第136話 ひと時の平和
第136話を投稿します。
嫌な静けさの中、平和裏にいろいろ進んでいます。
皇帝はホテルの自室に戻っていた。頭痛はすっかり治っていた。
「ハイエルフ・・恐ろしい存在だ。それにダークエルフ・・この世はどうなるのだ」
皇帝はベッドに横になり眠る。もうダークエルフが現れない様にと祈りながら。
朝が来た。ベッド上の電話機からベル音が鳴る。
「皇帝おはようございます。朝でございます。本日は1時間後に外務省から迎えが行きますのでお食事とお支度をお願いします」
「わかった」
皇帝は迎えが来るまで食事をして着替えをした。
部屋のチャイムが鳴る。ドアを開ける。
「お迎えに来ました。聞き取りは本日が最終となりますので、後ほど外務省から担当者が来て荷物をまとめますので、よろしくお願いします」
「んっ今日はここに戻らないと言う事か」
「はい、一応その予定でございます」
「そうか。好きにしてくれ」
「では参りましょう」
担当官と皇帝は歩き出し、エレベーターで地下に向かい、車に乗りこむ。
「では外務省に向かいましょう」「うむ」
外務省では見覚えのある6階の小部屋に通され、担当官も座る。
「本日は今までお聞きした事の検証と、新たな事実があれば補足願います」
「よし解った」
皇帝は外務省担当官が作成した報告書の内容について確認をしていった。
それには、皇帝の生まれた島からどうやってルミナス王朝を倒し、その後に周辺の島々を勢力下に入れ、とにかく兵士を増強していった。
その後にアトラム王国がマーベリック魔法国の援護に出てきて、帝国の船の幾つかが沈められ、帝国ははっきりとアトラム王国を敵と認定した事。そこから30年にも渡るアトラム王国との戦いが行われ、結果決着がついていない事。
そこに日本がチロルの森の山脈の一つを突然自分の領地として名乗りを上げ、押し寄せた帝国兵士を返り討ちにして、帝国は領地割譲の名目で平地におびき寄せ撃滅を計った事。自衛隊により事前に知られていたので城に近づく事が出来ない内に撃退され。それで帝国3/5の陸戦力が失われ、なけなしの2師団も西から東へ移動させたが、これも撃滅された事などが確認されていく。
皇帝は、皇族の誘拐、奴隷売買未遂の事を教えられ、後の皇帝暗殺事件に至る事を教えられた。
たっぷり1日を書類の確認で経過して、皇帝はぐったりしてきた。
「お疲れ様です。皇帝。これで報告は完成しました。ありがとうございます。
皇帝は送っていきますので1階にどうぞ」
「そうか」皇帝は疲れている様子である。
車に乗りこみ、窓から景色を見ている。
「どこに行くのか聞いていなかったが」
「ええ、もうすぐ到着します」
「さっ着きました。ここからは徒歩で行きましょう」
「担当官殿、ここは何という所なのであるか」
「あっはい、東京の錦糸町と言う街です」
「今は夜の7時なのに明るいのだな」
「ええ、結構東京でも大きい街ですからね。繁華街もありますよ。
皇帝・・いやこれからはトーマスさん。あれが電車の駅です」
そこには皇帝に読めない字で「錦糸町駅」と書かれていた。
「それでですね、ここの路地を覚えてください」
そこは錦糸町から本所警察署方面の狭い路地を進んだ先にある古い建物であった。
見た目は普通のアパートである。外階段を上がると廊下に4つのドアが並んでいる。
「この一番奥の部屋です。引っ越ししたばかりなので片付いていないと思いますが」
「うむ。誰なのだ」
「それはご自分の目で」と言いチャイムを押すと中から
「はーーい」と言う声が聞こえる。
ドアを開くと、そこには皇帝が立っている。
「あなた・・・良くぞご無事で」
「トルフェイ妃か」と言ったまま固まってしまう。
「お母様。どなた・・」と言うと娘が顔をだす。「お父様」
「あなた。いまはトルミスです。お帰りなさいあなた」
「お父様。ルルアミです。お帰りなさい」
皇帝は涙で前が見えなくなった。
「ようやく、あ・え・た・」・・・・
「さっ上がってあなた」
「そうよお父様。皇帝宮の様な接待はできませんが、平民らしくつつましやかに」
「そうか」皇帝は入ろうとして止められた。
「お父様。靴を脱いで」「脱ぐのか」「そうです」
皇帝は靴を脱いで上がりこむ。
担当官も続く「お邪魔します」
「有難うございます。皇帝・・トーマスに会えました」とトルミス。
「今後の説明をしますね」
「お願いします」泣いている皇帝以外は聞いている。
「トーマスさんは帝国から皇帝名で発行された書類の確認をお願いしますので、当分は奥様トルミスさんと一緒に外務省にいらしてください。働く場所は別々ですが帰りは一緒です。ルルアミさんは午前中花屋で午後から大学ですね。帰りは19時頃とお聞きしています。
皇帝の日本でのお仕事の大半は終わりましたので、本日よりここで3人暮らしてください。護衛もいないので戸締りは確実にお願いします」
警視庁公安課により重要人物として監視・保護対象となっている事は伝えない。
「はい、ありがとうございます。担当官様」とトルミス(トルフェイ妃)が答える。
「お父様。お疲れになったでしょ。これに着替えてください。スーツは明日も着ますから。向こうの部屋で」とルルアミが隣の部屋に連れていく。
「では奥様よろしくお願いします。これがトーマスさんの入庁証と定期券です。ルートは奥様と一緒です」
「はい、では出勤は私と同じで宜しいのですね」
「ええ、結構です。それから早急にトーマスさんの口座開設と住民票登録をお願いします。
これが外国人滞在票になります」
「有難うございます」
「生活で困った事はありませんか?」
「特にないです。前の場所より駅に近いので助かります」
「そうですか。前は2人を想定していたので、少し広いここ2DKに移って頂きました」
「有難うございます。ですが家賃は・・」
「前は滞在費が公費でしたので、外務省が負担していましたが、今回は外務省職員の家族寮扱いなので、月々の負担は3万円でトーマスさんの給料から天引きされます」
「はい解りました」
「では家族仲良く暮らしてください。何かあれば外務省内線5165で呼び出してください」
と言うと担当者は名刺の裏に内線番号を書いて渡した。
「はいご迷惑をおかけしない様にします」
「いえいえお気軽にどうぞ。それに確認にもなりますので」
「ふふ。ありがとうございます」「ではこれで失礼します」
「はい。ルルアミ、あなた。担当官様がお帰りになるそうですよ」
「お母様聞いて、お父様靴下自分で脱げないので笑ってしまいました」
「言うな・・・椅子に腰かけならできるのだが、床に座り込んでは無理である」
「二人とも担当官様がお帰りなるそうですよ。お見送りを」
「有難う。担当官様」
「うむご苦労である」「お父様平民ですよ」
「どういえば・・・」「単に「さようなら」で良いと思います」
「そうか、さようなら」「ではお幸せに。失礼します」
「ルルアミだったか、これどう着れば」
「お父様反対です。ボタンが下ですよ。こまったお父様です。(笑)」
「あらあら、しばらくはルルアミに叱られそうですね」
「あはは。それも重畳。くるしゅうない」
「お父様平民」「うっ」
防衛庁地下指揮指令室。
立川統合幕僚長は無線で全軍に聞いた内容を伝えていた。
「と言う訳だ。ドルツ国が日本に攻めてくることも考えられる。同様にドーザ大陸やアトラム王国にもだ。
衛星による偵察を毎回報告して欲しい。動き始めたなら対処しないとな。
それと沖縄から南に2200Kmもある南大陸。P-3CやOP-3Cでは往復だけで燃料が持たないだろう。十分な上空偵察は無理か・・」
「立川統合幕僚長。南西諸島西島からなら1800Kmになります。多少大陸を回る事も可能です。それにP-1なら増槽を2つで5000Kmは行けます。十分偵察可能だと思います」
「そうか、P-1の光学地形偵察機OP-1は1機だけだったな」「はい」
「予備機を入れて後2機は必要だな。海自に協力要請を頼む。対空装備も忘れるな。相手は戦闘機を持っているぞ」
「了解です。統幕長、空自のC-2EBも使えるのではと具申します」
「もう完成したのか。C-2の電子偵察機だな」
「はい、まだ1機ですが、これなら対空兵器も積んで7000Kmは行けます。それに・・電子妨害も備えていますのでOP-3Cよりは危険は少ないと思います。相手がレーダーを持っていると仮定していますが」
C-2はその高性能ゆえ、2011年にロールアウトした当時から電子偵察機構想が浮上していた。
これはYS-11EB(電子情報収集機)が機体改装1993年で15年機体寿命が延びたが、結局2017年に廃棄された事(本来は2013年廃棄予定だった)。
空自はその対策としてE-2Bを購入、運用しているが航続距離は最大2800Km程度で日本国内外程度がその範囲である。とても海自のOP-3C、6700Kmには敵わない。そのOP-3Cも状況によって燃料を消費する為に一番条件の良い時でないと南大陸までは無理であった。
高価なE767を電子偵察用途にも使用していたが、独自の長距離・長時間飛べる電子情報収集機を早急に必要としていた。
試作として導入されたC-2EBは、電子偵察、地上地形観察、電子妨害、フレアーに空対空ミサイル2基などの機材を搭載して、試作機は2021年に完成していた。
「現在は、飛行開発実験団飛行実験群にて実験中であります」
「空幕長、出せるか」
「了解。2日お待ちください」「宜しい。準備が終わり次第、高高度偵察を行って欲しい」
「了解です」
「海幕長OP-1の追加予算を頼む」「了解しました」
「衛星運用課、どの位で判明する」
「全球探査ですので35分程度で詳細が入ります。現在入手している情報は中央モニターに出します」
「了解した。だしてくれ」
中央モニターに南大陸の全容が表示される。
「まだなにも動いていないな」
「最新画像ですが、前の画像と比較しても、まだ動きは無いようです」
「この大陸についている島は如何だ」
「仮称南島と付けていますが、三角形の様ですね。島としては不自然な形です」
「解った。この付近の継続監視を続け、変化があれば至急伝えて欲しい」
「了解です」
こうして南大陸および南島の動向は逐一監視されることになった。
ここは帝都である。
「トーマス宰相。皇帝宮に移動できましたね」
「なっリエラ。宰相変わって・・」「ダメです。やりません」
「相変わらず冷たいな」
「失礼します」
「んっ」
「宰相。日本自衛隊ドーザ大陸方面隊中野総監と幕僚の皆さんがおいでになりました」
「おぅ、そうか通してくれ。リエラも同席しなさい」「えっはい」
「失礼します。ドーザ大陸方面隊中野です」「同じく殿山です」「畠田と「林」です」
「幹部の皆さんが勢ぞろいでどうされました」
「トーマス宰相、ドーザ大陸中心部のここ帝都に方面隊本部を設置します」
「ここにですか。それはありがたい」
「ええ、ドフーラの管理目途もついて、キャラ村、シルラ村の航空基地も完成しましたので、ここに移動します」
「良い、賑やかになるのは大歓迎だ」
「では我々は本部なので、1から4階までを、宰相は5階、6階をお使いください。それに従って旧帝都の会計、総務、財務、商務、法務の各部門も全て5階に移動します。それから帝都時代の組織を引き継いでもらっていますが、トーマス宰相を知事にして、独立行政を行いますので、その準備もお願いします。
旧貴族院・・元老院でしたか。それは元の位置に議場として再建築いたします」
「工事は・・」
「それは我々でやります。この石積の城は増築にも耐えますので、部屋を増やして大食堂を2つに喫茶室4つ作ります。それと5階に応接室は警備上問題がありますので、1階に応接や宴会場を複数作ります。
あっ地下に購買部と従業員食堂と倉庫を予定しています」
「そんなにか・・凄い」
「この城も住みやすく使いやすくなりますね」とリエラ。
「そうだな。日本が改造してくれるなら安心だ」
「では早速明日から始めます。しばらく音がしますので我慢お願いします。
なお、工事責任者は林幕僚副長がします」「林です。よろしくお願いします」
「心得た。よろしく林殿」
「それから過剰な装飾を全て取りますね」
「それは早めに頼む。きらきらで目が痛くなる」
「別名「黄金宮」ですからね」とリエラ。
「了解しました。希望はありますか」
「特にないが、仕事しやすい環境が良いな」
「得意とする事です。1階の応接や宴会場は少し煌びやかにしますが、それ以外は質素で宜しいですね」
「それで頼む」
「承知しました。それから・・外付けでエレベーターーを4基設置しますが宜しいですか」
「そのえれ・なんとかと言うのは何です」
「トーマス宰相、エレベーターーと言う物らしいです」とリエラ。
「その・・えーい、内容を教えてくれ」
「はい垂直移動の手段です。足腰の悪い方、義足で歩かれている方の負担にならない様に、付けたいと思います」
「えっ階段が無くなると言う事ですか」
「いえ、トーマス宰相。階段は非常時に逃げ道となるので残ります。それとは別にエレベーターーが付くのです」
「そうか、足腰の為に階段で運動していたから残るなら良い」
「そうですか、階段で健康を。さすが宰相ですね。トーマス殿」
「いや、騎馬隊から転属させられて極端に足腰が辛くなってな。階段使いながら少しづつ早く上る様にしていたら、足腰も大分良くなってきた」
「なるほど・・では、健康の為にトレーニングルームを作りましょう」
「なんですか。そのとれなんとかは」
「トーマス宰相は、「なんとか」で乗り切ろうとしていますね」
「リエラ。解らない物は判らん。言葉も難しすぎて・・・」
「失礼しました。大陸語に当てはまる言葉が無いので、英語を日本語にしてお伝えしました。
大陸的に言うと「訓練部屋」になりますかね」
「訓練・・ですか。剣や格闘技などですね」
「うーん。違います。機械に手伝って頂いて体力向上の為の運動を行う部屋です」
「今一つ良く解らん」
「あっできましたら、トーマス宰相にコーチを付けましょう」
「その、運動の為のですか」
「はい、運動のコーチです。効率良く体を動かすための指導をお願いできますよ」
「それは楽しみであるな」
それから5日後に第3施設団、第12施設群が皇帝宮の工事に入った。
資材は現地調達も含めてほぼ日本からの輸入である。
「トーマス宰相。毎日大型の「とらっく」と言う乗り物が何かをいっぱい積んで街道を走っている様です」
「リエラそんな事より皇帝宮中央広場に立ったあの鉄の柱、すごいな」
「宰相、あれ「くれーん」と言うらしいです。高いところまで荷物を持ち上げたり、降ろしたりと凄い物です」
「いや日本は凄いな。そんな相手に戦いを挑む方がどうかしている」
「いや宰相。まったくです」
「リエラもそう思うか」
「はい。間違って戦わなくて良かったなと。まだ死にたくないですから」
「そうだな、儂は書類で死にそうだがな」
「あれ、皮肉ですか。誰かがやらないといけない仕事ですよ」
「それはそうなのだが、宰相と言っても貴族席ははく奪したから・その・なんか落ち着かない」
「トーマス宰相は公爵にでも叙爵されたらやる気がでましたか」
「いやそれはない」
「結局爵位なんか関係ないじゃないですか」
「いや。大いにある。爵位がないとリエラを不敬罪で絞首刑にできない」
「おっと、冗談きつすぎます」
「ふふふ、いつかは・・・」
「宰相ダメです。それは」
「いや何とかならんのか」
「なりません」
「そんな事よりトーマス宰相。いつまでも「帝都」ではダメだと思います。
宰相が名前を付けてくださいね」
「そんなリエラ突然言うな」
「ですが帝国は無くって、民主議会制とか言う政治が始まるのですよ。「帝都」はありませんよ」
「そうか、そうだな。「帝都」にかわる名前が必要だな」
「ええ、ルミナス王朝時代は「ルミナ」でしたか、アトラム王国では王都ブリシアシティーですよ」
「そうだな。何か良い名前を・・・」
「おっ考えていますね」
「うむ。決めた。リエラに決めさせることを決めた」
「それは決めたとは言いません。寝言は寝てから言ってください」
「誰が付けても変わらんのではないか。それに儂の出身はロードスで帝都には思い入れも無い」
「それを言うと私もミリムソーマ生まれですからね。同じです」
「あっっ良い事思いついた。市民から公募にしよう」
「それは良い考えですね。そうしましょ。早速」
「早。もう書いたのか」
「ええ書きましたよ。しかも褒章付です。ふふふ」
「そんな金無いぞここには」
「ええ無いですよね・・・・」
「まさか、儂の給料から・・」
「正解」
「ならお前も道連れだ。ささっと」
「あっ書き換えたらだめです」
「これで清書しなさい。印押さんぞ」
「伝家の宝刀ですね。しかたない」
帝都は平和であった。
ありがとうございます。
次回は7/1の予定です。遅れたらすいません。