第118話 帝都の終焉 その6 終戦交渉 その3
第118話を投稿します。
ストーンゴーレムに会いに行きます。
終戦交渉も筋書きが見えてきました。
トロル街郊外に作られた、キャラ村村民の為の難民村で、村人達は不思議な光景を目にしていた。
なにしろトロル街から大型トラックと言う物に乗せられた船が、5隻も運ばれてきているのだ、しかも陸路で・・そんな光景を見た事も無い村民は驚き、そして漁が再開できるのかと喜んだ。
ドーザ大陸方面隊は、帝都攻略の為に帝都に繋がるキャラ湖に対しパトロール(帝都重臣達の逃亡阻止)を実施する為に、偵察ボート(5人乗)を5隻派遣していた。
第5偵察隊は予定通り荒れ地の魔物退治を行い、特に「カラミタ」(牛もどき)を捕らえ家畜化する実験も並行して行っている。
特に第5偵察隊の第1偵察小隊はバロッサからハイエルフの「ヒナタ」を迎え、魔の森奥に住んでいると思われるストーンゴーレムと話をする為に深い森を警戒しながら向かっている。
「ヒナタさん、大丈夫でしょうか」
「三峰さん、日本山のゴーレムさん達とも話し出来ましたので大丈夫かと思いますが、油断はできません。
もし、ストーンゴーレムさん達と話ができた時は、ハイエルフの里にて保護している、ゴーレムの子供達を預けたいと思っています。ハイエルフの里ではストーンゴーレムを増やす事ができませんから」
「ええ、話は伺っています。ですが・・・」
「三峰さん、もし魔の森でストーンゴーレムさん達と交渉ができれば、森の主になって頂いて、自衛隊に危害を加えない様にしたいと統幕は考えている様ですよ。それよりストーンゴーレムの生息地は見つかっているのですか」
「はい、OP-3Cにて何度も調査飛行した結果ですが、南北に1000Km、東西に450Kmと広大な魔の森なのですが、北側が最大幅で450Km、南側は250Km程度しかありません。
魔の森の中心には標高1000m程度の山が連なっており、その南側がキャラ村の皆さんが避難していた「癒しの洞窟」でして、北側の山にストーンゴーレムが住んでいると発見しております。
ただし、魔の森を200Km程度進んだところから山になっていますが、道はありません。
通行できる所を探しながら進みますが、最悪は徒歩で登山となります。
それに先頭を行く第5施設大隊の施設作業車も燃費が悪いので無理はできない状況です」
「そうなのですね、私の思念は20Km程度しか飛ばないので近くに行けたら良いのですが」
「我々第1偵察小隊がお守りしながら登坂しますので、ご安心願います」
「はい、そうするしかないですね。坊やたちを引き取ってくると良いのですが」
「はは」三峰はストーンゴーレムの子供を見た事が無いので愛想笑いしかできなかった。
第5偵察隊第1偵察小隊は森を施設作業車で切り開き、山脈迄一直線の道を作っていた。
過去に第2偵察隊が深部探査を行った時と同じ状態で切り開きながら有用な資源がないか調査もしている。
それにしても施設作業車の森を切り裂く速度は速く、戦闘車両が通行できる道が作られる。
もちろん魔の森を切り裂きながら進むので、様々な魔物や動物が施設作業車に体当りをしてくるのだが、先に付いたドーザーブレードに切り裂かれ、無限軌道に踏まれ、そして後続の23式偵察警戒車や22式装輪装甲車に轢かれ毛皮だけになって道に広がっている。
念のため施設作業車に12.7mm機関砲を取り付け、偵察隊員が前方を守っているのだが、魔の森では大型生物は少なく、主に中型の「いのししもどき」(アトラム王国では「ばふふ」ドーザ大陸では「野獣」)が多いようだ。
大型の「ドラフマ」は3回ほど会敵したが突進や威嚇だけで、第1偵察小隊に損害は出ていない。
ただし、山に行けばワイバーンやドラゴンが脅威となるので慎重さは必要だ。
第1偵察小隊は岩山に急いでいたのだが・・・
「もうすぐ夜だ。一度戻り明日続きをしようと思う」と三峰が小隊に伝える。
「了解。転回スペースを作ります」と第5施設大隊から借用した施設作業車班が答える。
「よろしく頼む」
「今日は森の入り口から150Kmも進んだ。明日は50Km程度だから昼には抜けられるな」
「三峰さん、キャンプに戻りますか」
「ヒナタさん、荒れ地に野営します。幸い「森入り口」に物資を積んだ輸送隊が待機しています」
「わかりました。本番は明日ですね」
「ええ、我々がしっかり警備しますのでよろしくお願いします」
「皆さんの事、信頼しています。心配していませんよ」
「有難うございます」
第1偵察小隊は施設作業車班が作った森の中の転回路を使って森入り口に戻っていく。
轢かれた動物たちの血の匂いで小動物や猪もどきも集まってくる。
「これは、森の道を一旦塞ぐ方が安心だな・・・施設作業車班、森を抜けたら、ご苦労だが障害を作り道を明日朝までふさいでほしい」
「施設作業車班了解。木と土により障害を設置します」「お願いする」
施設作業車班は土を盛り、倒した木をクレーンで積み上げ簡易掩体壕を作り上げてしまった。
第1偵察隊は周囲に動物避けの薬品を撒いて安全地帯を確保する。
待機していた補給隊から食料と燃料を補充して野営テントを設置している。中央に焚火を作り車両を周囲に配置して妨害物にしている。
第1偵察隊は車両上部の12.7mmを準備して、暗視ゴーグルで警備する。
・・・・
夜中に大型生物が現れた。大型のトカゲだ。夜行性なのか。
「警戒鳴らせ。大型トカゲ接近。体長10m程度、頭は2m幅1m。赤外線無効」
たちまち野営地にブザー音響が響き、隊員は装輪装甲車に入り起動準備している。
「施設作業車班、報告。大型トカゲ体長等に変更なし、こちら掩体壕に向かっている。
魔の森に作られた道に簡易掩体壕を作り、施設作業車を置いてバリケードにしていた。
「小隊長了解。各班対処開始。自由射撃を許可する。ただし夜間であるから同士討ちに留意せよ」
「「「了解」」」
「施設作業車班、対処開始します」と連絡が入るとともに機関銃音が夜間に響く。
「第3班、ハチヨン用意」「第3班、準備完了」「第3班、頭を狙って自由射撃」「第3班、了解」
第3班は対戦車用84mm無反動砲(通称カール君)を持って簡易掩体壕に登り、大トカゲの頭を狙って撃った。
大きな音と閃光が走り、大トカゲの頭に命中する。
「命中、ただし効果不明、再攻撃用意」「許可」「発射」
2発目が大トカゲの頭に当たり、目が焼けている。
「第3班、効果あり、続けて攻撃します」「許可。続けて目を狙え」「了解」
その間12.7mm弾は胴体に吸い込まれているのだが、効果があるようには見えない。
「クソー12.7mm弾が通らない。車長、40㎜CTA機関砲用意」「了解、準備はできています」
「よし、胴体に多目的榴弾をぶち込んでくれ」「了解。目標大トカゲ胴体、弾種HEAT-MP-T装てん」
「車長、タイミングで撃て」「了解。てっ」
40mmCTA機関砲から撃たれたHEAT-MPは当たると同時に広範囲に破片をばら撒く。
「効果弱し、弾種HEAT-Tに変えて再攻撃要請」「許可」「準備完了。てっ」
今度はHEAT弾が胴体に当たり、高速メタルジェットを噴射して胴体に高温で穴を開けると同時に高速の衝撃波が内臓を襲う。
「車長、HEAT弾効果認める。再攻撃許可」「りょーかい、再装弾、てっ」
再度放たれたHEAT弾により、大トカゲは再度、内臓にダメージを受けて動かなくなった。
「全員警戒せよ。頭部にHEAT弾をかませ」「弾種HEAT再装填、目標頭部、てっ」
大トカゲは頭を焼かれ内部の衝撃波により大きなダメージを負った様だ。
「目標確認、第2班4名で行け」「第2班了解」「第3班、ハチロク再装填準備」「第3班了解」
「車長、HEAT弾も再装填で待機」「りょーかい」
三峰は23式偵察警戒車の戦闘指揮席で指示を飛ばしている。予備席には「ヒナタ」が座っている。
「「はちよん」のHEDP502 多目的榴弾は失敗だったな。HEAT751 対戦車榴弾にすべきだった」
「小隊長、次あいつと会ったら対戦車榴弾ぶち込みます」と第3班長から連絡があった。
「よろしく頼む」
「第2班、無理するな。対処完了か確認して欲しい」
「第2班、了解。動きません。対処完了と認める」
「了解。第2班戻れ」「了解、戻ります」
「やれやれ、10mの大トカゲとか出る森なのか」
「三峰さんお疲れ様です」
「ヒナタさん思念に何か感じましたか」
「いえ、ただ・・」「ただ・・なんです」
「大トカゲ楽しそうでした」「えっ」
「なんか長い道ができて嬉しくて走ったらしいです。迷惑ですよね」
「あはは、迷惑ですね。そうですか。ははは」
「それ以外、攻撃されていた時も何も考えていませんでしたよ」
「そうですか。ははは」三峰はツボに入ってしまった。走るのが楽しくて襲うとか・・はははは。
意外と魔物なんて「遊び」か「生存本能」で攻撃するものなのかも知れない。
・・・・
夜が明けた。
夜間戦闘で少し寝不足なのだが、朝食を取り、テントをたたみ。補給隊の出発を見送っていた。
「さて、ヒナタさん先を急ぎましょう」「はい、お任せします」
施設作業車班に昨日急遽作った掩体壕を分解して貰い、道を整え、小隊は出発する。
途中まで道ができているので、燃費効率の良い40Km程度で森を走り抜ける。
またしても、様々な動物がぶつかってくる。今度は木の上から蛇までも襲ってきた。
隊員は車両の上部ハッチで銃剣にて、蛇を刻んでいく。
レンジャー訓練では食べるのだが・・とても不味いらしい。
(鶏肉に近いと話もあるが。作者は昔食べたが・・不味いと思う:シニアスカウト訓練で・・なぜ予定にない事をさせるのだ、隊長。)
いよいよ森の向こうが明るくなってきた。
先頭の施設作業車班から報告が入る「そろそろ森を抜けます。崖の可能性もあるので速度落とします」
「小隊長了解、十分注意して進んで欲しい」「了解」
「施設作業車班、森の向こうに崖は無し。荒れた大地に山が連なっている」
「小隊長了解」
どうやら魔の森は北側が山と連なった荒れ地で、南に行くと荒れ地が下がって崖となっている様だ。
「小隊長より施設作業車班、山に登れる道はあるか?送れ」
「施設作業車班、道は無し。途中まで削ります。送れ」
「小隊長了解。行けるところまで道を作ってほしい。無理をするな。退避場所も忘れず頼む」
「施設作業車班、了解。単独で行きますので上空警戒をお願いします」
「小隊長了解。上空警戒を実施する。以上」「第1偵察小隊、停車。上空及び周囲警戒で待機」
「「「了解」」」
施設作業車班は山を削りながら道を作っていく。
「止めてください」「施設作業車班停止」「了解」
「ストーンゴーレムを感じます。降りて徒歩で行って良いですか」
「わかりました。第2班、第3班、「ヒナタ」さんを護衛せよ」
「第2班了解」「第3班了解」
ヒナタは後続車両から駆けつけてくる隊員と合流して、施設作業車班が作った道を歩き始めた。
「・・・・」
「・・・・・」
「・・大丈夫」
「私たちは敵ではありません」思念と会話を同時に行っている。
「・・・はい、大丈夫です・・・・」
「・・私が一人で行きます」「皆さんは施設作業車班のところで待っていてください」
「施設作業車班から小隊長。コンタクト取れたようでヒナタさん一人で歩いて行きます」
「了解、何かあるのだろう、警戒を怠るな」
「了解、施設作業車傍にて待機します」「了解」
ヒナタは一人で道の無い所を歩いていく。
少し上に崖が見える。
ヒナタは崖を回り道しながら登り、崖の上に立つ。
『ストーンゴーレムさん。見つけました。』
崖下にて待機している施設作業車と第2班第3班隊員に思念が届く。
「小隊長。ヒナタさんコンタクト成功。現在会話しています」
「小隊長了解。私もそちらに行く」「車長、後はお願いする」「お気をつけて」
三峰は指揮を曹長兼車長に任せると、後部扉を開けて歩き始める。
「ヒナタさん、お待たせしました」小隊長だけが到着した。
「こちらは、この山のストーンゴーレムさんです」
「はじめまして」挨拶すると「ヒナタ」が通訳する。
「人と会うのは久しぶりだ。昔魔物に追いかけられた人間がいたが、それ以来だ」
とヒナタが通訳する。「その人間はどうなったのですか」と三峰。
「人間は弱い、弱すぎる。助けたのに死んだ」とヒナタ。
「そうですか、ですが助けて頂いてありがとうございます」と三峰。ヒナタが思念で伝える。
「感謝されるのも初めて、大概の人間は我を見ると逃げる」
「そうですね。人間は弱いから貴方を見ると逃げますね」
「ところで人間とハイエルフよ、何を求めてここに来た」ヒナタが通訳する。
「あっヒナタさん説明をお願いします」
「はい」『私たちは、この森の奥にストーンゴーレムがいると聞いてきました。もしですが、宜しければハイエルフの里で保護しているストーンゴーレムの子供をあなた方に預かって頂けないかなと思います。』
「我々に子供預けると申すか。なぜだ」
『私たちの村の裏にある里山にストーンゴーレムの村があったのですが、帝国の攻撃に会ってしまって、子供が二人だけ生き残っていました。』
「なんと言う事を、ストーンゴーレムの村とは、東の山脈のトキラカ村であるな」
『知っているのですね。』
「トキラカ村とこのウマラナ村しかこの大陸には無い筈だからな。逃げて別に村を作れば別だが」
『そのトキラカ村だと思います。帝国人と冒険者が魔石を持ち去ってしまって復活できませんでした。』
「そうか、魔石が目的か。我々も昔から魔石狙いで、こうやって隠れ住んでいる」
『そうですね。魔石は貴重ですから高く売れますね。』
「そうなのだ、だから我らは魔の森に囲まれた荒山に村を作り、魔の森に守ってもらっているのだ」
『確かにトキラカ村の下には森がありましたが、魔物などは少なく麓の街から道が途中まで出来ていました。攻め込まれ易い地形でした。』
「そうか残念だ」
『あなた方は何人いますか。』
「ハイエルフよ、何が目的だ」
『私たちは魔の森の向こうに街を作ります。そしてこの魔の森を立ち入り禁止にして、誰も行かない様にいたします。その報告と先ほどの子供を預かって頂けないかと思います。』
「なるほど、向こうに街な、ただ、ここはドラゴンも飛んでくる山である。人間にとって危険ではないのか。我々もドラゴンは苦手だ。焼かれても大丈夫なのだが、奴らはしつこい」
『ここにいる方は日本と言う国の軍隊です。先に来たドラゴンも退治をしました。次も来たら退治するでしょう。』
「なに、先の若いドラゴンを退治しただと・・・凄い力だ」
『皆さんをお守りする力です。私も日本の方も、皆さんが平和で安らかに生活できるようにいたします。
決してあなた方を狩ろうなどと不埒な者達の侵入をさせない様にしますので協力頂けませんか。
ストーンゴーレムの皆さんが必要な物があれば協力います。』
「ハイエルフは日本を信じているのだな」
『はい、私たちも日本に助けて頂きました。そして帝国から逃げなくても良い様に里を作って頂きました。』
「儂たちにも土地をくれるのか」
『日本では、ストーンゴーレムの土地を用意しています。』
「では、これから逃げなくても良いのだな」
『そうなります。』
「そうか、皆で話をする。さっきの答えだが、48人となる。子供はおらん」
『ありがとうございます。』「三峰さん48人だそうですよ」「そんなにいましたか」
・・・・
「よし、丁寧に降ろせ」「了解」
UNIC付きの(小型クレーン)大型車8台で運ばれてきた偵察ボート(5人乗)5隻とプレハブの建物3つが、キャラ村の湖畔地区に置かれた。
「先に桟橋を作るか」
第5施設大隊が木材を持ってきて、防腐処理を行い、湖畔に杭を打ち込み始めた。
「渡り板はそれで良いだろう」持ってきた合板に防水処理した物を敷いて行く。
1時間ほどで立派な桟橋が完成した。
「では次はプレハブと障がい物にかかろう」
鉄骨とコンクリートを使い、「カラミタ」や「ドラフマ」でも壊せない、堀と壁を組み合わせた壕を作り上げた。勿論入り口には進行がジグザクとなるように障害物を設置する。
「では我々は戻って飛行場建設に入る。偵察よろしく」と言いながら第5施設大隊は引き上げていった。
「さっトラックから荷物と燃料を降ろして、12.7mm機関砲の設置を急げ」「了解」
第5師団、第6機動化普通科連隊、第2普通科中隊はキャラ湖の監視と空港建設予定地周辺の警備に入る。
建設予定地には魔物や害獣対策として第5師団第6機動化普通科連隊の第1普通科中隊、第3普通科中隊、第4普通科中隊に第5施設大隊に第5特科連隊2個特科大隊( 99式自走155mmりゅう弾砲20台)、第5高射特科連隊3個高射中隊(87式自走高射機関砲計15台)と第5後方支援連隊が到着して駐屯地の様相を呈している。
「よし、装備は建物に仕舞っておいて、最初のパトロール行くぞ、最初は第1小隊からだ。順番に行ってくれ、時間は燃料切れを考慮して3時間交代。よろしく」「了解。第1小隊偵察に向かいます」
「気を付けてくれ。何か水中にいるかも知れん。こちらでも監視する」「了解」
第6機動化普通連隊第2普通科中隊第1小隊は15名で構成されているが、8名が装備を持ち2台の偵察ボートに乗りこむ。残りは桟橋と偵察チームの観察である。
小気味よいエンジン音がして、偵察ボートは沖に向かって行く。
偵察ボードに装備は船外機だけであり、操船隊員は小型船舶免許が必要である。
偵察ボートはゴム製のパワーボートで、89式5.56mm小銃を持ち乗りこんでいる。
万が一に備え、手りゅう弾と84mm無反動砲を1門積んでいる。他には発光弾にカラー信号弾などである。
速さは相当速い。前が少し浮いているがバウンドする程ではない。最高速度だとバウンドは凄いらしい。
偵察班は北側から帝都にあるふ頭の手前まで行き、そこから南に下り湖を一周する。常に2艇一緒に行動する。
3時間後桟橋に戻った偵察チームは、第2小隊の偵察チームに引き継ぐ。
こうしてキャラ湖は24時間陸上自衛隊自衛隊の監視下に入ってしまった。
時折、帝都側から漁師の乗る手漕ぎボートが中央迄来るが怪しい動きはしていない。
帝都民の間では、「日本が湖を凄い速度のボートで自在に走り回っている」と噂が立つ。
・・・・
ストーンゴーレムが村人全員で、「ヒナタ」と三峰の所にやって来た。
『話し合いは如何でした。』
「我々は話した。もう逃げるのにも疲れた。
日本が守ってくれるのなら日本が街を作る事を邪魔する事はしない。
ただし、よそ者が日本の目を掻い潜ってくる事は予測できるし、過去にもあった。
そこで、小さき者よ、ここをストーンゴーレムの村と認め、ウマラナ村の地名を与えて欲しい。
欲を言えば城壁迄上等な物は要らないが侵入を防御できる物が欲しい。
人間の様に小さい動物は動きが早くて苦手だ」
「ははは、小さい動物ですか、確かに。ヒナタさん自衛隊で侵入を防止する物を作ります。と伝えてください」
『ストーンゴーレムよ、この日本の人が村と認め、侵入防止の対策を考えてくれるそうです。』
「そうですか、ありがたい。これで我々が永久に住める地ができた。ありがとう小さき人間」
「お役に立てそうで何よりです」
・・・・
「ヒナタさん、我々はストーンゴーレムさんの事をあまり知りません。
力と大きさ以外に何か特技はありますか」
「そうですね・・・魔石があれば体が分解しても元に戻ります。何もない所に魔石を埋めるとストーンゴーレムが生まれます。これは日本山でも同じでした」
「そうです。そう聞きました」
『ストーンゴーレムさん達、石から体を作る以外に何か能力はありますか。』
「あまり知られていないが、我々もどの様に使うのかあまり知らないのだか、岩に穴を開けられるぞ、それで洞窟を作る事ができる」
「フムフム、その溶かした岩はどうなるのです」
「我々の体内でドロドロにして吐き出すと固まるぞ」
「ヒナタさんコンクリートみたいですね」
「一瞬、私もコンクリートかなと思いました」
「それ少しやって見せて頂けますか」と三峰が頼む。
『やって見せて頂ないですか。』
「よろしい、我々も洞窟を作る事は知ってるのだが、溶かした岩までは考えなかった。ほれ」
ストーンゴーレムは口から泥水らしき物を吐いた。一面色違いの液体が広がる。
三峰はそれを木の枝で突きながら固まるのを待っている。
5分位でそれは固まり、硬くなった。しかも下の岩と融着している様にはがせない。
「これ使えるかもしれない」
『使えるかもしれないとの事です。いつでもできますか。』
「岩や石があればできるぞ」
三峰は考える。「例えば我々が木で塀を作ります。それに液体を何度もかけて固めると砦にも匹敵する城壁ができるのではないでしょうか。アイデアだけですが」
「それは考えた事も無い。我々にとっては岩や石は食事だから、その・・・吐いた物は美味しくない部分なのだ」
「つまり、こうですか、食事をして岩山に穴を開けると洞窟に結果なると、そして美味しくない部分や消化不良の部分を吐き出すと、岩の様に固まると」
「そうかも知れないな。なにしろ使ったことが無いのだ」
「ヒナタさん、我々は一度戻っていろいろ打合せしてから戻ってきたいと思います」
「三峰さん、子供達も引き取って頂けるようなので連れてきたいのですが」
「そうでした。手配しないと・・・載せられる航空機あるのかな。考えても仕方ないから統幕に任せましょう」
『わかりました。私たちは一度戻っていろいろ手続きをしてきます。またハイエルフの里にいる子供達もこちらに連れてこないといけません。しばらくお待ち頂けますか。』
「わかったハイエルフ。我々には沢山の時間がある。少しの時間なんぞ誤差と同じ物」
『ありがとうございます。』
・・・
「あのー、ヒナタさん、ストーンゴーレムの一生ってどの位なのですか、気になって」
「あの事ですね。多分・・・魔石の魔力が無くならない限り生き続けると思いますよ」
「魔石の魔力はどの位・・」
「ストーンゴーレムなら1500年位でしょうか」
「そうですか・・果てしないですね」
「そうですね、人間は50年程度ですから果てしないですね」
「日本人は84年位ですよ」
「ハイエルフも800年位ですから半分ですね」
「はぁー」何が半分なのだろう、果てしない事には変わりがない気がするのだが。と三峰は思う。単位の桁が違うと・・
三峰は「ストーンゴーレム」とのコンタクトができた事とゴーレム達の希望と子供の移送とゴーレムの特殊技能について報告をしている。
第5偵察隊第1偵察小隊長からの報告は第5師団を経由して統幕に入る。
統合幕僚本部では、子供ゴーレムの移動を検討している。現在の体重は何トンなのだろう・・・
・・・・
「なぁリエラ。昨日は個人的に憤慨して良からぬ事を口走ってしまったが・・・どうだろう、今日はリエ」
「ダメです。良く毎日同じことが言えますね。感心します」
「ダメなのか。相変わらず冷たいなリエラは」
「そんな事より、そろそろ覚悟決めてくださいよ。今日が二回目の交渉になります」
「そう言えば昨日の会見は宰相に報告したのだろ、なんと申している」
「今朝、連絡を取りましたが、宰相不在で連絡だけ伝わるようにして頂いています」
「そうか、宰相はやはり他に何か隠しているとしか思えない。遠いから余計にそう思うのだろうが」
「トーマス男爵の感は野性的ですからね。私にはわかりません」
「そうかリエラ。帝国の一大事であるぞ、関心のない宰相は如何なものなのか」
「理屈で言うとその通りです。ですが私が判らないのは、その隠れた意図の方です。帝国が無くなっても良いと言う事は、逃げ道があると考えられます。しかも、皇帝にも知られていない道が」
「リエラ、そうか、やはり儂の思った通り、儂に時間稼ぎさせて逃げ出す手段と思うぞ」
「男爵、それを見込んで騎馬隊を港警備につかせたのでしょ」
「そうなのだが・・・皇帝の住む城だぞ他に抜け道があって東の山脈の下を抜けていたらと思っている」
「そんな抜け道あるのですか」
「いや知らん」ガク
「男爵・・そろそろ時間ですから行きましょう。男爵も山脈の下の抜け道、通って逃げたいのでしょうがダメですよ」
「うっ・・・あるのか・」「知りません」オット
「ふざけてないで、出発しますよ」
「まってくれリエラ」
・・・・
「帝国第1師団騎馬隊のエル・トーマス男爵だ、帝国を代表として交渉にきた、南野陸将を呼んで欲しい」と言いながら下馬して待っている。
やがて昨日と同じテントに案内される。
今日は女性自衛官がお茶とお菓子を持ってくる。
「リエラ、お茶出されたぞ」
「男爵、普通は出されても飲みませんよね。毒などが入っていて相手の言いなりになったりして」
「そうかリエラ。誠実そうな人物であったぞ。それにこれ普通のお茶ではないな。なんか黒いぞ」
「異国の毒かも知れません」
「脅かすなよ」
・・・・
「お待たせしました。トーマス男爵にリエラさんと通信エルフさん。今日は護衛はいないのですか」
「南野将軍殿、今日は護衛は要らない、そなた達が護衛を付けていない通り、我々もそなた達を信用し始めている」
「そうですか、交渉に腹を割って話すのは良い事です」
「ところで、南野将軍殿この飲み物の様な物はなんですか」
「これはコーヒーと言う飲み物です」
「こーひーですか」
「少し苦いのでミルクと砂糖を入れて飲みます。こういう風に」
南野陸将はトーマス男爵の前にあったコーヒーカップにミルクと砂糖を入れて飲んだ。
「おぉ儂の」
「トーマス男爵、毒見ですよ。判るでしょそのくらい」
「リエラ。きついぞ」
「さっどうぞどうぞ、我々は毒を盛るなどと言う事は法律で禁止されていますから、入れませんよ」
「リエラ法律で禁止されているそうだ」
「聞こえましたよ」
「いやお前が「飲みませんよね」とか言うから」
「帝国同士や帝国と他国では、ふつう飲みませんよ」
「そうか・・交渉などした事無いからな。飲んでも良いか?」
南野陸将は自分の前に置かれたコーヒーカップをトーマス男爵の皿に乗せた。
「こうして、ミルクと・・これが砂糖? サラサラしているぞリエラ」
「私もこんな砂糖見るのが初めてです」
「これはグラニュー糖と言いまして、紅茶やコーヒーの為に特別にサラサラさせた砂糖です。是非お使いください」
「日本は飲み物一つにも拘るのだな」
トーマスは一口飲んだ。「これ・・うまいぞ・」
「トーマス男爵、お口に会いましたか。ではお替りを持ってこさせましょう」
南野陸将は内線電話で呼び出しコーヒーを淹れさせた。
「おいしいの作ってもらいますから、お待ちください」
「心得た」
「男爵・・・向こう側になっていますよ」
「そうか・・」
「さっリエラさんもコーヒーを、エルフさんにはオレンジジュースを用意しました」
「おっおいしい・・」エルフが涙ぐむ。
「そんなに美味しいのか。儂には普通のリンカジュースに見えるのだが」
「ああ、リンカジュースではないです。オレンジジュースです。リンカもこんな色ですが味が違います」
「あの」「ダメです」「リエラ、まだ何も言っておらん」
「欲しいと言うのでしょ。子供ではないのですからダメです。それにこれはエルフのです」
「いや奴隷エルフにまで飲み物を用意してくれる日本には勝てる所がないなと思っただけだよ」
「男爵それなら良いですが、「儂にも一杯」とか思いませんでしたよね」
「普通に思うだろ」「居直りですか」「いや日本の技術力の話をしているのだよ」
「またー」
「お話楽しいですね。用意しますよ。日本では子供が良く飲む飲み物ですからね」
「儂は子供だったのか。ならリ」「ダメです」「だんだん拒否が早くなっていく」
「お二人とは戦場ではなく、平和な居酒屋で会いたいものですな」
「ははは」
「では早速ですが、昨日の条件について話し合いましょう」
「はい、ではこちらを」参謀長の田森1等陸佐が紙を配る。
「ずいぶん薄く丈夫な紙ですね」リエラは感心する。帝国では紙は厚くゴワゴワしている物で、通常使用する巻物や大事に文書は日本で言う「羊紙」の事を言うのである。羊の皮を鞣した物を紙として使用する。
帝国は羊ではなくフムラの皮を使っている。
「大陸語で書いていただいて感謝します」とリエラ。
「昨日の話が全て書いてあるぞ」
「トーマス男爵、抜けている所や間違っている所はありませんか」と田森は聞く。
「いや全て言ったことだ」
「ではこの紙を元に話し合ってきましょう」と長崎田陸将補。
「では私が読み上げますから、間違いがあればその場でご指摘願います。
ひとつ、日本政府は帝国を解体し、以後日本政府がドーザ大陸全体を統治する。
ひとつ、日本政府は警察機構を帝国に置き、統治に際して奴隷解放をする事に加え、人種差別をした者を犯罪者として捕らえる事にする。違反者は日本政府が逮捕、監禁そして裁判をします。
なお、その際の逮捕根拠は日本国憲法及び刑事訴訟法に準じます。
ひとつ、日本政府の統治について、日本に全権がある事を確認し、個々の街行政については帝国民代表者との話し合いを行うものとする。
ひとつ、皇帝と宰相以下の重臣達は拘束して日本での裁判を行います。その際、日本に対して戦争を行った責任としての賠償責任と戦争責任を負う事。なお、裁判に際しては日本国の法律に則って行う事とします。
ひとつ、皇帝及び重臣達の全財産の没収と皇帝城の接収を行います。これを日本政府は賠償に当てる物とします。
日本側の統治案についてはまだ策定できていないので、大枠として昨日の話のままとしています。
次にスルホン帝国側の要望です。
ひとつ、戦争に関して兵士達の責任を問わない。
ひとつ、戦争に関する一切の責任を街人村人など帝国民に問わない。
ひとつ、前2項に対して財産、生命、住処について日本政府により毀損を受けない。
ひとつ、日本が捕虜にしている帝国兵士については、各自の意思を確認後、解放する事とする。
ひとつ、幹部や貴族は帝国臣民として日本の裁きを受ける事に異議を申し述べない。
ただし、民としてやり直す機会を与えて頂きたい。
ひとつ、スルホン帝国、皇帝ガリル3世及び重臣については戦争責任及び賠償責任を負う事として、裁判を拒否する事はない。
昨日はこの様になりましたが、間違いや認識の相違はありますか」
「良くできています」とリエラ。
「そうだな」とトーマス男爵。
「さて、この次なのですが詳細事項の詰めが必要なのですが、日本政府による統治案はまだ策定できていません。そこで帝国側のご意見を伺いたい」
「そのー、南野将軍殿、今朝、宰相に連絡を取ったのだが宰相が捕まらないと言う、なんとも・・・」
「ほー、宰相は貴殿に交渉を一任したのですか」
「いや報告をするようにと言われておった」参謀長の田森1等陸佐の眼光が鋭くなった。
「少し席を外します」参謀長の田森1等陸佐は部屋を出て行って、戦闘指令室に行く。
「第5師団本部田森より、第6機動化普通科連隊第2普通科中隊長宛、送れ」
「こちら第6機動化普通科連隊第2普通科中隊長。参謀長感度良好。送れ」
「城からネズミが逃げ出す。捕まえて欲しい。以上だ」
「こちら中隊長。繰り返します。城からネズミが逃げ出す。捕まえろ。以上」
「こちら師団本部。その通りだ頼むぞ。以上」
「参謀長了解しました。以上」
参謀長の田森1等陸佐は会議室に戻る。
「田森1等陸佐、トーマス男爵より興味深い話が聞けた」と長崎田陸将補。
「つまり、トーマス男爵の騎馬隊約500名が南門と北門、それに港を見張っているそうだよ」
「それは、事前に重臣達が逃げすのではないかと思ってですか」と田森。
「いや偶然なのだが、最初にお会いした翌日の事なのだが、宰相に報告、その返事が「ふーん」だったものだから、儂の騎馬隊を帝都に派遣したのだよ。こんな時にネズミが逃げ出すのは必定。すこし太った大きなねずみかも知れないがな」
「ははは、トーマス男爵。流石です。そのお考えは当たっています。そして我々も港が怪しいと睨んで偵察隊を湖に派遣しております」
「珍しい、参謀長がそんな機密を喋るとは、よほど気が合うのだろう」と南野陸将。
「いやトーマス男爵はたった一言で宰相の闇を暴きましたので、帝国一の知将であるなと思いまして」
「男爵、日本軍に褒められていますよ」
「リエラ、当然である」
「そんな男爵、いままで見た事がありません。はは」
「帝国の隠し兵器である騎馬隊隊長だからな」
「隠れたままで戦争終わりそうですよ」
「うっネズミを捕まえられれば、帝国としても戦争放棄にならずに済む」
「それだけは認めます」「「それだけ」って言ったか」「気のせいです」
「コーヒー旨いですな」と男爵。
「さて、トーマス男爵。この先なのだが、日本側はまだ終戦後の施策等々決めかねている所がある。そして帝国はどうなのですか」
「実は先ほども言った様に宰相が捕まらないので、なにも進展はありません」
「左様ですか。ではこの紙を差し上げますので、直接皇帝なり宰相なりに相談は如何でしょう。かなり危険だと思いますが。護衛は多い方が宜しいと思います」
「そうですね、膠着しますね。こちらも上の考えを聞かないと進めませんね」
「では、男爵、3日後に案を持ち合うと言うのは如何でしょうか。この場所で」
「はぁ、リエラ直接城に乗りこむか」
「男爵。南野将軍が言いましたでしょ。護衛は多い方が良いと。ここで男爵を始末すると更に時間が稼げます。逃げるには十分ですね」
「そうだな、味方を背中から刺すくらいはスルホン帝国はするからな。考えどころだな」
「男爵。逃げるという選択肢は無いのですか」
「リエラこれでも第1師団の生き残りぞ、逃げたら死んだ者達に言い訳できぬ」
「男爵は変な所で律儀ですからね。普段は相当いい加減なのに」
「リエラ、日本の将軍の前で辞めてくれ。はずかしい」
「わかりました。南野将軍、男爵を護衛して皇帝に謁見するか宰相にあって真意を確かめます。3日後生きてお会いしましょう」
「リエラさん、トーマス将軍を死なせてはなりません。帝国にとって、いや帝国解体後の統治にとっても必要な人物だと思います。くれぐれも頼みましたよ」
「なぁリエラ、儂を置いて話を進めんでくれ」
「男爵はドーンと構えていてください。細かい事は私がやりますから。2日後に皇帝居城に行きましょう」
「リエラ来る前と話が・・・」「男爵は黙ってください」
・・
「では南野将軍と皆さん、3日後に男爵をお連れして、具体的な話し合いに入りましょう。よろしくお願いします」
「リエラ勝手に締めたな」「はい」
「こちらこそ、トーマス男爵にリエラさん。3日後にお会いしましょう。その時は生きて会いましょう」
「身に沁みるのぅ。リエラ」「はい。沁みます」
「では今日はごちそうになった。3日後に会う時にまたコーヒーを用意してくれると嬉しいぞ。では次会う日まで」
南野陸将と長崎田陸将補、参謀長の田森1等陸佐は3人を見送る。
「田森1等陸佐、大丈夫か」
「いえ相当心配です」
「第101特殊普通科連隊の隊員を騎馬隊に紛れ込ませられないか」
「それは第101特殊普通科連隊の秘匿性が失われることになります」
「それは判るのだが、今トーマス男爵を失うと日本側の損失は多くなるぞ」
「南野陸将、それは同感です。冗談交じりながら考える所はしっかり考えて兵士や帝国民に損害が及ばない様に心を砕いている所は帝国師団でも特異なのではと思います」
「そうだな、平和な居酒屋で飲みたい連中であるな」
「田森1等陸佐、裏で手を回してやって欲しい」
「はい・・わかりました」
さて、陸自はトーマス男爵をどうやって守るのでしょう。
少しだけ気になります。
まだ頭が働いていません。誤字脱字の嵐ではと思っています。(それでも2回は読み直して・・)
もしありましたら、報告よろしくお願いします。助かっています。
本日は14584字だそうです。トホホ