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12話

最初は鍛冶の神ヘファイストス視点で、後はソラ視点です。


「……」


「どうした、ヘファイストス」



 あの首輪が壊れたことに、はたして俺は喜んでいるのか、悲しんでいるのか。


 ただ、自分の部屋の窓枠に腰掛けている友人にそれを知られるわけにはいかないと、首を横に振る。



「なんでも。それより、ヘルメスはここにいていいのか? 主神に命じられた"歌姫"の監視はどうした」


「あーあれね……」



 艶のある栗色の髪を弄り、零れそうなほど大きな翡翠の瞳をキョロキョロ動かした友人は、一つため息をついたあと、いつになく真剣な表情で言った。



「あれさ、どっちも歌姫じゃないんだよね」


「……?」



 友人の言葉に首を傾げる。歌姫が、神々が事前に用意した身体か、主神が自ら用意した身体に入ってないとはどういうことなのだろう。



「確かにどっちもヒト族のわりには魔力が飛び抜けている。が、精神生命体の域には届かない。主神の娘の方はいってると思ったけど無理だったみたいだ」


「……」


「勇者としてヒト族に預けたけどあれは期待はずれだな。寧ろ、あの国に生まれた火の勇者の邪魔をしそうだ」



 友人の言葉は主神の悲願が今回も叶わなかったことを意味している。


 自分は叶わない方がいいと思っているが、大半の神は違う。しかし、目の前の友人も叶わない方がいいと思っている1人なので、こんなことが言えるのだろう。


 そもそも、"ここ"の主が"歌姫"の人生を縛ることに反対なので、ここなら何を言っても大丈夫なのかもしれない。いくら主神でもここの主には逆らえない。



「しかし、歌姫の魂を喚んだのは間違いないのだろう? この世界のどこかにいるかもしれない」


「そうだよな……地上界に戻って探すとするか」



 歌姫を放置するわけにもいかないし、身体に入れてないなど万が一にもあってはいけない。友人の仕事は鍛冶一辺倒の自分より多岐に渡るが、最も大事なのは歌姫を監視し天界に導くことだ。



「で、話を戻すけど。さっきは何があった」


「……なんで覚えてるんだ」



 このまま上手く地上界に行ってくれと思っていたのだが、そう簡単には行ってくれないらしい。



「お前は自分が作ったもののことを全て把握してるはずだからな。作ったものに何かあったんだろ?」



 そして、この友人には隠し事ができない。


 "あの子"が生まれたことだって、友人にしか話していないし、彼には言った方がいいのかもしれない。



「……"あの子"につけた首輪が壊れた」


「……死んだと決まったわけじゃないだろ」


「あの子より魔力が多くないとあれは外れない。つまりはかなり上位の精神生命体でなければならないが、精神生命体がそんな都合よくあんなところに行くはずがない」



 自分が作ったあの首輪はあの子が一番楽に死ねる方法だったのだ。


 首輪が壊れたということはあの子も死んだということ。


 それでよかったのだ。


 最初の忌み子とそっくりの容姿をしている自分だが、生まれてくるあの子は愛しい人の特徴も受け継いでくれるだろうから、きっと大丈夫だろうと思っていた。


 しかし、愛しい人の命と引き換えに生まれてきたあの子は、大きな耳と尻尾は持っていたものの、いや、それしか彼女の面影を受け継がず、それ以外全て自分に似てしまったせいで……



「闇の忌み子が簡単な死に方をしないのはよく知ってる。だが、俺はお前の息子がそれを変えてくれることを信じてるぜ」


「……君はあの子が生きてると信じてるんだね」


「ああ。じゃ、行ってくる」



 そう思ってくれる友人がいることが、何よりも救いだ、と。


 母に嫌われ捨てられた原因となった自分の姿をまじまじと思う。


 浅黒い肌、黒に近い紺色の髪、鏡のような瞳。


 鍛冶の神─ヘファイストスは、地上界へ向かう友人、旅の神─ヘルメスを複雑な表情で見送った。










❁❁❁❁❁❁










「……この、"ヘファイストスの加護"ってなんだ?」


「そんなの俺に聞くな」



 天狼族の住処に向かう途中、僕は仲間になったラヴィーニの状態を確認するため、彼に許可をもらった上でもう一度、インデクスを発動した。


 そこで彼の年齢が今の僕と同い年だとわかった。身長は数センチ彼の方が低いが、それでも5歳にしては身長が高い。天狼族もエルフ族と一緒で、身長が元々たかい種族なのだろう。


 特に問題はないかと、確認していたのだが、保持している加護の欄に見慣れないものがあったから聞いてみたのだが、本人も知らないようだった。


 親も知らないそうで、前世で死んで目覚めたらあの小部屋にいたらしい。



「ヘファイストスは火と鍛冶を司る神よ。確かに、どうしてそいつの加護がラヴィにあるのかしら」



 ラタもその神のことは知っているが、ラヴィーニが持っていることは疑問に思ったようだ。


 この世界での神というのは、精神生命体の域に至った、竜族を除く地上界の種族のことを言う。鍛冶の神は主に神器を作る役目だそうで、その神の加護はおそらく、ものづくりに関する何かではないかという結論に至った。



「あ、そうだ。ソラ、さっき言ってた魔力を他人に移す方法なんだけど、どちらも精神生命体なら皮膚がくっついていればいいみたいよ。ソラがラヴィに移すなら、一晩一緒に寝てれば大丈夫じゃない?」


「……くっつくことに変わりはないのか……」



 ラタに頼んでいたことが調べ終わったようで、教えてくれたのだが、それは僕が期待していたものとは違っていた。


 うわぁ……と思いながらラヴィーニの方を見ると、こちらはニコニコしているし、ヘッグはニヤニヤしている。


 ラヴィーニはいいとして、ヘッグはやはりもう一回殴った方がいいのかもしれない。



「ラタ、それ以外にないのかい?」


「無くはないけど……一番ソラが"疲れない"方法はこれね」



 はて、疲れない、とはどういうことだろう。


 その事をラタに聞こうとしたら、



「──!」


「ラタ、ありがとう。ソラには少し迷惑かもしれないけど、2人で話し合ってどうするか決めるよ」


「はーい」



 僕の口を手で押さえたラヴィーニが勝手に答えていた。


 ラタには言ってないが、ラヴィーニの中身は僕と同じアラサーのサラリーマンなのだ。


 ラタ、そのサラリーマン特有の胡散臭い笑顔に騙されるなー! 僕はまだ君に聞きたいことがー!


 という心の叫びも虚しく、相変わらずニコニコし続けるラヴィーニに僕は少し疲れてきたのだった。



「ソラはさ、俺と一緒に寝るの嫌?」


「いや、それは別になんとも」


「キスは嫌がるくせに寝るのは平気なのかよ」


「前世で中学生になる前くらいまでは、普通に幼馴染み達とお風呂入ってたり、成人して一人暮らし始める前まで一緒に寝てたりしたからな……口調も男みたいだったし、身長もそこら辺の男くらいあったし。周りもほぼ男としてカウントしてたんじゃないかい? 誰も気にしてなかったし。だから、結構慣れてるよ」


 外務省職員の父と二人暮しだったせいで、父がいない日は周りの家で過ごさせてもらっていた。僕がその日お世話になる家に幼馴染み達が自然と集まってきて、みんな家族みたいだったのだ。


 こんな口調なのも、八割が男の幼馴染み達に影響されたものなのだ。



「……うわぁ可哀想……って、俺もか」


「? なんか言ったかい?」


「ううん。それじゃ、一緒に寝るのはいいってことでよろしく」


「はいはい」



 キスされたのは流石に驚いたが、こっちもあっちも今は5歳児なのだ。気にすることなんて何もない!


 そう心の中で決め、歩き出した僕を見て、ため息をついたヘッグがラヴィーニに"頑張れよ"と肩を叩いたことなんて僕が知るわけないのだ。








❁❁❁❁❁❁









 天狼族との話し合いは思ったよりスムーズにいった。


 あちらの代表の長老によると、天狼族達は誰もラヴィーニのことを知らなくて、前の闇の忌み子が死んでから誰にも闇の紋章が現れないことを不思議に思っていたらしく、ラヴィーニのことを忌み嫌うのではなく、今まで気づかなくて申し訳ないと言っており、逆にラヴィーニがすごく驚いていた。



 ラヴィーニの家族についても少しわかったことがある。


 ラヴィーニの前の闇の忌み子は長老の娘らしく、僕の前の歌姫についていってから帰ってきてないそうだ。


 長老が知る限りでは、他にネジュ山から出ていった天狼族はいない。だから、ラヴィーニは彼女と誰かの間にできた子である可能性が高い。


 しかし、何故あの小部屋に鎖で繋がれた状態でいたのかは、やはり全くわからないのであった。


 僕が今代の歌姫であることを告げ、ラヴィーニを連れていくことを認めてほしいというと、それは太古からの約束だから当然だと長老は言った。


 しかし、ラヴィーニが本当に長老の娘の子なら、彼は長老の孫であり、そうでなくとも、間違いなく天狼族の一員なのだから、必ずここに帰ってきて欲しいと涙ぐみながら言っていた。


 ラヴィーニも、前世で幼い頃に亡くなった祖父を思い出したらしく、絶対にまたここに来ると目を赤くしながら言っていた。





 そんな訳で、ネジュ山を出て次の目的地─ライヒ王国の王都ルセイアを目指す僕らなのであるが、僕は天狼族の見た目がラヴィーニとあまりにも違うことに驚きを隠せず、それは山を降りたところで一晩過ごしたあとまで続いていた。


 なぜなら、ラヴィーニの髪は黒に近い紺色で、瞳は銀色だ。瞳は闇の忌み子が持つ"抗魔の瞳"のせいだとしても、他の天狼族がみな濃い灰色の髪なのにラヴィーニだけがその色ではないのだ。


 長老に聞くと、濃い灰色は天狼族の証のようなもので、滅多に変わることはないらしい。しかし、ラヴィーニの親が天狼族よりも上位の存在だと変わることもあるかもしれない、と。


 肌の色も同様だそうだ。そしてもう一つ。抗魔の瞳のせいで闇の忌み子は他の天狼族の瞳の色─薄い青─とは違う色になるらしいが、それでも今までは青系統の色だったそうだ。



 ラヴィーニの身体的特徴だけでも、ラヴィーニの親が彼に与えた影響とその力の強さを伺える。僕は旅途中でやらねばならないことに、ラヴィーニの親探しを加えたのだった。











❁❁❁❁❁❁












「そろそろ街道に出そうだ」



 ラタとヘッグには亜空間に入ってもらい、僕は狼に変化したラヴィーニの背に乗って森の中を抜けていた。獣人はみな変化できるそうで、ラヴィーニも、僕が作ったご飯を物凄い勢いで食べ、一晩僕を抱きしめて寝たことで体力と魔力が完全に回復したらしく、森の中を抜けるのはこれが一番だろうと変化してくれたのだ。


 今まで何も食べてなかったのに、いきなりあんなふうに食べたら身体が壊れるんじゃないかと心配したら、天狼族は身体の不調が本人に伝わる前に自然に回復する特殊なスキルがあるらしい。


 隠密に向いているとされるのも、いくら毒をくらっても大丈夫だからという理由もあるそうだ。



「そんなことまでわかるなんて、その瞳凄いな」



 抗魔の瞳は魔法を反射するだけでなく、空間把握能力を飛躍的に上昇させる。とりあえずネジュ山の麓に広がる森から出て、道を知ってそうな人か村をを見つけようということになったため、ラヴィーニは走るのと周りを探るのを同時並行でやってくれてるのだ。



「ソラのステータスを視るのも凄いと思うけど」


「これは何があるのかわかるだけの中途半端な能力さ。今のところ、あってもなくても変わらない」


「そっか。でも、ラタから貰ったものなんだろ? 大切にしとけよ」


「ラタも別の誰かから貰ったものらしいけどね。大切にするに決まってる……………………………………っ!」



 そう他愛もない会話の途中、強い魔物の気配がして、森の先を睨みつけた。



「ラヴィーニ、何があったのかわかるかい?!」


「この先の街道で、商人と魔物が戦っている。商人は5人、全員が武装していてそこそこ手練っぽいけど、対する魔物が強いから苦戦してるようだ。魔物の方は……真っ赤なペガサスが2体」


「ラタ」



 ラヴィーニからの情報をラタに渡し、魔物がなにか聞いてみる。



『クリムゾンペガサスね。地上界の種族の基準で行くと、そこそこ上位の魔物よ。後何万年か生きれば神獣になれるんじゃない?』



 とりあえずそこそこ強いのだと判断し、ラヴィーニにそこへ向かってくれと頼む。





 気配遮断と物理魔法無効化の結界を張り、レーヴァテインを構える。



「ソラ、あれだ」


「うん、見えた」



 ラヴィーニが音を立てずに止まる。


 100mほど先に、荷馬車と倒れている人、槍を手に戦っている人、そして深紅の身体の翼の生えた馬が2匹いた。



「少し左」


「ああ」






 ラヴィーニに位置を調整してもらい、そのまま矢を放つ。





 死の間際の声を上げることすら叶わず、2匹のクリムゾンペガサスは一撃で同時に倒れた。





「よし、ラヴィーニ、ありがとう。人になれる? 彼らの傷を治して、道を聞いてみよう」


「わかった」




 いきなり目の前の魔物が魔素に還って目を白黒させている商人達に話しかける。



「こんにちは、傷を治すので少し待ってて貰えますか?」


「お、おう……ありがとな嬢ちゃん、坊ちゃん」



 5人の商人のうち、軽度の怪我で済んでるのは僕の挨拶に答えた1人だけ。傭兵っぽくないから、冒険者か戦える商人なのかもしれない。



範囲全回復(エリア・フル・ヒール)



 他の4人も命に関わる怪我ではないようで良かった。全員が商人のような格好をしていて、そこそこ応戦をしていたことから考えると、やっぱり戦える商人なのだろう。



「嬢ちゃん、助けて貰った上に回復までしてもらってすまねえな」


「いえいえ、困った時はお互い様ですし。その代わり、というわけではないのですが、私達、ルセイアへの道を知りたくて……教えて頂けませんか?」



 僕とラヴィーニは5歳児なのにかなり身長が高い。(あくまで前世の基準だが)僕が130cmちょっとで、ラヴィーニが130cmジャストくらいだ。


 商人の様子を見るに僕らのことを5歳児と思っていないようだから、この身長の5歳児はなかなかいないことと、逆にこのくらいの身長の子供─または大人でもこのくらいの身長の種族─が旅をして魔物を倒すのは普通だということが確認できた。



「ルセイアに行くのか? オレ達もちょうどルセイアへ行くところだから、荷馬車の後ろに乗せてやろうか?」


「いいんですか?」


「おうよ!フォレ侯爵家のお抱え商人マエルに二言はないぜ!」


「ありがとうございます」






 こうして、ガッハッハッ、と豪快に笑うマエルの言葉に甘えて、ルセイアまで連れて行ってもらうことになったのだった。



 途中、ラヴィーニに僕の敬語を変に思わなかったのかと聞くと、全く思わないと答えてくれた。前世で幼馴染み達に敬語が変だと笑われたことのある僕にとって、その答えは嘘だとしても有難かった。



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次から3章になります。

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