11.5話
ラタトスク視点の短めの話です。
できる限り、毎日更新したいと思ってますが、ストックが切れてしまったので、2~3日に1回になる時もあると思います、
「ソラ、うまくいったかしら」
「大丈夫だろう」
ソラが闇の忌み子に会いに行ってる間、あたしはおバカと一緒に階段の前で待っていた。
「ねえ、あんたが知ってる闇の忌み子ってどんな人だったの?」
「ん? ツイのことか」
暇潰し、というわけではないけど自分がいない時のことを知っておきたくて、おバカに知りたかったことを聞いてみた。
どうやら、最初の闇の忌み子の少女は、"ツイ"という名らしい。
「紺色の髪と大きな耳、尾、鏡のような瞳の少女だったな」
「ふーん」
ソラが今会っている少年とほぼ同じ見た目だとはつゆ知らず、あたしはその少女を想像してみる。
「闇の忌み子がテネブラエ達以外を受け付けない理由とかは知ってるの?」
「あー確か……七元徳の天使と七大罪の悪魔を産んだから、だったか」
「えぇ?!」
おバカの言葉に思わず大声を出してしまう。
だって、神竜と同じくらいの強さを持つと言われる天界と煉獄における最強の存在を産んだのが、いくら獣人─身体の一部に獣の特徴を持つ種族のこと─の中で一二を争うくらいの強さの天狼族といえども、にわかには信じられないのだ。
七元徳の天使と七大罪の悪魔には、それぞれが対応していて、
光の傲慢と忠義。
火の憤怒と救恤。
水の色欲と純潔。
風の怠惰と勤勉。
雷の嫉妬と慈愛。
土の暴食と忍耐。
時の強欲と節制。
となっている。
言われてみれば、全員闇属性以外の属性を持っている。彼らを産んだからツイには闇しか残らなかったというのも納得できる話だ。
しかし、原初の盟約において禁句となっている"無知"と"忘却"はどうなるのだろう、あれは闇属性ではないのだろうか。
「……ああ。だから、口付けでもしてやれ」
「……何やってるのよ?」
誰かと思念で会話でもしているのだろうか。こっちは色々考えていたというのに、失礼なおバカである。
「なあに。少し善行をしただけだ」
「え〜?」
絶対に嘘だと思いながら、さらに質問を続ける。仮にも知恵の神竜なのに、自分が知らないことがあるのはムカつくのだ。
「天使と悪魔には真名があると言われてるけど、それもツイがつけたのかしら」
「さあ、俺は知らんよ。ただ、この世界に強大な力を持たされて放り出され、よくわからないまま封印されたのだからな。そのおかげでソラに会えたのだから、今はいいと思っておる」
生まれてからたったの100年で封印されて、次に目覚めたら世界は8万年後だったなんて、あたしだったらきっと耐えられない。
親しくしていた者だっていただろうに、おバカは今がいいと嬉しそうに言うのだった。
それに何も言えなくて、しばらくお互いに無言でその場にいた。
「……グハッ!!」
突然、いつかと似たような感じでヘッグの身体がソラの結界から飛び出し、迷宮ボスの前まで飛ばされていく。
突然現れた侵入者にボスは当然ながら、怒りのままに突進していく。
「ちょぉっ!!」
一瞬焦ったあたしだったが、あっちは最凶と言われている神竜。
左手から黒光りする大剣を即座に取り出して、ボスを一撃で撃破すると、魔力が溜まり、迷宮を生み出す邪な地脈までもをそのまま思いっきり壊した。
目覚めたばかりとは思えない豪快な力業である。
「酷いではないか」
「君はその頭の中を1回シエルに治してもらえ」
本人は水塊で飛ばされたにも関わらず、これまた豪快に笑い、飛ばした本人に話しかける。振り向くと、ソラとツイに似た容姿の少年がいた。
彼が、今代の闇の忌み子なのだろう。
それにしても、初代の少女とよく似てる。あたしは実際にあったことはないが。
「ソラ、上手くいったみたいね」
「ああ、後はあいつを殴れば完了だ」
いつになく殺気立っているソラ。
一体何があったのだろう。
そう疑問に思っていると、
「俺が、ニーズヘッグから言われた通りのやり方で魔力を貰ってしまったから怒ってるんだ」
闇の少年がにこにこしながら答えてくれた。
さっきおバカが思念で会話していた相手はこの子なのだろう。
笑顔であるから、少年にとってそれは良かったことなのだろうが、ソラにとっては良くなかった、と。
ボスと地脈が失くなったことで、次々に魔物が魔素に還っていく、かつてのボスフロアの中心で、相対するソラとニーズヘッグ。
「嫌なものではないだろ?」
「そういう問題じゃないっ!」
ソラは時間停止をし、思いっきりニーズヘッグを殴った。
それも、8属性の魔素を込めた拳で。
いくら時間停止をしたとはいえ、ニーズヘッグが動けない精密さで時間を操るなんて、さすが時の歌姫としか言い様がない。
本来、時間停止をしても、慣れた精神生命体ならば問題なく動けるのだが、ソラは完全な時間停止ではなく、ニーズヘッグの周りだけ、時間を"遅らせて"いたのだ。
そんな使い方ありなのかと驚くばかりである。
「……山の中腹の方へ移動しよう」
「あ、やっぱり同族に会いに行く?」
「嫌か?」
「ソラがいるならいい」
床でのびてるおバカのことは放置するつもりなのか、完全に無視してソラと少年は迷宮の下の方へ─天狼族の住処の方へ向かっていく。
食料保存のための亜空間から、イル島から出発する前に作ったサンドイッチを取り出し、少年に餌付けしている所を見ると、仲が悪いわけではないようだ。
やれやれ、と思いながら自分もおバカを放ってソラ達について行く。
「初めまして、闇の忌み子の少年君。あたしは知恵の神竜のラタトスク。ソラの旅のサポートをしてるわ」
「ソラがやって来た時、階段の上に凄い魔力の塊が2つあると思ったら、神竜だったのか。初めまして、俺はセ……ラヴィーニ。これからよろしく」
「よろしく」
ラヴィーニ。
不思議な響きだけど、確かそれは天狼族の言葉で"雪崩"という意味だったはずだ。彼に名をつけた者はどうしてそんな言葉をつけたのだろう。
ようやく気がついたのか、おバカが慌ててこちらに来るのを感じながら、あたしはソラとラヴィーニを観察していた。
今日初めてあったにしては、お互いがお互いに馴染みすぎていて、並んでいることに違和感がなさすぎることに、違和感を覚えたからだった。
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