第140話 ドルツ国出港
第140話を投稿します。
ドルツ国から出港して日本に向かっています。
新潟県村上市沖へ潜入兵士回収に向かったドルツ国潜水艦は、日本の向けたP-3Cにより追い立てられ、また合流すべき兵士達も日本が捕らえている為に、ただ来て威嚇攻撃され逃げ回って帰ると言う結果であった。
「やはり艦隊群を送り込まないと鹵獲は無理か」
「はい、上空からでは追い立てはできますが、拿捕ができません」
「だが、どこから来るのか不明な相手に、どこまで防衛できるのか不安だ」
「弱気にならないでください。戦闘が確定しているゲームみたいな内容ですが、人の命がかかっています」
「そうだな、神が行うウォーゲームではあるが、人命が一番であるな」
立川統合幕僚長と幕僚の会話は相手の意図が見えない為に防衛の観点からループする。
・・
ここは防衛省地下3階、指揮指令所。突然警報が鳴り響く。
「報告」
「衛星運用班から報告、衛星画像に南大陸から駆逐艦らしき艦影が複数出港した模様」
「して艦艇数は判るか」
「現在詳細に見ていますが、全長120m程度の駆逐艦クラスと思われる艦艇、数6が確認されています。
南大地から南島に向かっています」
「駆逐艦が6隻・・それだけか」
「はい、間違いなく。速度等は次の探査をお待ちください」
「立川統合幕僚長に連絡」
5分後自室で確認した立川統合幕僚長は急いで指揮指令所に走り込んできた。
「水を頼む」
幕僚からコップを貰い一気に飲み干す。
「して、行き先は判ったか」
「まだ次の画像まで25分かかります」
「南島から北上すると、南西諸島だな。侵攻が始まったのか」
「いえ、駆逐艦クラスが6隻と言う事から偵察任務か艦隊との合流等が考えられます」
「そうか、南島から南西諸島迄の距離は約2100kmだったな、速度計算ができないが20ノットとして55時間後だな」
「そうですね。20ノットならばですが船体を見る限り細く速度重視と見ます」
「海幕の見解ではどうなんです」
「はい、元海幕の統幕僚官としては、この船体ならば30ノット以上は行けるかなと、海上自衛隊の艦艇類とそん色ない船体です」
「そうか・・なら巡航30ノットで再計算すると37時間か・・・ちょっと待てよ、今まで潜水艦隊は日本を目指してきていた筈だが、と言う事はドルツ国は日本の位置関係を知っていると思って間違いない。ならなぜ南島を経由する」
「補給基地か何かでしょうか」
「それなら本国で何とかなるであろう。補給艦も連れていない事を考えると・・ますますわからん」
「一つ可能性があります。もし南島で何某からの兵器を積み込み日本に直接向かうと九州地方が範囲に入ります」
「だが、例の潜水通過事件以来、佐世保から第5護衛隊を沖縄沿岸に派遣している筈だが、それと潜水艦隊もだが、充分なのだろうか」
「現時点では、南大陸から出港した6隻の120m級駆逐艦と思われる艦隊が初めて捉えられ、それが南島に向かったと言う事実ででございます」
「うむ、そうであった。早計は儂の方だな」
「いえ防衛観点から当然であると思います」
「しかし、南島を経由する意図が解らん」
「そうですね、意図が・・今までは潜水艦の接触でした」
「それかも知れないぞ。潜水艦隊は海上自衛隊としても情報漏洩を危惧する為に別組織となっている。
たとえば、南島に潜水艦隊の基地と本部が隠されていれば、そして無線では傍受の可能性があるとすれば」
「直接情報収集する。ですか」
「そうかも知れない、そうでないかも知れない。だが何かしらの目的は有る筈だ」
「衛星班、敵母港の様子は確認できているのか」
「確認できていません。母港どころか通常の通商港や漁港も確認できていません」
「おかしい、通常であれば港は陸上施設もあり、防空も考慮されている筈。何も見つからないと言うのは、洞窟や港自体を空から見えない様に隠蔽しているとしか考えられん」
「航空基地は確認できているか」
「かろうじて滑走路2本の基地と施設らしき物1か所、滑走路1本と施設らしいもの3か所見つかっています」
「飛んでいる様子は見えるか」
「いえ確認できていません」
「これは」
「立川統合幕僚長、航空機は防空の観点から上げていると思います。見つからないのは迷彩ではないかと思われます」
「そうか、航空自衛隊も新迷彩に変更したばかりであったな」
「はい、迷彩と言いますかレーダー波吸収素材を塗りまして多少今までと違う色となっています。特にF-15とF-2ですが」
「そうですか、新しく塗ったものと思いましたが、吸収材でしたか」
「それより、艦隊の動向が気になります」
「うむ、もし南島に潜水艦隊の基地があり、情報収集だと仮定したならば、しばらくは動くまい」
「そうですね、ただし南島まで南大陸から1000Kmはあります。行くだけでも18時間かかります。
それだけかけても寄り道する意味ですが・・・」
「良く解らんと言う事だな」
「はい、今のところは情報が不足しています」
「開発していた、複眼カメラを搭載したマイクロ衛星が4基完成しております。他には無線中継衛星が使えます。それにマイクロGPS衛星は現在地球上を26基回っております」
「して打ち上げは近いのか」
「内閣府からは1か月後に種子島宇宙センターから「こうのとり12号」に搭載すると言う確約を頂いています」
「そうか、1か月後か・・長いな」
「平時対応ですから」
「よし防衛の観点から高野大臣に交渉をしてもらうとして、次の映像はまだか、まだなら入るまで南大陸全体の合成画像を頼みます」
「了解、中央スクリーンに出します」
南大陸全体の衛星画像が表示される。
「街が有る筈なのだが、異様に緑一面だな」
「巨大な防空網か植樹かもしれません。どちらにしても高度文明の象徴である高層建築もあると聞いてはいたのですが」
「ドルツ国は地下建設の技術もあるのか」
「はい、ハイエルフさんからの情報では要塞砲を備えた洞窟軍港があるようです」
「そうか、ハイエルフさんもダークエルフも相手国の情報には制限が掛かっている様だな」
「ええ、空間移動が使えるダークエルフが自衛隊の情報を伝えていないと言う事でしょうか」
「そうだな、我々もドルツ国の兵器や武器についての知識を受けたが、基地の規模や概要、なにより位置を知らされていない」
「神の意思ですかね」
「そうかも知れない。これが「神の戯れ」だとして、戦闘がゲーム、そして情報制限がルールだとしたらどうだ」
「確かにルールとなりますね。ですが相手は日本の武器・兵器を知らない様子でした。護衛艦に潜水艦やP-3Cがあるのですから、無謀だと思うのですが」
「知らされていないかもしれないな。それに空間移動はダークエルフ一人だけだと聞いている。一人では全てを把握できないと思うが」
「その分我々に少し有利であると・・」
「次の画像入ります」
「よし解った。だしてくれ」
中央スクリーンに新しい衛星画像が表示された。
向かっている先は南島と思われた。
「速度は計算できたか」
「はい、今すぐ」
・
「計算できました。時速32ノットです。誤差もありますが」
「ずいぶんと早いな」
「たぶんですが、旧ドイツのZ23型駆逐艦とすると最高で37.5ノットは出ます」
「自衛艦隊より早いのか」
「石炭ボイラーを高圧化して駆動させますから、速さはありますが黒煙で遠くからでもはっきりと視認できます」
「そうか、して向かっている先は南島で変更ないか」
「現状はありません」
「そうか、直接日本では無いのだな。引き続き動向を監視して欲しい」
・・・
そして、6時間後。
「敵駆逐艦隊が転舵しました」
「すぐ行く」・・もう何日目だ防衛省に寝泊まりするのはと立川統合幕僚長は思う。
着替えながら地下に向かう。
「情報!!」
「はっ最新の衛星画像では転舵して日本に向かっております」
「なにかアイデアでも良い、こんな事になった原因は」
「僭越ですが、洋上で情報交換をしたと思われます」
「そうか、推測によると南島は潜水艦隊の基地だったな、潜水艦隊なのだから直接行かなくても合流さえ果たせば情報を渡せるし、なにより護衛として潜水艦隊が同行する可能性もあるな」
「しかし、潜水艦隊が同行するのは大規模作戦の時だけです。潜水艦隊はそんなに速度は出ません。
先行させるか、後方から追いつくかが精いっぱいです」
「海幕長その見解で良いか」
「間違いありません」
「そうか作戦行動するのなら速度を落とすしかないか」
「はい、そして今の進路で計算すると佐賀県に向かっています。転進する可能性もありますが」
「佐賀か、佐世保から対応できるか。海幕長」
「佐世保と呉から出港させます。第5護衛艦隊は引き続き宮古島-沖縄間に待機させます」
「了解した。攻撃をする事を前提に防衛して欲しい」
「了解しました」
「直ぐに撃ってこない様なら、相手の監視を頼む。撃ってきた場合は防衛戦闘を許可する。
出来ればこちらは逃げ回って相手の戦闘能力を裸にして欲しい。E767とOP-3Cも入れて無線分析も全てだ」
「確認しました。戦闘能力の把握ですね」
「そうだ、頼むぞ」
「多分ですが、航空隊も連れてこないのでは、単に威力偵察だけの様な気がします。
こちらが応戦しても情報は洩れるかと思います。ならば戦闘区域に通信妨害をしては如何でしょう」
「空幕長お願いできるか」
「できますが、相手の無線分析が出来なくなります。それでしたら到着場所と時間を推定されて、先にE767を向かわせ、分析を先行させましょう」
「それで頼む」
「衛星班、佐賀到着時間は判るか」
「計算します。・・・現在は佐賀まで2700Kmで最短で48時間後です」
「2日後か・・」
「はい、転進しない限り2日後です」
「いよいよ、くるのか」
「高野大臣に連絡、2日後と言うのを忘れるな。全自衛隊に警告。佐賀県には全域に避難指示を出して欲しい。海側は攻撃される可能性ありと」
「了解しました」
「それから前に言っていた、旧ドイツZ23型駆逐艦の情報を出してくれ、間違っているかも知れないが、無いよりはましだろう」
「中央スクリーンに出します」
「Z23型駆逐艦・・排水量基準 : 2,600t、満載 : 3,605t 全長127m 最大幅12m 吃水4.65m
機関方式ボイラー×6基、ギヤードタービン×2基、2軸推進 出力70,000馬力 速力37.5ノット
航続距離3,650海里(6760Km)乗員220名 兵装150mm単装砲塔×4基 最大射程は18Km
37mm対空機関砲×4基 20mm対空機関砲×8基 4連装533mm魚雷発射管×2基 爆雷投射機×4基 機雷×60発」
「これは、これが本当ならば、戦力としては充分と思うが」
「特に主砲が痛いですね。150mmですか。当たれば甚大な被害が出ます」
「地上ではどうか」
「りゅう弾もあるでしょうから、相当な被害となる事が予想されます」
「そうか、では市街地に近づけない事が肝心だな。方針変更、無線については事前に分析を頼む。
艦隊についは日本EEZに入り次第警告後、従わない場合は撃破で頼む。
ついでに沈没した場合は旗艦らしき物を引き上げで頼む」
「了解しました」
こうして日本の決定はなされた。
ありがとうございました。
次回は洋上戦闘となる模様です。