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11話


 階段を下りた先にいたのは、壁に鎖で繋がっている手錠足錠を付けられた少年だった。


 狼のような耳と尻尾があって、見た目は10歳くらい。


 肌は浅黒く、髪と尻尾の色は黒に近い紺色。


 ラタから聞いていた天狼族の特徴と彼を構成する色以外は合致するから、彼は天狼族で、そして、恐らく闇の忌み子だろう。


 その証拠のように、彼の周りにはテネブラエしかいない。





「大丈夫かい?!」






 どうして迷宮ボスのところの小部屋にいるのだろうと疑問に思いながら、小走りに彼の元へ向かう。遠目からでも、彼が酷い傷を負っているのがわかるからだ。






「酷い傷だ……すぐに治すから」






 細すぎて骨張っている彼の身体に負担がかからないよう、ゆっくりと抱きしめる。彼はなんの服も着てないが、僕の精神年齢はアラサーなので気にする事は何も無い。このくらいの子供がいてもおかしくない歳だったのだ。それに、僕にショタ属性はないし。



 皮膚から皮膚へ直接魔素を移しながら、魔法を発動させる。対消滅しないように操作するのもだいぶ慣れたもので、スムーズにできている。


 魔法をかける対象が近くにあった方がより精密に操作できるから抱きしめいるのだけれど、それ以上に、彼に懐かしさを感じて、その冷たい身体を暖めようとゆっくり背中をさする。



「あ"……」



 こんな所に閉じ込められていて、もうずっと話したことがなかったのだろう。彼の声は上手く出ないようで。ここに彼を閉じ込めた者達に怒りを覚える。


 それと同時に、声とゆっくり動く手と、綺麗な雪原のような瞳から零れた涙が彼が生きていることを僕に実感させた。




「大丈夫。大丈夫……」




 僕は魔法で全ての傷を治した後も、しばらくそうして彼を抱きしめていた。








❁❁❁❁❁❁








「ゆっくりでいいから、声を出してみてくれるかい?」


「あ……ぁ……」


 身体全体の治療を終えた後、細かいところも診るため、彼に少しずつ声を出してもらい、患部を探し出す。


 声を聞き、インデクスを発動させながら、治癒魔法をかけていった。


「あー、あー?お、れ……は」


 喉の調子が戻ってきたようだ。


「……魔法でできるのはこれくらいだ。後、これを着て」


 右手で魔法をかけながら、左手で作っていた簡単な構造の服を着せる。ついでに彼をここに縛り付けていた手錠足錠も壊しておく。


「あ、りがと」


 思ったよりしっかり発音できている、と感心しながら、ちょっとだけ、天狼族の言葉を僕の耳や口が加護なしで意思疎通できるのかやってみたくて、加護を解除する。


「改めて、初めまして。君はどうしてここにいるんだい?」


 天狼族の言葉で呼びかける。さっきはつい、日本語で話してしまったが、彼に日本語がわかるわけない。


 しかし、


「……?何言ってんの?さっきみたいに話して?」


 声が滑らかに出るようになって良かった。


 じゃなくて、どうやら彼に天狼族の言葉は通じないようだ。


 加護を持っているわけではなさそうだし……どうして日本語は通じたんだ? あ、さっきは加護を有効にしていたから? でもあれ、今、この子の言葉は日本語だったぞ……? どういうことだ?


「お前も日本からの転生者なんだろ?」


 考え込んだ僕の思考を取り上げるように、彼の声がした。そして、その言葉に僕は喉の奥がひゅっ、と詰まる。


「そう、だけど……」


「傷を治してくれてありがとう。それで、同じ転生者のよしみで、もう1つ頼んでもいいか?」


 なんの違和感もない日本語。僕は奇妙な転生をした先の世界で、同郷の人に出会ったようだ。でも、それなら声の出し方や日本語をわかっているのも頷ける。


「わかった。ただ、僕の頼みも1つ聞いてほしい」


 そうわかれば、事の次第を説明すれば思っているよりスムーズに仲間になってくれる可能性もある。



「ああ。俺から頼みたいのは、魔力の供給だ」


「?」


 テネブラエ達を見ながら、彼は話し続ける。


 彼はどうやら精霊が見れるらしい。天狼族は精神生命体の種族ではなかったはずだが、どういうことなのだろう。


「この黒い子達から聞いたんだが、俺の魔力は今、殆どないらしい。他のやつだったら、親族から魔力を分けてもらったりするらしいんだが、俺は特殊な体質らしくてそれができない。それに、親がいたとしても俺に魔力を与えるようなことはしないだろうし」



 確かに、こんなところにずっと放っておかれたから、そう思うだろう。


 それに、ヘッグから聞いた話では、闇の忌み子は世界からの魔力供給を受け取れないそう。

 普通なら、身体から出ていった分の魔力は世界から自然に充填されていくはずなのだが、闇の忌み子は抗魔の瞳を持っているため、それができないらしい。


 さらに、さっきインデクスで見た時に上限が僕に近い─かなりの量の─魔力量がほぼゼロだったことと、彼に付いている首輪が彼の魔力を吸い上げていることも確認している。

 今まではテネブラエ達が、抗魔の瞳に押し返されても何とか少しずつ魔力を渡していたおかげで生きていたのだろう。しかし、これからもそう上手くいくとは思えない。現に、彼の身体は限界のところまで来ていた。


 天狼族は精神生命体ではないはずから、ただの天狼族だったらとうの昔に死んでしまっているはずだ。しかし、何故か彼は精神生命体の領域にあるようで、本当にギリギリのところで踏ん張っていたのだろう。


 もしかしたら、異世界からの転生者は全員精神生命体なのかもしれない。



「事情はわかった。血の繋がりはないけど、君に魔法をかけることが出来た僕なら、君に魔力をあげることもできるかもしれない、ってことだよね?」



「ああ」



「じゃあ、まずは首輪を外そう」



「頼む」


 首輪の構造はわかっている。彼の魔力を保存していた空間に小さい穴を開けると同時に、魔力を吸っていた口を閉じる。


 本で読んだが、これは恐らく魔法具の一種だろう。魔力を注ぐことで動く機械のようなものだ。いろんな種類がある魔法具だが、それの動力は必ずと言っていいほど雷属性の魔素だ。この首輪も例に漏れず、雷属性の魔素が詰まっている。


 つまり、それを逃がしてしまえば、この魔法具はもう機能しない。


「フルメン」


 彼を怖がってか、中々こっちに来ない精霊達を呼ぶ。僕が呼ぶと彼の方を気にしながら、僕の周りに集まってくれた精霊達に雷属性の魔素を引き抜いてもらう。


 雷の魔素を全て引き抜いた時、首輪がガチャガチャと変な音を立て始めた。僕は彼に何重もの結界を張り、自分にも張って首輪を見つめた。


 次の瞬間、首輪は跡形もなく消え去った。



「あれは一体なんだったんだ……?」


「たぶんだけど、魔法具だと思う」


「魔力を入れると魔法が発動するみたいな?」


「そうそう。もしかして、ゲームとか、異世界転生とかファンタジーのラノベとか好きだった?」


「……友人の影響で」



 友人さんグッジョブ! 好きなゲームとかの話が出来るかもしれない!


 と、それはおいといて。



「魔力をあげる前に、僕の頼みの内容を聞いてくれるかい?」


「前世でのプライバシーに関係しないなら」


 僕もアラサーだった前世のことを話すつもりは無いよ。


 ゲームの話は別だけどね!


「君の魔力が自然に充填されない理由は、君が"闇の忌み子"であり、"抗魔の瞳"を持っているからだ」


「どういうこと?」


 僕はラニアケアに行くために"紋章"を持つ人を10人集めなければいけないこと、そのうちの1人が僕で、彼もその1人であること、闇の紋章を持つものは"闇の忌み子"と呼ばれ、"抗魔の瞳"という精霊を介する魔法を受け付けない身体を持っていることなどを話した。



「俺の魔力は絶対に誰かからもらわなければいけないってことか……」


「そう。それで僕は君と一緒に行かなければならないところがあるから、僕は君に魔力をあげて、君は僕の旅仲間になるっていうのはどうだい?」


 本人にはどうしようもないことでつっているのは申し訳ないけど、こちらも彼がいなくてはいけないのだ。


「まあ、無理なら無理と……」


「いいよ」


「えっ、いいのかい?」


 彼は整った顔に微笑を浮かべ、


「ずっとここにいるつもりなんてないし。あ、もしよかったら、名前をくれないか? 前世の名前、あまり好きじゃない」


 と言った。僕は前世の名前好きで今でも名乗っているけど。そういうのは人それぞれなのだろう。


 ともかく、一緒に来てくれるようで良かった。


「ありがとう。名前か……ラヴィーニなんてどうだい?」


 確か、前世の世界の北の方の国の雪に関する言葉だったはずだ。彼の瞳から連想したのがこの言葉だった。


「……それ、意味わかって言ってる?」


 彼は少し眉を顰め、そう言う。


 あれ、もしかして悪い意味だったのかな?


「縁起の悪い名前だったかい?」


「いや……まあいいよ。ラヴィーニで。いい音だ」


 ラヴィーニはそう言って、また笑顔を見せてくれた。


「良かった」


「お前の名前は?」


 そう言えば、名乗ってなかった。


「ソラ。今世の僕は親から名前を貰う前に一度死んでいるから、これは前世での僕の名だ」


 そう言うと、ラヴィーニは驚いたようにこちらを凝視した。どうしたのだろう。どこか、泣きそうな顔でもある。


「……漢字は?」


「蒼い月」


「……」


 プライバシーに干渉するなと言ったくせに、自分は聞くんだなと思いつつ、まあ、秘密でもないしと答えたのだが、ラヴィーニは片手で顔を覆い黙ってしまった。


「おーい、ラヴィーニ?」


「大丈夫……」


 ならいいのだけど。


 一体どうしたのだろう。


「ほら、魔力あげるから……ってどうやればいい」


 んだ? という最後まで言葉は紡げなかった。


 何故なら、僕の唇を彼のそれが塞いでいたから。







「……こうやる」


「……っ、」


 数秒後に唇を離したラヴィーニはそう言った。



 僕の顔面は見事に赤くなっていることだろう。温度が上がっているのがよくわかる。


 なんせ、前世では一度も恋人なんていなかった。幼馴染みの1人に淡い恋心を抱いていた時期もあったが、その人が僕の親友と付き合い始めたことをきっかけにその想いは捨ててしまった。


 つまり、僕はこういったことに全く免疫がないわけで。


「……もしかして、お前前世で恋人とかいなかった? さっきは裸の俺に抱きついたくせに」


「君の今の見た目は子供だからな。大人だったら絶対しない。あと、年齢と彼氏いない歴いこーるの27歳だったから、別の方法でお願いしたい」


「……面白いもの見れたからやめない」


 ニヤッと笑うラヴィーニ。


 外見10歳くらいなのに……!!


「俺もそのくらいで死んだし」


「でも恋人とかいたんだろ」


 手慣れてる感じがヒシヒシとする。


「いや、多少遊んだことはあるけど、恋人はいたことない」


 あ、僕が1番嫌いなタイプだこいつ。


「約束したから、魔力はあげる。だけど、やり方は別の方法を探すからな」



 恥ずかしさを隠すように、ラヴィーニに背を向けて歩き出す。魔力の供給は上手くいったようで、僕から魔力の半分以上を持っていって、すっかり元気になったラヴィーニも後ろからついてくる。


「ニーズヘッグっていう人がさっき俺に思念で話しかけてきて、こうしてみろって」


 よし、後でヘッグを思いっきり殴ってやる。



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