第98話 帝国崩壊 その3
第98話を投稿します。
いろいろ動きがあります。奴隷市場・・・かわいそうです。
ミソラ達はドーザ大陸東の端にある漁村まで来ていた。
「ねっミソラ、あれ漁村だよね」とミリナが大騒ぎする。
「攻撃も予想されるから、騒ぐな」とタトルに注意される。
「ちぇー久しぶりに人に会えるのに、タトル嫌い」
「ミリナ、タトルの言う事は正しいよ、皆が味方ではないしここは帝国よ」と優しく諭すミソラ。
「ミソラ、村に挨拶行くでしょ。一緒に行くよ」ソラはミソラに聞く。
「そうね行きましょうか」
帝国最東にある漁村は帝国領である。
「あれま、珍しいお客さんだ。しかも北から来るとは」と髭をはやした逞しい村人が言う。
それにつられ女、子供も騒ぎ出す。
「あのー冒険者のミソラと言います。村長さんは何方にいますか。挨拶したくて」
「冒険者さんでしたか、村長はあの大きな家ですよ」漁師の女が言う。
「お邪魔します。私たち冒険者のミソラと言います。入ってよろしいですか」
「おお冒険者だと、ひいひい爺さんの話以来だぞ、はいってはいって、ろくなもてなし等できんが泊まっていってくれ」村長らしき人物は歓迎をしている。
「ミソラ、入ろう」とソラが引っ張る。
ミソラ達一行は村長の家に入っていく。
家は簡素ではあるが大きい広間があり、村人全員が入れるほどの広さがあった。
「よう来なさった。おんしらは何処から来たんだね」少しなまりがある村長が聞く。
「初めまして、ミソラと言います。この大陸を北から南に歩いてきました」と説明する。
「えっ北から、だとしたらシーワームやドマフラと戦ったのか、凄いな」
「あの大きなミミズ、シーワームと呼ぶのですか、それは戦いました。斬ると分裂するあれですよね」
ソラやミリナ達は、村長の娘さんからお茶を出してもらい、干した小魚をつまみに飲んでいた。
「この小魚美味しいね」「お茶変わった味だな」「でもおいしいよ」
村長の前なのに好き勝手言っている。
ニコニコしながら村長と娘は見ている。
「ところで、この村は帝国の一番東だと思いますが、名前はありますか」とミソラ。
「帝国と言うか大陸の東端である事に間違いはないが、名前などありゃせん」
「でも、何代にも渡って住んでいるのですよね」
「ああそうだ、儂のひいひいじいさんの時代からだから150年位か。村の名前を気にした事は無いぞ」
「ですが、帝国の街に魚を売りに行ったりはしないのですか、街に入るときに書くと思いますが」
「ああそんときは、東村と書く。はははは単純だろ」
「はぁ東村ですか・・・」
「ところでおんしらは、どこに向かっているのだね」
「はい、帝国の街に向かおうと思います」
「だば、ここから西250Kmの森ん中に大きな村がある。そこから南に500Kmが港町ドルステインだ、ここらで一番近い大きな街だな」
「港町ドルステインは聞いたことがあります。そこに行きます」
「今夜は泊まっていけ、なんもないが魚だけは豊富だぞ」と村長も冒険話を聞きたいらしい。
「わかりました一晩だけお世話になります」とミソラはあきらめた。
「おいミナ、皆に今日は宴会だと伝えてくれ」「はーーーい」とミナと呼ばれた娘が外に出ていく。
「ねぇミソラ・・魚ばかりだと嫌だよ」ミリナが我がままを言うがミソラは無視する。
「ミリナ大丈夫だよ、熊肉猪肉兎肉たっぷりあるから安心して」とドネルグ。
夕方から宴会は始まった。
「皆集まったか?いない者はいないな。紹介するぞ100何十年ぶりに来た冒険者のミソラさん達だ。みんな歓迎する様に」と村長が紹介する。
「あっはい、私たちはアトラム王国で冒険者をしているミソラ・ロレンシアと剣士トムス、剣士タトル、魔導士ソラ、魔導士ミルネ、荷物持ちのドネルグにヒーラーのミリナがメンバーです。縁がありまして、アトラム王国から海を越えて、ドーザ大陸の東に到着して、それから冒険をしています」ワザと日本の事を言わずに説明する。
「あれま、アトラム王国から来たのか遠かったべ」「アトラム王国と帝国は戦争しているのでは、噂だが・・」「海渡ってって、来れるものではないべ」など村人はざわつく。
「皆静かにしろや。話聞くべや」と村長。
「有難うございます。確かに王国と帝国は戦争していますが、私たちは冒険者でして、単純に冒険旅行をしています。ですから帝国と戦うつもりはありません。素敵な冒険話を作りたくて来ました」
「ところでよ、ドーザ大陸東と言うけれど殆ど危険な森だべ、危なくはなかっただか」と村人。
「はい、危険な動物もエルフも獣人も居ましたよ。それにハイエルフ様とお会いしました」
「えっ女神様とあっただか。儂のひいひいじいさんもあったと言ってた。嘘だと思っていたが本当に居るのだな」
「はい、ハイエルフ様は村を作って暮らしていましたよ。とても素敵な体験でした」
「おおおお」村人はどよめく。元々ルミナス王朝時代は女神信仰が推奨されていたからだ、帝国から遠く離れた村には、まだ信仰の欠片が残っている。
「女神様・・・」
こうして夜が更けるまで宴会は続き、ミソラ達も冒険話を次々としている。村人達は東の海に大きな島がある事を、その島が時々山頂が光る事を伝えていた。そしてその島のもっと南には大きな大陸があって、行くと幸せになれると信じていた。しかし遠いために大きな船でないとたどり着けない事も解っていた。
陸自第7師団第7特科連隊は師団合流に遅れていた。
チロルの森駐屯地に届いた19式装輪自走155mmりゅう弾砲を拝領していたからだ、155mmりゅう弾砲の代表であるFH-70は1970代生まれであり、操作は全て手動で行い、発射準備に時間がかかりすぎる。
そこで155mm砲を換装するにあたり国産化を目指していたのだが、車体はドイツ製8輪トラックを流用していた為に、転移した時には車体輸入ができない状態が続き、国産大型8輪トラックを急遽開発をしていた。
2020年当時はまだドイツ製車体での試験を繰り返していたのだが、2022年に転移後車体開発と試験を同時に行い、2023年に、ようやく引き渡されていたのである。
19式装輪自走155mmりゅう弾砲は車体も砲も国産となり、新型と呼ぶべきなのであるが19式装輪自走155mmりゅう弾砲(改)で正式承認されたのである。
19式装輪自走155mmりゅう弾砲(改)は従来の99式自走155mmりゅう弾砲は4名での運用に対し、5名での運用になった。しかし最新の弾道コンピュータを搭載しており、座標と気温風速をタブレットに入れるだけで(気象観測車からのデータリンクもできる)自動で計算してくれる。またTOTにも対応しており、C4Iや火力戦闘指揮統制システム(FCCS)によりリンク運用が可能となっている。
この最新榴弾砲の受け取りと、チロルの森演習地での1か月に及ぶ訓練を受けて正式配備となった。
第7師団第7特科連隊は最新砲と共に、最短距離で要塞都市ミルドの西に作られた検問所に向かっている。
途中、要塞都市ミルドで第7後方支援連隊と合流して、検問所付近への展開を終わらせていた。
しかも新型砲はトラックタイプとなった為に展開速度は向上している。
なお19式装輪自走155mmりゅう弾砲(改)は99式自走155mmりゅう弾砲の全ての砲弾が使用でき、新開発の155mm23式弾(焼夷弾、フレシェット弾)も配備されている。
陸自第5師団第5特科連隊と第5戦車連隊もムリナ街の東50Km地点の検問所に展開を完了している。
陸自第2師団は第7師団と合流すべく、交易都市ドミニクから要塞都市ミルドに向けて転進している。各師団の施設大隊は各検問所の防御拠点化の為に掘を作り、防護壁を街道に建てている為、知られず抜けるのは困難である。
街道には至る所に注意看板を大陸語で掲げ、検問所に入るには身分証、目的、行き先を明確にする様に求めている。
ただし基本商人達は品物があれば、また買い付け金を所持していれば通行できる。
各街と村の間の物流を止める訳にはいかない為の措置である。
ただし村人や街人の行き来は制限させてもらった。スパイ行為を警戒しての事であり、不必要な交流も禁止させていた。
こうして、帝都包囲網は確実に形成され、自衛隊にとって懸念は帝国第1師団、第2師団の生き残りのみとなっている。
航空自衛隊はドフーラに作られた航空基地から偵察を行い、各師団の移動状況や帝国師団の位置など正確に捉え分析していた。
ドフーラ航空基地にはF-2をはじめF-15J、OP-3C、E767に輸送機や空中給油機なども勢ぞろいしている。
特に日本側は入間航空基地-千歳航空基地-宗谷特別自治区航空基地-ドフーラ航空基地の各基地間の連絡も順調で物資や人の輸送は活発化している。
特に宗谷特別自治区航空基地をベースにしていた航空自衛隊はその配置機のほとんどをドフーラ航空基地に転進させている。
ドフーラ駐屯地の建設を終えた各施設隊は原隊へ戻り、ドフーラ駐屯地周辺はドーザ大陸方面隊第3施設団がインフラ整備を担当している。現在は施設団とドーザ大陸方面航空隊が協力して、交易都市ドミニクの西にそびえる山脈の内、ドミニク市民がドフムラ山と呼ぶ標高2500mの山頂に無線中継アンテナと気象レーダー、それにGPS地上アンテナ設置を行っている。帝都攻略には必要な施設である。
なお、ドミニクと西の山脈の中間点には広大な荒れ地が広がっており、そこに臨時短距離航空基地を第14施設群が担当して建設を進めている。
1000m級の短距離滑走路2本と管制塔、格納庫、整備棟に弾薬庫に宿舎の建設を行っていたが、すでにほとんど完成していてA-1軽爆撃機はいつでも飛び立てる状況である。
完成したばかりのドミニク郊外の航空基地には、本土から輸送機が次々と飛来して弾薬を補充していく。
航空基地には簡易な燃料タンクも完成していた。
帝国第1師団騎馬隊のエル・トーマス男爵は更に悩んでいた。
領主館であった、陸上自衛隊の本橋なる人物は帝国兵士に似ているタイプはいない。強いてあげるとすれば自分が一番似ていると思う。その考え方や自信、そして状況を広く見る目と柔軟な思考。一部は自分よりも上であると認めざるを得ない。彼の話では、そんな人物が沢山いて作戦を指揮しているとか、帝国の様に命令を受ければ妄信的に戦闘する心を持たない機械とは違う。
そんな訓練されて優秀な士官がいる軍隊と対等に戦えるものだろうか。
エル・トーマス男爵は40年もの帝国軍人人生で初めて恐怖を覚えた。
部下達を失わずに戦闘する為にはどうすれば良いか、もう2日も悩んでいる。
その頃、帝国第2師団は小規模要塞都市ハリタを出発して、交易都市リリコネにあと70Kmで到着寸前であった。3日もあれば到着し、帝都までは更に5日となる。
陸自第7師団第7偵察隊も領主(代表)との面会を終え、交易都市リリコネの包囲網を解除して、東門に偵察小隊を集合させていた。交易都市リリコネについては、商業都市であるので通行料を払えば誰でも通過できる事。敵とは言え規定に則れば通行許可を出すそうだ。
交易都市リリコネは皇帝陛下より特別な許可を貰って運営しており、市内の各ギルドの代表者が集まり通商会議が開催されて、その代表による自治が認められている程の大きな市場を要する巨大商業都市である。
しかも敵が交易都市リリコネを攻撃すると近隣の要塞都市が協力して撃退すると言う決まりがある。その為に各要塞都市に年間幾らかの代金を渡し、都市護衛も任せている。交易都市は帝国にドミニクとリリコネの2つしかないが、平民に自治権が渡されているのはリリコネだけである。
第101特殊普通科連隊第1中隊第3小隊長の元帝国兵士アルタは第7偵察隊と無線で連絡を取り合い、リリコネ郊外で会う約束をしていた。リリコネ市内の宿屋にて詳細な話をすると、誰かに聞かれる恐れがある為に商人を装い帝都に行く振りをして合流地点へ向かっていた。
「隊長あれです」と部下が街道の遠くに赤い光が点滅している方向を指さす。偵察小隊長が持つ赤いフィルターを付けたミニマグライトが点滅している。支給品ではない。赤の点滅が合図であった。
「月夜は明るいですな」と第7偵察隊第4偵察小隊隊長が声をかける。
「いや満月はもっと明るいですよ」とアルタは答える。
「宴会でもしたいですな」と偵察小隊長が返す。「本当ですな。ビールが良いですな」とアルタは言い敬礼する。帝国にビールは無い。
「潜入情報収集ご苦労様。こちらへ」と偵察小隊隊長は労い、軽装甲機動車に入るように伝える。
「情報を頼む」と偵察小隊長。
「はい、リリコネは商人代表による統治が認められている事はご存じですよね。
街中は比較的安全で粗暴な者も表面上いません。ですが、暴力組織、反政府組織などは地下に潜って活動しています。
奴隷市場も公には無い事になっていますが、暴力団開催で夜中に建物の地下で取引が行われているようです。
また、最近なのですが、ルミナス王朝復興を目指す「女神信仰団」と言うのが現れまして表面上は旧宗教の女神教布教を唱える団体なのですが、どうやら実態は帝国が滅んだら武力によりルミサイア王女を擁立して王朝の再建を目指しているらしいです。日本と接触するらしいと情報が入りましたが、交渉はありましたか?」
「いや我々には無い。他の小隊も無い筈だ」
「そうですか、何れあると思います。
それから、地下で奴隷市場を開催しているのは暴力団最大組織のミルタ団で、黒幕は交易都市代表のユリナリスとの事です。
表向きはユリナリス商会会頭ですが、暴力団の頭でもあるらしいです。ここはもう少し調査します」
「それは是非頼む。奴隷市場など潰さねばならぬ」
「はい、これが解ったのは元帝国第5師団第3中隊に知り合いがいまして、一緒に自衛隊捕虜になったのですが、奴は故郷に妻と1歳の女の子が居て、帰りたく港町ドルステインでの捕虜返還交渉を期待して送られたはずなのですが、3日前夜中に彼を見つけ、彼は檻付きの馬車に乗せられ連れていかれました。
馬車をつけた所、ユリナリス商会の倉庫前に止まっていました。入り口は5名もの警備がいて中は伺えなかったのですが、どうやら10人程の奴隷が売り買いされて、翌朝馬車が何台も来て倉庫から人を載せていました。友人は見なかったのですが、手枷足枷されたエルフや獣人もいました」
「それはまるで奴隷市場の様だな」
「ええ、我々もそう思います」
「しかし追及するなら確実な証拠が欲しい」
「了解しました。連隊本部に許可を貰い詳細調査の為作戦立案します」
「無理をするなよ。せっかく助かった命だ無駄にするな」
「わかっています。ですが帝国の為に戦い捕虜になって奴隷に落ちるなど有ってならない事です」
「それは理解する。有ってはならない事だ」
「報告は以上です。「女神信仰団」については引き続き情報収集を行います」
「了解、こちらは帝国第2師団に対する攻撃が決まった。現在はリリコネから西に70Kmの地点にいる。これを明日19時に爆撃を行う。以上だ。それと補給物資が届いている」
「有難うございます」
こうしてアルタは補給物資を積み込み、交易都市リリコネに戻っていった。
有難うございます。
次回も帝国崩壊の続きとなります。