第142話 静寂
投稿します。
今回は遅くなり申し訳ありません。
まだ忙しい日々が続くと思いますのでも書ける時に書いて投稿するつもりです。
威力偵察と思われるドルツ国駆逐艦6隻を壊滅させた自衛隊。神のゲームであればこれで終わる筈もなく、次の攻勢まで静かな時間が過ぎていく。
ここは防衛省地下3階、指揮指令所。
「立川統合幕僚長、なんとかドルツ国を退けましたが、今後の読みは如何でしょうか」幕僚が幕僚長に聞く。
「それは、元々この戦いが「神の意思」の元に行われている、いわば「戦闘目的の消失した戦い」であるから、次も必ず来ると読んでいる。逆に参謀として統幕副長や統幕最先任はどの様な判断をしているのか聞かせて欲しい」
「はい、統幕最先任とも意見交換したのですが、ドルツ国・・いや「神の意志」が戦う事であるなら、次の戦闘も避けられないと思います。
少し長くなりますがよろしいですか」と統幕副長が説明する。
「無論、君たち幕僚の意見は貴重だ。根拠に基づいた計略があるのだろ」
「はい、計略といいますか、ドルツ国の立場に立てば、「日本国との戦闘が使命」であります。これは非常に大事な事であります。
なぜなら、戦闘は一定の目的、目標を持って臨むべきであり、無目的など、まして情報すらもない相手と戦う事は非常識であります。戦闘中に目的を失う事はよくある事ですが・・・
その為にドルツ国は日本近海に潜水艦を派遣し、次に兵士を潜入させ情報を少しでも得ようとしました。戦略的には正しい手続きです。
そして、その目的が果たせなかったドルツ国は、もっと大規模に強襲偵察を実施しました。
これも戦略としては正しいやり方です。
航空機が長距離飛べるなら航空機による偵察も考えたのでしょうが、現実的には駆逐艦での外洋航海と強襲偵察の2つを同時に実施した物と思います。
しかし、この情報を持ち帰ると言う作戦自体が失敗しております。
そこで、ダークエルフからの命令が生きてきます。
具体的には、戦力を小出しにしても日本に撃破されてしまう事を学んだ彼らの次の手は、大規模攻略に移行して、物量で押し切る事が考えられます。
また、ダークエルフの「日本攻撃命令」が何処までの範囲を想定した物か不明ではありますが、
・・・多分ですが、ダークエルフの命令は戦争素人の命令であると思います。
つまり、ドルツ国も困惑していると推測されます。
その根拠は、先に述べた通り情報収集の手段が全て失敗した事にあります。
しかも、命令自体に損害は入っていません。つまり「損害を覚悟して日本と戦え」と言う事です。
これは非常に厄介です。
最初の潜水艦による調査、次に潜入兵士による情報収集、そして強襲偵察。
その全てが失敗した場合は・・・正規軍投入により物量による強行偵察か、そのまま上陸かだと判断します」
「その通りだと思う。私の分析でも戦艦や空母を含む艦隊を送り込んで物量で押す事を考えると思う。
そして、これが肝心なのだが、ドルツ国も命令とは言え損害が大きくなるこの作戦を実施して・・
ダークエルフに軍事力では日本に敵わない事を上申するのではないかと思っている。
また、運よく日本に上陸できたとしても補給の問題もあり、長続き出来る物ではないと考えている」
「ええ、我々もその通りだと思っています。なにしろ海上片道2700Kmの補給を続けるなど無理ですから」
「だが、油断しない事だ。旧ドイツ国に軍事力は酷似しているが独自の発展を遂げた武器・兵器があるかも知れない。それが一番の問題だ。我々の情報を渡してはいない筈だが、相手の情報も少ない。その中での戦いなど想像したくもない事だ」
「ええ、ですが現実となります。しばらくは静寂が訪れると思いますが、これは戦争準備期間なので小細工はしてこないと予測されます」
「ところで沈んだ潜水艦の引き上げ、駆逐艦の引き上げはどうなっています」
「はい、潜水艦は現場海域にASR-403「ちはや」を派遣して同時に民間サルベージ会社に協力を要請して現地に到着しております。現在ダイバーによる調査を行っている最中です。
駆逐艦の方も同様に民間サルベージ船とASR-404「ちよだ」を派遣して引き上げについて調査を行っている状況です」
「そうですか、しばらくは無理ですね」
「ええ、状況が思わしくないのは事実です。ただ、潜水艦についてはダイバーが内部調査を実施していますので、何かしらの情報が入ると思います」
「そうか・・」
「立川統合幕僚長もしばらくお休みください。自宅にも戻られていないのでしょう」
「そうだな、ここ何日かは防衛省に泊まりこんでいるな」
「それなら是非お戻りください。衛星監視はあれから強化して、何かあればアラームを発します」
「そうか、ではそろそろ戦闘服も洗濯したくなった頃だ、甘えさせていただくよ。
指令室全員も交代で戻って休養してほしい。最低1か月から3か月は大丈夫だと思うが、
次は相当忙しくなることが予想される。たのむぞ」
「了解」
こうして、立川統合幕僚長は久しぶりの我が家に向かう。
防衛省内で平服に着替え、防衛省前からタクシーで自宅に向かう。
「やれやれ、やっと帰れるか」
立川統合幕僚長の自宅は、緊急時防衛省に30分以内で到着する様に指示されており、文京区本郷3丁目のマンションに住んでいる。外堀通りを使用すると15分で到着する。
「ただいま」
「あなたお帰りなさい。今回はずいぶん長かったのですね」
「いつも心配かけてすまない。これ戦闘服、洗濯してくれ」
「今回はいつまでいられるのですか」
「まだわからない。相手次第なのだが・・・」
「機密事項ですね。心得ています」
「いつも、すまない。少し眠らせてもらう」
「どうぞ、準備はできています。ご無事でよかった」
「苦労ばかり掛けさせる。すまない」
「すまないなんて・・そんな方と結婚したのですから覚悟はできています」
立川統合幕僚長の妻は元航空自衛隊の輸送機パイロットで現在は専業主婦をしている。
時々着替えを防衛省に届けるのが仕事となっていた。
「道子、そう言えば息子たちはどうだ」
「ええ、元気ですよ。今は学校ですが、今晩は「すき焼き」にしますか」
「おお、それは大好物だ。不甲斐ない夫だが息子たちも曲がらず育って、全ては道子のおかげだな」
「ふふ、その内パイロットになりたいと言ってくるかもですよ」
「そうしたら、お前に任せる。最高の輸送機パイロットだからな」
「あらあら、戦闘機乗りになりたいと言ったらどうしましょう」
「その時はその時だ。陸自出身の俺にはフォローのし様が無い」
「ふふ、先にお風呂入ってから寝てくださいね」
「ありがとうそうする」
平和で静かな時間がゆっくりと流れる。
本日の立川家では「すき焼き」と家族団らんが久しぶりに戻っていた。
「おっ親父戻れたのか」
「いつも肝心な時にすまないな」
「いや、攻めるつもりはないよ。日本の為に働いているのだからと母さんに教えられているしな」
「ところで雄一、大学は如何だ」
「うん、その事で相談があるのですが、今の理系を辞めて、転入しようと思うのだけれど」
「なにか学校であったのか」
「いや、親父や母親を見ていると、俺も国の為には大げさだけど、人の為に何かをしたいなと前から思っていた。そこで、反対されるかもしれないが、今の理系から医学に転入したいんだ」
「医者になるのか。反対はしないよ」
「それでね、実は防衛医科大学校に入ろうと思っている」
「お母さんはパイロット希望だったけどね」
「あらあなた、宜しいではないですか、自衛隊病院もありますし希望が叶うのであれば、それは雄一の人生ですから」
「そうだな、大学で1年、これから医学で6年か、長生きしないとダメだな」
「親父は長生きしてくれ」
「親父俺もいいか」
「どうした勇二。高校は残り1年だったな」
「うん今は卒業をするだけで、大学受験なのですが・・・」
「それで進学先は決めたのか」
「うん決めた」
「ほう、一番先に大騒ぎする筈なのに何を企んでいる」
「ひどいな。進学だよ慎重にもなるさ」
「そうか、それで」
「言いにくいのだけど、兄貴の後だと。いいや思い切って言う。防衛大学校に行ってパイロットを目指す」
「空か海か」
「空」
「そうかパイロットか」
「うん、戦闘機乗りになりたい」
「防衛大学校は難しいぞ、特に試験は11月からだしな」
「うん、もう応募した」
「応募したのか、そう言えば7月から受付だったな」
「うん、戦闘機乗りを目指す」
「ははは、母さんと同じ航空か、そりゃめでたい」
「あなた。勇二頑張りなさい。試験は特に身体検査が重要よ」
「うん、航空自衛隊で母さんの後をついで戦闘機乗りになりたいよ」
「あら私は輸送機パイロットですよ」
「勇二しかも最優秀のパイロットだぞ」
「うん何度も聞いた。俺も空を飛びたい、出来るなら最速の戦闘機で」
「そうか、二人は防衛医科大学校と防衛大学校を目指すのか、こりゃめでたい」
立川家の夕食は普段いない親父をまじえて、和やかな時間が流れる。
一方、東京下町の錦糸町では
「ただいま」「ただいま」
「パパ、ママお帰りなさい」
「パパ?ママ?」
「うん、お友達から父親と母親の事をそう呼ぶと聞いて」
「パパか・・・なんかいいな」
「お父様、お仕事如何でした」
「最近外務省も忙しくてな、ドーザ大陸の各県については発足はしたのだが、まだ人民が制度になじんでおらない。時間がかかると思うぞ」
「あら貴方、機密ですよ」
「そうか?、今朝のニュースでも言っていたぞ」
「そうでした。最近副音声でドーザ大陸語の翻訳が同時通訳されて、私たち日本語に不慣れですから助かります」
「そうだな、BSとか言う専門チャンネルでドーザ大陸語のニュースも流れているしな」
「そうそう、昨日は宮殿が映っていましたよ、なんでも工事が完成したとかで、宮殿内にエレベータが付けられたとか。私たちの時にも欲しかったです」
「トルミス無理を言う出ないぞ、我々の時にはそんな便利な物知らなかった筈。東京ですっかり慣れてしまったがな」
「お父様ったら。体が鈍りますよ。私はもっぱら階段で足腰を鍛えています」
「ルルアミは運動好きであったか」
「いえ、ですが、エレベーターやエスカレーターは便利すぎて運動ができません。太ってしまいます」
「そうか、儂も時間がある時は階段にしよう。どうも東京にきてから体が動きにくく」
「まだ歳と言う訳ではないですから、皇帝として毎日宮殿の6階まで走っていたじゃありませんか」
「そうだな。あの頃はそうだった」
「でも、今の生活も素敵で幸せです」
「そうだな、腹心共の裏切りに心砕く日々であったが、日本は東京は平和だ。最近思うのだが、儂も本当はミルダ島でこれを願っていたのではないかと。皇帝ではなく、一人の人間として平和が訪れていればと思う」
「そうですね、何から一人でしなければならないので、大変ですが生きている感じがします」
「皇帝宮では不自由であったか」
「はい、どちらかと言うと、人が召使いが多すぎて全ての事を仕事としてやろうとしていましたから、私たちは人形みたいなものでした」
「私もそう思います。今の様にお友達とお茶したり、気兼ねなく話をしたり、前より楽しいです」
「ルルアミもそう思うのか。そうか」
「お父様は皇帝として毎日お仕事なさっていましたから、私たちはお友達と言いましても裏に何かを持った者達が来るだけで、真に友達と言える方はいらっしゃいませんでした。
私は今の方が自然な自分でいられるので好きです」
「そうか、日本に感謝しよう。こんな素晴らしい家族団らんをくれて、望んでもできなかった事だ」
「そうですね、トーマス」
「んっ不慣れである」
「これから慣れてください。ふうう」
「お父様もお母様も仲良くて素敵です。私も早く・・・」
「ルルアミ、好きな人が出来たなら儂と勝負させなさい。勝ったらくれてやる」
「まぁお父様乱暴すぎます。日本で決闘は禁止ですよ」
「そうか、日本にきてから、ルルアミの事が可愛くてならん。そんな娘をくれてやる奴は儂より強くなければだめだぞ」
やはり皇帝は、皇帝である。もっと日本に馴染めば変わるかもしれない。
こうして「平和」と言う戦争準備期間は少しずつ経過していった。
ひと時の平和が訪れています。