17話
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「リヴィエール公爵家にいる悪女を連れ出して欲しい?どういうことですか?」
「詳しいことは公爵邸でお話します」
「えぇ……」
ランク判定が終わり、クロエにギルドカードを発行してもらった後、僕らは倒した魔物のドロップアイテムを売って、ギルドから出ようとしたのだが、そこをエマに呼び止められた。
どうやら、依頼したいことがあるようで、僕はリヴィエール公爵家関係は嫌だと思いながら依頼内容を聞いたのだが、やっぱり公爵家関係だった。
「……どうする?ソラ」
隣に座るラヴィーニが心配しそうにこちらを見る。
エマはテーブルを挟んで向こう側に座っていて、サイモンとクロエは別の部屋で仕事をしている。ここは貴族が極秘の依頼を冒険者に頼む時に使う部屋らしい。だから、どんな内容なんだろうと思っていたのだが、確かにこんなこと他の耳目があるところで話せない。
「受けたくないんだけど……でも、当分のお金は大丈夫だけど、やっぱりできることはやっておきたいんだよな……」
報酬は金貨20枚。今、手持ちが金貨12枚、銀貨が50枚、銅貨が82枚だから、できるならば受けたいところではあるのだ。
この国の王宮には巨大な図書館があるらしく、庶民がそこに入るためには一人金貨30枚必要なのだ。僕はそこで色々調べたいことがあるからお金を稼ぎたい。
それに、フレゥールから預かった手紙は公爵家のエレオノーラという人物宛。この依頼をこなし、終わったらエマに頼んでもいいかもしれない。
「公爵家の誰かに何か言われても、さっきと同じように知らないと突き通せばいいんじゃ?」
「そっか」
それでも"レティシアかもしれない"自分はあまり関わりたくない。しかし、エマの助けをしたくないわけでもないから難しいところだ。
「あ、男のふりをすればいいんじゃ?」
「それだ!」
クロエからはソラちゃん、サイモンからは嬢ちゃんと呼ばれているから、エマにはバレているが、後で事情を話して黙っていてもらおう。
「エマさん、その依頼、受けさせていただきます」
「本当ですか?!ソラさん、ラヴィーニさん、ありがとうございます」
「僕が女の子であることを黙っていて欲しいのですが……いいですか?」
破顔したエマは本当に良かったと呟いている。詳しい事情はまだわからないが、よっぽどのことがあったのだろう。いくらBランクとはいえ、こんな子供に依頼を頼むなんて。
「それくらいは大丈夫です。それでは、公爵邸に参りましょう。途中、敵の刺客が来るでしょうが、お二人なら大丈夫だと思いますので」
物騒だな……
本当に、どんな依頼なんだ。
「わかりました」
エマさんがギルドカードに表示した依頼書に僕とラヴィーニがサインする。
これで依頼受諾は完了だ。僕らのギルドカードを貰った時にラヴィーニとパーティーを組んでいるから、他にここでやることはない。
扉を開けて、入口とは逆方向に向かうエマについていく。
貴族などが秘密裏に出入りするための通路があるらしく、本当はAランク以上の冒険者にしか教えられないそうなのだが、サイモンが特別に許可を出してくれたのだ。
狭く暗い通路を出た先は細い路地。空を見ると、ちょうど太陽が真上にあって正午なのがわかる。北区には冒険者向けの食堂や宿屋がたくさんあるそうで、あちらこちらから昼食を食べに来たのであろう冒険者や店の人の声が聞こえてくる。
「ここは東区へ直接通じる道なので、刺客にもバレることはありません。しかし、東区に入ればあちこちに刺客がいるので用心してください」
「わかりました」
先頭をいくエマよりももっと広い範囲をラヴィーニが見ているからたぶん刺客には会わないだろう。いてもエマが見つける前に僕が倒すし。さすがに殺すのには抵抗があるので、眠らせたりするだけだが。
「この通路の出た先は男爵家の邸宅が集まる場所。公爵邸があるところまでは路地を通っていきます」
この国の貴族は、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。領地を持っているのは伯爵以上で、子爵は宮殿に直接務めている役人や伯爵以上の家柄の分家のこと。男爵は商売などで利益を上げた人の一部がなれるが一代限り。騎士や魔士に任命された人は元の身分と関係なく、男爵位をもらえるのだとか。
「具体的にどんな家の近くなんですか?」
どうでもいいけど、聞いてみる。
こういうことが後から役に立つかもしれないし。
「商人のルグラン男爵家です。お恥ずかしながら、私の妹が働いております」
サイモンと口喧嘩していた時に言っていた妹のことだろうか。
エマは今16歳だから、その妹はそれ以下の年齢のはず。この世界で学校に行けるのはほんのひと握りだけらしいから、ある程度大きくなったら働くのが普通なのだろう。
そんなことを考えていると、後ろを歩くラヴィーニが声ではなく、思念で話しかけてきた。思念を使えるのも、精神生命体の特徴の一つだ。
『ソラ、ルグランって、手紙の差出人欄にあった名字じゃない?』
『そう、かも』
ラヴィーニに言われて、ハッとする。そして、エマに見られないように手紙を取り出し、差出人欄を見ると、確かに"ルグラン"と書かれている。
『ありがとう、ラヴィーニ』
『どうしたしまして』
乙女ゲームのヒロインらしき幼女にあった衝撃で、その直前まで覚えていたことを忘れてしまっていたらしい。ラヴィーニが教えてくれなければ、この国に来た一番の目的を達成が遅くなるところだった。
「エマさん、ルグラン男爵家の女性の名前、何か知ってますか?」
名字がルグランならば、当主の姉妹か、妻か……フレゥールから聞いた話では若い女性だったとの事なので、その辺だろう。
「どうしてそれを?」
「ルグランの姓を持つ知り合いかいるのです。もしかしたら、会えるかもしれないと」
「……伯爵家の長男と婚約してる娘がミシェル、とは聞いたことがありますが、他はないですね」
エマはルグラン男爵家が嫌いなのか、嫌そうにしながら答えてくれた。もう聞かない方がいいかもしれない。
でも、これじゃ"ルーシー"のことがわからない。
「エマさん、ルグラン男爵家が嫌いなのに申し訳ないですけど、もう一ついいですか?」
「別に嫌いじゃありません。なんですか?」
「ルーシー・ド・ルグランって知ってます?」
僕のその言葉に、それまで早歩きをしていたエマの足が止まる。僕とラヴィーニも当然、足を止める。
ルーシーについて、なにか知っているのだろうか。
「何故、貴女がそれを?」
「本人に直接お会いしたことはありませんが、手紙を渡してほしいと頼まれまして。あ、リヴィエール公爵家のエレオノーラさんに宛てた手紙なので、もしよかったら依頼が完了した後でもいいので受け取って彼女に渡してほしいです」
リヴィエール公爵家とは関わりたくないとか言ってたけど、ルーシーに僕が引き上げられた時点で、関わることは決まっていたのだ。もう文句は言わないようにしよう。
「……もうすぐ東区に着きます。貴女のその問いには公爵邸に着いてからお答えします」
「わかりました」
さっきよりスピードを上げて歩いていくエマ。エレオノーラのことはともかく、ルーシーのことも知っていそうなのは嬉しい収穫だ。思ったより早くこの手紙の件も片付きそう。
『ソラ』
『どこだい?』
『この通路から出て右に曲がった所に2人』
『おっけ』
ラヴィーニが見つけた敵に魔法の座標をセットする。もしこちらに攻撃してくるならすぐに僕の魔法が発動するようになっている。
どうして座標設定ができるのかというと、スキルの"熱感知"と"魔力感知"で熱を持っているもの、魔力を持っているものを感知することが出来るから。精神生命体であるが故に、精度もいいし、ラヴィーニへの魔力供給を応用し、ラヴィーニが視ているものをそれにリンクさせることもできる。これでさらに正確になるのだ。
旅の途中により早く魔物を発見するために2人で考え出した方法である。
『ソラ、さっきの2人がいる場所の先で、一人の女の子が5人の男に囲まれてる。さらに少し遠くからそこに走って来てる男が一人』
『わかった……そっちも座標固定完了。もし男達が何かしそうになったら教えて』
『了解』
そんなやり取りをしていると、東区に着いたようで、さらにエマの歩くスピードが上がる。あの2人は刺客じゃなくて先にいる男達の仲間で見張っているのかもしれないけど、邪魔だから静かに眠らせておくことにした。
「レナ……!」
先を歩くエマが驚いたように小さく声を上げる。その先にはさっき確認した少女とそれを囲む男5人。遠くの男はまだ合流してないようだ。
「エマさん、知り合いですか?」
「妹よ」
「では、ここは僕にお任せを」
「え、」
返事を聞く前に走り出す。
既に座標を設定してはあるが、少女に5人の大男がよってたかるもんじゃないと思うし、ムカつくので身体強化のみで殴ることにした。
超加速は使わず純粋な脚力だけで走りながら、脚と腕に強化魔法をどんどん重ねていく。
「ぁ」
一人目のターゲットはその5人のリーダー格のようで、僕が真後ろに来た瞬間、さすがに何かいることに気づいたようだが、反応が遅すぎる。
僕は頭に飛び上がりながら足蹴りをいれ、その左の男も同時に腕で近くの壁へ突き飛ばす。
「お、おいなん……」
他の3人もようやく気づいたようだが、苦もなく全員のばしてやったところで、遠くから走ってきた男がやってきた。
「これのお仲間ですか?」
「……違うよ。僕の使い魔が、少女が男達に襲われてるって言ったから急いで来たんだけど、無駄になっちゃったかな」
赤みがかった金髪と緑の瞳の男は肩を竦めてそう言った。確かにほかのゴロツキと比べて、随分いい服を来ている。どこかの貴族の子弟なのかもしれない。
「そうですか、それは失礼しました。君、大丈夫ですか?」
顔を真っ青にしてる少女に声をかける。少女はヒト族で、年は12くらいだろうか。確かに、エマとよく似ている。
「あ、ありがとうございます。私、そこのお邸で働いているレナです。あの、そこの御方も本当にありがとうございます」
話す度にお下げがぴょこぴょこ動くのが可愛い。
「レナ」
「お姉ちゃん?!」
エマとラヴィーニもやって来て、エマはレナをそっと抱きしめた。
「レナ、大丈夫?」
「はい、使用人用の出入口から出た途端、あの人達に絡まれて……でも、あそこの御二方が助けてくれたから」
「そう……ソラさん、本当に色々ありがとうございます」
「いいんですよ、エマさん」
「それに、そちらの方も……あら、エドゥアル?」
「やあ、エマ。久しぶりだね」
なんと、エドゥアルという青年とエマは知り合いだったようだ。
「エドゥアル、どうしてここに?」
「メディオ学院での研修が終わったから帰ってまた公爵家に仕えると手紙を送ったはずだけど……」
「……!!」
慌てたようにして、そして考え込むエマ。一体、公爵家では何が起こっているのだろう。
「レナ、お邸に戻りなさい」
「はい、皆さんお気をつけて……」
すぐ近くの邸へ入っていくレナ。そこがルグラン男爵家の邸宅らしい。男爵家でもこんなに大きいとは驚きだ。前世での一軒家が七軒から八軒くらい入りそうだ。
「ソラさん、ラヴィーニさん。こちらは公爵家の執事見習いのエドゥアル。彼も一緒に来てもらいますけど、よろしいでしょうか」
「大丈夫です」
「はい」
僕らの返事を確認すると、エマはまた歩き出した。
「エマ、何があったんだい?」
「公爵邸に戻ってから説明するわ」
「父さん達は……?」
「貴方のご両親は、とりあえずご無事よ」
「……どういうことだ?!」
エドゥアルも彼の使い魔なのであろうフクロウを呼び寄せて歩き出す。
僕とラヴィーニは顔を見合わせて、また手を繋ぎながら2人の後を追っていった。
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