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戦闘国家日本 (自衛隊かく戦えり)  作者: ケイ
第1章 日本転移と自衛隊激闘編
104/251

第101話 ドーザ大陸西海海戦 その2

第101話を投稿します。

西海海戦の帝国第1艦隊編となります。

一方的にやられる帝国艦隊には同情します。艦対艦で艦砲射撃したいと思います。ですが海自は危険な戦闘はしません。(笑)

 帝都皇帝居城のサイネグ宰相執務室。

 エルフ通信室から担当官が入室してきた。

「サイネグ宰相失礼します。フマラ要塞港町から攻撃を受けたと連絡入りました。相手は1隻で係留中の港艦隊15隻と要塞砲10門が全滅との事です。」


「港艦隊とは例の伯爵の子飼い艦隊だな、要塞砲は痛いが問題なかろう。ただどこの国だ?」


「フマラ要塞港町からは攻撃を受けたとの連絡です。詳細は後ほど入ると思います。」


 別の通信係が入って来た。

「宰相失礼します。只今、要塞港町ドメステンより係留中の港艦隊10隻が一方的に沈められたと連絡がありました。敵は1隻、約15Kmの距離から正確に1発1隻で沈められたとの事。1分以内の出来事と言う事です。」


「して相手は誰だ。」「それが・・日本らしいとの事です。」


「なに日本・・・ドーザ大陸を迂回して西側を攻撃したと言うのか、フマラ要塞港町ならドルステインから行けるが、要塞港町ドメステンは遠い筈だ、日本に間違いないのか確認してくれ。」


「かしこまりました。確認いたします。」と2人は下がり、通信室に戻っていく。


「こりゃ予想より早いな・・・」サイネグ宰相は独り言を言うが何が早いのだろう。

 しかたない行くか、サイネグ宰相は皇帝謁見室に入ると報告した。

「皇帝陛下、フマラ要塞港町と要塞港町ドメステンの駐留艦隊が全滅いたしました。」


「港町・・・あれか、沿岸警備用の艦隊か」

「さようでございます」

「帝国艦隊が全滅したわけでは無いのだな」

「その様な連絡は入っておりません」

「ならば良い、小型の沿岸警備船などいくらでも作れるのであろう。問題はあるのか。」


「皇帝、問題はありません。」と言うとサイネグ宰相は自室にさがる。



 自室に戻った宰相は「例の準備を急がせろ」と呟く。窓のカーテンが揺れて気配は無くなった。

「こちらの予想より早いな。儂も準備するか。」とまた独り言をつぶやく。



 その1時間前、ツール要塞港を定期巡回の為に出港した帝国第1艦隊は第2艦隊同様戦闘艦約500隻の大艦隊を組み出港している。今回は・・・前回より巡回には補助艦や補給艦を伴わない戦闘艦だけの出港にした。

 遠征をする必要もない、燃料も十分な為に一日の巡回では必要ないと判断していた。


「フォン・カメル帝国第1艦隊司令、こう毎日巡回だけでは士気が下がります。」と副官トリムスは提言する。


「トリムス、その通りなのだがアトラム王国が現れたら帝国は危機を迎える。それは解っておるであろう、ならば地道な巡回も仕事なのだ。」と諭す。


「しかし司令、日本は東南海で第3艦隊をあっという間に全滅に近い損害を与えたとか聞きます。そんな艦隊など実在するのですかね。信じられません。単なる噂話かおとぎ話の様です。」


「それは儂も聞いた。いくら相手の戦力が高くても旗艦以下鉄船だぞ、「簡単に沈むもんか」と思うが、事実帝国第3艦隊は旗艦以下戦艦も戦闘不能か沈没、小型砲艦等は戦闘力を奪われ帝国兵士を救助するだけで手いっぱいであったと聞く。居合わせた港町ドルステイン艦隊トーマス2世にも尋問したが、全て同じ事を言っておる。・・・と言う事は事実なのかも知れんな。ただし、このドーザ大陸北は日本からも遠い、我々の相手はアトラム王国だけと思う。」


「司令、ドルステインに日本艦隊が来たと聞きますが、ここまでは確かに遠いです。来るならアトラム王国でしょう。」


「そうだな、アトラム王国と言えども最新30センチ砲は我が国を凌駕しておる。しかも最初は魔道誘導で命中率も高いと聞いている。日本より強敵だと思うが。きっと旗艦セントナムラムと共に命を落としたドミニク提督は何か失敗したのだと思う。そうでなければ負ける筈がない。」


「カメル提督、帝国第1艦隊は強いです。最新のセントナムラムまで沈められた第3艦隊と違い、我々は戦闘経験も多く技術も練度も桁違いに高いと思います。しかも第1艦隊旗艦は皇帝ガリル3世号、ガリル型1番艦で皇帝の名前が入っている名誉艦ですから負けられません。」


「そうだな、皇帝執務室まである名誉艦だな。負けはせん。」


「はいアトラム王国総攻撃時には皇帝ガリル3世が乗る戦闘指揮艦として威風堂々の艦隊編成の中心となります。負けてなる物ですか。」

 ガリル型1番艦の帝国第1艦隊旗艦、「皇帝ガリル3世号」はアトラム王国攻略の際には皇帝ガリル3世が乗船し指揮を執る帝国艦隊の旗艦である。


「よし異常があれば直ちに報告せよ。」「了解」司令は航海士に命令をし、島々の間を慎重に抜けていく。


「島々に注意。砲撃されたらかなわん。帝国領地だからそんな事もないがな。」


 もうすぐ島々を抜ける所で先行する150m級砲艦が20隻同時に爆発した。


「なんだアトラム王国の砲撃か監視員弛んでおるぞ。敵の報告をせよ。」と司令は怒鳴る。

 もう遅い、帝国第1艦隊は巡視活動の為に島々の間を抜け、島を監視する業務を行っていた為に、先頭艦がやられれば、続く戦艦や旗艦も空母などの逃げ道は無い。速度を上げて島間を抜けるしか道はない。


 獲物を殲滅するべく、海自潜水隊群の10艦は半円の包囲陣形で島々の出口35Km付近で待ち構えていたのだ。

 おやしお型とそうりゅう型を合わせた第1潜水隊群と第2潜水隊群の計10艦の日本交渉艦隊随伴潜水隊は海自交渉第2艦隊群の先方として帝国第1艦隊撃滅の為に前夜から海道海底に着底し、待ち構えていた。

 前日の観測で、帝国第1艦隊概要は300m級旗艦1隻、250m空母戦艦1隻、200m級砲艦200隻、150m級駆逐砲艦300隻の計502隻と分析されている。補給艦や補助艦約1500隻はツール要塞港沖5Kmに全て停泊しているが、戦闘艦はいない。


「目標補足、きます先方150m級30隻、続いて戦艦200m級30隻、その後旗艦と空母らしき250m級2隻、左右に戦艦20隻、駆逐艦50隻、その後にも続いています。艦艇多数、表示します。」とソナー係から報告が入る。

 前日の帝国艦隊音を探知し潜望鏡カメラで船体と紐づけしている為、艦名は不明なのだが音から船長が解り駆逐艦、戦艦、旗艦、空母戦艦と分類され、潜水艦隊全艦で共有されている。


「各艦に連絡、先頭20隻を同時攻撃、使用種89式魚雷、距離30Kmにて各艦2発攻撃、深度6m維持、以上」と短距離水中通信で各艦に伝えていく。


「雷撃長、よろしく」「あいさー、諸元入力敵14番15番目標、3番4番注水・・、いけます。」

 艦長より「3番4番発射」、雷撃長「射出完了」「ソナー係以後報告頼む」「ソナー室了解」

 雷撃長よりカウントが入る「15・・・3.2.1、今」「ソナー室報告、瓦解音確認、成果20隻と認められます。」

「雷撃長よくやった。同時攻撃完了、雷撃長以後の攻撃は任せる。」「了解」


「3番4番装てん急げ、1番5番、目標戦艦25番26番、艦長宜しいですか。魚雷深度4m、真下で爆発する様に調整。完了」船長を見る。「許可する」


「1番、5番発射、続いて2番6番、目標戦艦38番39番、発射、直ちに1番5番装てん、引き続き2番6番装てん」

「3番4番、目標大型艦旗艦2発同時着弾予定、諸元入力調整魚雷深度7m、真下でキール(龍骨)折ります、準備。発射3番4番。」



「ソナー室報告、旗艦船体軋み音多数、割れて沈みます。」「・・・」「続いて空母戦艦も撃沈」僚艦による攻撃も成功した。

 特に300m級旗艦「皇帝ガリル3世」号はキールの真下で89式長魚雷の爆発が同時に起こり、衝撃波と爆発運動によりキールにダメージが入り船体に亀裂が入り浸水しながら2つに折れる。雷撃の見本のような攻撃である。


「雷撃長見事だ。よくやった。よし詰めは艦隊に任せるぞ、回頭する。取り舵90、前進、深度30m固定、急ぎ海域離脱」海中通信で僚艦にも伝え、潜水艦隊は戦域離脱していく。

 潜水艦隊の成果は10艦の攻撃により帝国旗艦1隻、空母戦艦1隻、戦艦32隻、駆逐艦55隻である。帝国艦隊は海自潜水艦隊群10艦の攻撃で帝国艦隊の旗艦、空母を含む約1/5を一瞬で沈められ、何が起こったのか解らなかった。しかも海中からの攻撃などアトラム王国が使う大ウミヘビ以来である。ただし大海蛇は1匹しかいない為に離れて海上を攻撃すると直ぐに逃げるのだが・・・


 生き残った艦艇も旗艦や戦艦に迫る軌跡は確認していたが、まさか爆弾が海中を進み爆発するなど理解外の出来事であった。

「司令、艦の真下で爆発音、キールが折られました。沈没します避難・・・」とトリムスが言い終わらない内に船体は2つに折れ両方が急激に沈む。逃げる時間は無い。乗組員も旗艦の沈む渦に巻き込まれ船体と一緒に沈んでいく。


 フォン・カメル帝国第1艦隊司令も何が起きたのか解らないままに船と沈んでいく。幸運なのは船体が折れた時に投げ出され意識を失っていたため、沈む事を感じずにすんだ。

 

「旗艦が沈むぞ」「次は俺たちだ、逃げろ」「飛び込め」「敵の姿は遥か向こうだ、こちらは届かん」「くそ神様」無神論者でも神には祈るのか・・・


 潜水艦隊群の第1次攻撃は完了して退避運動に入っている。



 日本交渉第2艦隊司令に入電。

「松本司令、潜水艦隊群からの通信です。「以後まかせる」と来ました。」

 日本側交渉第2艦隊の旗艦DDH-182「いせ」、艦隊司令の松本はブリッジで僚艦の動きを見ている。

「CIC聞いた通りだ、第2艦隊で最後は仕留める。」「CIC了解」

「CICより目標マークは既に完了。距離50~80Km範囲に400隻近く居ます。」


「CICへ、各艦の攻撃範囲指定。武器使用は無制限とする。戦闘時間は30分、それ以後は救助とする。」


「CIC了解、艦隊範囲固定、同時多発攻撃をします。使用弾種ハープーン及び90式艦対艦誘導弾。同時に大型艦60隻行きます。次は大型艦と小型艦を100隻。「いせ」航空隊はワイバーン直上護衛隊の攻撃よろしく。」

「いせ航空隊了解」空母戦艦から飛び立った直上護衛のワイバーンは10匹である。

「いせ」航空隊4機高高度で帝国第1艦隊に忍び寄り、ハープーンや艦対艦ミサイルの邪魔にならない様に高度2000mまで降下してワイバーンを誘い、帝国艦隊上空から3km程右におびき出し対空ミサイルを撃つ。

 10匹のワイバーンは2000mも上昇できない。上空から撃ちおろされたミサイルに狙われ、逃げ回るがミサイルが付け狙い確実に当たる。島に逃げ込んで地上でやり過ごせば逃れられるかもしれないのだが、そんなワイバーンなど1匹もいない。そもそもそんな訓練は積んでない。


「第2次攻撃、開始します。」「いせCICより各艦次の目標マーク次第攻撃。」

 帝国艦隊に空から黒い点が迫る。しかしそれが何なのか帝国兵士は誰も解らない。

「空から何か飛んできます。」観測員が報告するが艦長にそんな経験はない。

「なに、回避運動開始。僚艦に気を付けろ、間違っても衝突だけは避けろ。」


「艦長黒い点が追いかけてきます。」「そんなばかな」「僚艦にもそれぞれ向かっています。」

「あっ点の高度が下がって・・・・」戦艦の横腹に穴をあける。浸水により戦艦が傾きやがて静かに沈んでいく・・・

 ある戦艦は煙突部分に対艦ミサイルが飛び込み<ボイラーが爆発を起こし船体が飛び上がり折れる。船底にて爆発が起こった様子。撃沈していく。

 GPSが使用できない為に80Kmの距離から慣性誘導(ins)で命中精度は下がるのだが、海自日本交渉第2艦隊は訓練の成果を存分に見せつけた。


 駆逐艦なども例外ではなく、内部爆発を起こして沈む。特に駆逐艦は船体が薄いのか簡単に沈んでいく。


 帝国第1艦隊は出港から1時間でその艦隊の殆どの艦が沈むか大破で、戦闘できる艦艇は1隻もいなくなった。


「司令時間です。」

「わかった、撃ち方止め、用具収め、以後救助に専念。抵抗ある帝国艦はDDに任せる」

「了解、「あさひ」「てるづき」「すずつき」各艦は救助隊護衛、抵抗ある場合は自由戦闘を認める。」

「以後全艦救助作業にかかれ、「いせ」航空隊は直上警戒、救助敵兵は「いせ」に集める。重傷者は医療施設に収容。」

 各艦艇や「いせ」からも救助用のUH-60Jが複数飛び立つ。また各護衛艦から救助用に作業艇が出され帝国兵士を回収していく。


 救助された帝国兵士は「いせ」に作られた多目的室や待機室、格納庫に集められ、海上自衛隊監視の中、水や食料を与えられ簡単な傷ならその場で治療された。重傷者は「いせ」の医療施設で手術などが行われる。


 帝国兵士なら捕虜は即首を刎ねて、その数により昇進が決まるのだが、海上自衛隊は帝国兵士に水食糧を与えてくれる。海水を飲み込んだ水兵達に真水はありがたかった。

 次々と帝国兵士が運ばれてくる。将校は別の部屋で取り調べが行われているが、一般水兵達は大部屋で名前と所属艦名を聞かれるだけであった。しかもツール要塞港にて解放されるらしい。

 

 解放されて帝国に捕まると奴隷にされるとまで説明を受ける。「前に聞いた帝国陸軍と海軍の第3艦隊捕虜がドルステインで解放され、すぐに帝国第5師団に捕らえられ尋問や拷問の後に奴隷に落とされたとの噂を・・・」海自隊員が大陸語で説明をする。

「それは本当か」「本当だ、知り合いが奴隷落ちした」「港に着いたら逃げよう」「そうだ逃げるしかない」


 帝国水兵は逃げる事ばかり考えていた。当然なのであるが奴隷落ちは一生家族に会えず、死ぬまで働かされる。一番ひどいのは帝都近くのトラマ石炭鉱山で働かされる事で、死ぬまで出られない。監獄の方がマシであった。


 捕らえた幹部は殆ど駆逐艦や戦艦の艦長であった。中には真っ先に逃げた者もいたようだ。水兵達がある幹部を指さして何か言っている。汚い大陸語で罵っている様だ。なにがあったのだろう。


「司令、そろそろツール要塞港を無力化する艦を送り出す時間です。」

「そうか、引き続き救助継続、DDG-174「きりしま」、DDG-172「しまかぜ」は要塞砲無力化の為に艦隊離脱後ツール要塞港に向かい、対地攻撃及び対要塞砲破壊を命ず。」「きりしま了解」「しまかぜ了解」


 2艇は救助に当たっている作業艇を回収し、救難ヘリは「いせ」に預け引き続き救助業務をさせると、ツール要塞港に向けて進路を変える。


 ツール要塞港に2艦は20Kmまで近づき、先に砲撃で次々と要塞砲を沈黙させ、次に主要な帝国施設を破壊する。

 「いせ」のF-35Bも2機が対地攻撃に参加した。主要施設に500ポンドMk.82通常爆弾を投下して行く。

 要塞砲の上部にも爆弾を投下して砲も再使用不可能な程に潰す。


 こうしてツール要塞港に備えられた要塞砲(20センチ砲)6門は次々と破壊され、帝国第1艦隊司令部も破壊された。これで無力化された港に障害も無く捕虜返還ができる。

 港に係留された帝国第1艦隊の補給船約1500隻は何の抵抗もせずに水兵達は船を捨てて逃げだしている。

 のちのちの為に、「きりしま」と「しまかぜ」は補給船を次々と砲撃して大型補給船の殆どを破壊または火災による沈没をさせた。特に石炭運搬船は良く燃えた。



 2時間遅れで「宰相失礼します。ツール要塞港より係留中の第1艦隊補給艦隊と要塞砲が破壊されたと連絡がありました。敵は2隻と変な飛ぶ機械から爆弾が落とされたとの事です。」


「なに、ツールもやられたのか、して敵は日本か」

「はい、飛ぶ機械に赤い丸があったそうです」

「それは日本だな、同時にドーザ大陸西側拠点を攻撃したのか相手の数を知りたい。そして帝国第1艦隊は無事なのか。」


「それは確認できません。呼びかけにも応答なく・・・」

「なぜそれを先に言わん。第1艦隊はやられたのか確認しろ。港から400Km以上離れて通信が届かんのではないか・・・」

 サイネグ宰相は帝国第1艦隊が全滅したと頭では解っていても聞かずにはいられなかった。

「それは解りません。しかし呼びかけに応答が無いのも事実です。」


 サイネグ宰相は少し冷静になって「よろしい、引き続き第1艦隊に呼びかけを行え、時に第2艦隊は如何なのだ、応答はあるのか。」

「いえ宰相、第2艦隊もありません。」

「もう1時間以上経過しているではないか、途中の街のエルフがサボっているのではないか、こんなに連絡が取れないなど過去ないぞ、引き続き両艦隊と連絡を取り報告せよ。」


「はい、かしこまりました」と言いながら通信係は下がる。


 一人になったサイネグ宰相は「まいったな、相当予定より早いぞ」と独り言を重ねるのである。

 宰相は既に帝国艦隊が全滅した事は、事実なのだと確信している。


 サイネグは専属執事を呼び、「これを早馬で届けよ」と封書を渡す。「かしこまりました」「良いな、いつも通り他言無用で頼む」「早速手配いたします」


「これでルートと金はできたな、後は抜け出す時を見計らうだけか」独り言が多くなるが、人は自信がないと独り言で自分に言い聞かせる事が多くなる。サイネグ宰相は帝都を、帝国を、抜け出す事が皇帝を裏切ることになる事は理解している。それがばれた時は、サイネグ宰相の命が終わるときである。皇帝は宰相と言えど「うらぎり者」は死罪と決めている。しかし、残っても日本に捕まり最悪死罪だろうとも思う。例え日本でも・・と。



 帝国水兵を港町で解放した交渉第1艦隊とドルステイン駐留艦隊はそれぞれの港に戻る為に大きく回頭して離れていく。


「藤田司令、統合幕僚長から指令が届いています。」ドルステイン駐留艦隊参謀長の田代1等海佐が報告する。


「見せてくれ・・・・これは」


「はい帰港が遅くなりそうです」


「なにか問題あるか」


「特にありません。強いて言えば補給ですが、補給艦から海上受け渡しで随時荷物を受け取っていますので問題ありません、ですが停止しての受け渡しの方が効率は上がります。」


「そうなのだが・・・この命令は砲艦外交だ、急がねばなるまい。」


「砲艦外交ですか・・昔戦艦で行った事は歴史で知っています。」


「いや最近も東南アジアやヨーロッパに対して護衛艦を派遣して艦内を解放しているぞ。我々もそうする様にの命令だ。」


「ですか・・急ですね、仕方ありません。手配します。最初はドリマとありますが、よろしいですね。」


「うむドリマで良い。」ドリマ港街は、小規模要塞都市ハリタに近く、ドーザ大陸西側の要塞港を除けば、一番大きな商業港で、市場もあり賑わっている。商人もドリマからハリタに向かう者も多く、距離も750Km程度であり、途中のソレル要塞都市やロハ村を経由して要塞都市ハリタに至る。遠征する商人はハリタからリリコネ経由で帝都に向かう。これは1800kmの距離であるがその分日本国や海上自衛隊の噂も広まりやすい。


 ドリマ港には以前に陸自第7師団遠征交渉隊が訪れて領主との平和条約を取り交わしている。


 第1交渉艦隊はアトラム王国南ロータス港にもどるが、彼らドルステイン駐留艦隊は補給を受けながら、フマラ要塞港沖から約1000km先にある、ドリマ港街を目指す事になった。


 海上での荷物受け渡しを行っているので速度は15ノット程度の中速で進んでいく。

 

「司令、トリマ港街到着は35時間後、明後日早朝03時となります。沖5km待機でよろしいですか。」

「そうしてくれ」「了解」


 翌々日03時頃時間通りトリマ港街沖5kmに海自ドルステイン駐留艦隊は到着した。

 まだ空は暗く沖のシルエットは港町の民にばれていない。


「司令、補給も終わりましたので補給船AOE-421「さがみ」とAOE-424「はまな」を日本に戻して再輸送させます。宜しいですか。」

「うむ武器弾薬の補給は十分か。」「はい、戦闘前の水準に戻っています。」

「では故障等不都合はあるか。」「DD-118「ふゆづき」艦載砲の砲身命数が減っていますが、まだ交換するほどではありません。他は無いと思います。現状では。」


「よろしい、本日12時に上陸隊を向かわせて、ドリマ港に許可を取るぞ。領主は何と言ったか・・・」

「アルチーナ男爵です。」「その男爵に許可を取ってくれ。」「かしこまりました」


 

 翌朝1130時にDDH-181「ひゅうが」より作業艇が2艇下ろされ、港に向かっていた。

 副艦長が指揮を執り、ドルステイン駐留艦隊から上陸隊が21名で編成され、藤田司令の親書を持ち接岸交渉に向かう。「うまくいくと良いですね。」「陸自さんが交渉済みだから危険はないだろう。」


 岸壁に作業艇が到着すると、警備兵が走りながら来た。港の荷揚げしている人夫から連絡を受けて控え所から2名走って来ていた。警備兵は平服に剣のみ持っている。敵なら確実に殺されているだろうにと堂本は思う。

「オッォお前たちは、あの船から来たのか」と息をはずませながら警備兵は言っている。


 上陸班班長で「ひゅうが」副艦長の堂本はポケット翻訳機を駆使して答える。

「はい、あの日本船から来ました。領主の館まで案内を頼めますか。」

「なに、あれは日本の船なのか、弱そうな船だな。少し待て。」と言うと同僚を責任者の待つ控え所まで走らせた。

 堂本は苦笑しながら「ええお待ちします」と答える。

 上陸隊を2つに分けて、21名の隊員のうち15名を作業艇や付近の警備に、5名を堂本と屋敷同行に割り振った。

「弱そうか」と堂本は思い出しながら笑う。

 帝国艦船の基準から見ると護衛艦は砲が1つで弱そうに見えるのは当然だ、だが彼らに「ひゅうが」の全通甲板はどの様に見えているのだろうと、堂本は興味が沸いた。


 控え所から責任者らしき者がゆっくり歩いて近寄って来た。恰幅が良く少し太り気味の責任者は「日本から来たと聞いた。日本からの客は通せと男爵に言われている。セギル、アルチーナ男爵の館まで案内しろ。」

 セギルと言われた警備兵は「えー」と言う顔をしたが「はい送ります」と言い「ついて来て下さい」と言いながら歩き出した。


 ドリマ港街は珍しく平面な街で特に小高い丘も無い。「台風が来たら水浸しだな」と堂本は思うのだが、転移してから雨はあるが台風のような超低気圧接近の経験はなかった。

 意外にもドリマの街は倉庫街、商店街、宿泊所街、住宅地など計画的に整備されていて、建物は白色の壁色で屋根は茶色で統一され、まるでギリシャの港町の様に整っている。

「この街を設計した者は優秀なのだろう。」と堂本は隣の部下に言う。「そうですね、リゾートにいる気分です。」と答えた。


 港から徒歩10分で大きな屋敷に到着する。他の建物と違うのは領主館だけは4階建ての大きな建物で何人も泊まれるほどの広さである。特にリゾート感があるのは、建物のバルコニーから港が見える作りである。リゾートホテルによくある作りの雰囲気であった。

  

 アルチーナ男爵は窓からドルステイン駐留艦隊を見ていた。

「あれが噂の日本艦隊か、ドルステインに来たとは聞いていたが、ここまで来るとは何用だ。」と独り言を言うと、執事に「下で出迎えを頼む」と指示をする。

 アルチーナ男爵も元帝国海軍の将校ではあったが、帝国第1艦隊とアトラム王国第1艦隊が戦闘になった際、帝国旗艦「皇帝ガリル3世号」の正面に戦艦カメオンを向けアトラム王国の砲撃を全てカメオンが盾となり受け、戦艦は沈没したが、就航したばかりの旗艦「皇帝ガリル3世号」は砲撃から守られ、結果は帝国第2艦隊が間に合い引き分けとなった。お互いに戦艦、駆逐艦が20隻程度大破、沈没は帝国戦艦カメオンだけであった。


 アルチーナとカメオン乗組員は助けられ、旗艦及び皇帝の名を守った事で表彰され船長アルチーナは男爵を授爵され、生き残った部下達も特別ボーナスと休暇を貰い故郷に30日も帰っていった。

 それだけ危ない状況であったのだ。それに帝国も英雄が必要だったと言う理由でアルチーナは40歳で男爵となり、港町ドリマ領主を拝命していた。その頃のドリマは小さな港町であったが、皇帝ガリル3世より賜った報奨金により、都市計画を作り、街を拡張して西側最大の港町にまで発展を遂げた。アルチーノ自身は海軍に戻りたかったのだが、任せられるものもいないので、自ら発展の中心として手腕を振るった。


 男爵は街作りに秀でた者として、近隣の街や村から男爵への面会を求める領主が多く、アルチーノ自身は外交的ではなかったのだが、環境が変えさせていた。


「いらっしゃいませ、領主がお待ちです。」と外門で待っていた執事に挨拶された。

「私は日本の堂本と言います。日本艦隊司令の書簡をお持ちしました。」と執事に渡す。

「ついてきてください。」と執事は書簡を受け取り歩き出す。


 堂本は慣れない外交に苦笑しながら歩き出す。 


 男爵屋敷の玄関にはウサギ耳の獣人やエルフがメイド服姿で整列している。

「おっ男爵は差別しない様だな、話がしやすいと良いな。」と堂本は歩きながら思うが、まるでアニメの世界だなとも思う。


「お待ちしておりました、ご使者様」と声をそろえて言われた。

「●●●喫茶か」と堂本は心で突っ込む。聞いた同行隊員は、思わず噴き出す者がいた。

「失礼だぞ」と大陸語に変換して言う。堂本は内心冷や汗をかいていた。同じ事思ったからだと・・・噴出さなくて良かったと。


「日本からの使者、堂本です。艦隊司令の親書をお持ちしました。」と挨拶する。

 執事長らしき年配の執事が「男爵はお待ちです。こちらにどうぞ」と言うと入り口広間の階段を上がり二階の応接室に通された。

「退避路まずくないですか」と隊員が日本語で言う。「いざとなったら階段と入り口確保」とだけ言う。


「どうぞこちらの部屋です。」と案内され、一段と豪華な大部屋にソファーが沢山並んでいる。まるでアラブの金持ちの応接みたいだ。来客が沢山あるのであろう。


 少ししたら男爵がメイド6名を連れて入室して来た。

「遠い所をわざわざありがとうございます。」と男爵は先に挨拶する。

「いえこちらこそ、お会いできて光栄です。」と堂本は立ちながら挨拶を返す。内心では「しまった」と思う。

「親書拝見させていただきました。港で艦船を公開したいと言う事ですね。歓迎します。日本など知らない民がほとんどです。異国文化を見る良い機会です。」


「それは皆さんを歓迎します。」


「でっ何が目的ですか。ははは」


「いや目的など有りませんよ、皆さんに日本がどういう国か知ってほしいだけです。」


「それだけですか。ははは」


「はい、それだけです。」堂本は男爵に押されていた。苦手だなと心で思う。


「そうですか、日本の戦艦は小さいし迫力もない。みんな感心しますかね。・・・そうだ少ない人数で良いので砲撃訓練などしていただくと良いかもしれない。」


「それなら出来ますよ。訓練用の標的と訓練弾もありますから。」


「おおそれは良い。みんな楽しみにしてくれるはずだ。親書では港に日本の食事も用意できると書いている。ここは王都と違い貴族もいないから舞踏会もないので、民との宴は大歓迎だぞ。」


「はい、私どもも皆さんに喜んでいただけるのであればうれしい限りです。」


「そうであるか、して目的は。はははは」意外としつこい。


「日本を知ってほしくて開催します。」


「そうか楽しみだ。時期は明後日昼の11時からで良いか?4時間程度お祭りだな。」


「はい明後日11時から15時ですね。訓練は50名程度を抽選で宜しいですか。勿論男爵様以外の人数ですが。」


「よろしい、よろしい。楽しみだ。こんな小さな町にいると楽しみが少なくてかなわん。」


「では戻って伝え、明後日の準備をいたします。男爵様は先に10時頃お迎えに上がっても良いですか。艦隊司令との会食を用意します。同行者は4名でお願いします。」


「4名か・・6名にならんか?」


「そうですか、では6名で。お迎えは10時に港に私が参ります。」


「そうか貴殿が来てくれるか、なら安心だ。全て顔色に出てるから、たぶらかされる事もあるまい。ははははは」


 (そうか顔色に出ているのか)と堂本は反省をする。

 お茶も菓子も6名の前に並んでいるが手を付けない。

「男爵、これは司令からの手土産です。日本の酒とお菓子です。」と言いながら同行隊員がメイド達に渡す。

「それはありがたく頂戴する。」と男爵は礼を言って退室する。メイドが続く。


「ふぅー」堂本はため息をつくと立ち上がり退室しようとドアを開ける。

 廊下にはメイド達が10名も並び皆で礼をする。堂本はびっくりした。


 礼をしたメイド達は先だって歩き玄関まで堂本たちを引き連れ、縦に並び「本日は領主様にお会い頂き有難うございます。お気をつけてお帰り下さい。」とまた同時に言われた。

 堂本は噴き出したいのを堪えた。また噴き出した部下がいたが、「こいつは外交には使えない」と自分を棚に上げて思うのだった。

有難うございます。また長くなりすいません。

書き終わって訂正を筆入れすると加筆が多くなり長くなります。

文書力があがるポーションが欲しい・・・トホ

誤字脱字報告ありがとうございます。

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