第115話 帝都の終焉 その5 終戦交渉 その2
第115話を投稿します。
キャラ村の皆さんは陸自に助けられて風呂に案内されてます。
第一回目の停戦交渉が不思議な方向に向かってしまいます。
宜しいのでしょうか。
キャラ村の村民は陸上自衛隊第5偵察隊第2偵察小隊に守られながら崖をどうにか登り小隊車両の位置まで来ていた。
村民は全部27名、応援が来るまでその場で昼食を取り待機する。
「みなさんお腹は減っていませんか、今から昼食にしますよ」
「おお、それはありがたい。木の実と山菜は少し持ってきたが全員分は無いのだ」
村長は申し訳なさそうに申し出る。
隊員はヒートパックに次々と糧食を入れ、温めていく。
「水はこちらにあります。迎えが来るまで少し休憩していてください」
「ありがとう」「ありがとうございます」村人が次々と来てお礼を言う。
洞窟暮らしは2年にもなり、殆どの村民は栄養失調であるが、どうにか崖を登りたどり着いたのだ。
怪我人や病人がいない事が何よりであった。
「さっ、みなさんもうじきですからね。頑張りましょう」小隊長は村人を励ます。
第5偵察隊から荒れ地中央で補給所を開設していた22APCと空荷になった大型トラック2台が村人を保護し輸送する為に向かっていた。
村人達には、第5師団から天幕とテントをトロル街南に仮設して、そこでしばらく暮らしてもらう予定である。
キャラ街に第5施設大隊が工事を開始すると移動しキャラ街の再建を手伝う予定である。
ただし第5施設大隊は、その後荒れ地に航空施設建設を予定している。
それについてはキャラ村の人たちを雇い、働いてもらう予定であった。
予定としては3500m滑走路を2つに2500m滑走路を1つに管制塔と修理、駐機、の為の大きな格納庫及び兵舎に給油施設を建設する。
なお、周辺警戒の為に第5施設大隊に第5特科連隊2個特科大隊( 99式自走155mmりゅう弾砲20台)、第5高射特科連隊3個高射中隊(87式自走高射機関砲計15台)と第5後方支援連隊、第6機動化普通科連隊が常駐する予定であった。
やがて森の外に迎えの本部分遣隊が到着した。
「さっ皆さん。森の外に出ますから、中に女性と子供は入ってください。男性は私たちと歩きましょう」
第5偵察隊第2偵察小隊は22APCに女子供と老人を入れて、隊員と村の男たちと歩き始めた。
「魔物が現れたら私たちで対処しますので、皆さんはこいつ(22APC)の後ろに隠れてください」
「はい、よろしくお願いします」
村人を警護しながら森を抜ける途中にドラフマが2匹に荒れ地ではカラミタが群れで走り回っている。
ドラゴンの脅威は収まったはずなのだが、カラミタは興奮して走り回っているので非常に危険である。
「カラミタとか言う牛の亜種は危険だな。角さえなければ本当に牛なのだがな。家畜とかにできないのかな。
麻酔薬でもあれば捕獲できると思うのだが」と小隊長は本部に打診しようと考えていた。
牛は頭の横に角が生えているのだが、このカラミタは頭と頭の横に計3本もの角が生えているので、体当りされると頭の角が刺さり危険である。
森の外では本部分遣隊が、12.7mm機銃でカラミタをけん制しながら待っていた。
「ご苦労、早速移管して欲しい」「はっキャラ村、村民計27名を引き渡します」
キャラ村村人は2台の大型トラックに載せられ、22APC、3台による警戒護衛を受けながらトロル街に向かっている。現地のトロル街南にはすでにテントを用意してある。
第5施設大隊の到着は次の日に予定されていた。
トロル街南の難民村には備品科が到着して、トロルの湯を用意していた。
もちろん避難民用のテントも天幕も需品科の機材であった。
第5偵察隊は本部要員が野外炊具2号により炊き出しを行っている。
やがて村民を乗せた大型トラックが到着して、それぞれにテントを割り振り、女子供からお風呂に案内した。
ベンデルバーグ男爵はトロルから早馬でやって来て、キャラ村村長のトルキドと握手をしている。
「キャラ村に人がいなくなって久しい。心配したぞ、連絡して欲しかった」
「男爵、連絡の村人を1人送ったのですが、戻ってこなかったのです。すでに死んでいるかと思います」
「そうか、最近のトロル南の地はカラミタが走り回り、森からは大小さまざまな動物、魔物にワイバーンまで出てきて商人の荷物をさらっていく事が増えて心配どころではない騒ぎであったのだ。すまぬ。助けを出せなくて」
「男爵、我々も連絡ができずにすいません。5年前のドラゴン以来、村にカラミタが押し寄せる様になり、更に村人を失いました。一刻も早く避難をと思い、魔の森南の大洞窟に隠れ住んでいました」
「大洞窟と言うのはキャラ村の葬儀場兼墓場であったな。あそこに居たのか。食料も水も近くになく大変であっだろう」
「有難うございます。その通り水も食料も不足していました。ですが洞窟にいると不思議な事に体の疲れが癒され、病人はいませんでした。怪我もなんとなく治ってしまって良い洞窟でした。先人たちは癒される洞窟で眠っていたと思うと、その知恵に頭が下がります」
「そうか、苦労したのだな、これからは日本の自衛隊とトロル街でみんなを保護するから安心して欲しい。
それに自衛隊がキャラ村の近くに「ひこうじょう」と言うのを作るらしい。キャラ村も魔物たちが入ってこられない程に堅城にするらしいぞ、キャラ村全員で手伝ってやって欲しい。そうしたら、またキャラ村特産の干物をトロルに売りに来て欲しい。あれは儂の好物だからな。頼むぞ」
「男爵のご配慮に感謝します」
「しばらくはここトロル南の地にて静養して欲しい。元気が戻ればキャラ村に戻って建設を手伝ってほしい。必要な物は言って欲しい。用意する。多分だが村人も彼らがキャラ村まで運んでくれると思うぞ」
「必ずキャラ村を再建して、男爵に干物を届けに参ります」
「期待しているぞ」
・・・・
ここはドフーラ郊外に作られたドーザ大陸方面隊駐屯地である。
「中野総監、帝都の分析が終わりました」畠田幕僚副長が報告する。
作戦会議室には殿山幕僚長、林幕僚副長も同席する。
「第101特殊普通科連隊の情報を統幕経由で確認しましたところ、この帝都に入る橋は落ち橋となっており木造です。つまり軍が押し寄せた場合に橋を落として防衛するつもりだそうです」
「日本のお城でよくある通し橋の様だな」
「ええ、総監その通りです。問題は車両が通過できる強度です。多分ですが人が多く通りますので2トン程度、良くて4トン程度と思います」
「そうか戦闘車両は難しいか。で」
「はい、第101特殊普通科連隊の帝都本部は現在3個小隊程度の規模です。残りは1小隊がリリコネに、1個小隊がムリナ街に溶け込んでいます。元が1個中隊でしたから、統幕では訓練の終わった捕虜を3個中隊送り込む予定だそうです。とりあえず大隊規模ですね。東富士で訓練中の兵士が揃えば連隊規模となる予定だそうです」
「それは心強い」
「ええ、外からの車両持ち込みができない状況ですので助かります」
「畠田幕僚副長、架橋は如何なのだ」
「はい、殿山幕僚長、門を占拠して防衛できれば門内まで架橋をかける事が可能です。堀は5m程度ですから。
81式自走架柱橋なら10m橋を架けられますので有効です。
順番としては、小トラに12.7mmを乗せて何台か内部に入り込ませ拠点防衛をしながら、81式自走架柱橋を架けて、その後に重車両にて帝都に入ります」
「だが、それだけでは皇族や重臣に逃げられてしまうだろう。統幕に内部牽制部隊を打診しましょう」
「林幕僚副長、統幕は必要なら習志野を投下すると約束してくれている。この際お願いするか」
「いきなり城内では危険ではないですか、統幕次第ですが第101特殊普通科連隊が強化されるなら共同でというのも高い可能性があります」畠田幕僚副長は危惧を話す。
「うーむ、第101特殊普通科連隊にどこまでできるのか次第だな。
それから統幕からは第101特殊普通科連隊が終結後の帝都及び付近都市の防衛と治安を行うそうだ。
まだ訓練中の帝国兵士は1500名以上もいるからな、教育が終われば問題ないだろう。
帝国に返還した捕虜が奴隷落ちした情報が入ってから、帝国捕虜は全て協力的だ」中野総監は中と外からの挟撃に加え、皇帝居城の占拠と拘束を企む。
「帝都の解放、帝国の崩壊は良いのですが、その後の治安はどうするのですか、もう計画と実施作戦が必要と思いますが」
「殿山幕僚長その通りだ、統幕と共同で帝都占領作戦を立案して欲しい。
また、帝都崩壊後の治安計画もだ、我々は帝国が無くなった後にも駐留する予定である。
つまり治安維持は我々ドーザ大陸方面隊と第101特殊普通科連隊の仕事になる。これを踏まえて計画を中長期で策定して欲しい。
帝都攻撃について帝都市民を傷つけることなく速やかに対処して欲しい。
それと前にきた皇族トルフェイ妃とルミア姫は無事に日本に到着したそうだ。
帝国崩壊後には西側の街を全て降伏させる必要がある。そして西側に空港を作りアトラム王国への航空航路を作らねばならない。これができんと日本、ドーザ大陸、アトラム王国との高速輸送が実現しない。
それに帝国を解体できれば獣人や奴隷も解放できる。人材も確保できるはずだ。
宜しければ以上、立案にかかってほしい」
・・・・
「殿山幕僚長、統幕より第101特殊普通科連隊3個中隊補充人員と機材の移送を指示されました」
「いよいよか、最優先で送り届けてくれ」
「了解しました。ドフーラに5時間後到着予定ですので、ミルドにオスプレイ4機でピストンします。
機材はC-2を使いドミニク経由でミルドに送ります。
揃い次第、帝都南から第101特殊普通科連隊に合流を計画します」
「よし、ばれない様に注意して送り届けて欲しい。帝都攻撃の要だからな」
「心得ています。失礼します」
第101特殊普通科連隊の3個中隊は、東富士演習場から静岡空港(富士山静岡空港)にて旅客機に乗り新千歳空港から空自千歳飛行場よりC-2にて、直接ドフーラに送られてきた。
訓練を終えた隊員達は久しぶりの帝国の空気を腹いっぱい(胸いっぱい?)に吸い込んだ。
ドフーラからはオスプレイでミルドに送られ、ミルドからソミリア街郊外の第7師団に入り、服や装備を偽装馬車に隠して、第7師団から帝都市内で売れる資材を積み込んで帝都に向かって行った。
帝都では第101特殊普通科連隊第1中隊長のトリマが出迎えた。
「おお、みんなご苦労だった。この屋敷全部が我々の本部だ、十分に寛いでほしい」
「トリマ、しばらくだった。第5師団時代は良く張り合ったものだが、先輩として尊敬する。よろしく頼む」
「そんな事、それよりみんなの拠点を探さないと手狭だからな」
「そうか、なら昔帝都にも住んだことがある私の願いだ。倉庫街に2つ倉庫を借りたい」
「トリリム簡単な事だ。今リリコネや南からの輸送は止まっている。だから倉庫も空いている」
「そうか、1つは隊員宿舎として、1つは作戦会議室や武器弾薬保管庫として使用したい」
「了解した。第3中隊の希望はあるか」
「我々は居城の近く、できれば城の壁横だな。C4で爆破して穴を開け突入する」
「ははは、相変わらずユリムスは豪快だな。上からの作戦次第だが、それも良いだろう。了解した。探すが、知っての通り壁際はスラム街だ。それで良いのか」
「おい、トリマ、ここもスラム街だろう。問題ない」
「そうだった、我々がきた時に大掃除して綺麗にしたから不審者はいないのだがな」
「そうだったのか、道理で雰囲気が良くなっていると思った。俺も若い頃この周辺をうろついたからな」
「そうか、俺に掃除されないで良かったな」
「おお怖わ」
「ははは」「それにしても本部は人数少なくないか」
「それは仕事で2個小隊がリリコネとムリナに潜伏中だからな。作戦の一つだ」
第101特殊普通科連隊は第2中隊、第3中隊、第4中隊が合流を果たした。
帝都侵攻の為の下地はできた。
・・・・
相変わらずトーマスは朝から愚痴を言っている。
「なぁリエラ、俺は構えているだけでリエラが交渉を・・・」
「隊長、ダメです。仕事です」
「そう言うなよ、交渉ダメなの知っているだろう」
「相手の方が優勢ですから、隊長の交渉によって市民に死人が出るかもしれません。慎重にお願いします」
「ところで朝、宰相に連絡したんだろ、何と言っていた」
「はい、返信は「そうか」だけです」
「えっ」
「だから「そうか」だけです」
「なあリエラ、それって宰相が関心ないと見て良いのか」
「私はなんとも・・・ただ、他人事ですね。としか言えません」
「なんだそれ。帝国の運命を交渉しようとしているのに「そうか」だと、怪しいな。リエラもそう思うだろ」
「はい、何か別の考えがある時に答える内容ですね」
「だが、交渉自体は進める。しかし・・・リエラ、他に騎馬隊で指揮をとれそうな者はいるか」
「まだ見習いですが、第1騎馬小隊のフムラ隊長なら何とか大丈夫と思います」
「私の一存で、騎馬隊を帝都に出すぞ、特に港を中心に警備させて宰相と言えども逃がさぬ様に、いや城から出て逃げようとしたら捕らえろと指示して、お前と他3名を残して直ぐに帝都に向かわせてくれ。物凄く臭うぞ」
「やっと隊長らしくなりましたね。その様に手配します。エルフはどうします」
「交渉に連れていく」
「えっエルフをですか」
「そうだ、日本が帝都を攻める時に他のエルフと家族を助け出してもらう」
「隊長、それは停戦交渉ではないですね。ははは。隊長らしい」
「リエラすまんな、どうやっても日本には勝てそうにもない。
だからの交渉なのだが、重臣に交渉の興味がないという事は、皇帝は判らんが少なくとも逃げ出そうとしているとか思えん。
こんな状態に帝国をしておいて、先に逃げ出すなどというのは言語道断」
「ええ、そう思います」
「交渉で時間稼ぎして。その間に自分は安全な所になど、許さん。必ず重臣を捕らえて日本に引き渡す」
「なんか、内乱を起こしそうな勢いですね隊長。普段がそれなら伯爵にもなれるのに。まったく」
「うっ」
「さーて、隊長、指示してきます。隊長が逃げないでくださいね」
それから1時間後、帝国第1師団騎馬隊のエル・トーマス男爵と副官のリエラ、そして騎馬隊から3名とエルフを含めた6名が陸自第5師団の本部に向かった。
同時に帝国第1師団騎馬隊の残り475名が、第1騎馬小隊長フムラを指揮官として帝都に潜入し、要所を警備していた。
「よいかトーマス隊長からの命令だ、帝都から逃げ出す重臣や閣僚を残らず捕らえよとの事。みんな見事に果たしてくれ」
帝国第1師団騎馬隊は3つに別れ、北門、南門、そして湖に通じる港にそれぞれ監視所を作り出入りする者を全て捕らえ尋問している。
元から居た警備兵を取り込み、顔見分までしている。
警備兵宿舎兼本部が攻撃され、各門や港に生き残り警備兵は元々2名ずつ程度しか配置できなかった。
警備兵は勇猛果敢で有名な第1師団第1騎馬隊が警備を手伝ってくれることを大歓迎で迎えた。
「さて、リエラ行くぞ」
「ついていきますよ隊長」
「帝国第1師団騎馬隊のエル・トーマス男爵だ、帝国を代表して交渉にきた、長崎田陸将補を呼んで欲しい」と言いながら下馬して待っている。
自衛隊員は無線機で副師団長を呼び出している。
「はい・・はっ・・お連れします」と言うとトーマスを向いて、大陸語で「こちらにどうぞ」と言い案内をする。
「リエラ、隊員も大陸語を話すぞ、こちらは相手の言葉すら理解不能だ」
「隊員と言えども民度が高いのでしょ。我々にもこんな兵士がいれば負けないと思いますよ」
「リエラ・・・直接批判を言うな」
「隊長を批判してませんよ。民度は家庭や教育です。部隊の訓練とは違います。ただし戦闘も頭が良いと勝てますけどね」
「リエラ、批判に聞こえるぞ」
一行は大きなテントに通された。下は地面、机と椅子となんか大きな白い板が立っている。見た事も無い。
「なぁリエラあの板で戦闘状況を説明したりするのか、毎回板を変えるのか、しかもつるつるして光っているぞ、あの板」
「私にもわかりません。我々は地面に枝で書きますから。あのような板は邪魔です」
「そうだな邪魔だな」
・・・・
「お待たせした。トーマス男爵」
「長崎田陸将補、昨夜はすまんかったの」
「いえ大丈夫ですよ。こちらを紹介しますので、後ほど紹介をお願いします。
ではこちらが第5師団長の南野陸将で、日本側全権大使を兼任しています。
こちらが、参謀長の田森1等陸佐で師団全体の作戦立案と実行を担っています」
「そちらは3名だけですか」とリエラが聞く。
「ここは、我々の本部です。外に沢山いますから、それにあなた方とここで戦闘にはならんでしょ」
「あはは、リエラお前でも負ける事があるのだな。実に愉快」
「隊長・・・多分恨みます」「多分ってなんだ。ははは」
「楽しそうで結構ですが、話を進めましょう」と長崎田陸将補が進めようとする。
「こりゃすまなんだ」トーマスが謝る。「こちらが騎馬隊副長のリエラと警備に3名連れて来た」
「エルフさんがいますね」
「彼女は宰相から連絡係として渡された。城専属の通信エルフだ、だからと言うか特別な奴隷紋があり、城の地下に家族が捕らわれているそうだ」
「そんな事を・・」
「これに関してはお願いがある。後ほどで良い」
「では早速。トーマス代表は帝国の停戦交渉に来られたと認識していますが、その通りで宜しいですね」
「長崎田陸将補殿、その通りだ。サイネグ宰相から交渉権を委任されている」
「では早速。我々は帝国が人権無視に奴隷制度まである現状について大変怒りを覚えています。
そこで、帝国については解体、以後は日本政府がドーザ大陸全体を統治します。
皇帝と宰相以下の重臣達には日本での裁判となります。勿論拘束します。
そして皇帝及び重臣達の全財産の没収と皇帝城の接収をします。
もちろん日本に対して戦争を行った責任としての賠償責任を負う事になります」
「そっそんなにか」
「はい、そんなにです」
「少しだけ緩めてはくれんかの」
「ダメです」
「そこを何とか」
「ダメです」長崎田陸将補は笑っている。
「リエラ・・・頼む」
「仕方ないですね。
では口下手なトーマスに変わって私リエラが交渉条件をお伝えします。
戦争に関して兵士達の責任を問わない。命令により戦争しただけですからご理解いただけますね。
次にこの戦争に関する一切の責任を街人村人など帝国民に問わない事。
戦争したのは兵士ですから。それに関して兵士や帝国民の財産、生命、住処について保証を頂けるとありがたいです。
次に兵を率いた幹部ですが、帝国師団とスルホン帝国艦隊は全てが敗北して日本に捕らえられている者がいると聞きます。これの下士官達と兵士を解放して頂きたい。帝国ではなく日本がドーザ大陸復興する為に必要な人材ですから承知いただけますね。
勿論幹部や貴族は帝国臣民として日本の裁きを受ける事になりますが、可能なら一般民としてやり直す機会を与えて頂きたい。
そして、皇帝、重臣については日本の通りで良いと思います」
「ふむ、帝国解体と日本統治については反対意見は無いと言う事ですか」
「はい、どうやっても日本に勝てると思いません。帝国が敗北するなら再建可能な内容でと思います」
「そうですか、賢明ですね」
「トーマス隊長、日本で裁きを受けてくださいね」「ちょリエラつめてーな」
「はははは、面白い。帝国軍人にも話が分かる者がいると知れてうれしく思う」
第5師団長の南野陸将の笑いながら話をする。
「ところでトーマス代表。リエラさんの言う条件で宜しいのですか。そちらは形が無くなりますよ」
「南野代表殿、儂は騎馬隊のいち隊長で名ばかりの男爵です。
本当に思うは帝国民や命令に従って戦闘した兵士達の事です。
ですから儂より上の者達は戦争に名を借りて私腹を肥やす豚どもです。
私にそんな奴らにかける情けはありません」
「これはこれは、面白い。帝国がどうあるべきか考えている方がいたとは、感心しました」
「それに、命令があれば儂らは負けると解っていてもあなた達日本軍に戦いを挑むところでした。
それが突然停戦交渉しろと言う。しかも内容は任せるときた。
この国は作り直さないとダメです。儂でもそう思う」
「トーマス代表の考えは解りましたが、先ほど停戦交渉と言いましたよね、良いのですか? 先ほどからの話は停戦ではなく降伏に聞こえますが」
「南野代表、帝国に戦える軍は、我々騎馬隊しかいません。しかも我々は長距離攻撃の方法を持たない。
騎馬は、騎士は、敵に真っ先に突っ込んでいって味方の勝機をつかみ取る役目・・・だが近寄っただけでやられてしまう日本に対して私たち騎馬隊は無力だ。戦う事の意味をなさない。第2師団も第3師団も第4師団も第5師団も・・第5師団には騎馬隊は無かったか・・他の師団の騎馬隊は戦う事すら無く敗北したのではないか、あなた方を見ているとそんな気がする」
「トーマス代表、慧眼ですね。その通りです。戦いは相手が得意な戦い方にさせない事が最良の作戦です。
我々は長距離からあなた方をけん制出来、見えない所から放った矢があなた方の船を沈めます。
ただ間違えないでください、我々にも体を使った戦闘術もあります。ですが、我々が損失を出さない為の武器や兵器の使い方をして、相手に最大限の攻撃を仕掛けます。帝国はもっと相手を知り、和平の道を模索すべきであったと思います。いまさら遅いですが」
「南野代表殿、おっしゃる通りだ。なにも言い返せない。
実際に第1師団は壊滅しているから、我々はそこに居なかった、運が良いだけであると思う。
もし、第1師団と共に移動していたなら、儂はこの場にいない」
「そうかも知れません。先に帝都に向かっていたのでしょ。見てましたよ」
「見ていた?」
「ええ、空の目を我々は持っています。帝国第1師団がどこにいて、なにをしていたか全て知った上で攻撃させていただきました」
「そうであるか、そんな気がしていた。あまりにも正確だと。我々は通信もこのエルフ達を使い時間がかかるものだ、だから過去指示された場所を攻撃しても、相手がいない事がほとんどであった。なのに第1師団は確実に壊滅された事実。これだけでも何かの方法で知りそして連絡をしたと思っておった」
「その通りです」
「そしてこの交渉。我々に反撃する戦力は無い。だから停戦ではなく敗戦交渉にしたく思う」
「納得しました」
「では先ほどの条件をそれぞれ持ち帰り明日再度交渉すると言う事で宜しいか」
「それでお願いする」
「先ほどお願いがあると聞きましたが」
「個人的なお願いだ。儂は戦争する職業軍人、なのに通信はエルフがいないと出来ぬ。
理由も必要性も判っているつもりなのだが、そのエルフは捕まえて奴隷に落として従軍させている現実がとても嫌なのだ。兵隊でもない、いやいや連れてこられている奴隷エルフが、生理的に苦手なのだ。
そこで、我々に第1師団から宛がわれたエルフは早々に逃がした。師団から遠く離れたからの。
そしてここにまたエルフがいる。宰相から貸し出されたエルフだ。
冒頭にも言ったが城専属の通信エルフだ、特別な奴隷紋があり、城の地下に家族が捕らわれている。
そこでお願いだ、城のエルフと家族を解放して欲しい。故郷に返して欲しいのだ。
民間人を戦闘に巻き込むなどともってのほかだ。
お願いを聞いてくれないか」
「トーマス代表・・・あなたは今我々に城を攻めてエルフを救出しろと言っていますか」
「その通りだ、個人的お願いだ」
「ですが、停戦交渉なのでしょ」
「形の上はだが」「隊長・・・交渉になっていませんよ」「リエラそう言うなよ」
「儂は死刑でも追放でも良いが、民間人のエルフは解放してやってくれまいか」
「トーマス代表、それも含めて明日話をしましょう」
「ありがとう。このエルフは特別な奴隷紋によって自分の名前も母の名前も思い出せんのだよ、ただ母の顔だけは思い出せる。そんな残酷な事を平気で出来る帝国にはうんざりなのだ」
「隊長・・言ってしまいましたね」
「後悔はしていない」
「隊長・・了解しました。南野代表、しばらく、このエルフは宰相との通信のために我々が預かりますが、交渉が終わればお渡しします。
そしてこの子に通信エルフや幽閉された家族の位置を聞き解放してあげてください。お願いします」
「なるほど、了解した」
参謀長の田森1等陸佐は城攻略の糸口が見つかった事を統幕に報告し作戦提案するつもりであった。
「ではトーマス代表、明日13時にお会いしましょう」
「よろしくお願いする」
第1回目の停戦会議?は終わった。それぞれ持ち帰り翌日にすり合わせする事で決まった。
お読み頂きありがとうございます。
次回も停戦交渉の二回目をお送りする予定です。
誤字脱字報告ありがとうございます。助かります。