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10話

やっとこさ本編にヒーロー登場。


❁❁❁❁❁❁で視点がソラ→ヒーローに変わります。


 リザードンの後ろを音を立てないように歩いていく。


 結界を張ってるからバレる可能性はないけれど、一部の迷宮ボスは結界魔法無効とかいう卑怯なスキルを持っているらしいから、今後も迷宮に行くとしたら対策が必要になってくるだろう。このボスは大丈夫なようだが。


 階段に近づくにつれて痛みが増していく右目と首の後ろを両手で抑えながら、回復魔法と痛みを軽減する魔法をかける。光属性魔法と闇属性魔法だから、対消滅しないよう気をつけなければならない。


 僕が集中してやっていたことを知っているのか、お互いに声を出さないように階段まで着いた時、僕は異変を感じた。



「……いない?」



 この世界にはどんな所にも精霊がいる。しかし、ここには─階段の先には、闇のテネブラエ以外の精霊が見当たらないのだ。


 不思議に思いながら、階段の隠し扉を開く。魔法で開けるものだから、魔力感知とインデクスでわかったが、ただの隠し扉だったら僕は気づけないだろう。


「ほんとね。一体どうしたのかしら」


「やはり、闇の忌み子がいるのだ」


 ラタも一緒に首を捻っているなか、ヘッグは1人だけ納得したような表情をしている。闇以外の精霊がいないことと、闇の忌み子はどう関係しているのだろう。



「ヘッグ、どういうことだい?」


「紋章を持つ者は、特殊なスキルを生まれた時から持っておる。例えば、時の紋章を持つソラは時魔法では本来できない時間操作や特殊な事象干渉をすることが出来る。"時渡りの声"というスキルだ」


「あたしもそのくらい知ってるわよ」


 やけに簡単に時間操作の魔法を使えるようになったと思っていたら、そういうことだったのか。


「闇の紋章を持つものは、"抗魔の瞳"というスキルを持つ。これは、紋章を持つ者には精霊を介する魔法は効かない、というスキルだ。だから、闇の精霊以外の精霊からは嫌われておる。精霊を介さずに魔法を使えるものなど、地上界にはそうそういないからな。かなり有効なスキルだろう」


「ふーん……そこまでは知らなかったわ……」


 ラタは納得しているようだが、いや待てよ、と僕は思った。


 ヘッグは有効なスキルと言っていたが、それは仲間からサポートの魔法も効かないことになる。文字を勉強するために読んだ本には、地上界での常識なども書かれており、そこには、地上界での魔法の立ち位置も記されてあった。


 本曰く、魔法は魔物への攻撃などよりも魔物の魔法攻撃の無効化と仲間への支援、生活魔法の充実などが重要視されるそうだ。天狼族がどう生活してるかはわからないが、この世界の生活は大部分を魔法に頼っている。


 闇の精霊以外は自分に力を貸さず、他人からの魔法を受け付けないなど、絶対に生き辛いはずだ。


「本当にこの先に闇の忌み子がいるのなら、僕らは行かなくてはいけない。ただ、階段がすごく狭いからヘッグは通れなさそうなんだよな……」


 階段に目線をやり、ため息をつく。


 階段の幅は僕がやっと通れるか通れないかくらいなのだ。ラタならともかく、人化している今のヘッグは通れない。


「亜空間の方に入る?」


「いや、入り口で様子を見ていよう。迷宮内とはいえ、天狼族の領域だからな。おい、チビもここで待機だ。闇の忌み子になるべく警戒心を持たせないようにするのだ」


「チビじゃないわよっ! あたしは入れるんだからソラと一緒に行ってもいいじゃない」


「駄目だ。闇の忌み子は抗魔の瞳のせいで空間把握能力がとてつもなく高い。いきなり神竜が現れたら驚愕するに決まっておる」


 確かに。


 僕はエルフ族だけど、ヘッグの驚かれる範囲には入ってないようだ。


「……わかったわよ」


 しかし、なんというか、ラタは知恵の神竜のはずなんだけど、ヘッグの方が色々知っているように感じてしまうのは何故だろう。


「あーソラ、今あたしのこと馬鹿にしたでしょ?!」


「してないって」


 感はいいんだな。


「俺はチビがし……生まれるより前のことを知っているからな。今はその知識が必要になっているだけだ」


 珍しく、ヘッグがラタのフォローをした。それに驚きヘッグの方を思わず凝視してしまうが、それはラタも同じだったようだ。


「……チビって言うんじゃないわよー!」


 きっちり文句は言うようだが。


「じゃあ、待っていてくれ」


「ああ」


「行ってらっしゃい。何かあったらすぐに呼んでね」


 初めて会った時より、ヘッグの口調がくだけたものになってきたことに、僕らに慣れてくれたのかなと嬉しく思いながら、僕は先の見えない階段を下っていった。









❁❁❁❁❁❁








 生まれた時からずっとここにいた俺は、ここ以外の場所を知らない。どれだけお腹が空いても何も食べるものがないから、お腹が空く感覚さえ忘れてしまった。

 誰もここに来ないから、誰かと話すために声を使ったこともない。黒くてふわふわ浮いている子達とは意思だけでやり取りができる。




 いっそ死んでしまった方がよかったのかもしれない。でも、黒い子達が俺に何かしてくれてるようで、ギリギリのところで生きている。




 生きていて唯一、楽しいと、嬉しいと思えるのはたまに見る夢の中だけだ。あそこは楽園(サンクチュアリ)のように感じる。何があったのかは知らない、覚えてないから。でも、起きた後に身体の奥に暖かいものを感じるから、何かいいことがあったのだろう。




 痛みを感じなくなってから、たまにやってくる魔物達に付けられる傷をなんとも思わなくなってきた。黒い子達は痛みを和らげることはできるが、傷を消すことはできないと言っていた。


 いいんだ。


 傷が癒えたら、傷が付くことを恐れるようになる。魔物がやってくることはわかるけど、動くことの出来ない俺はただ、傷をつけられて、それらが去るか黒い子達が頑張って消してくれるまで待つことしかできないから。


 それでよかったんだ。


 いつ死ぬかわからなかったし、最近は夢を見ることさえも無くなっていた。








 でも俺は知ってしまった。






 綺麗な、どこかで聞いたことがあるような歌声だった。


 俺はその声に癒されてしまった。


 冷えきっていた身体が熱を取り戻す感覚を覚えてしまった。


 それと同時に"痛み"も思い出してしまったけど。





 だから、無理だとわかってても望んでしまう。あれがもう一度欲しいと。





 望んで与えられるようなものじゃないんだろうけど。







 黒い子達が教えてくれた。俺の身体は魔法を受け付けないのだと。黒い子達みたいに特殊な存在の魔法しか身体が受け入れないのだと。自分で魔法を使う分には大丈夫らしいのだが、俺の身体の中には魔法を使うためのエネルギーが殆ど残っていないらしい。

 黒い子達は俺の首に付いている首輪が原因だと言っていて、それを取り外そうとしていたけど、無理だったらしい。






 そんなわけだから、俺を癒したあの声は魔法ではない特別なものか、特殊な存在が使った魔法なのだろう。








 だから、きっと、会えない。







 どんなに痛いと思っても。







 助けてと思っても。









 もう、いっそ、殺してくれと思っても。








 いいんだ、それで。







 だけど、せめて、もう一度だけ、あそこ(サンクチュアリ)に行きたい。



















「大丈夫かい?!」



 いつもは魔物達が入ってくる階段から、全く別の何かが走り下りてきた。黒い子達がとても嬉しそうにはしゃいでいる。


 なんだろう?





「酷い傷だ……すぐに治すから」





 ああ、その声は。




 夢で会った"あの人"の。




「大丈夫、僕がいるから、もう怖くない」




 冷たい身体が温もりに包まれる。




 あの時みたいに身体が暖かくなっていく。





 ゆっくりと瞼を開けると、長い白銀の髪と"この世界"では見たことのない蒼空の瞳の少女が俺を抱きしめていた。






「あ"……」






 誰だ、と聞きたいのに声が出ない。出し方は覚えているはずなのに、"この世界"に来てから出したことがないから出ない。





「大丈夫。大丈夫……」




 ゆっくりと俺の背を摩る少女。










 27歳で死んだ前世の記憶がある俺からすれば、10歳くらいの子供とはいえ、真っ裸の男に抱きつくなんて、と余計なことを考える余裕ができたのは、彼女が前世の幼馴染みとよく似た雰囲気で、よく似た口調だからかもしれない。



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