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『蒼穹の歌姫』と呼ばれた少女は、サンクチュアリを探して旅をする。  作者: Myua
1章:異世界への転生と世界樹シエル
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1話

本編開始。


主人公の性別は女ですが、一人称が"僕"です。


「……っ!」


 頭を鈍器で殴られたような痛みで、僕の視界は覚醒した。今まで何を視ていたのかはわからない。ただ、悲しかったのだろうか。頬には涙が伝った痕があった。


「……眠い」


 寝方が悪かったのか、日頃の疲れなのか、あちこちが痛む身体に鞭打ってパイプベットから降りる。どれだけ眠かろうと、悲しかろうと、朝は来るし仕事に行かねばならない。


 洗面所の鏡に写った自分の顔には全くもって興味がない。最低限の化粧はするが、それ以上はしない。そんな余裕があったらその時間と金はソシャゲの課金か新作ゲームに充てる。


 たまに会う高校時代の友人には苦笑されるが、職場の先輩や後輩は僕と似た人が多いので特に困ることは無い。ゲーム会社ということもあるのだろう。何より所属している事業部のトップが化粧云々を気にしない人なので、社内でも僕らの事業部はそういう風潮が強かった。




 ま、何が言いたいかと言うと、僕はただのゲーム好きで大手のゲーム会社に務めている、どこにでも居るようなアラサーのOLだ、ということだ。




 簡単な朝食を食べ、住んでいるアパートから出て自転車で最寄り駅まで向かう。


 暦の上で春とはいえ、この時間帯はまだまだ暗く寒い。人通りのない道を軽快にとばしていく。



 そういえば、今日は昔の友人と会う約束があったな、と思っていた時だった。


 ここまでは、いつも通りの日常だった。入社して4年間変わらず、退職するまでずっと変わらないと思っていた日常だった。








『真実は……であり、偽りは……である』








「え?」



 突然、頭の中に響いた声。





 その次の瞬間、上空から光がやってきて、僕の周囲を一瞬で灰にした。





「……っ!?」





 よく直撃したかったな、とどこか呑気に思いつつ、そういえば、この国は情報統制されているせいで多くの人は知らないけれど、この世界は三度目の世界大戦を迎えそうになるほど情勢が不安定だった、と外国の支部で働く友人や外交官の父に聞いた気がする。


 そうだ、聞きながら、まさかそんなことにはならないだろうと思っていたのだ。


「……あ、れ」


 しかし、これは……




 呆然と空を見上げながら呟いた。




 今、僕が考えたことが当たっているのなら、それは……





「第三次世界大戦が始まった……?」





 空からの音のないレーザーで街が一瞬にして灰になる。


 さっきまでは所々から人々の悲鳴が聞こえていたのに、今は聞こえない。もう、この辺りに僕以外の人はいないかもしれない。



 ああ。ここで人生終わるんだな。




 そう、どこか他人事のように思い始めた時、




 




 身体がふわりと宙に浮いた。




「え?」



 今日は本当にいったいなんなのだろう。




 僕は突如上空に現れた光さえ飲み込む次元の狭間に、周りの灰と化したもの─恐らく、この星そのものも─とともに吸い込まれていったことを覚えている。








❁❁❁❁❁❁








『真実はいつも見えないものであり、偽りはいつも世界に蔓延しているものである』




 何も見えない世界。でも、頭の中に不思議な声が響いている。


 実際に聞こえる訳では、ないと思う。



『我が名はウロボロス─虚構の主。我が思念が聞こえるか?歌姫の血を継ぐ者よ』



 この声は僕に話しかけているのだろうか。


 よく分からないことを言ってるけど、ウロボロス、歌姫ってなんだろう?



『……まあいい。雨久花蒼月(みずあおいそら)よ。お主に頼み事があってな』



 僕の名前を言ったってことは、間違いなくこの声の主は僕に用がある。声を聞くとしかできないけれど。僕から話しかけることはどうやらできないらしい。



『聞くだけでよい。実は、我はある者からお主の転生先を変えるよう頼まれてな』



 え、いきなりすぎてわからない。



 "転生"って、魂が輪廻転生することか?


 そんなラノベみたいなこと、本当にあるのだろうか?



『あるのだ。それでな、我はその者が何故お主の転生先を変えたいのかわからなくてな……その理由を知りたいのだ。だから、当初の予定通りの世界に転生してほしいのだ。当初の予定も別の者から頼まれたことだがな』



 はあ……まあ、それくらいならいいけど、それ、僕にわざわざ話す必要があるのかい?


 会話しているかのように、声の主に答えてみる。相手に僕の思考は筒抜けのようだから、意味が無いかもしれないけれど。



『ああ、その者がそうした理由がわからないからな。最初に我にそなたの転生を頼んだ者の理由はよくわかっておるのだが……我に運命を視る力はない。それ故、お主の人生に何があるのかわからないのだ。まあ、お主の言質を取っておきたいのだ』



 なるほどね。でも、僕だって運命なんかわからないんだから、そこまで気にする必要はないよ。どんな人生でも僕は僕らしく生きるまでだ。


 魂を別世界へ転生させるほどの強さのウロボロスがそんなことを気にしている方が驚きだった。神なんて、もっと傍若無人な存在と思っていた。



『……済まないな。さて、そろそろその世界に着くぞ。お主と話をするためにお主を次元を超えるまで我の中で守っておる。我の身体から出た瞬間は恐怖を感じるかもしれないが、すぐに"迎え"が来る』



 ブラックホールってウロボロスの口だったのか?


 まさか、出口は……



『失礼な! 我に排泄器官などはない。お主の世界の単語で言うと"ホワイトホール"にあたるな』



 凄い……ブラックホールとホワイトホールって本当に繋がっていたんだ。


 全てを飲み込むブラックホールと、それに飲み込まれる質量がどこへ行ったのか釣り合いをとるために考えられた説だけど、まさか異世界に繋がっているなんて。



『覚悟はいいか?蒼月(そら)


 覚悟なんてあってもなくても僕は生きていくよ。



『……そうか。着いたぞ』



 そうウロボロスが言った次の瞬間、






「わあっ!」





 五感が一気に解放された僕のそれらが捉えたのは、満天の星空。天の川のような星の集まりも見える。バルジもあって、ある民族が天の川をエミューに例えた話を聞いたことがあるけど、本当に大きな飛ばない鳥のよう。



 真空のはずなのに苦しくないし、無重力空間のためか、身体がクルクルと動く。ウロボロスは恐怖とか言ってたけど、幼い頃から星空を見上げてきた僕はこの空間がとても好きだ。



 さて、と。"迎え"が来るって言っていたけど……あ、あの惑星。海と大陸があって、僕がいたあの星に似ている。


 ウロボロスから出た先は一つの恒星系だったようで、そこのパビタブルゾーンなのか、地球のように色鮮やかな惑星があった。その周りを2つの衛星が回っている。


 少し遠くを見ると、恒星系の中心にある恒星の連星も見える。全ての恒星は連星という説、本当なのかもしれない。





 ……戦争が始まってしまったあの世界はどうなったのだろうか。


 ふと、そう思った。ウロボロスの口がブラックホールなら、もう既にその全てが飲み込まれているのかもしれないけれど。



 あの世界に未練はあんまりない。もちろん気になる新作ゲームは沢山あるし、宇宙や歴史が好きだから解明されてない謎が気にならない訳ではない。家族や友人のことが気にならないということも無い。過去を振り返れば、未だに泣いてしまうことだってある。


 でも、今はそれ以上に僕がこれから転生する先への好奇心が大きかった。



 よく読むラノベでの転生の仕方は、事故があって気づいたら異世界だった、というパターンが多いので、自分の転生の仕方が面白いのもあるかもしれない。



 神様に会うパターンも多いけれど、ウロボロスは神様の類になるのだろうか。それでもブラックホールに飲み込まれるのは流石にない気がする。


 要するに、現実味がなくてイマイチ実感がわかないのだ。自分が転生するのだと。


 頭の片隅では、これは夢なんじゃないかとさえ思っている。



「あれなのかな……?」



 僕の視線の先にある、地球とよく似た惑星。



 その星に手を伸ばした瞬間、僕の意識はまたブラックアウトした。







❁❁❁❁❁❁









「……起きないねー」



 誰?



「起きないなー」



 あれ、身体が少し動かしずらい。



「もう5年も経ったよー?」



 瞼は、開けられた。



「……あ、起きた?」



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