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0話

初投稿なので、慣れていませんが、見苦しい所はあまり気にしないで頂けると有難いです。




……


 『歌姫』達が見守ってきた世界が生まれてから、恐らく一番混乱した時代がようやく終わった。


 貴女が救った世界は平和を取り戻した。その事に最大の感謝と、私の独断でその経緯をここに記したことに謝罪する。


 この物語を、私がもっとも愛する貴女に贈る。


 カランドリエ暦1542年5月20日第52代目フォレ侯爵家当主─アレン・ド・フォレ

________________________






 フォレ侯爵家当主の書斎の本棚には本好きの歴代当主達が集めた本が並べられている。


 『シャルルマーニュ英雄王伝説』、『アーサー王伝説』、『ジークフリード英雄譚』、『シェヘラザードの短編集』など、多くの英雄や勇者と呼ばれた人々の物語が並んでいるなか、一番目立たない右上にある一冊の本の名は、



 『蒼穹の歌姫伝』




 『歌姫』とは、『騒乱の時代に現れ、人々を導く存在』と古い書物に記されているが、実際どんな人物だったかは多くの謎に包まれている。




「とーさま」


「アリシア」




 本棚から取り出したその本をじっと見つめていると、シャツの袖が引っ張られた。見下ろすと、今年4歳になる娘がいる。



「どうしたんだ?」


「それ、なーに?」



 娘が指さす先にあるのは、本棚から取り出したばかりの本。その表紙は黒とも紺ともとれる色合いだ。



「『歌姫』という人の話だ」


「とーさま、それよんで!」



 目を輝かせてそう言う娘。


 自分に似たのか、妻に似たのか、最近娘は本を読んでくれとせがむことが多くなった。といっても、それは、白馬の王子様が悪漢に攫われた姫を助けにいく、簡単な内容の童話なわけで。


 『姫』という言葉に反応したのだろうが、この本が果たして彼女に理解できるのだろうか。


 自分としてはもう少し大人になってからでも遅くないと思う。


 しかし、



「アリシアはー、それをよんでほしいのー!!」


「……はぁ。わかった」



 娘は頬を膨らませてこちらを睨んだ。


 まったく、この頑固なところは絶対妻に似たんだろう。



「こちらへおいで、アリシア」



 書斎のソファーに腰掛け、まだ立ったままこちらを睨んでいた娘を呼ぶ。すると、機嫌が治ったのか、子供らしい笑顔で自分の膝の上に座った。



「ねえねえ、どんなおはなしなの?」


「それは、読んでからのお楽しみだ」



 娘の頭を撫でながら一ページ目を捲る。



 物語の始まりは『始まり始まり』だろうか、それとも『むかしむかし』だろうか。




 これは、サンクチュアリを探して旅をした歌姫(アルカナ)の物語。




 独白(モノローグ)でも序章(プロローグ)でもない曖昧な一人語りはこれくらいにしようか。



 急かす娘の頭をもう一度撫でる。



 窓から射し込む木漏れ日が、自分と娘の同じ色の髪に柔らかく反射していた。







❁❁❁❁❁❁






 紺色の空に、銀の線が走る。



 全てを包み隠す夜。その空に月と星々は鎮座すれども、それらは夜の支配者にあらず。



「母上」


「……どうかしました?」



 夜の帳と同じ色の髪と瞳の妙齢の美しい─美人というより、心を穏やかにする、優しげな─女性に、少し影の薄い、女性と同系色の髪と瞳を持つ青年が声をかけた。


 2人は白い大理石でできた宮殿のバルコニーに立っている。女性は髪と同じ色の薄い生地のドレスを身に纏っていた。その肌は闇に浮いているように見えるほど白い。


 対する青年は、灰色のフード付きのローブを羽織っており、女性とよく似た顔立ち以外はローブの下に隠れている。



「"来た"みたいです」


「……そう。もう、"来た"のね」



 微笑を浮かべながら、女性はその視線を青年からバルコニーの向こう側─夜の闇へと向けた。



「"終わる"と思いますか?」


「……どちらの意味かしら」


「母上が望む方の意味であることを祈るばかりです」



 青年も女性の隣に立ち、その底知れぬ闇を見つめる。


 その4つの瞳は何も映さない。闇に映るものがないのではなく、瞳が何もかもを飲み込むからである。



「お前は私が望む方を知っているの?」


「私の推測でものを言っておりますゆえ、母上の思考の完全なる再現は少々難しいですね。父上ぐらいしかできないでしょう」


「あの人にも無理よ」


「そうですか」



 女性と青年は顔を見合わせ、苦笑を洩らす。



「その事だけを伝えに来たの?」


「いいえ、少々予定外のことが起こりまして」



 青年は表情を元に戻し、女性に真剣な眼差しをむける。女性の方も何があったのかと身構えた。



「我々が事前に用意していた身体は1つ。主神が先代に"作らせた"身体も1つ。主神の"悪ふざけ"で今回呼ばれた魂は3つ」


「……残りの魂は何処へ?」


「わかりません。が、ろくな身体でないことは確かでしょう」


「それが──だったら彼はどう責任取るのかしら」



 女性は深い溜息をつく。



「私達が用意したものより、先代に"作らせた"ものの方が適合があるはず。それに"入っている"ことを祈るしかないわね」


「息子から奪って"作った"ものですが……反吐が出る」


「タナトス、仮にも彼は主神よ」


「わかっております。主神は自身が用意した身体に入ったと確信しているようです。魂を直接視ることはできませんが、強い魔力を持っていることは確かです」



 死神(タナトス)、と呼ばれた青年は視線を女性から夜の闇へと戻す。彼は主神の対応に不満を持っていた。異世界から召喚された魂の1つがちゃんとした"身体"に入れないなど、"あの御方"が知ったらどう思うのだろう、と思案に耽る。



「とりあえず、召喚できたなら大丈夫よ」


「そうならいいのですが……」


「あら、私を疑うの?」


「いえ、そんなことは有り得ません。我らの母─夜の女神ニュクス様」


「お前に名で呼ばれると変な感じがするわ」



 ニュクスも夜の闇へと視線を戻す。


 闇は全てを内包する存在。夜と闇はお互いに依存しあって生きている。


 闇の神たる彼女の夫はここにいない。



「どうか、3つの魂の行く先に幸あらんことを……」



 どうか、歌姫(アルカナ)が照らす未来に幸あらんことを……




 夜の女神(ニュクス)の子守唄のような声は夜に溶けていった。

異世界に転生した主人公が前世と今世の世界に隠された謎を解きつつ、世界各地を旅する物語です。本編は次の次からになります。


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