7話
今回は少し短めです。
ヒーローが登場するまでは頑張って毎日更新する予定です。
「酷いではないか!我だからギリギリのところで踏ん張れたから良かったものの、他のものが受けていたらこの島から落ちていたかもしれんぞ!」
「え、いや、ここの大気の神霊の俺が結界を張ってるから誰も落ちないよ。ヘッグも俺の結界が受け止めたんだし」
「え、そうなのか?あ、ああ。ありがとう」
水塊をぶつけられた身体を乾かし、ファンテーヌとフォイユに急遽作ってもらった服を着たヘッグはさっきのことを根に持っているようで、まだぶつくさ言っていた。
ちなみに彼は僕の部屋のベッドに座っている。
僕、座ってどうぞなんて言ったっけ?
「あのさ、ヘッグ。僕と一緒に旅をするならさ、"我"っていう一人称目立つから変えてくれないかな?」
それを、まあいいか、と思い直し、自分が気になっていた事を口にする。
「うーむ。我は地上界の生命体がどんな一人称を使うのかよく知らないのだが……ああそうだ、ルカは"俺"、マナは"私"だったな……うむ、"俺"にするとしよう」
ルカとマナのこと、やっぱり知ってるのか。
まだ世界が混沌としていた時、物理法則を整え、精霊に属性を与えたと言われている2人だけれど、それ以外のことはほとんど記録が残っていないらしい。
「ねえ、そのルカとマナってどういう人なの?」
「ん?ルカは原初の片割れで、王竜の最初の個体。マナは原初のもう片方で……いや、それ以上のことは覚えていない」
「そっか」
王竜とは、神竜や帝竜、守護竜とはまた別のカテゴリーの竜種で、他の竜と違う点は番を選び子孫を残すこと、らしい。王竜の長や地上界の東海、西海、南海、北海を守護する王竜は神竜に匹敵する強さを持っているそう。
「すまんな。記憶が曖昧なのだ」
「いや。教えてくれてありがとう」
ヘッグが悪いわけじゃないんだし。
「それで、いつ出発するのだ?」
「ヘッグの支度が終わったらすぐにでも」
「え、そんなに早く!?」
僕の耳元で驚愕の声を上げたのは、ラタトスク。
彼女は大きい瞳をグルグル動かし、しばらく考え込んだ後、
「……よし、あたしも一緒に行くわ」
と、決意を秘めた瞳を僕に向けた。が、
「いや、神竜2体も要らないよ」
「あたしは子供じゃないわよ!」
「わ、俺も子供ではない!」
「「いや子供だろ/でしょ」」
「え」
うーん。
ヘッグを旅に連れていくってラタトスクに言ってから自分も行きたそうにしてたのは知ってるが…………
さっきもそれとなく、
『あたし、ここにいなくても自分の仕事出来るのよね』
とか
『あたしの仕事って、あたしの持ってるスキルが全部無意識下で自動的にやってくれてるから、あたし自身は結構暇なのよね』
とか言ってたしな……
はぁ。どうしたものかな。
ラタトスクは物知りだから、8万年のことしか知らないヘッグと比べたら、結構役に立ちそうだが…………
「大体ねー。いきなり現れてソラとあたしや守り人達の間に割って入って来るなんて失礼なのよ!」
「我、じゃなかった、俺だってソラの歌声を聞いた直後から彼奴について行こうと決めていたのだ!」
「あたしや守り人達は、5年間もソラを癒し続けたんだけど」
「うぐっ……」
なーんかこの2匹張り合うんだよな……
守り人達は完全にラタトスクの味方で、うんうん頷いている。
連れて行ってもいいんだけどさ、仲良くして欲しいな……
「わかった。ラタトスク、君も連れていくから、契約してもらってもいいかい?」
「やったーー!」
「俺は別に連れていくことに反対していたのではないが、釈然としないぞ」
「あんたなんかに釈然とされてもされなくても変わんないわよー!」
ムスッとするヘッグと、そんな彼に舌を出すラタトスク。
「仲良くしないとどっちも置いてく」
いつもより低めの声を出したら、
「「すみませんでした」」
となった。この先が心配である。
そしてラタトスクとの契約を終え、"ラタトスク"は長いから"ラタ"と呼ぶことや、ヘッグのように人化できないし、魔力は多いが、総合的な戦闘能力が高くないため必ず僕の傍にいることを約束した。
その夜はヘッグに僕の前世の食事を知ってもらおうと色々なものを作った。不味いなんて一言も言わず、美味しそうに完食してくれたヘッグは、中でもどら焼きを気に入ってくれたようで。僕の亜空間にあるミニ畑の小豆のスペースを大きくすることとなったのだった。
ラタも美味しそうに食べてくれたが、納豆だけはお気に召さなかったようだ。僕は納豆大好きなので、これからも食べると言ったら物凄く嫌そうな顔をされた。
納豆に謝れ。
❁❁❁❁❁❁
イル島においても朝昼夜が存在し、夜になったらラタや守り人達もそれぞれの寝床で眠る。葉の神霊フォイユは1番大きな葉の上、泉の神霊ファンテーヌは泉の底、と僕には眠る場所として相応しくないのではと思うようなところでも、眠ることには違いないのだ。
ヘッグは僕の亜空間の中で寝ている。ちなみに、精霊達も夜は眠るので、夜はあまり魔法が使えないらしい。
僕には関係ないけどね。
そんなわけで、誰もが寝ているはずの真夜中の世界樹の前に、ピンクの神霊を見つけた僕は不思議に思って彼女─花の神霊フレゥールに声をかけた。
「やあ、フレゥール。眠れないのかい?」
「……ソラ」
いつも元気に世界樹の周りを飛ぶ彼女だが、今は静かに世界樹を見つめていた。普段高い位置で2つに結われている髪も、今はだらんと下ろしている。
「私ね……」
「うん」
「……っ」
フレゥールの目尻に水が溜まっていく。
「ゆっくりでいいから、話してくれるかい?」
「う、ん。ごめんね、ソラ。ごめんなさい……」
泣き出した彼女に僕はどう声をかけたらいいのだろう。涙を流しながらずっと僕への謝罪を口にしているフレゥールの背中をそっとさすった。
「あのね、あのね……私達、ソラの両親のこと、知らないって言ったでしょ?」
僕の今世での両親のことだろう。
「そうだね」
「それね、嘘なの。本当は、本当は─」
その時だった。
「……っ!」
「きゃあっ!」
突然、イル島に強い風が吹いた。
何故だ?
ここはエールが守っているから常に天候が穏やかなはずなのに。
「ソラ! フレゥール! 下がれ! 何者かが俺の結界を破ろうとしてる!」
イル島を覆っている結界の異変に気づいたのだろう。エールがすぐさま飛んできて、結界を重ねていく。
「エール! 強大な魔力を感じる。恐らく神竜の一翼だ。抵抗するよりも、力を受け流して、こちらに入れた方がいい。世界樹の真上に呼び寄せてくれ、対処は僕がしよう。守り人達はシエルを守ってくれ!」
そう、この音がなりそうな程の威圧と馬鹿げた魔力量は間違いなく神竜だろう。精霊が視える者のみが、魔力を感じることもできるできるようになるのだが、ここまで大きいと、そうじゃない者でも気づきそうだ。
ラタやヘッグと比べたら少ないが、2人とも普段は魔力の大きさがわからないようにしているので、ここまで魔力を晒す者なんて初めてなのだ。
「わかった。気をつけろ!」
「ああ!」
重力を制御し、エール結界の強度を弱めた方へ向かう。
『ソラ。俺も出ようか?』
「うーん……ヘッグに用事がある可能性も高いからね。どちらにしろ、そいつが入ってきて油断してる隙に、そいつごとこの周囲から離れるから、戦闘準備だけはしておいて。後…………」
『わかった』
世界樹の下の方では、守り人達が集まってシエルを守るように結界を重ねている。フレゥールだけは僕のそばにいるが。
「フレゥール。ここにいて大丈夫かい?」
「平気よ。私は私の犯した罪を償わなければならない」
「そうか」
フレゥールも何もしていないわけではなく、僕が侵入者を確認したらすぐにそいつ事ここから離れるつもりなのを理解してくれたらしく、その準備を手伝ってくれている。最初にこの辺りの精霊達を起こしてくれたのは彼女だ。僕は魔法発動に精霊を必要としないが、精霊が僕や守り人達をよく手伝ってくれるので、とても助かっている。
「ソラ!」
「ラタ。この気配の主を知っているかい?」
やっと起きたのか、下から猛スピードで飛んできて、僕の右肩に乗ったラタはいつになく─僕がヘッグを連れ出した時よりも─険しい表情で、そいつが入ってくるであろう位置を睨みつけていた。
「フレースヴェルグの第一の眷属、神竜ヴィゾーヴニルよ。まさかここにやってくるなんて……ラニアケアの奥で大人しくしてなさいよっ!」
ラニアケアの奥、というとフレースヴェルグの住処。そこからやってきたのなら、フレースヴェルグの情報が何か手に入るかもしれない。
それにしても、神竜の眷属─僕が使った守護神獣の契約と原理は同じだ─というのはどんなに強くても帝竜止まりだったはず。
それが神竜だなんて、どういうことなのだろう。
魔法発動の準備を終え、侵入地点に僕らがついた一秒後、"それ"は薄くした結界を破って世界樹の領域に堂々と入ってきた。
巨大な体躯、白銀の鱗、黄金の瞳。優雅に6対の翼を羽ばたかせるそれは言った。
「私の名はヴィゾーヴニル。聖竜フレースヴェルグ様第一の眷属である。今代の歌姫よ、そなたに歌姫たる資格があるかどうか、この私が見極めてやろう!」
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