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22話

本日はもう一回更新予定です。



「マエルさん、お久しぶりです! ……と言っても、半日ぐらい前に別れたばかりですけど」


「おう! ソラじゃねーか、どうした?」




 フォレ侯爵家お抱えの商人で、僕らがネジュ山からルセイアまでお世話になったマエルは、思った通り、フォレ侯爵邸にいた。



 気配を隠さずにわざと街中を歩いていたのは、彼らの情報を集めるのともう一つの理由があってやっていたのだ。



 彼らはフォレ侯爵邸をはじめとして、いくつかの侯爵邸─もちろん、ベルトラン侯爵邸も─をまわって納品すると聞いていたから、貴族向けの店に納品していた商人達に聞き込みしていった。



 そうすると、今日はまだフォレ侯爵邸ではないかと何人か言っていたから、来てみたのだ。いてくれて助かった。



「ベルトラン侯爵家への納品はこれからですか?」


「この次に行くが……それがどうかしたのか」


「無事冒険者ギルドに登録できまして。その依頼でベルトラン侯爵家に手紙を届けに行かなきゃ行けないんですけど……依頼主がわからないのでちょっと怖くて。直接手紙を渡したいのです」



 ギルドカードを見せながら、そう言う。



「おうおう、大変だなあ。いいぜ、一緒に来い。確かに、玄関先で渡すだけじゃそういう依頼は不安だからな……俺も冒険者時代にちょっと危ない目にあったからよくわかるぜ」


「この前だってあってたでしょう?」



 クリムゾンペガサスにやられていたのはよく覚えている。



「わっはっは。お前には敵わねえな……御者席来いよ。これから移動する」


「ありがとうございます、マエルさん」



 マエルが馬車の御者席に座った後にそこに飛び乗る。




 ミィルという名の雌ウマに合図を出し、馬車をフォレ侯爵邸から出した。



「ソラ、ラヴィはどうした?」


「別の依頼をやってくれてます」



 嘘ではない。


 今頃、ラヴィーニは元使用人達を秘密の通路から公爵邸へ案内している途中のはずだ。気配を隠す結界は彼も得意だから、バレる心配はない。



「そうか。お前らが一緒にいないと少し変な感じだな」


「そうですか?」


「馬車に乗ってる時はともかく、寝る時や近くの村によった時もずっと一緒だったろ?」



 それはラヴィーニに魔力を渡していたからなのだが、マエル達にはそう見えていたらしい。


 でも、ラヴィーニと心の友になれた今は、それをとても嬉しく思う。



「そうだ、マエルさん。私が話しかける前に話していた人は誰ですか?」



 照れくさいのを隠すように、気になっていたことを質問する。


 僕が来る前にマエルと話していた少年。あんな珍しい容姿は中々ないから、多分僕が考えている人だと思うのだが……



「ああ、彼はフォレ侯爵家嫡男のアレン坊ちゃんだ」



 やっぱり。





 『叡智の姫と七色のプリンス』のメイン攻略対象の一人、アレン・ド・フォレ。アルビノで本が好きな少年で彼の√は難しい要素がない上に、ただひたすら可愛い彼が見れるということで大変人気があったのだ。



 フォレ侯爵家と聞いていた時からもしかしてとは思っていたが、やっぱり彼はいたらしい。ヒロインの一人と数人の攻略対象及びサブキャラの存在が確認できた以上、ここは本気でこの世界が本当に乙女ゲームの世界なのか、確かめねばならない。




「アレン坊ちゃんは凄いぞ。まだ5歳なのに常に落ち着きを払っていて、本もよく読むから物知りだ。まだ生まれて間もない頃や話せるようになった頃はちょっと大丈夫かと思ったがな」


「? どういうことですか?」


「生まれた時、全く泣かなかったんだ。腹が減っても泣いたりしなかったから、侍女達が苦労していたな。それに、話せるようになってからはよくおかしなことを言って周りを困らせたりしてた」



 ゲームの中のアレンは普通の優等生なのだが、彼でもそんなおかしいエピソードがあるのか。



「おかしなことって?」


「周りにふわふわした何かがいる、とか言ってな。その時は、たぶん、坊ちゃんは精霊が見えるんじゃないかって言う結論になったけど、大きくなるにつれてそういうことを言わなくなったから、今はわからねえな」



 確かに、ゲーム内でもアレンは時折誰もいないところを見つめてたりするシーンがあったから、精霊が見えるというのは嘘じゃないと思われる。







 問題は"どうして"それが見えているか。





 精神生命体か"天紋"の持ち主じゃないと精霊は見えない。しかし、彼に精神生命体ほど大きい魔力を感じなかったから、彼はおそらく、二人いる"天紋"の片割れ。何としても仲間に引き入れたいが、如何せん貴族だから難しそうだ。



 そういう点でいけば、冒険者ギルドから推薦を貰って、彼が通う予定のリュミエール学園に行くのもありかもしれない。そこで彼と信頼関係を築ければ、協力してくれるかもしれない。



 乙女ゲームが始まるのは入学後すぐではないし、僕はジークフリートと婚約していない。そもそも、ヒロインを何とかしたい訳でもないから、学園に通うというのも一つの手だろう。



 そんなことを考えたり、世間話をしていると、もうベルトラン侯爵邸についたようで。





「ソラ、ついたぞ。俺達は納品してるから、上手くやれよ」


「はい。この恩返しはまた今度」


「ソラは俺達の命の恩人さ気にせんでいい」


「はい、それではまたどこかで」




 商隊の人達にも挨拶をし、ベルトラン侯爵家の執事とマエルが話している隙に、侯爵邸に侵入する。



 この作戦を思いついた時、本当は不法侵入なんて、と思った。







 しかし、一人の少女を救うためだと思い込みその姿を探す。





 悪いことをしていると自分で思っているから、結界を張っていても、コソコソと探す感じになるが。





 邸の作りとしてはリヴィエール公爵邸と余り変わらない。寝室は三階だろうと思って、階段の少し上を浮遊魔法で移動していく。








 忙しくしている侍女や執事の横を通り過ぎていく。





 目的の人は、三階の隅にある図書室にいた。



 よく手入れされている金髪と海の色の瞳、というこの国でよくある組み合わせの少女は、その歳で読むには難しいであろう本を読んでいた。


 気配を消したまま近づき、その本を覗き込むと、それは神話が書かれていて、おそらくこの少女は神の系譜を勉強しているのだろう。神々の血縁関係が記された 図を指でなぞっていた。





 ガイア、ウラノス、クロノス、レア、ゼウス、ヘラ……






 記されている神も単なる"神"ではなく、神竜の一族であることを僕は知っているのだが、ライヒ王国の人々は神と崇めて信仰している。






「クララお嬢様」


「……なに?」






 開けっ放しにされていた図書室の扉の方まで戻り、そう声をかける。執事の服が公爵家とほとんど同じでよかった。





「お話があります」


「入って」




 今度はクララにしか姿が見えないように結界を調整する。




「……貴方、誰?」


「はじめまして、クララ様。私は一介の冒険者です。今は貴女様のお母様がなさっていることを止めるため、ここに参りました」


「母が……? また何かやったの? あの人」






 僕が執事見習いではなく、冒険者であることにはそれほど興味がないらしく、クレモンスのこともさほど興味がないようだ。一瞬だけこちらに視線を向けたが、後はずっと本を見ている。




「リヴィエール公爵家夫人になりたいようでして。ご当主がいない隙にエレオノーラ様を監禁し、使用人達を追い出しました」
















「……なんですって?」






 クララが本から顔を上げてこちらを見る。



「現在、公爵家を取り戻すための計画が進行中です。もし、貴女様のお母様が騎士団に捕まれば、ベルトランのご当主は貴女方親子との縁を切る、もしくは殺すと思われますので、その前に救出に参りました」


「……兄は?」


「既に学園の信頼できる方に連絡し、保護をお願いしております」


「そう」



 本を静かに閉じ、近くの棚に戻すクララ。


 しばらく何か考えた後、



「それで、私にどうしろと?」


「クレモンス様にお会いしたいなら公爵邸に連れていきます。もう会いたくないなら、元騎士の方に保護していただきます」


「もちろん母に会いに行くわ。アレックス様には離婚の際に恩があるのに、こんな酷いことをするなんて馬鹿げている」


「わかりました。何か持っていくものなどはございますか?」


「いくつか亡くなった祖母のものがあるから、お願いできるかしら」


「はい」




 図書室を出て歩いていくクララについていく。侍女や執事が傍に控えてないということは、彼女も専用の世話係がいないことを表している。


 ベルトラン侯爵家は彼女や彼女の兄をどう扱っているのだろう。こんなにあっさりとこの家を出ると決めるなんて。


 クララは図書室とは反対の端にある扉を開き、そこに入る。


 自分も続いてそこに入ると、そこは一令嬢としては狭い─前世の僕の実家の部屋と同じくらい─空間だった。


 しかも、所狭しと本が置いてあるので余計に狭く感じる。ゲームで彼女と会うところは必ず図書館だったので、きっと本の虫なのだろう。




「持っていくものはこれくらいね」



 そう言ってクララが僕に渡したのは、両手に収まるくらいの木製の箱。中にはアクアマリンの宝石と銀で作られたペンダントが入っていた。




「元父の方の祖母から兄が貰ったものよ愛した女性にその家の男が代々送ってきたそうなんだけど、祖母は元父に渡したくなかったらしくて─」


「お兄様に渡したのですね」


「そういうことよ」


「ここの本はよろしいので?」


「いくらあなたが空間魔法を使えたとしてもこの量は無理よ」


「できます」



 このくらいの量なら余裕すぎるくらいだ。



「……本当?」


「はい」


「そう。じゃあお願いするわ」




 新たに作った亜空間をこの部屋に接続する。


 パチンと指を鳴らすのと同時にこの部屋にあった全てのものが亜空間に入っていった。




「……凄いわね」


「公爵家の問題を解決できるくらいの実力はあると思います」


「兄とあまり歳が変わらなそうなのに……あなた、名前は?」


「ソラと申します」


「ソラ、私をお母様を裁くために連れていってくれる?」


「はい、お嬢様」




 マエルの馬車の近くにつけておいた、転移魔法のポイントに接続し、クララの手を取る。



 瞬時にその場所まで移動し、結界を維持したまま、クララの手を引いて公爵邸へ向かう。彼女は質素で動きやすい服を着ていたので思ったより早くつきそうだった。





 これで、僕の方の一つ目のミッションは完了。




 ラヴィーニもちゃんとやってるかな?



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