第9話 害獣駆除出動 (改)
第9話を投稿します。
大きな犠牲を出した日本。だが多くの国民を守る為の決断を迫られる。
友軍である米艦隊もいない自衛隊は対処できるのか・・・
2020/05/29 改訂
2022年4月19日午後0時首相執務室。
佐野官房長官と高野防衛大臣が息を切らして入ってきた。
当壁総理は一瞬いやな予感がしたが、きわめて冷静に尋ねる。
「二人とも慌ててどうしました」
「総理すいません。至急の要件が」
「落ち着いて話してください」
「はい。結論から言いますと、自衛隊員に殉職者がでました」
「えっっっ詳しく聞かせてください」
この時点でマイクロ衛星の話が終わってから、まだ2時間しか経過していない。
「取り乱してすいません」
高野防衛大臣が説明する。
「実は、前の方位で言えば最南、現在の方位で言えば最東の沖大東島EEZ領域警戒行動に向かわせていた佐世保第8護衛隊、DDG-176「ちょうかい」とDD-117「すずつき」が途中で巨大海洋生物と遭遇し、監視活動をしていましたが・・・
巨大海洋生物が突如「ちょうかい」を襲い、機関室に浸水」
悲痛な声で
「本日午前11時頃、海上自衛隊員6名が殉職しました」
息を整えて。
「『うみへび』の様な巨大海洋生物は護衛艦の砲撃と魚雷によって弱りましたが、最後に「ちょうかい」に突進して、機関室に直径1m程の穴をあけました。
海洋生物は死亡を確認。「すずつき」にて保管しています。
「ちょうかい」は大きなダメージを受け、左機関室に穴が開き浸水。
「ちょうかい」はバラストにより調整を取り、「すずつき」により海上自衛隊沖縄基地に曳航されている途中です」
「さらに・・・」高野大臣は続ける。
「ほぼ同時刻、宗谷岬に神話の『ドラゴン』のような生物が飛来し、同地で展開していた第2師団第3普通科連隊第1中隊が『ドラゴン』のはく火の様なブレスで隊員11名が亡くなり。負傷者23名を出してております。本日午前11時30分頃です。
『ドラゴン』の検死報告が動画できていますが、羽を広げた全幅約13m、胴体の長さ7m、しっぽを含むと長さ14mにもなるそうで。
宗谷岬を管理警戒する部隊には、対空火器が2門しかなく、確実に仕留められなかったのが原因と思われます。まさか飛翔する巨大動物がいるなどと予測ができませんでした」
高野大臣は少し涙ぐむ。
当壁総理は様子を見ながら防衛大臣としては失格なのかもしれないが、隊員の事を自分の事の様に悲しめる、いいやつだな。と思った。
当壁総理は深呼吸すると、静かに言った。
「本日11時から30分の間に、自衛隊員17名が殉職、23名が負傷したというのですね。
過去にそんな生物を聞いたことがないが。次元が変わっているとの話もあるので、常識では測れないか・・・」
佐野官房長官に向いて
「佐野官房長官今の話だがどう思う」
「はい、巨大生物なら話し合いもできないでしょうから、今後も国民への被害をなくすために、徹底的な駆除でよろしいかと。ただ」
「わかっている。国民への説明と野党対策だな」
「はい。当壁総理からの個別自衛権による防衛出動か、害獣駆除出動などが考えられます。
特別法案を通すと最低7日から特別国会を召集しても半年はかかりますし、その間別の生物が襲ってこないとも言えません。議論の対象となる事は避けられません」
「ふむ」と当壁総理は頷き。
「なら先に国民を味方につけてみようか。
先に高野防衛大臣が防衛省記者発表をして、のちに官房長官発表。
のちに私が談話として対処しよう」
更に総理は
「高野君は防衛省が中心となって巨大生物の対処対策を法的解釈含めて早急に作成してほしい」
それから1時間後の2022年4月19日午後1時。高野防衛大臣が記者発表を行った。
記者からの質問が相次いだが、自衛隊は全力で国民の財産と生命を守ると締めた。
暗黙のうちに武力による害獣駆除の気運は高まっていった。
特に記者会見上で撮影した一部の映像を発表し、その巨大さに多くの記者が意図通りの反応を示した。
ドラゴンが東京に飛来したら。人を食べたら。うみへびが民間船を襲ったらと。
その15分後、佐野官房長官の会見が行われ、悲痛な声と姿で、高野防衛大臣の会見を後押しした。
その20分後、当壁総理談話として水際での駆除を約束した。
一部野党が騒いだが、屈強で知られる自衛隊に犠牲者が出たことで、支持団体からも「なにを言っているのだ」と一蹴された。そんな巨大生物に民衆が抗えるはずもない。
ここに来て一部マスコミに捏造だという論調がでたが、防衛省より本日午後7時に横田基地の米軍冷凍倉庫で巨大海洋生物の頭部を公開すると言うと、マスコミ各社約300社が申し込みする騒ぎとなった。
本日午後0時の会見を終えた高野防衛大臣は、防衛省に戻り統合幕僚長と緊急会談を実施。
武力による害獣駆除を指示した。
これにより宗谷岬の接続大地。便宜上『宗谷大地』と呼ばれるようになった。
また、密かに国境を決める目的で、『宗谷大地』の深部探査と現地人がいれば接触を図る事を取り決めた。
統合幕僚監部は先の取り決めを通達するとともに、自衛隊の各陸上総隊、海上艦隊、航空総隊に害獣の駆除または排除を厳命した。
北部方面隊本部は『宗谷大地』及び海上から飛来する巨大生物の対処に混乱していた。
サンプルが1体では威力判定もできない。
『宗谷大地』に飛来した『ドラゴン』が小さな個体なのか判定できない為に、エリコン社製25mmは射程800m程度で有効。12.7mm重機関銃は300m程で有効と。だが1発で駆除できなかった事実を踏まえ対応を検討していく。
同時に第2師団に対して宗谷岬に布陣指示。小出しではなく、師団ごとの転進を指示した。
北部方面隊隷下部隊の第1高射特科団第4高射特科群及び北部方面後方支援隊と第101高射直接支援大隊第2直接支援中隊に宗谷岬対空布陣を指示、北部方面通信群第101基地システム通信大隊には宗谷岬局とのリンクと画像監視システムを北部方面会計隊第342会計隊には、稚内空港付近から宗谷岬にかけて師団が滞在できる土地の確保。
それに統合幕僚監部から航空総隊も輸送隊及びF-15Jの転進基地として稚内空港の拡張整備と整備建物の建設、それに燃料貯蓄タンクの増設を指示されていた。
空港の拡張工事には第5旅団、第7師団の施設大隊及び後方支援連隊も重機をもって駆けつける。
他に東千歳駐屯地の第7師団第71戦車連隊、第11普通科連隊2個中隊、第7偵察隊1個小隊、第7特科連隊1個大隊、第7高射特科連隊1個高射中隊には師団がいなくなった補完と必要であれば宗谷岬の増援を考え、名寄駐屯地への転進を命じた。
第2師団第2戦車連隊も、順次トレーラーで宗谷岬に集結をしていく。
90式を筆頭に74式、最新10式も1中隊混ざっていた。
第2師団施設大隊の半数は、『宗谷大地』への戦闘車両が入れるように、宗谷岬から大地に向けてなだらかな坂にしてパネル橋MGBを設置するべくドーザーやパケットローダー、施設作業車、掩体掘削機などで、崖を崩そうと計画していた。
宗谷岬の住民においては巨大生物『ドラゴン』が火をはいたのを遠くで見てしまい、宗谷牧場など宗谷岬から4km離れた場所に避難をお願いしていた。本物の襲来に混乱もなかった。
第2師団では避難した住民の宿泊施設等の居住区建設を急いだ。
就学児については稚内市内に移動。ほたて加工工場についてはその「匂い」が巨大生物を引き寄せるとの事で一時休業をお願いした。
『宗谷岬の湯』も開設した。
北部方面隊本部では屋内射撃場200mレンジに『いのししもどき』の頭がセットされており、防衛装備庁より送られてきた新型弾をテストしようとしていた。
新型弾は89式5.56mm小銃の5.56mmNATO弾の弾頭にタングステンを埋め込んだもので、貫通力が向上している。これが有効でなければ重火器に頼るしかなくなる。
銃をセットして狙いを定め、リモートで単射する。
貫通した。通常の5.56mmNATO弾を多数浴びて脆くなっていたのかもしれないが、1発で貫通できた。
運動エネルギーはJ(単位ジュール)であらわされ、1/2×質量×速度の2乗である。
64式7.62mm小銃から89式5.56mm小銃に転換した時、弾頭は小さく軽くなったがNATO弾の炸薬量を変えて、高速に射出することで、同程度の運動エネルギーを確保したもので、弾数が多く携行できるメリットも大きな要因となったのは言うまでもない。
つまり弾頭にタングステン等の重い金属を埋め込むことで、飛距離を犠牲にしても貫通力を高めた弾を採用したのであった。
他には自衛隊にはあまり支給はされていないが、散弾銃のスラッグショット弾もテストした。
これは、散弾銃と言う名前から鉛の粒を複数いれた実包から弾を撃ちだすものではあるが、スラッグショットとはその名の通り単発である。元々大型の獣を狩るためのゲージで有効射程は弾の大きさゆえに減衰が激しく、20から30m程度の有効距離となる。
一般的なフォスタースラッグを試した。これはライフル弾頭のように先端が尖ってなく釣り鐘型様の丸く長い弾頭、まるでもぐら退治ゲームの標的のような形状である。これも15mでは有効であった。
防衛装備庁に報告するとともに、保有するテスト弾全てを宗谷岬に送るように依頼した。
また、保有するショットガンとフォスタースラッグ弾も追加で依頼した。
米軍などで使用されるM870MCSではあるので、フォスタースラッグ弾も含めアメリカ陸軍に貸与を依頼するとの事。
ありがとうございました。