第126話 帝国民と貴族達の憂鬱 その3 帝国民の驚き
第126話を投稿します。
長くなりました。すいません。
帝都民の暮らしぶりや噂話が中心です。
「あなた、大丈夫なのかしら」
「ハンナは子供達と屋根裏部屋に隠れて、音を立てないようにな」
「いいかい子供達もお母さんの言う事聞いて大人しく静かにするのだぞ」
「はい。パパ」
ひまわり亭の主人夫婦は子供達をハンナに預け屋根裏に隠れる様にして、ハルスはお客の対応と、もし日本の軍隊が来た場合の対処を考えていた。
やがて帝都南門とは言っても門は既に無いのだが、南門に近い宿屋ひまわり亭の玄関に厳つい鉄馬車が1台止まり中から兵士達が降りて来て「ひまわり亭」に入って来た。
「ご主人はいるか」
「わっ私が主人のハルスです」
「ハルス殿突然脅かせてすまない。できるだけの帝都民から話を聞きたく訪問した」
「わっわかりました」
「ご主人そんなに緊張しなくて良い。ところで本日の客は何人、そして家族はいますか」
「ハイ、本日お泊りの客は全部で10人です。その内8人が旅立つ予定でした。かっ家族は全部で4人です」
「わかった。宿泊客と家族を呼んできてくれないか」
「殺すのですか・・・」
「はは、話を聞きたいだけだ。みな揃ったら話すから待ってほしい」
「解りました。家族と宿泊客を呼んできます」
「もし抵抗する宿泊客がいるなら徹底的に調べるからと伝えて欲しい」
「解りました・・・」
やがて全ての宿泊客と家族が宿のレストランに集まって来た。
「家族4人に宿泊客10人、間違いないな。私は日本陸上自衛隊である。
帝都を本日占拠した。ただし皇帝の命でもある。
帝都民、いや一般市民に対しては犯罪行為を犯していない限り逮捕監禁はしない。
普段通りの生活で良い。ただし悪徳で評判の商会については閉鎖をしたから一般商店や商会を使って欲しい」
「悪徳商店・・」ハルスは呟く。
「何か心当たりがありますか。ハルスさん」
「あっはい、その噂なら」
「解りました、最後に聞きますので、その時お話を聞きます。
では最初宿泊者からお願いします。氏名と行き先と荷物を見せていだたきます」
「荷物もなのか・・」「いえ奴隷等運んでいないかの調査です」
「そうか・・安心した」
「では順にお願いします」隊員は4名で聞き取りを、4名が各部屋を調査している。
「部屋の捜索は先ほどと同じ理由です。奴隷を隠していないかの調査です」
・・
「言い忘れていました。病気や体調の悪い方はいませんか?先に南門旧護衛隊宿舎に診療所を開設していますので、手を上げてください」
「そのーいいか」宿泊客の商人が手を上げる。
「どうぞ」
「怪我や病気の治療は莫大な金が必要なのだ。いくら払えばよいのだ」
「えーと、帝都では、いや帝国ではそうかも知れませんが今は日本が占拠しています。
皆さんは難民扱いなので治療費は必要ありませんが、仮病で薬を貰おうとすると逮捕して牢獄です。
それは犯罪行為ですから。その人の為に、本当に病気の人の薬が無くなると、それは重大な犯罪です」
「わかった。我々商人は薬草を数種類持って街から街へと旅をする。治療と言う概念は金持ちの貴族だけの事だ。ありがたい事だ」
「では調査を続けます」
・・・
商人達は8名で帝都へ荷物(生活必需品)の荷入れを行い、リリコネに仕入れに戻る所であった。
商人の内4名は警護の冒険者であった。
その中の冒険者リーダー、フマッピが言う。
「俺たち冒険者でも帝国がチロルの山で負けた話が伝わってきている。特に帝国第5師団は冒険者に化けてハイデルバークに現れたとか、生意気な態度ですぐに帝国兵士と解ったのだが、それも負けたのだろ」
「フマッピさん機密にかかわる部分はお話しできません。それより盗賊とか奴隷市場とかの噂はありませんか」
「それなら、なぁ」仲間に合図を送る。
「それなら私がお話しします。まずリリコネに奴隷市場があります。次にドフーラとドミニクにも、ここは交通の要所だから市場が開き易いのではないかと。次に盗賊は帝国兵士が敗戦して街道を根城に盗賊になったと聞いている。特にチロルの森方面に多いと聞く」と冒険者の剣士リラスルが答える。
この冒険者グループはリーダーのフマッピが盗賊と弓、リラスルとユリコネが剣士、ドマルが槍である。
「貴重なお話ありがとうございます。では次の宿泊者お願いします」
「我は冒険者トルノダとアリムだ。帝都で主に西側に入り込む魔物退治を行っている」
「トルノダさんとアリムさんですね。冒険者になって長いのですか」
「もうこのコンビで5年働いている」
「そうですか、冒険者ギルドですよね。魔物討伐依頼は多いのですか?」
「うむ、毎日何件かは出でいる。ギルドに行けばわかるぞ」
「ではこの街や他の街で悪い噂を聞きますか」
「うーん。アリムあれかな」「そうだな」
「実は、リリコネで人身売買が行われているが、不定期に開催街もバラバラで開かれる売買があるらしい」
アリムが続ける「そうだ、最近ではロハ街で開かれたと聞いている。ただし開催後の噂だけで事前には知らされない。なにしろ貴族とか大富豪がお客だからな。我々は昔市場の警備に参加したが駆け出しのころだ」
「これも罪か」
「いまでも、なら罪ですね。けど昔なら情状されるでしょう。知らなかった。もしくは生活のためだと思いますから。有難うございます。ではつぎ家族に聞きます」
・・
「この宿の従業員は御主人と奥様で間違いないですか?それにお子さんが二人」
「満室の時だけ手伝いを頼むが、普段は2人でやっている。そんなに大きな宿ではないからな」
「ずいぶん立地が良いようですが」
「それか、この一角を商業ギルドが宿屋にしようと考えてな、帝国護衛兵の宿舎を門に向かって右に作り、ここは壊したのだよ。それで宿屋開業希望者で抽選を行って、通りの角から5軒を決めたのだよ。
その時の一番くじだ」
「運が良いのですね。判りました。それで噂など聞きますか」
「ここは宿でも南門から一番近いから多くの旅人が宿泊するぞ。その夕食では噂話が多く聞かれ、他の旅人たちへの警告にもなるわけだ。
でだな。日本にかかわる噂は除いて、リリコネの奴隷市場は常設だから、誰でも知っている。
移動奴隷市場は帝都3番目の大商会アマリスがやっていると聞いている。アマリス商会の会頭はドラブルだよ。
それから帝国兵士の盗賊は大抵単体で20名程度だが、ドフーラとトリルトの街道には古代遺跡があって、そこには盗賊皆殺し団がいると聞く。盗賊団の名前は正確ではないぞ、出会ったら「皆殺し」だから皆そう呼んでいる。なんでも100人規模で逃れられないとの事だ。これを退治して欲しい。
それから、帝国貴族の話なのだが、ジョン・デ・フォン・ジョシュア伯爵と言う大貴族がいるのだが、先ほどのアマリス商会の後ろ盾だと聞いている。
伯爵自身は奴隷に興味はないが、伯爵の経済収入としての後ろ盾らしいぞ。
サンノルズ伯爵やトリヘル伯爵の話も聞きたいか」
「ええ参考になります」
「この二人は小物だ。商会の子や孫商店で売り買いして不当に値を釣り上げている。庶民にとって奴隷売買とかよりも、こいつらの方が数倍頭にくる。
なにしろ3年前珍しく帝都に雪が降ってな、宿屋は1階で薪を焚いて各部屋に暖を届けるのだが、その薪を買い占めやがって、最後には値段が3倍にもなった。
貴族の財力で全て買い取り、高値で商店に降ろして利益を出したそうだ。頭にくる」
「有難うございます。参考になります。これは貴重なお話を聞かせて頂いたお礼です。
「カンズメ」と言って上のプル・・小さな指賭けリングを立てて引っ張ると・・ほら開きます。
お一人1個になりますがお渡しします。それからこの開いた缶はここの全員でお食べ下さい。
いろいろ種類ありますが果物です。特殊な製法で5年は持ちますよ。
子供たちはお菓子です。食べた後は歯磨きしてね」
「おじちゃん歯磨きって、ナーニ」
「習慣がなかったですか。後で南門に行って、「歯磨きしなさいって言われた」と言ってください。
子供用の歯磨き粉と歯ブラシを渡しますし、実演もします」
「ふーん」
「そうすると歯が痛くなくなるの。磨かないと歯が痛いとか、ないかな」
「タリスあるー」「ミムネもあるー」
「そうかあるのか、でも毎日歯磨きすると痛くなくなるよ。大人の方々も同様です」
「よかったな、タリス、ミムネ。後でお母さんと行ってごらん」「はーい」
「これ・・・旨いな甘くて・・」
「これはチロルの森で栽培された桃です。大陸語では該当する言葉がないので何とも」
「桃と言うのか初めて食べた」「シロップ漬けですね帝国なら半年も持てば良い品質なのだが・・5年も嘘だろ」
試しに開けてみたカンズメに一同感激であった。
「子供たちはお菓子ね。子供達だけで食べてね。食べた後は歯磨き約束してくれるかな」
「タリスするー」「ミムネもするー」
「でははい、少しずつ食べてね。一度に食べると歯が痛い痛いになるよ」
「タリスわかった」「ねぇいま食べてもいい」
「では沢山入っているから、これなんかどうかな」
ピロ包装されて飴である。「これは端をこう、ちぎって出して、口に」
「あまーい」「ねえ不思議な味だよ」
「それはグレープといって寒くなると取れる果物の飴だよ。噛まないで口の中で舐めるの、そうするといつまでも味がしておいしいよ。真ん中は違う味だから」
「なんかシュワシュワする」
「うんサイダー飴だからね、シュワシュワも楽しんで」
「「ハーイ」」二人とも口に飴を入れたまま返事をする。
冒険者達には傷薬と傷バンドに消毒剤を渡した。使い方もジャスチャーを交えながら教える。
「これは・・助かる。薬草のビンだけでは治せない深い傷とか便利だ」
「そうだねアリム、いつも野獣や魔獣に噛まれて膿がでるから、これ良いのではないか」
「そもそもお前が・・前に出ないから・・・」「揉めると取り上げます」と自衛隊員に言われ大人しくなった。
「ではご主人に奥様、そして宿泊の皆さま本日は良い話をありがとうございます。南門は明日には通行できるようにしますので明日旅立ちください。ではありがとうございました」
一同はポカーンとしている。
「ただ話を聞くだけで、みんなに「カンズメ」1個に冒険者は傷薬とか・・日本の軍隊は変だな」と商人。
「いや、多分だが俺たち一般市民が一番なのではないかな。貴族とか豪商とか捕まえて欲しい迷惑な連中だし」
「お前さん・・子供達にもお菓子だって。あたしゃ日本好きになったよ」
「そうだなハンナ。殺されるどころかお土産付きとか、帝国を打ち破る力の差を見せつけられた」
「おい、トリナ。日本の物を仕入れられれば俺たち金持ちになるぞ」同席した商人のヨバルが言う。
「だが、ヨバルどうやって仕入れるのだ」
「多分だが、その内日本は帝国・・あっ旧帝国の物資が不足するだろうから一般家庭用になにかを出してくると思うぞ」
「流石だなヨバル。日本の物は誰でも欲しい筈だ。日本につかず離れずにしよう」
こうして2人の商人は、商人の勘で日本からの物資を帝国民に売る事を思いつく。
・・・
一方北門に近い一般帝都民宅である。
「日本国自衛隊である。話を聞きたい、家族全員揃っているか」
「はっはいお待ちください」
「あなた日本国自衛隊と言う方が」
「ばか、それ帝国を敗北させた軍隊だぞ。すぐに裏から・・・あっ裏にもいる」
「お邪魔します。逃げられないですよ。お話聞くだけです。危害は加えません」
「お前鍵は掛けなかったのか」「慌てて・・」
「あっそう構えないで、あたらめて、私たちは日本国陸上自衛隊です。帝都や貴族商会や盗賊に関する噂でも良いので聞かせて頂けますか」
「はい、本当に殺さないのですか」
「殺す理由がありません。お話聞ければと思います」
「でも話をするにも証拠がありません」
「先ほども言った通り噂程度でよろしいです。教えて頂けますか」
「それなら・・・」
「ご家族はここの5名ですね。他に使用人とか奴隷とかはいますか」
「その・・奴隷に酷い事をしないと誓いますか」
「いるのですか」
「ご存じの通り北門から少し入った路地の家です。そんな大きくないのですが、時折逃げて来た奴隷が助けを求めて・・くるのです。大抵裏口から」
「その奴隷を助けていると言う事ですね」
「私だけではありません。この一帯は奴隷をかくまっている家は多いです。言ったりしませんが。帝国に捕まるので」
「そうですか、後ほど奴隷を渡していただけますか」
「奴隷商人に売るとか、自分達で使うとかですか・・」
「あはは、私たちは日本の自衛隊です。人類は平等、たとえ異種族も同等と考えいます。もし本当に奴隷ならドーザ大陸東にある街に送り込みます。そこでは人間、異種族問わず仕事について賃金が貰え生活できます」
「噂に聞いていた。「約束の街」ですね。本当にあるのですね」
「ええあります。獣人やエルフ、ドワーフの皆さんと人間でも奴隷にされた方々が働いています」
「ひどい事されませんか。奴隷紋は消せないので」
「ああ、奴隷紋はハイエルフの皆さんに消して頂いています。奴隷ではありませんよ」
「やはり「約束の地」は噂ではなかったのですね。奴隷を、奴隷紋を解放されるなんて。それにハイエルフ様がついている」
奥様は泣き始めた。
「では後ほど奴隷を渡してください」
「奴隷をかくまっていたことに罰や罪はありますか」
「ないですよ。匿っていたのでしょ。褒められはしても罰はないですよ。その奴隷に酷い事をしていない限り」
「なら安心です。ここはバロッサやムリナが近いので奴隷が逃げ出し荷馬車に紛れて帝都に入り込み助けを求めるのです」
「そうなんですね。では順番に話を聞きます。お座りください」
5人を食卓に座らせる。
「あのー皆さんも座ってください。立っていると威圧が・・・」
「これは失礼しました。座ってよろしいですか」「どうぞ」
1名は座り、3名は後ろで何かを書いている。
「ではこの帝都や地方都市で悪い噂や盗賊などの情報、悪徳貴族や大商人の噂等あれば教えてください」
「本当に噂だけですが、宰相のサイネグとドメスアルム領主長が皇帝暗殺を企んでいるとか、あとサイネグ宰相は皇帝の家族を奴隷にして売り飛ばすとか言われています」
「興味深い話です。他には」
自衛隊員は噂の信頼度が高い事にびっくりした。
「はい、大商会の上から3つ、一番大きいアリマスナリム商会と三番目のアマリス商会は二番目の商会スルトヘイムを乗っ取ろうと画策しているとか、スルトヘイムの会頭スルトヘイムさんは元貴族で教会や孤児院に寄付をしたり、炊き出ししたりと帝都民の評判も高く、品物も良い物が安いと評判なのです。
ですが、アリマスナリム商会達に疎ましく思われていて、実は商業ギルドのギルド長選挙が近くあるのですが、スルトヘイムが当選確実だろうと言う話です。
ギルド長になると調査権や閉鎖権が与えられて、悪徳商会は困りますからね。今のうちに何とかしてしまおうと言う計画らしいです。
「良く分かりました」
後ろを向いて「スルトヘイム商会を調査」と日本語で言う。
「他にはなにかありますか」
「帝都の奴隷市場は不定期に開催されて、アリマスナリム商会の孫商会・・なんと言ったか。
アリマスナリム商会の孫商会は沢山あり過ぎて良く分からん。リト・・なんとかだ。
その力も財力もないような商会の倉庫で開催されているらしい」
「あなたリトルヘ商会でしょ」
「そうそう、そのリトルヘ商会だ。倉庫1つで店1つの小さな商会の筈なのだが、奴隷市場が開かれると言う噂を何度も聞いている」
隊員は後ろを向き「リトルヘ商会調査、奴隷市場開催容疑」と言う。また日本語だ。
「有難うございます。他に何か噂話とかありますか。真偽はこちらで調べます」
「そうね」奥さんが言う。
「余りたいした事ではないのだけど、帝都では傷薬が不足していますね。薬草が取れないのかしら。
それから食料・・特にパン小麦が高いので、家庭で焼くパンはたまにしか無理です。
殆どは薬草スープで子供たちの栄養が心配です」
「そうですか。本日と昨日のメニューを簡単で良いので教えてください」
「日本の方は家庭料理に興味があるのですか。昨日は、夜はなんだっけ。そうだ薬草スープと小麦を練ってゆでたナルと呼ぶ食べ物。今朝はまた雑草スープにナルでしょ。昼はさっき・・昼は軽くナルに塩を振った物を焼いてナルパンにお茶です」
「ちょっと失礼。子供達協力してくれるかな」
隊員は長男からかかえ、重さをだいたい計る。「長男は何歳ですか」「トミは7歳だよ」
「ミミルは6歳なの」「一番小さいトルは4歳です」
「帝都北門近くのトルシアさん一家、旦那に奥さん、トミ男の子7歳12キロ、ミミル女の子6歳10キロ。トル弟4歳8キロ」と日本語で言う。
「栄養不足ですね。後で何とかしましょう」
日本の年齢平均体重は7歳男子で23.4Kg、6歳女子で20.4Kg、4歳男子で16.5Kgである。
帝国人は貧富の差もあるが、帝都の一般家庭で体重が日本の半分。発達不良である。
「子供たちは学校や仕事などはどうなっていますか」
「私が答えましょう」と妻のユアは説明を始めた。
「帝国では裕福な家庭は6歳から学校に通えます。ですが1年で金貨1枚もの学費と制服代が毎年かかります。
とても私たちでは払えません。夫のトラクは倉庫街で荷下ろしの作業をしていますが、月に銀貨1枚で毎日の生活でだいたい銅貨90枚は必要で、病気の為に銅貨10枚は取ってあります」
「はい、毎日の生活は1日銅貨3枚程度で仕事は月銀貨1枚ですね。これは平均的ですか」
「ここら辺の人たちはほぼ同じですね。帝都民はそれでも住民税がないので助かっています」
「ほぅ住民税がないのですか」
「ええ、商人達には売上税がありますが、一般民にはありません。また、帝都から出る時と入る時に帝都税として、誰でも一人銅貨5枚、馬車銅貨15枚を取られます。払えないと奴隷に・・なるとの噂です」
「そうですか。子供たちは学校には通っていないのですね」
「それが、先ほどの話に出た元貴族のスルトヘイムさんが匿名で塾を開いていて、そこで書き読みを教えています。また簡単な計算も。これからの帝国民には必要だからと言って。二人ともそこに通っています」
「そこは月謝おいくらなのです」
「いえ、多分ですがスルトヘイムさんが必要資金を出して、ホーメス先生が教えています。
二人は古い女神教教会が塾になっていて通っています。午後からですが」
「午前はどうしています」
「漁港の手伝いなどして魚を運んだりしています。今日は漁がお休みですが。手伝うと銅貨1枚を二人で貰えます」「ほとんど働いているのトミだぞ。ミミルは漁師のおじさん達とおしゃべり」
「ミミル重いから無理だって漁師のおじさん言うからおしゃべりしているよ。おじさん喜んでくれるけどな。それがミミルのお仕事」「それをお仕事とは言わないんだぞ」鼻息と共にトミが言う。
「ホーメス先生を調べて欲しい」と日本語で後ろの隊員に伝える。
「偉いね二人とも」「二人が働いた分は貯金させています。将来の為に」
「有難うございました。以上で聞き取りは終わります。
あと、奴隷を出して頂けると保護します。
後ほど協力して頂いたお礼の品を届けます。ありがとうございました」
「はいこの方が、奴隷エルフのミルさんです。来た時は相当叩かれて顔から足から腫れていました。
薬草が効いてこんなになりましたが、人が怖いようで・・・助けてやってください」
「承知しました。ミルさん。ハイエルフ様に奴隷紋を取ってもらいましょう」
「ハ・イ・エ・ル・フ・様、とってくれるの紋を」
「ええ取りますよハイエルフ様が、安心して」
「みんなはハイエルフ様の軍隊さん?」「いえ私たちは日本と言う国の自衛隊です。奴隷の皆さんは保護してハイエルフ様に送ります。安心して帝国兵や商人はいないから」
「ミル。行きます。ハイエルフ様に会いに行きます」
「トルシアさん、奥さん。こんな奴隷に良くして頂いてありがとうございました。お礼できないけど感謝します」
「いいのよミルさん。良かったねハイエルフ様に会って奴隷紋を取って、他のみんなと楽しく生活してね」
「はいありがとうございます。トミ、ミミル、トルも元気でね。お人形ありがとう」
「元気でねバイバイ」ミミルが手を振る。隊員もエルフも「バイバイ」と手を振る。
「よし、ここは終了。次行くぞ」隊員は地図に印を付けていく。もう北側の民家は殆ど回っている。
「ちょっと待てお前達。そのエルフ探していた奴隷だ。返せ」
商人が北門から現れた。
隊員はハンドサインで2名拘束を指示する。
「うぐ」「奴隷を盗むのは犯罪だぞ、離せ」
「奴隷を買うのも所有するのも重犯罪だ。お前たちはこの場で逮捕する」
4名の自衛隊員に取り押さえられて商人2人はその場に倒され後ろ手に拘束されてしまった。
「第5師団本部近くで犯罪を犯すとはな。何も聞かされないのか、情報で動く商人失格だな」
「うぐ」「離せ」「うるさいと口も拘束するぞ」「うぐぐぐ」口にガムテープを貼られてしまった。
「ミルちゃん大丈夫だった。悪い奴は捕まえたよ」
「はい、ありがとうございました。このドググと言う者に何度も殴られて・・・」
「そうか、本部行ったら警察官に渡すからミルちゃん話をしてね。それでこの商人の裁判になるからね」
「はい解りました。話します」
こうして第5師団に帯同してきたドーザ方面警務隊に商人を引き渡し、ミルちゃんに証言して貰う。
商人達は犯罪者として、要塞都市バロッサに送られることになった。
・・・
ここは宿屋組合、通称宿屋ギルドである。臨時総会でもないのにみんな集まって来た。
「お前さん達も集まったのかい」宿屋ギルドは庶民用の宿泊ギルドである。帝都には45軒の安宿がある。
宿屋ギルドは一般民用だが、貴族や大富豪用のホテルギルドが別にある。
「総会みたいな集まりだな」宿屋ギルド長の北門宿屋の「オペラ亭」の主人が入って来て、さも自分席だと言うように宿屋ギルド長の席に座る。
「なっ家にも自衛隊が来たぞ。みんなは如何だ」
「うちにも来た」「うちもだ」
「まるでさ、帝都内の宿屋みんな知っているぞ。みたいに宿屋ばかり調べていたぞ」
「おれは、北門近くの民家に入っていくのを見たぞ」
「そんな事、大変だぞ貴族街に兵隊が入って、貴族を軒並み連れて行くのを見たぞ」
「それは捕まえて、南門近くの場所に集めていたぞ。それから大きな幌付き荷車でどこかに連れて行って・・」
「いや北門にも集められていたぞ、それで南門に向けて市内を大きな幌付き馬車が走っていた。馬も無いのに走るとかどんな魔法だ」
「南門に集めてまとめてどこかに連れて行ったか・・」オペラ亭亭主のオルペがみんなをまとめる。
「ギルド長、みんな同じようだ」「俺の所に来た自衛隊は親切で丁寧だったぞ」と
「皆の話をまとめると、自衛隊と言うのが宿屋に来て話を聞いていったと、儂の所は噂話で良いと言っていたが、みんなはどうだ」
「いや俺のところも同じだ。噂で良いと」
「敵ながら見どころがあるな。噂話や危険な話は宿屋か冒険者ギルドだろう」
「そう考えればそうだ。だから宿屋に来たのか」
「帝国の一枚上だな」「シッそれは」「帝国はもうないぞ」「そうだった」
「そうか」
「ギルド長、南門は破壊されて橋も落とされたと思ったら鉄の橋が架けられ例の鉄馬車に砲が付いた物が入って来たぞ」とトルノダ。
「いや北門も同じだ、あれ戦車と言うらしいぞ。自衛隊が言っていた」
「ふむふむ、自衛隊は門を壊し橋を落として、自分達の橋を架けて帝都に入って来たのだな」
「ギルド長そうだ」
「それに俺は捕らえられた貴族が南門の横に集められて大きな馬車で連れていかれるのを見たぞ」とトルノダ。
「お前は南門の近くだからな。見られるのだろう」
「それにギルド長、宿泊客や俺たちに「カンズメ」とか言う果物のシロップ漬けに子供達にはお菓子、冒険者には傷薬などを渡していた」
「あっ俺たちも貰った。はなしの礼だそうだ」
「おっ俺も」「俺もだ、カンズメ甘くて旨っかった」「もう食べたのか」
「いや開け方分からないから実演してくれた」「そうか、俺も食べたいな」
「おーーーい、みんななんか忘れていないか。帝国は滅んで日本が来た。普通ならみんな取り調べして怪しい奴は逮捕だろう」とギルド長のオルペ。
「それなのに、話を聞いて、最後にお礼とか貰う等とは、オペラ亭は親子4代になるが初めて聞いた話だ。
よいか、ルミナス王朝を帝国が倒して帝都に来た時は、みんな一律に金貨1枚を帝国に寄付しなければならなかった。払えない者は奴隷にさせられたのだ。そんな裕福な宿なんか無いから殆ど捕まり奴隷に・・宿泊者も同様だったはず。
それが日本は話を聞かせてくれ、お土産渡す。子供にお菓子だと。何か変だと思わないか」
「いやギルド長、オペラ亭は隠し財産で帝国に金貨払ったとは聞いているが、長い歴史でもこんな事は初めてのはずだ」
「そうだよオルペ。帝国・・はなくなったが、新しい国が始まるのではないか」
「おれもそう思う」「おれも」トルノダもそう思った。
「多分おかしくないと思うよ。オルぺ。日本と言う国はそういう国だと言う事だと思うよ」
帝国学園を出たが貴族の5男で支度金を貰って宿屋を開業した。元貴族のフルテスがまとめながら言う。
つづけて「多分俺の思いも入っているが、自衛隊に少し質問した所、あいつらは凄い教養を持って、こちらの質問に答えられる物は的確に答え、機密に抵触する物はやんわりと説明していた。
つまり帝都学園以上に教養を持ち戦っている軍隊なのであると思うよ。
その為に帝国貴族は臣民としての裁きを、悪徳豪商には調査して犯罪があれば逮捕を、なんでわかるかと言うと、俺の近くのアリマスナリム商会は3店舗とも休業になって、副会頭に番頭から使用人全員捕まっていたぞ。
変な鉄馬車で店前を封鎖して中から使用人を全員拘束して連れ出していたからな」
「フルテス、アリマスナリム商会を見たのか。奴隷を売っていると噂の商会だろう。しかも次期商業ギルド長だよな」
「それは無いかな。商業ギルドの選挙だろう。ここも商業ギルドの一部の宿屋ギルドだが・・会長どうなんだ。ここでアリマスナリム商会を擁護するとギルド長交代になるぞ」
「うっ」
「オルペ本当なのか。俺はアマリス商会に自衛隊員が何人も入って休業札が掛けられたのは見たぞ」
「やはり・・・ギルド長。これは日本は何らかの情報を入手して調査に入っているとしか思えん」
「オルペ、ギルド長、大丈夫なのだよな。逮捕とかないよな」トルノダは心配して言っただけなのだが、オルペにはつき刺さった。
フルテスは宿泊ギルド長がアリマスナリム商会に通じている情報を持っていた。
オルぺは奴隷市場開催の時期に、アリマスナリム商会の用心棒や各貴族や大商人の手下が泊まり繁盛している事をフルテスは知っていた。その上でオルペを脅しているのだ。
もちろん自衛隊にも伝えている。
「宿屋ギルドの票数45票を売ったわけでは無いよな。もし売った事がバレればギルド長交代だけでは済まないな。日本に逮捕なんてこともあり得るな。なんせ逮捕されたら・・そんな宿屋は閉鎖。家族はバラバラだろうな。4代続いているとは言え、自衛隊には関係ないからな」
「ギルド長どうなんだ」「ギルド長」
宿屋ギルドは会長派と元貴族フルテス派と中立に別れ、会長派は4代も続いている宿屋で信頼する会員は多かった。それに対してフルテスは元貴族で頭が良く、問題が起きてもフルテス中心に解決をしていった。そんなフルテス信仰派は固く、12票は掴んでいた。中立派はそんな力関係が面倒で中立に動いている者達である。
ただし、商業ギルドの投票は、各ギルド長、商店ギルドや宿屋ギルドに魚屋ギルド、野菜屋ギルドなど多種に渡り、そのギルド長が商業ギルドで投票すると、ギルドの会員数の票が入る仕組みである。
つまり宿屋ギルド会長オルペが商業ギルドの会長選挙で、立候補者のアリマスナリム商会に入れると45票が入る仕組みである。これは買収の温床である。
「しかし、帝国と違って日本は不思議な国だな。市民達に危害を与えないどころか、貴族や怪しい商会を次々と逮捕している。きっと日本は公平な世の中を望んでいるのだな。それに強い。日本に興味が湧いたぞ」と元貴族のフルテスは言う。
南門近くに師団本部を置く第2師団は、沢山の市民が訪れ、食料などを配給している。
また病気の者は医者が見て緊急に薬とかを配布している。
帝都では食料難で、食べる物の値段が上がり、貧困層は道端の草でスープを作り啜っている。
普通層でも食料は高く、めったにパンなんか買えなかった。
魚も以前はキャラ村の漁民達が売りに来たのだが、キャラ村が全滅してからは帝都の漁民だけになり魚の価格も上がって、もう高級品である。
おまけに陸上自衛隊がソミリア街を閉鎖して南からの資材は入らなくなって久しい。帝都の食材はムリナ街経由しか入らなかった。
そこで自衛隊は貧民層から食材を配給していった。皆は自衛隊に感謝して情報や噂話を自衛隊に伝えていった。中には疑わしい物も多くあるのだが、真実がその中に隠れており、全ての情報を第2師団経由で分析担当のドーザ方面隊本部に集約されていく。
このフィードバックは各師団共通事項として連絡されていく。ただし現地で新鮮な情報については各師団独自で調査をしている。
例の元貴族のスルトヘイムも現地調査対象である。
ありがとうございました。
保護されたエルフちゃん幸せになってくれると良いです。
帝国北門では5人の奴隷エルフが保護されたそうです。次話で書きます。
誤字脱字報告感謝感謝です。ありがとうございます。誤字脱字報告は自分の作品でもできるので、ちょこちょこ訂正をしていますが書き直した方が早い気がします。