表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘国家日本 (自衛隊かく戦えり)  作者: ケイ
第1章 日本転移と自衛隊激闘編
100/251

第97話 帝国崩壊 その2

第97話を投稿します。

すいません長くなりました。・・・トホ


 帝国第1師団騎馬隊のエル・トーマス男爵は悩んでいた。


 それは、街に流れるチロルの森で壊滅した帝国陸軍の噂や、魔道通信よる師団内通信の情報、帝都におけるワイバーン隊全滅の経緯、これらを総合すると日本軍は帝国が勝てる見込みがないほどの軍隊で、彼らの持つ未来的兵器により帝国は抵抗する手段なく、壊滅的打撃を一方的に受けて、例外なく敗走している。と分析されている。

 帝国陸軍は1師団100万人の規模なのであるが、それを帝国よりはるかに少ない人数で神の兵器と共に撃退している日本は実に強敵であった。

 情報によると、相手に接近すらできずに一方的に撃退されているのであれば、高速打撃隊である騎馬隊が勝てる道理が無い。騎馬隊は高速で相手に接近して、速度を生かして相手に一瞬で切りつけ蹂躙する戦術でこれまで勝利して来たからだ。それが、相手に届く前に魔道か技術か知らないが、とにかく相手が見えただけで、こちらは全滅に近い被害を受けることになるのだ。

 

 最近、「帝国第2師団騎馬隊が全滅した」と、帝都に情報収集に向かった隊員が聞いてきた。噂ではあるが、今までの情報から判断すると、彼らは全滅したのであろうと思う。なにしろ第2師団は情報を集める習慣そのものがない。


 エル・トーマス男爵は、そんな相手に対して勝利できるシミュレーションを繰り返している。

 「奇襲」「突撃」「迂回」と初級戦術では太刀打ちできない事はわかった。

 ならばどうするか、エル・トーマス男爵は思い出す。帝都親衛隊が壊滅的敗北を負った事。帝都警備隊も居なくなった事。これを機に彼らが使用していた「銃」なる最新武器を貰い受け活用する事である。

 いわば、これしかない状況であった。


 第1師団騎士団隊長は書簡を書き、帝国陸軍大将も兼ねる宰相サイネグ公爵に送った。

 内容を簡単に説明すると、「これから、ご命令通りドフーラ奪還に向かう、状況を分析するに、敵は遠距離から自在に攻撃を行い、我々の剣は相手に届かない事が確認されました。つきましては、相手に一矢報いるためにも帝国最新武器である「銃」を是非貸与願いたい。これにより、我々は必ず皇帝閣下のお役に立てるものと信じております」と書き、返事を待つ。


 宰相サイネグは、執務室で帝国1師団騎馬隊が意外なほど状況を分析している事に関心をしていた。

「こいつら、思ったより使える」と呟くと、返事を書いて早馬でムリナ街へ届けさせた。


 内容は、「銃」は親衛隊専用武器である為に渡せないが、早急に師団本体と合流して帝都を守るために協力しろと言う、最初の命令を変更した物であった。


 受け取ったエル・トーマス男爵は「なんだこれは」と部下の前で驚くふりをして、部下達に手紙の内容を聞かせた。予想通り部下達は最初驚き、突然の命令変更に憤り、そして帝都を守る為ドフーラ行きが変更された事に安堵した。


 エル・トーマス男爵は突然の命令変更と自分の希望が聞き入れられない事に、「これは、きな臭い、なにかある」と気づき始めた。

 しかし、陸軍大将の直接命令であるから、エル・トーマス男爵達、帝国第1師団騎馬隊はムリナ街で師団本体を待ちながら情報収集に努めていた。



 陸自第5師団第5偵察隊は予定通り帝都包囲網を形成する為に、ムリナ街に到着して領主との折衝を始めようとしていた。


 ムリナ街は要塞化されていない通常の街で、門自体は簡素な物が建ててあるだけであるが、堀があり、はね橋が付いている。最悪相手が攻めてくればはね橋を上げ、多少の抵抗はできる構造である。ただし相手が剣や弓などの場合しか想定されていない。

 ムリナ街は帝都入り口の街として、市場があり、帝都に送る食料や生活必需品を買い付ける商人達が毎日の様に溢れていた。特に日本との戦争が迫っている事を商人達も敏感に感じて、備蓄の為の商品、干し肉や干し魚に傷薬などが人気の品である。市場は過去に無い程の活況を呈している。


 そんな大騒ぎの状況で、ムリナ街東門に日本軍が現れたと、騒ぎは加速化していく。

 帝都はムリナ街南門から400Kmの距離である為、仕入れを終わらせた商人達は南門に殺到して渋滞を起している。


 市内の宿を3件貸し切りで滞在している帝国第1師団騎馬隊は市民達の雰囲気に異様な気配を感じていた。

 隊員の一人が市民を捕まえ「なにがあった」と聞くと、「東門に敵が現れた」と言う。

 隊員達は真偽を確かめるために東門に向かい陸自隊を確認した。急いで隊長の元に走る。

「隊長、トーマス隊長、大変です。東門に敵が現れました」と報告する。

「して、敵の規模と武器等は確認できたか?」

「はい、灰色の鉄馬車が大中合わせて10台程、人は外に出ていないので確認しておりませんが、鉄馬車に砲が付いていました」

「なに、砲が付いているのか、それでは近づくことはできないのは当然だ」と言いながら考え始めた。



 陸自第5師団第5偵察隊は第1偵察小隊と第2偵察小隊が東門を、第3偵察小隊が西門を、そして第4第5偵察小隊は回り込んで帝都に近い南門を見張っていた。

 ここでの交渉役は第2偵察小隊に任されていた。


「敵が来るのが早すぎる」とトーマス隊長はため息交じりに呟き、「良いかもっと敵に関する情報を集めるのだ、我々が全滅しない為にも必要だ」と再度の情報収集に隊員達を向かわせる。


 陸自第5師団第5偵察隊第1偵察小隊及び第2偵察小隊は東門に対して、交渉の為に50m程度まで近づき、他の小隊は門から300m離れて監視を続けている。


 第2偵察小隊は手順通り東門の門番にムリナ街領主との面会を求めた。


「我々は日本から来た自衛隊である。争いを避けるために領主殿に会いたい、取次ぎを頼む」と第2偵察隊の本橋小隊長は手順通り、丁寧に交渉を行う。


「領主エルバン男爵様に聞いてくる。しばらく待て」と門番は伝え、仲間を領主屋敷に走らせる。


「うまくいくでしょうか」と部下は心配しながら伝える。

「大丈夫だと、信じたいが」と本橋。


 第2偵察小隊は車両に戻り第1偵察小隊と共に街道と門を閉鎖して、ムリナ街に睨みを利かせている。

 市民は門の中から心配そうに自衛隊を見ており、ひそひそと噂話をしている。

「あれがチロルの森で勝った日本軍なのか」「あの鉄馬車大砲が積んであるぞ」「あの魔道銃どこまで飛ぶんだ、逃げられるのか」「もう帝国もおしまいなのか」「どこに逃げれば良い物か」

 など、民衆の不安が増長していく。


「おまたせした。領主エルバン男爵様はお前たちとお会いするとの事だ。馬車を入れよ」と門を開く。

 市民達は一斉に道を空け、目の前の鉄馬車を眺めている。もちろん帝国第1師団騎馬隊の隊員も市民に紛れて見学をしている。


「市民に気を付けて進め、前へ微速」と本橋は命令を行い、第2偵察小隊の5両はゆっくり街に乗りこんでいく。第1偵察小隊は東門の外で警戒を続けている。


 第2偵察小隊は門番の指示に従い、領主屋敷にゆっくり向かい、屋敷の車寄せに軽装甲機動車を止めて、本橋と2名が屋敷に入っていく。

 残りの23式偵察警戒車(23RCV)4両は屋敷門と中庭を警備警戒している。


 屋敷の玄関に入った本橋は、迎えた執事に再度取次ぎを依頼し、すこしの間待つ。


「おまたせしました。領主であるフォン・エルバン男爵様はお会いになられるそうです。ついて来て下さい」と丁寧に案内される。


 玄関から中に入り、中央階段を見ながら、左の廊下に入り直ぐの部屋に通された。

 

 入ると大広間で、暖炉と大きな応接セットがあり、暖炉側が上座と判断し、本橋は入り口側に立ったまま部下2名と待つ。部下はソファーの後ろで89式5.56mm小銃を肩にかけて直立している。

 

 その頃、ムリナ街に要塞都市バロッサから第5戦車連隊の第3戦車中隊が到着した。

 90式戦車約20台が東門に到着して、師団本部から連絡があった帝国第1師団を警戒していた。

 ムリナ-バロッサ間の検問所はムリナ街から東20Kmに設置され、第5戦車連隊と第5特科連隊がうまく偽装されて控えている。


 本橋が控える応接室にフォン・エルバン男爵が入って来た。

「初めまして、日本陸上自衛隊の本橋と申します。貴重なお時間、ありがとうございます」


 フォン・エルバン男爵は少し意外であった。帝国陸軍であれば領主などぞんざいに扱うのが当たり前であるのに、目の前の敵国人は冷静で礼儀正しい。本当に軍人なのかとも思ってしまう。


「これは、遠くからようこそおいで頂いた。ムリナ街の領主をしているフォン・エルバンと言います。どうぞお座りください」と言いながら執事に茶を用意させる。


「しかし、2階から見ましたが凄い鉄馬車ですね。砲までついているとは初めて見ました」

「はい、我が国最新の23式偵察警戒車と言います。軍事力は保有していますが、一般民に対して使用するものではありません」

「一般市民には向けないと申すのか。それは異なことを、戦争と言うのはお互いの民を消耗して戦うものと思っておった。儂も先の大戦での功績で男爵を得た元一兵卒。多少、(いくさ)を解っているつもりだったが。奇異なことを聞いた」


「帝国での戦い方はそうなのかもしれませんが、領主をされている現状は如何なのでしょう。民が居ない地での領主などは必要なのでしょうか」


「なるほど、その通りだな。民が居なくては貴族も市場も存在しない。いや民のいない貴族など必要のない存在ではあるな。ははは。面白い事を言う」


「ええ、私たちは無用な戦いを避けてきました。しかし、帝国は好戦的で人種差別や奴隷売買も横行していると聞きます。チロルの森を皇帝からの提案で割譲されたにも関わらず皇帝の命令で戦闘になり、多くの帝国陸軍兵士の命が散りました。そんな状況は我々も望んでおりません」


「一方的勝利だったと聞いておるが、それを望んでおらんと言うのか」


「はい、戦いを仕掛けられたから反撃しているまでです。帝国兵士の遺体は全て火葬にしてできる限りチロルの森に墓を建て、解る限り名前を掘りました。悲惨な事です」


「敵兵を埋葬したのか・・・帝国では死のうが生きようが首を刎ねて晒すのが通例だぞ」


「私たちの国には仏教と言うものがありまして、敵だろうが味方だろうが死んだら仏になると教えられています。他の宗教もありますが仏教が一般的です。そして仏は修行をして地上に戻ると言われており、その時は敵に生まれるか味方なのか解りません。ですから我々は平和で公平な社会を作り、いつ生まれ変わっても良い様に努力しています」少し詭弁が入る。


「なに死んだら生まれ変わるのか・・・それは敵も味方もないな。うーーむ。生まれ変わるのであれば、環境で差別したりするのは、可笑しな話になってしまう。なにしろ選べないのであればなおさらだな。本橋とやら面白い話を聞かせてもらった。長生きはするものだ」


「男爵、本題ですが」と本橋は本題に切り替えた。


「そうであった。おぬしらの来訪目的と行き先を聞かねばならぬところだった」

 その時、執事とメイドはお茶を持って来た。


「これは日本よりムリナ街領主様への土産です」と本橋は紙包みを袋から出し、男爵の前に差し出した。

 日本から各領主への土産として一口羊羹を受け取っていた。日持ちするので土産として最適であった。


「これは何だね」と男爵は見た事無い、薄い紙の包装に興味が沸いた。


「これは、日本で有名なお菓子です」と本橋は羊羹を出す。「お茶と一緒に食べます」

 と言いながら毒見で一口羊羹を1つ包装をといて口に放り込む。


 見よう見まねで男爵も食べる。「なんだこの甘さは、しかもしつこくなくすっきりしている」

 お前も食べてみろと、執事とメイドに1つずつ渡す。

 執事もメイドも目を見開きうっとりする。

「領主様、こんなおいしい甘いお菓子は生まれて初めてです」とメイドは口を開く。

 執事は言わずにうんうんと同意する。


「これだけ見ても日本は凄い国だな。レベルが違う。兵士として地方統一をした時にいろいろな国の代表的菓子や料理を食べたが、これに勝るものはなかった。それだけでも民度が測れよう」


「気に入っていただいてありがとうございます。さて、我々の来訪目的なのですが、帝国貴族である閣下には申し上げにくいのですが、帝国皇帝は約束を反故にすることなど何とも思っていないと思われ、人種迫害に奴隷落ちなど、日本としては見過ごす事はできません。それに我々に対する攻撃も含め帝国の再建を考えましたが皇帝自身が変わらない限り無理だと判断できます。そこで、帝都に乗りこみ皇帝に真相を聞こうかと、街道途中のムリナ街に寄った次第です」と少々言葉を選びながら伝える。


「皇帝に謁見するのか・・悪い事は言わぬ、それはやめておけ。皇帝は騙すのが得意だ。皇帝の兄も皇帝に毒殺されたのではと噂も流れた。そんな人だよ皇帝は、気に食わなければ平気で首を刎ねる。もう何人もの大戦の英雄がひどい理由で首を刎ねられ晒されていた。儂は年だし逆らわずに、この街の領主で満足しているのだよ」


「そんな方なのですね皇帝は」


「そうだ。それに皇帝に良からぬ話をする者を重用して、皇帝に意見できる者はいなくなった。宰相もうまく切り抜けておると聞く。おぬしらは帝都に入ったとたんに攻撃を受けるであろう。この街は単なる交易都市だ。そなた達に敵対するほどの兵力は無い。自由に通るが良い」


「今のお言葉、ありがたく頂戴します。ですが帝国陸軍師団がここに向かっていると聞いています」


「確かにそのとおりだ。なんでも帝都の親衛隊と警備隊が全滅したから、急遽戻ってくると聞いておる。そなた達がやった事だろうと思っているが、ははは、多少愉快だ、なんせあいつ等は小さい街の領主などは平民と同じと思っているからな、しかし帝国師団は人数も多い、チロルの森で勝ったとは言え帝都での市街地戦ともなれば無傷ではいられまい」


「さすが歴戦の勇士、我々も市街地での戦闘は受ける損害も大きくなると予測しています。ですので、ムリナ街での戦闘は避けたいと思っています」


「少し頼まれてはくれまいか」


「何事でしょう」


「いや、実はな帝国第1師団の騎馬隊が当街に滞在しておるのだよ、そして本来はドフーラに向かう予定であったが、命令変更で師団と合流して帝都に向かうと聞いておる。その・・言いにくいのだが騎士団長は分析もできて優秀な人物だ、死ぬには惜しいと儂は思う。そこで、話をしてくれぬか、説得ではなく世間話でも良いし、日本の事でも良い。それだけで奴は理解できると儂は思っている。頼まれはくれないか」


「返事は本部に確認してからで良いですか」


「良いとも是非お願いしたい」


「わかりました」本橋はハンドサインで指示をする。警備に立っていた一人が部屋を出て行った。


「おっ」フォン・エルバン男爵はびっくりした。手だけで意思疎通化ができるとは・・・と

「意思疎通できるのか」と声に出してしまった。


「いえ男爵、声を出せない場合のやり取りを決めてあるのです。例えば敵地でドアを開ける時とか使用します」


「合理的だな。帝国は目の前を壊して進むが、その方法では仲間を無駄に失う事はないか」


「その通りです。おっ戻ってきました」「了解任せるとの事です」

「お聞きになった通り、騎馬隊長とお会いできます。ここにお呼びいただければ平和的にお話しできると思います」


「えっこんなに早く本部に了解を取ったのか。これなら全体作戦もスムースだな。流石だ」

 本橋は無線で偵察本部に指示を仰いでいたのだが、戦闘回避できるのであれば価値があるからやってみろとの事である。


「では早速ですが、騎士団長をお呼びいただけますか。私たちがここにいる事を前提で連絡頂けたらうまくいくと思います。再度申しますが我々に戦闘の意思はありません今日は交渉に来ただけですから、それをお伝えください」


「儂から言い出したことだ。悪いようにはせん」と言いながらフォン・エルバン男爵は執事を騎士団長エル・トーマス男爵が宿泊している宿屋に向かわせた。



「なにー、日本軍が話をしたいと言うのか!なんと豪胆な、興味があるならフォン・エルバン男爵邸に来てほしいと言うのか」トーマスは悩んだ。しかし敵を知る良い機会である。部下からは「罠です」との意見もあるが領主屋敷で戦闘にはなるまいと思う。そして部下を6人引き連れ屋敷に向かう。


 屋敷に着いたトーマスは驚きを隠せない。目の前に鉄馬車が4台も止まり、車寄せには見た事も無い馬車が置いてある。トーマスは部下達と恐る恐る鉄馬車の横を通り抜け玄関まできた。緊張で汗が出ている。部下を見ると皆も緊張で顔が強張っていた。


 その時、23式偵察警戒車より自衛隊員が一人降りて来てトーマス達に礼をした。トーマスの緊張はピークである。その後、隊員は迎えに出て来た執事に「本橋にお渡しください」と、手提げ袋を1つ渡す。


 執事はそれを受け取り、「エル・トーマス男爵閣下、当屋敷においで頂き有難うございます。当主がお待ちです」と先に立って歩き出した。自衛隊員はそれを礼で見送る。


 エル・トーマス男爵は緊張しながら言われるままに部下達と歩き出し、部屋に通される。そこには当主フォン・エルバン男爵と不思議な服を着た3名がいた。


「エル・トーマス男爵、いや騎士団隊長殿、急に来ていただいて申し訳ない。紹介しようこちらが本橋隊長だ、儂が騎士団にも有益であろうからお呼びした次第である。老兵の顔を立てて頂けるとありがたい」


「初めまして、陸上自衛隊第5師団第5偵察隊第1偵察小隊の本橋です。我々は通過する予定の都市に事前に許可を貰っています。その為の交渉です」と立ちながら挨拶をする。


「こちらこそ初めまして、帝国第1師団騎馬隊隊長を拝命しているエル・トーマスと言います。そしてこちらは私の部下達です」と挨拶する。


「立ち話も何ですから、こちらにお座りください。エル・トーマス隊長殿」


 エル・トーマスは案内され部下と共にソファーに座る。ただし4名はソファーの後ろに立っている。

 よく訓練された隊であると本橋は思う。


「さっそくですが、我々を呼んだ理由を説明されたい」とトーマス。


「いや老兵の願いを聞いてくださり、ありがたい事です。こちら日本国の本橋さんはどうやら帝都に向かうらしいと聞きまして、顔ぐらい合わせても良いのではないかと思いましてお呼びした次第です」


「帝国に歯向かう敵に会うなどとは言語道断と思いますが、男爵」


「いや話を聞いて下され、チロルの森は皇帝より、ここにいる日本国に割譲された土地。それを取り戻しに帝国師団が動いたことになり、仁義に背いているのは何方なのかと言う事と、単に異国の話が面白いので呼んだ次第なのだよ。暇ではないと思っていたのだが、相手の情報を知りたがっているエル・トーマス男爵には絶好の機会だと思うが」領主エルバンは上手く誘導する。


「しかしそれでも、同胞を殺された恨みがあります。直接話をするなど帝国が知れば私も処分されるでしょう」


「それはよくわかる。だが聞く価値があるのも事実。ここにはいなかった事にして聞いては貰えぬか」


「既に私の部下が帝都に報告に向かったかもしれません。騎士団と言えども一枚岩ではないのですよ男爵」


「それも理解しておる。それでも敵を知りたくないのかね。本橋隊長も言えない事もあると思うが日本の理念や戦い方など参考になるのではないのかね」

 ムリナ街領主エルバンは熱く説明する。


「ここに来てしまいましたから手ぶらで帰る事はできないですね」とエル・トーマス男爵は少し諦めた。


 執事が「外でこれをお渡しする様に託されました」と言いながら本橋に紙袋を手渡す。

「おお有難うございます」と言いながら受け取ると、紙袋からまた羊羹を取り出しテーブルに置く。


「おっ羊羹だな、儂も虜になった」とエルバンは見ただけでうっとりする。


「なんです羊羹とは」「日本の菓子じゃよ、茶によく合う」

 その時、執事とメイドがお茶を持って入って来た。人数分のお茶を入れて回り、さがる。


「では早速、これをお渡しします」と本橋は羊羹を騎馬隊隊長に渡す。

 受け取った隊長は箱を開けると小さな長方形で銀色の物体が出てくる。


 先ほど領主に渡した羊羹をエルバンは1個出して、「こうやって開けてこう食べる、そしてお茶を飲むと得も言われぬ甘味が広がるぞ。遠慮せずに食べたらどうだ。毒などは入っておらん日本はそんな事はせぬ」


 恐る恐るトーマスは封を開けて羊羹を食べる。言われた通り茶をすする。「うまい、お前たちも食べるが良い」と部下達に渡す。


「すごい甘いが茶を飲むと甘味が消える不思議だ」「こんな甘い物初めて食った」部下達にも好評であった。


「食いながらで良い聞いてくれ」とエルバンは言う。「日本は戦いたくないそうじゃよ。帝国から仕掛けられているから反撃しているそうじゃ。帝国軍人としてはどう思う」


「そんな腰抜け必要ないですね。続けて言うなら邪魔となりますし作戦に必要ありません」


「いや手厳しい。逃げるわけではありません。最大限戦闘回避をして、それでも回避できなければ戦います」と本橋は笑いながら答える。


「いやそれでも帝国軍人としては攻撃目標を示されたら最大の攻撃力で撃破するのみです」


「はい、我々も同じです。しかし、それまでの交渉は回避でしています。不可避であれば躊躇なく最大の効率を持って攻撃します。それは同じです」


「いや本橋殿、同じではないぞ。トーマス男爵は「最大の攻撃」をすると言っておるが、貴殿は「最大の効率で攻撃する」と言っておる。同じようで同じではない。貴殿達の方が恐ろしい。わかりますなトーマス殿」


「うむ、解ります。我々は相手に合わせて攻撃手段を変える事は無い。しかし日本と言う国は相手に合わせて攻撃を変えると示唆しているのですね。エルバン男爵、良い機会をありがとうございます。日本は相手に合わせて効率を重視した戦いができると言う事は攻撃手段を沢山持っている事になります。これは帝国にとって一番恐ろしい事です」


「流石ですなトーマス殿、過去会った帝国兵士と一味違うと感じていた儂の読みは正しかった。有益であろう」


「はいエルバン殿、日本との戦いに恐怖を感じました。しかしそれで戦いを避ける事はできぬ程の事態となっています。我々は命令が下れば負けようと解っていても行くしかないですから」


「それは帝国兵士であった儂も良く理解している。だがな、儂はこうも思う。先ほど本橋殿から言われて気づいたのだよ、「民のいない国に貴族は必要ない」とな」


 トーマスはショックを受けていた。そんな事考えた事も無い。確かに民が居なければ貴族が存在する価値は無い。帝国は過去領土拡大を図り、周辺国を次々飲み込んで大きくはなっていたが、民たちは歓迎していたのか、心の底では帝国が滅びるのを待っていたのではないか、それは本当に帝国民であるのか、一度にいろいろな考えが頭をめぐり始めた。

 その大戦でエルバンが、活躍により爵位を受けた筈なのに、戦闘を帝国を否定をしている事に理解が追い付いていない。

「本橋殿と言ったか、聞いても良いか」


「どうぞトーマス殿、答えられる限り話をします」


「日本は戦争回避の為に今まで尽力したと聞いたが本当なのか。領土拡大が目的ではないのか」


「私たち日本と言う国は、神の力で突然この世界に来てしまいました。それは思ってもいない事で我々もようやく受け入れた所です。いまの質問にお答えするとすれば、日本は平和で差別のない国であろうとしています。帝国は正反対に獣人差別や奴隷制度など日本から見るとあってはいけない制度が存在しています。それも帝国を非難する要因なのですが、我々が一番大切にしているのは人命です。戦争行為その物が我々の理念を否定する事になります。ですから回避できることは最大限努力をします。しかし、一方的な攻撃に対しては最大限の効率で殲滅いたします」本橋は涼しい顔で言う。

 

 トーマスは自信に満ちた本橋の回答に恐怖を覚える。「もしかして我々は日本に勝てないのではないか」と思い始める。


「もう一つ質問させてほしい。帝都親衛隊や守備隊、そして第2師団騎士団を殲滅したと聞いているが本当なのか」


「はい、全て事実です。チロルの森でスルホン帝国師団を殲滅した事も事実で、各都市に宣伝ビラを撒かせて頂きました。全ての人の口を塞ぐことはできません。知られて困る事はしていないつもりです」


「それでは・・・全て事実であるか・・・」トーマスはそんな気がしていた。部下には欺瞞だと言う者もいるのだが、民が見ていれば、知っていれば全て噂になる事が当たり前だと思っている。しかも都合の悪い事を皇帝陛下に言う者もいない事実をトーマスは苦く思っていた。


「トーマス殿、収穫はありましたかな」とエルバンが聞く。


「おおいに」とトーマスは答えるのが精いっぱいであった。こんなに簡単に帝国が負けるとは、しかも「回避してきた結果」とは、帝国師団の騎馬隊を預かる身として、底知れぬ恐ろしさを自衛隊と言う軍隊から感じていた。


「本橋殿、一つだけ参考にお聞かせ願いたい。外に止まっている鉄馬車なのだが、どの位の戦闘力なのか教えてほしい。勿論機密になる事は十分承知だが、言える範囲で構わない」とトーマスは興味が勝り聞いていた。


「では簡単に説明しますね。我々の軍事力に関しては機密事項を含んでいますので正確な事は言えませんが、それで宜しければ。

 それに日本と言う国は国民が知りたければ情報を出す事ができますので、我々の使用している軍事力を特集した本なども日本では出版されています。

 今回はその中のお話となりますが、我々の乗って来た23式偵察警戒車は・・あの大型の鉄馬車でしたか、そう呼びます。正確には戦闘装甲車と呼ばれる一種です。

 上部砲塔は40mm機関砲でして、空飛ぶドラゴンにも対応できます。弾頭には火薬が詰まっており、用途によって火薬の種類や量、中には燃える燃料などが入った物もあります。


 私たち偵察隊は本格戦闘を想定してはいない為に、敵の武力を知れば持ち帰って情報として全部隊に流し共有します。

 また、私たちの攻撃は戦闘機や爆撃機と言う空飛ぶ機械や戦車と言われる・・・我々の23式偵察警戒車についている砲を大きな物にして悪路や森でも走行できる乗り物があります。

 そしてここが重要なのですが、情報は共有されそれを元に作戦を立案して実行します。


 簡単ですが以上です」


 トーマスは言葉が出ない。あの鉄馬車が戦闘用ではないと言うのか、しかももっと強力な兵器があるとか・・・想像もしていない事をあっさり言われた。絶対の自信がある証拠であろうと思う。


「エルバン殿、本日は呼んで頂き、有益な時間を過ごせました。我々はこれで帰ります。ありがとうございました」トーマスは気分が悪いようだ・・・後ろに立っていた兵士も2名がフラフラである。


「いやトーマス殿こちらこそ呼び立ててすまぬ。役に立てたなら幸いだよ」とエルバンも実は少し調子が悪い。こんな話想像もしていなかったからだ。


 本橋は立ち上がり、トーマスと握手をした。「エルバン男爵。我々もこれで退室致します。通行許可有難うございます」と礼を言うとトーマスと共に屋敷を後にした。



「騎士団隊長は理解者になりますかね」と部下が聞く。「本人は隊長の体面があるからね、その部下は解らんよ」と本橋は部下に返しながら、「有能な人材との戦闘は回避したいな」と思うのである。

有難うございました。

次回も帝国崩壊の続きを投稿する予定です。

誤字脱字有難うございます。感謝です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  条約を締結した同盟国のインフラ整備に、わざわざ戦闘集団である自衛隊を使う必要があるのでしょうか。  日本そのものが、次元スリップしてきたのなら仕事にあぶれている建設会社等の民間活力が…
[良い点] ついつい先の見えない展開の話しに引き込まれて、読んでいてたのしいです。描写なども、とても良いと思います。 [一言] とても楽しい小説を執筆され、素晴らしいと思います。これからも読ませてもら…
[良い点] 文章力・ストーリー・キャラ描写・読み応え共に良好 [気になる点] これまでの話の中では冒険者達の後半部分がやや蛇足気味だった事と帝国打倒したら余りこの異世界では戦闘がなくなり自衛隊が暇に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ