2話
魔法の原理を考えるのが大変でした。
楽しんで頂けたら幸いです。
「……起きないねー」
「起きないなー」
「もう5年も経ったよー?」
「……あ、起きた?」
住んでいた世界で第三次世界大戦が勃発し、ウロボロスに飲み込まれ、満天の星空の中で意識を失った僕は……
「みんなー! 起きたよ!! 起きたよ!!」
「よかったっ! 身体が死にかけてたから、いくら魂が強くても起きない可能性がなかったわけじゃないからね」
「毎日欠かさずロゼを飲ませたかいがあったわ」
背中に薄い羽がある30センチくらいの可愛い妖精(?)さん達に囲まれていた。彼らの色はカラフルで、それぞれの髪や瞳と同じ色の淡い光を纏っている。
僕は木製のベッドの上で寝ていたようで、少しクラクラする頭を抑えながらゆっくりと起き上がった。
……何がどうなってるんだ?それに、何となく掛け布団の上に置いた僕の手が小さいような……
「えっと……」
喉から出てきた声に違和感を感じる。いや、僕が幼い頃の声に近い?
気になるけど、今はそれよりも状況を整理しないと。
だって、さっきまで僕はあの宇宙空間にいたはずなのだ。どうしてこんな所にいるのだろう。
「あの、ここはどこだい?」
「ここは陸の孤島─イル島。この世界を見守る世界樹シエルが鎮座する場所よ」
妖精(仮)の1人が答えてくれた。声が聞こえたことからも大体の予想はついていたが、どうやら言葉は通じているようだ。と言っても妖精(仮)に対してだが。
「君達は?」
そう問うと、妖精(仮)達は1人ずつ前に出て僕に説明してくれた。
「私は春を告げる花の神霊"フレゥール"」
薄ピンクの髪と瞳の、長いツインテの女の子。
「俺は夏を告げる葉の神霊"フォイユ"」
薄緑の髪と瞳の男の子。肩くらいまでの髪を後ろで縛っている。
「……秋を告げる実の神霊"フリュイ"」
薄い赤の髪と瞳のボブの女の子。
「冬を告げる芽の神霊"ブランシュ"といいます」
薄紫の髪と瞳の、ポニテの女の子。
「僕は幹の神霊"トロン"です」
「トロンの双子の弟で、根の神霊"ラシーヌ"です」
褐色の髪と瞳の双子の男の子。髪の毛は綿毛のようにふわふわしてる。
「世界樹シエルを支えるイル島の神霊"ソル"だ」
深緑の髪と瞳の男の子。スポーツ選手みたく、髪は短く刈り込んである。
「シエルを潤す泉の神霊"ファンテーヌ"と申しますわ」
透き通るような青の髪と瞳の女の子。髪は彼女の足首まである。
「シエルを守護する大気の神霊"エール"」
白の髪と瞳の男の子。ソルと似た感じだ。
「あたしはシエルに活力を与える陽光の神霊"ソレイユ"」
薄い黄色の髪と瞳のショートカットの女の子。
「僕らは世界樹シエルの守り人なんだ」
なるほど、僕は世界樹がある世界に転生したのか。
前の世界では、世界樹信仰というのは、かつて人類の生活の場が木の上だったからとする説が有力だった。実際にはなかったし、世界樹とする木も、当然だが文化によって違っていた。だから、実際に世界樹があるこの世界は僕がいた世界とは全く異なるのだろう。
それで、神霊ってなんだ? 妖精とはどう違うのだろう。
「神霊というのは?」
この問いにはトロンが答えてくれた。どうやら彼は守り人達の中で最年長らしい。
「その前に"魔法"について説明させてください」
流石は異世界。やっぱり魔法があるんだ。
「この世界で魔法はその属性ごとの"魔素"にエネルギーを送り活性化させ、魔素による事象干渉を起こすことで成立します。しかし、魔素から直接魔法を発動できるのは僕らのような精神生命体とその領域に至った一部の生命体だけです」
「その他の生命体はどうやって?」
「精神生命体である精霊の力を借りて発動します。生命体の持つ魔力はどの属性にも属さない純然たるエネルギーで、精霊はそれを好むのでそれを与えるかわりに精霊に魔法を発動してもらうのが一般的なやり方ですね。しかし、精神生命体より発動に時間がかかりますし、消費魔力は大きいです。精霊への命令式が固定されており、自由度も低い」
「ふーん……それじゃあ、魔法を使い続けたら魔力は失くなるのかい?」
「いえ、確かに短時間で大魔法を連発したら枯渇するでしょうが、そのエネルギーはこの世界中に満ちていますので、消費と同時に少しずつ供給されています」
「世界中に満ちているのに精霊はわざわざ他の生命体からそのエネルギーを貰うの?」
「はい。精霊の活力たるそのエネルギーを精霊自身では上手く取り込めないのです。僕ら神霊はその精霊の上位にあたる精神生命体で、僕らはエネルギーを自身で取り込むことができます。さらに言えば、神霊には個別の自我もあり、不滅でもあります」
「……」
自分で質問しておいてなんだけど、情報量が多くて頭が追いつかない。とりあえず、魔法の発動は精霊頼みであることと精霊の上位種が神霊であることを覚えておけば大丈夫だろう。
「精神生命体でなくても、一部の生命体は自身のエネルギーを送り、魔素から直接魔法を発動することができます。それは肉体を持ちながら精神生命体の領域に至った者と、最初から肉体を持つ、精神生命体の種族である者です」
種族、か。前の世界でもたくさんの人種があったけれど、ここは異世界。前の世界での人と全く同じではないだろうな。
「その最初から魔素を使える種族ってどんなの?」
「エルフ族─姿はヒト族に近いですけど保有している魔力量とその質が段違いに高い種族です。耳の先端が尖っているのが特徴ですね。貴女のように」
はい? 僕、耳なんて尖っていたっけ?
恐る恐る両手で両耳を触ってみる。
「え、まじ?」
思わず、間抜けな声が出た。
「はい。貴女の両親は特徴がなく全ての能力が平均的なヒト族ですが、先祖にエルフ族がいたのでしょう。所謂、先祖返りというやつだと思われます」
カーブを描いていたはずの耳の先端が尖っているのが確かにわかる。
凄い、ゲームでよく見るエルフ族になっちゃったよ。
っは!ってことはダークエルフとかいるのかな?存在自体が性癖に突き刺さるから大好きなんだけど……いたら嬉しいな。
「触るだけじゃわかりにくいわ。ちょっと待ってね……」
泉の神霊のファンテーヌがそう言って右手を前に出す。すると、僕の前に水鏡が現れた。
「これも魔法?」
「そうよ。大気中の水分を浄化して集め、空気の振動で波が立たないように制御しているの」
すげー……
魔法はゲームとかだと敵を攻撃したりする派手なのが多いけど、個人的には小説に出てくるこういう生活魔法も好きだ。この水鏡はとても高度なんだろうけど。それに、使い方によっては攻撃魔法にできそうだし。
鏡に写る自分そっちのけでそう考えていると、ファンテーヌに怒られた。
「あのね、転生者が自分の姿を認識することはとても大切なのよ。自分を認識できないと転生した先の世界に馴染むことができないのだから」
「はーい……ってちょっと待って、ファンテーヌ達は僕が転生者だって、なんで知ってるの?」
「「「「ウロボロスから聞いた」」」」
ですよねー。
「ウロボロスは異なる宇宙空間を繋ぐことのできる神竜。ソラがここに来た時、ウロボロスからソラの世話を頼まれたんだ」
そう、それが聞きたかったのだ。
どうやら、ウロボロスはアフターケアまで手配してくれたようだ。ありがとう。名前もきっとウロボロスから聞いたのだろう。
……ん? "異なる宇宙空間"……? それってまさか……
「マルチバース?」
「よく知ってますね。そうです。この宇宙は"ユニバース"ではなく、"マルチバース"。同じ宇宙空間にある場所には頑張れば行けますが、別の宇宙空間に行くためには時空を超えなければいけません」
おおぉぉっ!宇宙好きにはたまらない!
僕もずっとユニバースな訳が無いと思ってた。
「少し話が逸れたわね。ほら、早く自分を認識なさい、ソラ」
ファンテーヌに促され、水鏡に写る自分を認識する。
……ん?
「そういえばさ、僕が起きた時誰かが言ってた"5年"って……」
「ソラがこの世界で生まれてから5年、だね」
「ソラは身体が弱すぎて他の魂が入れなかった抜け殻の身体に入ったんだよ。魂が強いから、起きるのに5年しかかからなかったんだろうね」
「私がロゼを毎日与えたのです。そのぐらいで起きてもらわねば」
「10年はかかると思ってたんだけどなー。ウロボロスから聞いてはいたけど、すげぇ強度の魂だよな」
守り人達がわちゃわちゃ言っているが、僕はそんなことよりも水鏡に写った自分の姿に唖然としていた。
耳が尖っているのはさっき確認した。瞳が蒼いのもまだわかる。前世で青眼というと、アイスブルーだったが、この蒼は空の色をしている。まあ、まだ許容範囲だ。
しかし、この髪は……
「綺麗な銀色だよね」
そう、ゲームやラノベでよく出てくる銀髪なのである。
いや、その、まあ、ね。
ゲームとかラノベとか好きだからさ、考えるわけだよ、転生したいなーっとかさ。
しかーし、僕がなりたかったのはあくまで主人公達から近からず遠からずの距離にいるモブなのだ。
ほら、よくあるじゃん?モブ転生。
モブに転生して好きな乙女ゲームの主人公達のキャッキャウフフを見守りたいわけだよ。
エルフ族だけならまだモブの範疇だろうけど、この自己主張激しい銀髪はな……銀髪キャラって大体何かあるじゃん……モブがよかったな……まあ、ウロボロスや守り人達にあった時点でただのモブとは少し違うのだろうけど。目立たない銀髪としてに生きよう……
見た目が5歳児なのはもう気にしないことにした。転生したんだ。子供になってるのはしょうがない! うん!
「あ、エルフ族ってもうほとんど地上界にはいないから、耳は隠した方がいいかもね」
……モブでいたいよー。切実に。
ただ、自分の今の姿をハッキリと認識できたことによって、これは夢ではなく現実なのだとすんなりと受け入れることができた気がする。
それによって、本当に自分はあの世界では死んでしまったのだとはっきりと思うことが出来て、しばらくベッドに突っ伏して泣いていた。
神霊達が慌てていたけど、これくらいは許してほしい。
だって、あそこにウロボロスが現れたのは、僕を異世界に転生させるため。
戦争が起こってしまって、もう既にたくさんの人が死んでいただろう。
でも、地球そのものが飲み込まれてしまったのは、僕のせい。
死ななくてよかった人が戦争で殺された上に、さらにあの星が滅んでしまったのだ。
世界大戦が起こる可能性を知っていたのに何もしなかった自分と、自分がいたせいでブラックホールに地球が飲み込まれたこと。
自分が死んだことよりも、そっちの方が僕にはとても辛かった。取り返しのないことだから余計に。
もし、時間を巻き戻せるなら……そんなことを考えてしまうくらいには。
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