第119話 帝都の終焉 その7 終戦交渉 その4
第119話投稿します。
皇帝に謁見です。殺されないと良いのですが。男爵。
「なぁなぁリエラ。昨日は勢いで「皇帝に会う」とか言ってしまったが・・その」
「皇帝ガリル3世が怒ってトーマス男爵を粛清する事ですか」
「そうなのだ・・絶対粛清されると思う」
「男爵は何度か皇帝にお会いしているのでしょ。どうなのです」
「皇帝は怒ると宰相とか人前でも殴り倒す人だ。怖い人だよ」
「そうなのですね。では大人しく粛清されてください」
「おい、リエラ冷たすぎるぞ」
「男爵、私には何も手が出せません。男爵のご冥福をお祈りしておきます」
「いや、私が粛清されるならリエラお前も副官として殉職しろ」
「いやですよ。男爵と共に殉職するなど、帝国が日本に統治される時にスルホン帝国側の意見を言う人間は必要だと思いませんか」
「リエラ・・自分だけ生き延びようとしていないか」
「男爵。当然です。戦闘ならともかく、戦闘以外で死にたくありません」
「ずいぶんキッパリと言うな」
「当然だと思います。と冗談を言っている間に、何か考えましょう。・・ですが方策はないですね」
「そうだな」
「皇帝は、この敗戦どう思っているのでしょ。それに宰相の行方も不明ですし」
「宰相はどうせ逃げ出すつもりなのだろうと思っているぞ」
「宰相はそんな方なのですか」
「そう、何を考えているのか判らない奴だ。しかも軍事にも財政にも詳しい。実質帝国を動かしているのは宰相だったのだ」
「そんな賢い人物なのですね。なら最初に逃げ出すも必定かと思います」
「そう思うだろう」
「そうですね、一番帝国の現状を理解していれば、もう挽回できない事は私でも理解できます」
「だから、この終戦交渉なのだが、なんだか・・」
「男爵の思っている事は理解できます。宰相が最後の責任を果たすつもりがないと思っているのでしょう」
「そのとおりなのだ。だから皇帝に会うとしても嫌な事しか思い浮かばん」
「昨日言った通り、私たちを粛清すると時間稼ぎができます。結果が変わらないのであれば時間が必要でしょう。逃げ出すためにもね」
「そうだよな・・・」「しかも私たちには何もないと来ています。対抗できないのは死を意味しますからね」
「リエラでもそう思うか」「いや男爵。それしかないでしょう」
「はぁー行きたくない」「こればかりは同感です」
・・・・
「ここが騎馬隊の本部なのか」田森1等陸佐は騎馬隊本部へ高機動車で単身乗りこんできた。
「名を名乗れ、して何用か」
「私は日本陸上自衛隊、田森1等陸佐と言います。トーマス隊長にお取次ぎをお願いしたい」
「わかった。その場で待たれよ」
・・
「隊長、「たもり」と名乗る日本軍人が来ています。一人です」
トーマスとリエラは意外な来訪者に顔を合わせた。
「リエラ、なんだろう」
「隊長、油断は禁物です。一人でも大勢を相手にできると聞きます」
「なぁ帝国軍ってそんな弱小軍隊なのか」「冗談言っている場合ではありませんよ、隊長」
・・・
「とにかく通してくれ、儂とリエラで対応する」と伝えた。
・・・
「お邪魔します」
「たもり殿、まさか貴殿が来られるとは思っても見なかった」
「私もです。ははは」
「して何用ですか」
「リエラさん。皇帝に謁見する前でよかった。南野から伝言と長崎田からお渡しする物がありまして、お伺いした次第です」
「何でしょ」
「では最初に南野からの伝言です。「現在の皇帝城は危険です。身辺警護をしっかりお願いする」との事です。次に長崎田からこれを預かってきました」
「なんですか、これは見た事も無い物です」
「ええ、リエラさん、これは我が国で使用している発煙手りゅう弾と言う物です。武器ではありません」
「はつえん・・と言う事は煙が出るのか」
「トーマス男爵その通りです。このピンを抜いて放り投げると1.2~2秒で煙が出てきます。煙だけです」
「トーマス男爵・・これは使えます。皇帝陛下と謁見中に怒りに触れたら、これを抜いて投げます。そうしたら逃げましょう」
「それが良いですね。2つ差し上げますので命を捨てる事の無い様にお願いします。
それから逃げるのに使う、閃光発音筒を1つお渡しします。この筒はここの紐を引き投げます。
1秒後に閃光と大音響が響いて相手を一時的に動けなくします。
くれぐれも使うときは後ろを向かない様にお願いします」
「良い物を貰った。とりあえず逃げれば何とかなるかの」
「そうですね、トーマス男爵、逃げられれば何とかなるでしょう。それに帝国側の反応が楽しみです」
「こんな物を頂いて感謝申し上げる。たもり殿」
「それとお話が、あります」
「どのような事でも」
「昨日、湖から逃げ出す不心得者が、いるかも知れないとのお話。詳しくお願いできますか」
「よし、帝国内部のお恥ずかしい話ですが、帝国は元々各島しょの寄せ集め。
皇帝がまとめてはいるが、元々各島の人々が軍隊となり、従軍していたのだが、もう帝国が今の形になって久しい。
儂らも当初の希望や望みも今では薄くなった。
そこで、重臣と呼ばれる者達は、私腹を肥やす事しか考えなくなった。
皇帝が抱いていたルミナス王朝が行う差別に対抗して意見を言える組織が、結果ルミナス王朝を征服してしまって、皇帝の望む国になったのか儂は疑問に思う。
だから余計に都合が悪くなったら逃げ出す事を考えていると思う」
「ええ、私もそう考えています」
「そこで儂は、騎馬隊を3つに分けて、南門、北門、そして湖の港に監視をさせているのだが、特に港には200人以上の騎馬隊を置いている」
「今まで、各門は12名程度の守備隊が守っていましたよね」
「そうだ、日本の攻撃で10000人の守備隊は全滅に近い損害を出し、休暇で家に戻っていた者達が2個小隊で北と南門を守っている。聞いた話だが」
「それでしたら普通は帝都の警備を増やすはずでは、ないですか」
「そうだと思う。我々も最初帝都の守りの為に、第1師団に先立って駆けつけて来たのだが、途中からドフーラ攻撃に任が切り替わった。そして次にムリナ街にて待機と言われ、現在はそうなっている」
「戦略的に変ですね。ドフーラ攻撃は理解できますが、その後のムリナ待機はあり得ない話です。普通ならそれだけの規模がある軍隊で帝都を守るのが道理に合っています」
「そのつもりで準備はしていたのだがな。宰相は実質、陸軍、海軍の最高司令官でもあるのだよ」
「それは初めて聞きました」
「皇帝が最高司令官なのだが、軍関連は宰相に任せている様だ。事実我々への命令も宰相から降りてくる」
「そうですか・・サイネグ宰相がですか」
「その通りだ、チロルの森討伐を決めたのは皇帝なのだが、討伐隊を組織したのはサイネグ宰相と言う話しだ」
「なるほど、皇帝とサイネグ宰相の関係性が見えてきました」
・・・
「いろいろ教えて頂いてありがとうございます」
「いやこちらこそ、田森さん儂らを気遣って頂いてありがたい」
「昨日も言った通りです。トーマスさん達が居無くなれば、皇帝と直接交渉になりますから。そうなると結果が見えている物で」
「帝都が燃える・・・ですか」
「間違いなく。あっ城から逃げる時は西の城門からお願いします」
「えっ一番警戒が厳しい門だぞ」
「我々が細工しますのでご安心ください」
「ではいろいろお伝えしましたが、逃げる時は西門をお忘れなく」
「承知した」
・・・・
「リエラ、親衛隊は何人だった」
「えーと、5000人が親衛隊宿舎でやられて、当時、門と内部を守っていた者が100人程度と聞いています」
「それに親衛隊は最新式の銃を持っているのだよな」
「ええ確かその通りです。ですが30m程度しか飛ばないらしいですよ。それに次弾装填に3分はかかると」
「飾りみたいではないか」
「その通りです。剣とか槍とか弓の方が早いし、攻撃力あります」
「そうであるか・・・逃げられるかもな」
「トーマス男爵、明りが見えて来たようですね」
「なんとかな。リエラ使いを出してくれ。森田殿に伝言「明日10時に皇帝に謁見する」と。頼む」
「了解しました。早速出します」
・・・・
「トーマス男爵から伝言です」森田は読むと、南野陸将と長崎田陸将補に報告をする。
「いよいよか。長崎田君、方面隊と統幕に連絡を入れてくれ。
「了解しました」
「いよいよ動き出すぞ」「そうですね」森田も帝都作戦の要旨と詳細の詰めに入る。
・・・・
情報はすぐに統幕から第101特殊普通科連隊に降りて来た。
「明日、帝国の交渉係が皇帝に謁見する。もし城から逃げ出して来たら退避援護を頼むと言う事だ」
「帝国の交渉係ですか?了解しました。では大勢で行きますか」
「そうだな、退避援護でバレるかも知れんが、皇帝や重臣に対する脅しにはなるだろう」
「早速、作戦の概要を作るとするか」「「「了解」」」
「では連隊長と連隊参謀が不在なので、第1普通科中隊長のトリマがまとめる。宜しいか」
「「「「了解」」」」
「城の出入り口は3か所に通用門は南だ。連絡では交渉係が逃げ出すのは城西門指定らしい。だが間違って他の門に行った場合は確保できないので、第1から第4中隊で各門を守り守護するとしたいが良いか」
「トリマ、通用門は扉一枚だ、そんなに人数は必要ないだろう。それに西門指定なら西門を厚くする必要があると思う」
「ユリムス、その通りだ。そこで、各門は1個中隊が守るとして、通用門は第4中隊の3個小隊。
のこり2個小隊は第1中隊に合流して城西門警備を、第2中隊は城北門を、第3中隊は城の南門で、通用門は南だから、第4中隊3個小隊で良いだろう。第3中隊は通用門で戦闘が起こり次第、援護して欲しい。
ただしあくまでも城西門が中心となる。以上だ質問はあるか」
「戦力はどうするのだ。偽装馬車を持ち込むか」
「そうだな、各中隊は偽装馬車3台と馬を用意して欲しい。馬の調達資金は後ほど渡す」
「おぅ、初仕事だ。それで目的地は「ムリナ街への食料買い出し」で良いか」
「それで良い。馬車隊を作るために集合していると言って欲しい」
「それで保護対象をどうする」
「偽装馬車に乗せてムリナ郊外の第5師団本部に連れていく。ついでに食料も買い帝都で売るぞ」
「了解した。金も稼がないと作戦に支障をきたすからな。どうせなら帝都で一番大きい商会になってやる」
「ははは、良い事だ。我々の第3小隊はリリコネで大商会を運営しているからな。その位は作戦として認容されるだろう」
「トリマ本当なのか、冗談だったのだが、はは」
「トリリム、本当だ、作戦の一部で潜入している。目的は言えん」
「了解した。さて、第1中隊から第4中隊まで人数は約300名いるから、どの中隊が大商会になるか競争してはどうか」
「そうだな、第101特殊普通科連隊本部隊が結成されるまで時間もあるだろうし、資金も豊かである事が望ましい。どうせなら目抜き通りの商店を買い取って中隊本部にしても良いぞ」
「第101特殊普通科連隊本部隊と言えば、そろそろ訓練が終わるらしいぞ、帝国師団の中隊長レベルが来るらしいぞ」
「それは良いな、我々帝国小隊長レベルとは作戦も内容も違うのだろうが期待できるな」
「まだ噂だが・・例の帝国第4師団第1中隊長の「鋼鉄の破壊者」ロメルと第3中隊長の「冷血の旋風」サニラが本部に参加すると連絡が入った。少しで訓練が終わるとの事だ」
「うお、凄いな、両人とも帝国なら貴族候補だぞ」
「そうだな、帝国師団はもうないがな」
「なら、帝国中隊長様の為に資金だけは潤沢に残しますか」「賛成だ」
「第1中隊の第2小隊も第3小隊も各街に商会を作り情報収集しているからな、帝都でも商会を発足しても良いと思うぞ。偽装と情報収集には最適だ。ただし作戦が最優先だが」「もちろんだ」
こうして帝都の商業ギルドに「ハーネス」「ドルフィン」「サーマイル」の3つの商会が発足した。
取り扱い品目は全てだそうだ。食料に衣料、日用品全般。ただし帝都の現状を見て、当面は食料と日用品との事。
商会は、第101特殊普通科連隊第2中隊、第3中隊、第4中隊の別称である。第1中隊は小売りだけの商店経営をするらしい。
リリコネに拠点を設けた第1中隊第3小隊は市内に売店を2店開き、積極的に売り買いを行い、リリコネでは大きな商会となって、従業員も100人近く雇っている。ただし第3小隊本部は相変わらず倉庫街にあるが、壊滅したユリナリス商会の倉庫を全て買い取り、商会「ユリシーズ」で管理している。
「ユリシーズ」は交易都市リリコネにおける陸自奴隷解放作戦名である。そのまま商会名として使用している。
・・・・
「さて、トーマス男爵。皇帝に謁見する為に出発する時間です」
「リエラ。儂は心配だぞ」
「自衛隊から頂いたこれがありますから、逃げられると自信を持ってください。
あっ昨日伝令がこれも持ってきました。後ろの紐を引くと赤い信号弾が上がるとか、意味が不明です」
「リエラでも判らない事があるのか」
「ええ、なんでも逃げられなくなったらお使いくださいとの事です」
「空から助けでも来るのか。そんなわけないだろう」
「案外助けは来るかもです」
「そうか・・・情けないのう。皇帝に会うだけなのに、こんなにも警戒せねばならないとか。情けない」
「お気持ちはわかりますが、出発しますよ」
・・・
トーマス男爵とリエラに護衛3名は帝都に向かった。時間は謁見1時間前である。
「男爵、護衛には何と言っておきますか」
「そうだな、まず帝都で不審な者に言われた事は報告する事。そして不審者がもしも日本の使者であった場合は共闘する様に、かな」
「助け来るのですかね」
「儂にも解らん。だが我々が居無くなれば日本も作戦を進めやすくなると思っているのだが」
「男爵、それは・・・」
「そうだよ、交渉役など無くなれば、日本は好き勝手に帝都を攻略できる。なのに儂らに付き合ってくれて、逃げる道具までくれる。儂もどの様に考えたら良いか判らん」
「ふーん。確かに男爵の言われる通り交渉が、皇帝なら直接にいろいろできる訳で、時間がかかる交渉など日本は必要ないと思います。ただし我々帝国のやり方ですが、日本は違うのでしょうね」
「そうだな、違うのかも知れないな」
「と言っている間に帝都の北門です」
・・・
「我々は皇帝謁見に向かう第1師団第1騎馬隊トーマスである。通せ」
「はい、男爵様。お通り下さい」
「その方、北門の守備は何人いるのだ」
「はい男爵様。全部で10人でございます」
「そうか交代していても大変だな」
「はい、ですので帝都の門は全て夜7時に閉鎖となります」
「そうか、では用事が長引けば宿泊するとしよう」
「有難うございます。無理に通せと言う貴族様が多く、体がもちません」
「そんなになのか、帝都の貴族は危機感がないのか。日本はすぐそこに居ると言うに」
「はい、ほとんど毎日の光景でございます」
「苦労をかける。騎馬隊からも応援が来ていると思うが」
「はい、騎馬隊の皆さまは日中巡回や取締をして頂いております。夜は・・・」
「なに夜警戒についてないと言うのか」
「何分にも警備は我々の仕事なのです」
「リエラ、頼む」「はい。交代で警備兵を休ませる様に指示します。少しお待ちください」
・・・・
「お待たせしました。指示が伝わっていない様でした」
「大丈夫なのか」
「はい重臣を捕らえる事が最優先となっていました」
「とは言っても帝都の北門だけで100人も配置したのだぞ。交代程度できるのではないか」
「その様に再指示いたしました」「そうか他の場所も心配だ」
「皇帝謁見の後に見に行きましょう」「わかった」
・・・
「いつ見ても、この城は大きいな」
「はい、大きすぎます。賊が入ったら隠れる所は沢山あります」
「ルミナス王朝の城をそのまま接収したのだから、贅沢過ぎるのだよ」
「皇帝と謁見の約束に参った。エル・トーマス男爵である。お取次ぎを頼む」
二人は城の西門にで下馬。徒歩で城に入る。護衛も同様に下馬して馬を守る。
大きな城の場合は馬の待機場が作られている事が多い。
「男爵2人になってしまいましたね」「そうだな。死ぬときは一緒だぞ」
「それだけはお断りします」「ははは」
二人は親衛隊に連れられて皇帝謁見の間に来てしまった。
「皇帝に連絡申し上げます。第1師団第1騎馬隊長エル・トーマス男爵がお見えになりました」
・・・しばらく時間が空いて。
「通せ」
「はっ」
エル・トーマス男爵が入っていく。遅れてリエラも続いて入る。
「皇帝、帝国交渉係をしておりますエル・トーマス男爵でございます。本日は第1回交渉の内容をお持ちしました」
エル・トーマス男爵は自衛隊より貰った紙を皇帝に直接渡す。
普通は宰相が受け取るのだが、今日もいない。
「皇帝、高名なサイネグ宰相は何処に、我々は宰相の指示にて動いておりました」
「宰相か・・・病気でしばらく公務は無理との事だ」なんとなく皇帝にも覇気がない。
「して皇帝、これは最初の交渉でございます。皇帝からこれだけは譲れないと言う内容があれば、この場で書き留めて、日本と交渉してまいります」
「そうか・・・少し読ませてくれ」
・・・・
「勇猛で名を馳せたトーマスよ。して聞かせて欲しい。そなたの第1騎馬隊が日本と戦ったとして勝てたのか」
「皇帝難しいご質問ですが、相手が油断していれば、そして我が隊との距離が短ければ勝てると思います。
ですが、我々は交渉の過程での話、日本は師団が出発した所から見ていたと言われました」
「見ていただと」
「はい、師団が動き始めた所で全て見られてしかも戦力分析もされていたようです」
「そうであるか」
「はい、ですから我々が戦っても相当運が良く、相手に見つからなければ、騎馬隊得意の戦法で蹂躙できたかと思いますが、最初から見つかっていて、しかも我々の手の届かない所からの攻撃を受ければ・・・」
「一矢も報いず敗退したと言うのだな」
「仰せの通りです」
「トーマスよ、神は何と残酷な事をするのだ、我々が自分の意見を言う為に蜂起して、たまたま油断しきっていたルミナス王朝を滅ぼして50年しかたっていないのだぞ。無残な事を」
「皇帝、私はロードス島の出身でございます。皇帝が島でされた演説は今だに覚えています。
「島民も人である。ルミナス王朝だけが人ではない」と、感激いたしました。それ以来、帝国の為に敵を討ってまいりました。ですが・・最近「帝国人にあらずは人にあらず」と民からも聞きます。
皇帝どこで聞いた言葉です。皇帝の真意を曲げて実施した者がいるのかもしれません」
「そなたはロードス島の住人であったか。なら我と共に解放した友である」
「はい、今でもその様に思っています」
「そうか・・・儂の重臣共は逃げ出す算段していると思うが」
「皇帝は大丈夫なのですか」
「儂か、儂は疲れた」
その時・・・・
「おお、まっておったぞトーマス」
「サイネグ宰相、お元気になられたのですか」
「なに、元々元気だとも。・・・やれ」
その時、謁見の間に10人程の騎士が入って来た。
「お前達、裏切ったのか」そこに居たのは帝都北門で警備している筈の騎士団兵士が10名。
「あはは、第1師団のエリートと言われる騎馬隊も金で買収される世の中だぞ。帝国は末期なのだ」
・・
「お前達、隊長と副長に皇帝をやれ」
「今何と言ったサイネグ。皇帝までも殺めるとは鬼畜に落ちたか」
「いや、元々の計画だ。お前たちが皇帝を怒らせ、それを防戦する過程で皇帝を殺め。事の重大さに自害すると言う筋書きだぞ」
「作家としては3流以下だな。誰も期待しないぞ、そんなシナリオ、場末のオペラ並みに退屈だ」
「お前達、隊長と副長には3人づつで迎え、4人は皇帝を捕らえろ」
「リエラ、死ぬなよ」
「ええ、一応頑張ります」
「お前達第1騎馬隊第1騎馬小隊の雑兵だな。小隊長はどうした」
「隊長教えましょうか。昨日の夜、毒を飲ませて、先に行って待っててもらっているよ」
「なんと言う事だ。お前達は金で動く盗賊と同じだな。リエラ、皇帝を守れ」
トーマスと10名の元騎馬隊兵士は対峙している。
リエラは皇帝を守りじりじり後退している。バルコニーまで出たリエラは信号弾を帝都の空に打ち上げた。
「こちら第101特殊普通科連隊第1中隊トリマだ。非常事態。皇帝謁見室から信号弾「赤」発射。各中隊、城に突入しろ。緊急事態発生中、保護対象確保に全力を上げろ、障害は排除して構わない。以上だ」
「第2中隊了解」「第3中隊了解」「第4中隊了解」
こうして思ってもいない救出劇が突然始まってしまった。
第2中隊は城の北門から、第3中隊は南門から、第4中隊は通用門から裏口に回って内部に入り込む。
「うわっ、なにをした」
「さっ判らん」
「そうさ俺たちにも何が起きるか判らないのだよ。だが皇帝は死なせない。させるかー」とトーマスが雄叫びを上げる。
トーマスは一人で兵士10人を相手し始めた。
「お前達、そんなに俺の剣技が見たいのか。なら最初で最後にしてくれ様ぞ」
トーマスは両手剣を抜くと、高速で回し始めた。
「怯むな、こけおどしだ。お前行け」とサイネグ。
「とわー」一人の兵士が切りかかる。それをトーマスは左に受け流し、下胴から袈裟懸けに持ち上げる。
「ぐわ」鎧ごと斜めに切り離された兵士が床に転がる。
「なにがこけおどしだ、そんなんで隊長なんか務まらんだろ。お前達、何を持って勝てると読んだんだ。最初から破綻しているぞ」
「なにをしている3人で同時にかかれ。すれば勝てる」とサイネグ。
「そうか、わかった3人で同時にかかってこい」
兵士3人は前からにじり寄り、トーマスに切りかかる。
「ほら」トーマスは両手剣を横払いすると。3人の剣が空を飛ぶ。すかさず連続突きで3人を地獄に送り込む。
・・・
「来ないならこちらから行くぞ、ほら」
トーマスは両手剣を片手で持ち、一番右端の兵に突きを出す。横にステップを踏み、両手剣を両手に持って下から上に切り上げる。持ち上がった両手剣をステップを踏んで次の兵に頭から振り下ろした。
「次」一度バックステップを踏むと、前に踏み出し同時に右上から袈裟懸け切りを続いて再度ステップで横に移動して右下から斜めに切りつける。兵士は鎧の胴に当たり5mも吹っ飛んだ。
「ちっ固い部分か」
トーマスは一度引き。息を整える。
「残り3人と宰相だけだぞ。勝てるかな。いくら貰ったか知らんが、第1騎馬隊長に挑むなぞ蛮勇だけは認めよう」
その時廊下から射撃音が響いてくる。
「なっ日本兵か、陛下こいつらは陛下を」とサイネグが慌てて言う。
「今、儂を殺そうとしているのは、サイネグお前に見えるがな」と皇帝。
つづけて、トーマスご苦労。「儂の剣技を見せてやる」と皇帝。
飾ってある剣を取ると、「なまくらだな。いつの間にこんな軟弱な城になった」
皇帝はトーマスを後ろにやると、「サイネグ、戦場には出た事無いから知らんのだろうが、儂も剣技の使い手。お前相手に見せてやる」
と皇帝は言うと、片手剣を正眼に構え、何かを呟き出した。
突然、炎が剣を覆い、炎を纏った片手剣となる。「・魔法・剣・士・」
皇帝は正眼の構えから上段に構え、隙を沢山作る。「いまだ」兵士が隙に飛び込む。
ダブルステップで剣をかわし、鎧ごと胴を切り裂く。「ぐをー」
「次だ」サイドステップにて移動した皇帝は、鎧に剣を付き刺す。豆腐の様にスーと剣が吸い込まれる。
「お前だ」胴から剣を抜き、横に払う。首が落ちる。「あわわわわ」「さてサイネグ、どうする。50人も用意して置けば良い物を10人とは甘く見られたの」
「皇帝、生かしてなぶっては如何です」「そうのう、トーマスそれも余興」
「なななっ、なにを皇帝」「お前に皇帝と呼ばれる覚えはない」
皇帝は2ステップで踏み込むと、サイネグの腹に正拳をたたき込んだ。
「まったく、良い運動じゃ。トーマス。そなた強いのう。助かった」
「いえ皇帝程、ではありません」
「帝国はこんな奴を要職に登用して、忠誠心と技術を持った軍人を蔑む。こんなだから儂の言葉は民には届かん」
その時「ご無事でしたか」と第1中隊長のトリマが飛び込んでくる。勿論小銃を持っている。
「何者」とリエラ。
「我々は日本陸上自衛隊第101特殊普通科連隊トリマです。お怪我はありませんか」
「これは・・」トーマスが絶句する。リエラもポカーンとしている。
「お前たちが呼んだのであろう。日本は帝国の交渉係も大切にすると見える。なんて国なのだ」と皇帝。
「皇帝、この城はいつ敵が・・いや内部暗殺者が現れるか判りません。我々がお守りしたいのですが、それより日本に保護を頼んだ方が安全は確保されます。如何でしょうか」
「トーマス候、儂はここ1年でいろいろな間違いを犯した。自分でもおかしいと思いながらだ。もう元には戻れない。責任は全て儂にある。保護と言うより捕まえて欲しい」
「皇帝・・お供致します」「トーマス候は生きて帝国を秩序ある国に導いて欲しい。それを期待している」
「皇帝・・日本との交渉係は私です。このサイネグに任命されたとしても、最後までやり通させてください。皇帝とお供します。なぁリエラ」
「男爵がそう言うなら仕方ありません。自衛隊の皆さん皇帝を連れて投降します。迎えをお願いします」
「了解した」
・・・
「第101特殊普通科連隊トリマから第5師団本部。送れ」
「こちら第5師団本部森田だ。送れ」
「こちら。第101特殊普通科連隊。感度良好。皇帝謁見室にて赤信号弾が上がり、皇帝とトーマス男爵、リエラ副隊長を確保しました。投降の意思を示しています」
「第5師団本部了解。迎えを送る。中庭でピックアップ予定。送れ」
「第101特殊普通科連隊了解。待機します。以上」
「第5師団本部15分で着く。以上」
・・・・
「第1中隊トリマ。各隊連絡。中庭を拠点確保。ヘリ到着予定。帝国交渉係と皇帝を連れていく」
「こちら第2中隊了解」「第3中隊西城門から中庭を確保」
「第4中隊、皇帝謁見室に合流2分」
「各隊了解、第1中隊皇帝謁見室から中庭迄の通路確保せよ」「了解」
「リエラ赤い信号でこんなに日本軍が集まったぞ。凄いな」「凄いです」
「トーマス。帝国兵士に見えないか」「ええ見えます」
「話に聞く日本人とは違うようだ。侵入と言うより浸透していたのではないか」
「皇帝そうかも知れません」
・・・・「トリマとやら、元帝国兵士ではないのか」
「皇帝、そうです。皇帝が捕虜返還に対して奴隷落ちさせたと聞き、日本に志願しました」
「そうか・・やはり儂のせいだな。すまなかった」
「皇帝、それはこの城で拷問され死んだ者や、奴隷になって今だどこに売られたかも知れない同胞に言ってやってください。私は結構です」
「そうか・・であるか」
・・・・
「さて、トーマス候、中庭に迎えが来ます。我々が守りますから移動をお願いします」
「わかった。リエラ、西門の外で待っている兵と共に港に拠点を移動させて帝都の治安を守ってほしい。
「皇帝の命により治安維持に入る。各警備隊と親衛隊は第1騎馬隊の配下に入る」とでも言っておけ」
「わかりましたトーマス男爵。早く戻ってきてくださいね。副隊長は私一人ですから・・」
「そうだな姫様達を守ってリリコネに行ったきり連絡もないからな」
「トーマス。儂の妃と姫は無事なのか」
「皇帝、残念ながら・・消息は不明です。私の部下も10名程連絡がありません」
・・・
「トーマス男爵。私が言うのも変ですが、陸自第5師団の方に聞いてみるのは如何ですか」
「んっトリマさん、何か知っているのですか」
「仕事の性質上お教えできません。ですが、これから行く先の第5師団で聞いてみては如何ですか。判るかもしれません」
「そうか・・・」
遠くからヘリの音が聞こえて来た。「お迎えが来ましたよ」
「総員、中庭の警戒と着陸予定地点を空けろ」
第5師団に皇帝と交渉係が保護されることを連絡されたドーザ方面隊では、統幕から対処開始の指令を受けた。
「こちら方面隊。第2師団、第5師団、第7師団。作戦ストームを開始せよ」
「第2師団了解」「第5師団了解」
「第7師団は予定通り西側都市制圧を続行。ただし予定を3日早める」
「第7師団了解。3日早める了解。我4日早める。以上」
ドーザ方面隊のストーム作戦とは・・・帝都なのか周辺都市なのか・・
ありがとうございます。
なぜか皇帝まで陸自第5師団に保護されてしまう。
しかもストーム作戦が始まるとか・・いろいろ動きがあるようです。
誤字脱字報告本当に助かります。ありがとうございます。
本日は11540字となりました。会話形式だと長くなってしまいます。