい、判っているつもりですが、安心材料が欲しくて」
「その気持ちは理解できるが、敵はこちらの慢心を狙い撃ちすると思って欲しい。いつもだ」
「はい心得ます」
「さて、そろそろ美味しいコーヒーを飲むとしよう」
立川統合幕僚長が自費で買ったコーヒーメーカー(全自動)に豆と水を入れてスイッチを入れる。
「統幕長のコーヒーは天下一品です」
「そんな事は無い。珈琲店の頑固おやじが手で淹れた珈琲には敵わないよ。ただし私が手で淹れるよりはこの機械は及第点だ」
中央スクリーンには発見した瞬間からの経過時間を表示されている。
現在は最初の発見から48時時間が経過した。
アラートが発令された。
「どうした」
「はっ南大陸西から艦隊が出港。最初の艦隊と合流予定です」
「して次の艦隊の規模は」
「お待ちください。戦艦2、空母2、重巡6、駆逐艦12、補給艦6」
「これは本気だな」
「ええ、そう感じます」
「例えばだ、南大陸の4か所に軍港を持って艦隊がそれぞれ駐留しているとしよう。南大陸の守りとして1艦隊は残したいとすれば、残りは北からの出港だと思うが」
「確かに広大な大陸を守るためには4方に艦隊を配置するのが理想的です。
私なら西の艦隊を北に転進させて全体を守る事を命じます」
「そうだな、だとすれば、次は北からの出港で合流して大艦隊を形成して日本に来るか」
「統幕長、単純な質問ですが、戦艦を揃えて日本の沿岸を攻撃するだけが目的でしょうか。どうも何か意図が隠されている気がします」
「そうだな、ただダークエルフの命令がどの様な物なのかは判らぬが、攻撃だけでは無いと思う。
最悪は上陸だな」
「そう思いますか。私もです。それにより、戦闘目的が達成されるのではと思います」
「君も特殊能力を身に着けたのか。良い事だ」
「ええ、更に言うなら予想外の上陸をするのでは思います。ノルマンディの様に日本の海岸線に障害物を設置できないジレンマがこちらにもありますが、海上での撃退だけではダメの様な気がします」
「次は北からの艦隊だな」
「ええ、なにか嫌な気分です」
「君もか、私もだ」
・・
ドルツ国の南艦隊と合流した西艦隊は相変わらず16ノットの速度で北上を続けている。
「立川統合幕僚長、ドルツ国2艦隊が南大陸西の岬沖を通過しました。あれから56時間です」
「了解した。北の艦隊が出港するとすれば、そろそろ時間だと思うが」
「そうですね、3艦隊で共闘して日本に来るなら、そろそろかと思います」
「アラート発令。第3艦隊が南大陸、西の岬北側より出港しました。港の位置を捕らえたと思います」
「そうか、よくやった。北の港位置が解れば潜水艦での監視が出来る」
「第3艦隊規模ですが・・・その・・」
「なんだ。どうした」
「はい、空母3、戦艦3、重巡5、駆逐艦15、補給船が7隻で間違いないのですが・・・」
「なにが有った」
「その空母は2隻で、もう一隻全通甲板にミサイルを乗せています」
「詳細なデータを出してほしい」
「畏まりました」
中央のスクリーンには判別しにくいが、空母の全通甲板上にロケットらしきものが計10基も並んでいる。
「これはV-2ロケット弾そっくりだが」
「ええ、間違いないと思います」
「こんな短期に作れるものなのか」
「もし空母が艤装前の状態で完成していたなら可能だと思います。ただしそれより、これ専用に秘密兵器として作成していたと見るのが正しいと思います」
「直ぐにV-2のデータを出してほしい」
「中央左スクリーンに出します」
V2ロケット
重量12,500 kg 全長約14 m 直径1.65 m 最大高度88 km(垂直発射時206Km)
弾頭980 kg
推進剤 エタノール混合燃料が3,810 kgと液体酸素が4,910 kg
誘導方式 ジャイロスコープによる姿勢制御
飛距離は300Kmと言われているが、垂直発射の場合最高高度206kmに達するが再突入時、空気摩擦で自爆する可能性が高い。
「ハイエルフさんの話には出て来ていたが、こういう使い方をされるとは、意外である」
「ええ、まさか船体をキャリアとして移動手段に使うとは考えも及びませんでした」
「そこで、このデータから推測して欲しい。情報分析班も頼む。
このV2ロケットらしきものが、旧ドイツと同様の性能を持つとしてだ、
次弾装填迄の時間はどの程度か想定して欲しい。
この並んでいる10発で終わりなどとは思っておらんだろ」
「確かに、10発なら地区を分散すると面制圧は可能かもしれませんが、次弾が無いと意味がありません」
「そうだな。そしてその制圧区域に上陸を何等かの方法でするつもりだと思う」
「そうですね、通常なら爆撃をして、障害物を破壊してからの上陸になります。
ですが我が国には海岸の障害物はありません」
「そう言っても我が国の情報は殆どドルツ国には渡っていない筈だから、通常手段に出ると思うぞ。
ただし、空母が一緒なのだから偵察は必須だと思う」
「各レーダーサイトに航空機に対する警戒を指示します」
「相手はレシプロだから速度では勝てるが・・・」
「いま計算します。
分析班、空母の全長はどの程度ですか」
「だいたいですが、約260mクラスです」
「でしたらグラーフ・ツェッペリン級航空母艦ですね。たしか1隻43~45機でした。
合計6隻ですから、258機、約260機を積んでいます。
たしか、艦上爆撃機のユンカースJu87を積んでいれば航続距離1000Kmです。
それに多目的機のフィゼラーFi167は複葉機ですが1300Kmを飛びます。
そしてメッサーシュミットBf109ですが、速度は650Km/h出せますが、航続は650Kmと短いです。
これからすると、フィゼラーで偵察が最適と思われます。
ただし速度は330Km程度ですが」
「うーん陸自のヘリコと勝負できるな」
「そうですね統幕長、コブラと良い勝負です」
「だが、機銃しか搭載していないのだろ」
「民間人にとっては機銃は脅威です。たとえ7.92mm機銃×2の機銃でも」
「そうだな、逃げるしかないな」
「発見次第スクランブルを厳命」
「了解。各航空隊に連絡します」
ドルツ国の命運をかけた艦隊が日本に向かって北上している。
しかも第二次世界大戦以来の大規模艦隊戦である。日本の護衛艦隊はどの様に対応するのか。
どうするのか日本の防衛体制。
次回もよろしくお願いします。
誤字脱字報告ありがとうございます。
いつも感謝しております。