第12話 深部探査第2偵察隊第1小隊 (改)
第12話を投稿します。
深部探査第1偵察小隊の話です。
2020/05/29 改訂
海上自衛隊DD-117「すずつき」は10ノットの速力でDDG-176「ちょうかい」を曳航して、海上自衛隊沖縄基地に向かっていたが沖縄基地のタグボートによって、午後7時にやっと接岸できた。
そのままDD-117「すずつき」は単艦で、母港の佐世保基地に遺体を保管し帰還する予定である。
DDG-176「ちょうかい」は沖縄基地で佐世保基地から来た船体技官と造船所の民間協力者にて損害判定を詳細に行い、佐世保基地を出港して向かっている多用途支援艦「あまくさ」が曳航する、浮きドックにて、DDG-176「ちょうかい」の安定を図り、外洋タグボート(オーシャンタグ)でもある多用途支援艦「あまくさ」が佐世保基地の民間会社修理ドックまで曳航する計画である。
一方、『宗谷大地』への橋も完成して車両乗り入れも可能となり、最初に74式戦車4両約400m前方で左右に2両ずつ縦の差をつけて配置。中央300m前方を89式装甲戦闘車2両横になり、戦車群を抜けた害獣を最終防衛する配置となった。
もちろん『宗谷大地』臨時分屯地の左右に重火器12.7mm重機関銃M2を配置して小動物防御も欠かせない。
深部探査偵察を任された第2偵察隊は、偵察本部と電子偵察隊を接続大地上に臨時分屯地に置き、第1から第4までの偵察小隊が『宗谷大地』の臨時分屯地前で整列している。日時は2022年4月20日午前7時であった。
偵察ルートは第1小隊が崖沿いに左回りで海岸線沿いに進行、第2小隊は右周り、第3小隊は施設作業車を先頭に、先端についたドーザブレードにより木を根元から倒し、偵察隊の道を山岳ふもとまで作成する。第4小隊も構成は同じである。その為に第3、第4小隊は進行地点100km毎に3トン半燃料タンク車との合流を計画していた。施設作業車の燃費は相当悪い。
偵察ルートは第3偵察小隊が正面左側を第4偵察小隊が右側を担当する。
各第1、第3偵察小隊と第2、第4偵察小隊はそれぞれ崖上から海岸線に抜けるまで、随伴する施設作業車にて木を倒しながら進み、海岸線に分岐できるところで別れる計画である。
施設作業車2台には車長ハッチに12.7mm重機関銃M2を設置しており、偵察小隊より射手が乗務している。
特に第4小隊が向かう先は、『ドラゴン』が火をはいて森林火災を起こしたところである。
火はまだ一部くすぶっていて、白い煙が上がっている。鎮火も任務となっているので、水タンクとポンプをけん引している。
各隊整列し、偵察隊長の号令を待っている。施設作業車の2名計4名も並ぶ。
「危険な任務ではあるが、総員の努力を期待する。乗車!」小隊長が復唱「小隊乗車!」「全員乗車、異常なし!」「全車前へ、出発。敬礼」施設作業車を先頭に木を倒しながら進む。
倒した木は1時間毎に施設大隊の掩体掘削機にて集められ、塹壕や宗谷大地臨時分屯地の障害物に使われる。それにしても立派な木材である。この森林資源だけでも相当な価値があるのでは思う。木はヒノキに近いと思われた。匂いだけだが。
各偵察小隊は施設作業車の後ろを周囲警戒しながら付いて行く。
途切れることのない木々。
聞いた事のない鳴き声。見たことのない鳥が驚いて飛び立つ。
小さな「レッサーパンダ」の様な動物が、施設作業車から少し逃げて、立ち上がってこちらを見ている。
少しかわいい。
突然、施設作業車かに何かぶつかった衝撃音が、例の『いのししもどき』が体当たりをしてきた。
すかさず施設作業車上部に備えた12.7mm重機関銃から1回の発射音。倒れた死体を無視するかのようにドーザブレードが押し轢き、無限軌道に潰されていく。中型の動物に対しては無敵である。
時速20km以下でゆっくり木をなぎ倒しながら進む。
特別分屯地から50kmも離れた頃から地形はなだらかな下り坂となり、なおも進むと、かすかに左側、第1偵察小隊の担当エリアの海岸が見えてきた。ここまで6時間程度、距離にして約100km、途中休憩も入れていない。森林の中では、休憩中に襲われるかもしれないからだ。
半島状の『宗谷大地』から左側に砂浜が見えてきた。
何といっても砂浜の幅は5km程度ありそうだ。
ここで左側を担当していた施設作業車に無線連絡で砂浜に抜ける通路を作ってもらい、第1偵察小隊及び第3偵察小隊は一時砂浜に抜けて、偵察本部に無線連絡をいれ、3トン半燃料タンク車を待つ為、周囲警戒の上初めての休憩を入れた。
糧食をヒートパックで温め配給する。約90分後、道沿いに来た3トン半燃料タンク車から全車、順に給油を行い、第3偵察小隊は来た道を少し戻り、山岳方面の分岐路を施設作業車によって新たに作り、予定コースに戻っていった。
第3偵察小隊と別れた、第1偵察小隊は隊長より全員に無線で「これから本当の危険が迫るだろう」「気を引き締めるように」「全車前へ」と連絡し、速度60kmにて砂浜を疾走した。もちろん記録用ビデオカメラも回していた。ここからが危険である。開けた砂浜は大型動物や地上も歩ける海中生物、なにより『ドラゴン』飛来の可能性があるからだ。
最初の20kmを過ぎると砂浜は大きく左に曲がり、海岸線も湾のようになっていた。さらに200km進み、前方に開けた川が見えてきた。川幅は10kmくらいある様である、なにやら大きさと形が『ぞう』の様な大型動物が川中で群れているのがわかる。水を飲んでいるようだ。「全車停止」隊長が号令を発する。「まずいな突進してきたら、87式偵察警戒車が横倒しになる危険性があるな。トラックは一撃だろう」
なにやら『ぞう』の様なものは、山の方角を見て何か叫んでいる。ここからは見えない。
と突然、炎が群れを襲った。『ぞう』の様なものは長い鼻で水を吸って仲間に浴びせている。
『ドラゴン』が、『ぞう』の群れ上空に飛来して、獲物に向かって火をはいた。
「きやがったか」隊長はつぶやく。
『ぞう』の群れの全体は見えないが、多くの仲間がいるようだった。
『ドラゴン』は何度も旋回して火をはき、全滅させようとしている。
『ぞう』も上向きに長い鼻から水を『ドラゴン』に勢いよく噴く。何頭も一度に噴いたことで『ドラゴン』も一瞬ひるんで、着地してしまった。そこを『ぞう』が猛烈な速度で体当たりしていく、全ては木に隠れて見えないが、何頭も体当たりしている様だ。『ぞう』が鳴き声を上げた。何頭も同時に「勝どきか」「勝ったのか」
しかし、第1偵察小隊の危機が去ったわけではない。
『ぞう』の様なものが向かってこないとも限らないのだ。特にまだ興奮しているはずである。
小隊長は様子を見るために2名を徒歩で先行させて観察させた。
『ぞう』の群れ、確認できただけで20頭位が、『ドラゴン』や『ぞう』の死骸を残したまま山の方角に帰っていくところが見えた。草食らしい。
第1偵察小隊は川の手前で停車を命じ、川幅と深さを測る。
川幅は11kmもあるが、水深は50cm程度である。河の底は岩盤が相当硬いようである。
そしてなにより流れは穏やかだ。
ゆっくり車両を川に乗り入れ進めて、向こう側まで行き、『ドラゴン』や『ぞう』の死骸をあらためて調べた。『ドラゴン』は前回宗谷岬を襲った種とは違うようだ、何種類もいるのか。
ここの『ドラゴン』は先の『ドラゴン』より一回り小さく、全幅は10m、高さ5m、頭からしっぽまでの長さは12mでしっぽが短く、なにより前回の『ドラゴン』は全体が緑色だったが、こいつは茶色で黄色の斑点がある。「まるでヒョウ柄を逆にしたようだな」その通りであった。
『ぞう』の様なものは、象そっくりである。長い鼻に牙が2本、足が4本。色も完全に象である。
死骸はどうしようか迷っていた時に、象が帰った森とは別の方角から、『ハイエナ』の様な動物が何頭も飛び出して、『ドラゴン』や『ぞう』の死骸をむさぼり食い始めた。自衛隊員には見向きもしない。
死肉だけが好みなのか。
そしてその姿は、写真で見る『ハイエナ』そっくりではあるが、全部の毛が真っ白である。そういう種も元の世界にもいるのだろうが、小隊長の知っている『ハイエナ』は茶や黄色に斑点か縞模様であった。
ここにいる『ハイエナ』の様なものは全頭、白であった。
写真と動画を撮り、「全員乗車、前へ」と命令。「全員点呼、異常なし」無線から返る。「発車します」と掛け声。午後4時であった。
「各員全周警戒。野営地を探すぞ」と小隊長。先ほどの『ドラゴン』『ぞう』『ハイエナ』の件は本部に連絡していた。さらに200km進んだところに、また川が流れていた。ここは中州だったのかと、あたりは暗闇になって月が出ていた。「元の世界と同じ様に、「うさぎがもちをついている」のに。ちがう世界とか信じられないだろう」と愚痴を漏らす。
暗くもなってからの渡河は危険なので、5kmほど戻り野営準備をする。見通しが良いほうが警備できるだろうとの配慮。海岸に背を向けて車両を集めて、87式偵察警戒車は50m程離れて、全周警戒している。
車両から10m離れて流木を3か所に集め、火をつけて焚火を3つ作った。
テントを張るわけにもいかないので、交代で見張りと車両での就寝を行う。
一応警戒はしていたのだ。夜行性動物がいる事を考えてはいたのだが・・・
12.7mm重機関銃が突然吠える。火を背にして山側に向かって2台配置していた重機関銃から曳光弾が飛んでいく。
個人用暗視装置JGVS-V8で監視していた射手が何かを発見した様だ。
「全員起床、戦闘準備」とトラックの荷台から隊員が飛び出してくる。
新弾を込めた89式5.56mm小銃や5.56mm機関銃MINIMIを持って、素早く火を背に個人用暗視装置JGVS-V8を装着起動した。
暗視装置で見る限り40頭程の中型動物、先ほどのハイエナの様にも見える。
「各員単射による自由射撃、同士討ちに注意」と号令がかかり、一匹ずつ仕留めていく。
一人が足を噛みつかれた。一人は腕を、暗視装置を切って見ると。どうやら虎かチータの様な姿であった。
噛みつかれた2人は89式5.56mm小銃の銃床で叩き、怯んだところをP220で頭を仕留めた。
こうして全頭駆除が終わった。
噛まれた隊員は傷口を洗い、消毒して抗菌薬を塗り、抗生薬を飲み包帯替りのテープを貼った。ライトを照らして確認したところ。
やはり『チータ』そっくりではあるが、こいつも色が赤かった。夜に紛れる色である。
暗視ゴーグルを使用して警戒を行っていたから発見対処できたのだが、目視で監視していたら危ないところであった。
負傷者2名をトラックで休ませ、衛生兵が発熱等の監視を行っている。
深夜ではあるが本部に無線連絡。翌朝渡河して周囲を観察の後に戻ることになった。
日が昇るまで交代で警戒体制をとり、予定通り、川を調べた。
川幅が20kmで深さは70cmと渡れなくはない。少し待って上空を飛んでくるOP-3Cに向けてカラー発煙筒を焚きマークしてもらう。
OP-3Cは『宗谷大地』臨時分屯地前上空から第1偵察小隊の通ってきた道の上空をなぞる様に飛行し、マーカーを確認すると、その先まで行き、旋回して山岳まで何度も飛行してルートのデジタルマップを作製していった。これにより、『宗谷大地』臨時分屯地から第1偵察小隊の前方50km、山岳と海岸についてマップの作製ができた。
第1偵察小隊は出てきた森林入り口まで戻り、3トン半燃料タンク車を呼び、給油後本部に戻っていった。
ありがとうございました。
なにやら第3偵察小隊が発見したようですよ。