第137話 兆候
第137話を投稿します。
日本に一部のドルツ国戦闘員が上陸してしまいました。
「トーマス宰相・・・違ったトーマス知事。凄いですよ日本は、あっと言う間に改装が完成しました」
「うむ、毎日見ているから知っておる」
「知事って暇なんですか」
「ううう・・前の様にリエラを不敬罪に問えないのが残念」
「前の様にって、一度も不敬罪に問われていませんよ。それに生きています。
そんな事より、あの「えれべーたー」って凄いですね。6階まであっという間に着きます」
「運動不足でダメになるな。儂は毎日階段で歩いておる」
「緊急時もですか?」
「それは・・その・・」
「使っているなら良いです。緊急時にいちいち階段で登ってくるのは時間の無駄ですからね」
「リエラにそんな事を言われるようになったか」
「そんなに老人でもないと思いますよ」
「まじめな話、これだけ取り巻く環境が大きく変化すると、ついて行くのさえ大変なのだ」
「そうですね、変わってしまいましたね」
「日本はその内に「しへい」と言う紙を金貨や銀貨の代わりをさせると言うし、どう理解したら良いのだ」
「ええ、私もそれだけは良く解りません。銀行を作って金貨や銀貨を備蓄して、その代わりの紙を発行するのでしょ。理解が追い付きません」
「リエラでもそうなのか・・」
「でもって・・そんな賢くないですよ」
「いや今の儂はお前だけが頼りだ。理解してくれ」
「知事をですか、紙幣をですか」
「両方」
「最善を尽くします」
「政府答弁の様だな」
「ええ、しっかり勉強しないと、授業について行けない学生の様です」
「まったくだ」
皇帝宮は陸自によって改装され、ドーザ方面隊本部と5階、6階が首都県の県庁となっている。
ただし、内部事務や知事室などで、市民用窓口は市内に何か所かに作られていた。
ここでの事務作業は主に元帝国第一師団の騎馬隊員が務めていた。
各地方の県体制も確立しつつあり、日本により選ばれた元領主等元貴族は良くやっていた。
特に各都市をまとめ上げ、議会と称する会議を開催にまで至っている。
次は5年後に来るであろう選挙に備えなければならない。
また、平民や元貴族に対する教育、子供達に対する教育も始まり、特に子供には昼食が好評で、一部では朝食も要望されていた。
ドーザ国民の健康状態を維持するのに、栄養学も重要でそれらも食堂主人などを中心に勉強していった。
ここは防衛省地下3階にある、指揮指令所。
「さて諸君。ドルツ国とやらの大体の戦力概要は判明したが、我々の知っている旧ドイツの戦闘力そのままと言う事はないと思う、遭遇した場合は戦術の基本に戻って敵戦闘力判定と戦闘陣形の把握を必ず行って頂きたい」
「ええっ立川統合幕僚長。その通りと思います。我々の知っているドイツ兵器でも苦戦はしますが、相手は未知の国です。未知の戦闘力や部隊に兵器と、今まで以上の用心に越したことはないと思います」
「そうだな。なにが飛び出すかわからん、我々の常識の範疇であれば良いが奇想天外な兵器など、考えたくもない」
「考えすぎではと具申いたします。現代兵器も過去の変遷を経て、一番効率よい形と機能に収まっています」
「だがな、旧日本軍が開発していた電磁パルス兵器は知っているか、強力な電磁波を一帯に出して敵を無効化する兵器なのだが、これは戦後アメリカの電器会社に特許を取られ電子レンジとなったのだよ」
「ああ、兵器類は大概特許など取って公開しないですからね、特許などは「既知の事実」以外はあり得ません。その為にBB化(ブラックボックス化)していますからね。公開などとんでもない事です」
「だが、その旧日本軍でも様々な兵器の発想や開発が行われたらしいぞ」
「ええ、一端は聞いています。海中戦車とか揚陸強襲用の船舶とかですか」
「そうだな。そんな物が開発されていたのだが、現代では海中ブルドーザーやワスプの様な強襲揚陸艦となって現れたと、潜水母艦開発もやってたらしいが、イ400シリーズの水密ハッチ問題が解決できずに潜水母艦計画は結局400、401、402までで以後は終戦の為に全て中止となっている。と聞いた」
「ええ、しかも深度100m以上は水密扉からの浸水で浮上しないと排水できなかったとか」
「そうだな、現代の技術を持ってきても水深200mが限界であろうと思う。大体艦内に航空機3機積み込むだけで大きな船体が必要だと思う」
「ええ、そんな使い方をしなくても、潜水艦には潜水艦の性能を追求していれば使い方は戦略的に大成功なのですがね」
ドルツ国を契機に立川統合幕僚長と幕僚達の話は続いた。
突然アラームが鳴り響く。それは突然きた。
「何事か」
「宮古島 第53警戒隊からの警報です。正体不明の小型船が接近」
「この時代にも不審船か、して速度は」
「現在時速12ノットで南方向に逃走中との事」
「海幕長、どう思う」
「はい、この速度からして石炭ではなく、動力はガソリンか軽油。そして帆船でも急激ターンで速度が落ちないなどとは考えられません。例のドルツ国の偵察か何かでしょう。すぐに沖縄からP-3Cを向かわせます」
「了解、一応領海内だ海保さんにも連絡を入れて欲しい。ついでに「応戦の可能性あり」と」
「了解です」
宮古島まで150海里に迫っていた「不審船」は上空にP-3Cが現れると南に逃走した。
その速度は最大で15ノットである。しかも帆船ではない、小型のボートであり全長は15m程である。
「立川統合幕僚長、報告です」
「してくれ」
「はい、例の不審船ですが、全長15m程度、エンジン搭載しており最高速度15ノットで南方面に逃走しています。海自P-3Cが追跡していますが、燃料の関係で後1時間が限界です」
「了解した。して相手の応戦はあるか」
「現在ありません」「そうか。よかった」
再度アラームが発令される。
「今度は何か」
「はい、横須賀経由で、潜水艦等早期警戒分隊より警報です」
「内容は」
「はい、旧式ジーゼル音3つ、宮古島沖縄海峡を潜水通過中」
「潜水艦だな」
「立川統合幕僚長。その通りと思います」
「過去ライブラリと照合結果を教えて欲しい」
「現在判明しているのは・・旧ドイツのUボートに近いです」
「Uボートがいるのか。近くの船舶に緊急警報。沖縄P-3Cによる威嚇を実施。浮上させ写真を頼む」
「了解」
「海幕長、頼むぞ」「了解です。少し手荒くなります」
「理想は鹵獲だ。無理なら浮上停止」
「りょーかい」
・・
しばらくして、P-3Cからの写真が転送されてきた。中央スクリーンに出る。
「見てください。Uボートそっくりです」
「して他2隻はどうか」
「はい、180度転舵し南に逃走しております」
「この潜水艦どうします」
「勿論、ドルツ国を知るうえで豊富な情報だ、乗組員を含めて全員拘束し、潜水艦は浮きドックを派遣して沖縄で見分を実施」
「了解です。手配します」
「宜しい拿捕時抵抗があると想定して対処して欲しい」
「了解です」
・・
「あっ立川統合幕僚長。潜水艦沈没です。爆薬を仕掛けられました」
「了解。サルベージは可能か」
「はい可能です。潜水艦救難艦を派遣します」
「了解佐世保からも応援を頼む」
「はい、佐世保から「こんごう」を含む第5護衛隊を出港させます。浮きドックは「あさの」を使用します」
「了解。警戒を怠るな。海幕長、潜水艦隊も現場海域で待機させて欲しい」
「はい手配済みです」
「しかし、偵察活動で出て来たな。P-3Cに哨戒活動を実施して欲しい」「了解」
日本は移転後しばらく哨戒活動をしていたが、帝国艦隊とアトラム王国艦隊が判明した時点で哨戒は中止していた。なにしろ両国に潜水艦は無い事が判明、結果P-3Cによる哨戒と海底音響ケーブル敷設が中止となっていた。
「海保さんは何と言っている」
「ドルツ国の軍事活動と認定し、海保は手出しを控えています」
「それが良い。海自にとっては守りながらの戦いは無理がある。海保さんには引っ込んで貰いたい」
「立川統合幕僚長、具申いたします」
「なんですか海幕長」
「ええ、現在使用可能の護衛艦DDG-179「まや」、DDG-180「はぐろ」に新造艦の2艦を加えて護衛艦隊を増加させます」
「間に合うのか」
「はい新造艦はDDG-181「たかお」DDG-182「あおば」と艦名が決定しています。この2艦は艤装工事と海上公試の最中ですので、早めて護衛艦隊を形成します」
「うむ、海上戦闘能力が必要である。一刻も早く頼む」
新造艦の艦名は旧海軍の「重巡洋艦」に使用された艦名同様に山の名前を付けていた。
「それから廃艦予定のおやしお型潜水艦を延命工事により、しばらくは現役として使用します」
「そうか、潜水艦隊の活躍する場面も多くなると思う。よろしく頼む」
「はい、人員募集もうまく行っていますので、乗務員の確保は大丈夫かと思います」
「そうだな、国内不況で自衛隊員の応募が増えたのは嬉しい事なのだが・・難しいな」
「はい、正直困惑です」
「だが、予算の中でやりくりして最高の成果を頼むぞ」
「畏まりました」
これを機に各海岸に「不審船」が現れ、日本の防衛の穴を探すようであった。
特に新潟を含む沿岸は元から海上自衛隊が弱い場所であった。
その3日後。
警報が鳴り渡る。
「報告、新潟県村上市、岩ヶ崎海水浴場に不審船が漂着。乗組員は不法入国した物と推定」
「対処は」
「現在新発田駐屯地から陸自第12旅団、第30普通科連隊から2個中隊が向かっています」
「了解した。上空からも偵察を実施」
「第30普通科連隊は約35分後現着予定」
「到着次第付近一帯を調査。市民にも聞き込みを警察にお願いして欲しい」
「了解。海保さんにも連絡します」
「念のためOP-3Cでの赤外線探査も頼む。嫌な予感がする」
「了解」
「新潟分屯基地からU-125Aが上がります」
「えっ救難機では、空幕長」
「はい、救助の為に赤外線探査装置を積んでいます」
「そうか、用途が違うが頼む」
「はい佐渡から5分で現地上空に到着します」
「山形、第6師団神町駐屯地からUH-60Jを2機向かわせます」
「燃料も含めて頼むぞ」
「了解」
こうして上陸したであろうドルツ国戦闘員の捜索は始まった。
ありがとうございます。
戦闘ヘリが欲しいところです。