サンベルナール峠にて(2)
ルカとイゼリナは、人目につかないように被っていた外套の裾をはためかせながら生き残った二人とリステリカの間に割って入った。
「こないだホテルで会って以来だなぁ?」
ルカが舌をリボルバー式拳銃に這わせる。
「そこを退け。お前らに用はない」
リステリカは、顎をしゃくってどこかへ行けという。
「悪いな、リステリカ。俺達も俺達で任務があるんだ」
俺は、拳銃をリステリカに向ける。
「あら、随分と手洗なのね」
リステリカの拳銃も俺達を捉えている。
「お前の言えた義理か?ほら見ろ、周りの連中の視線は、こっちに釘付けだ」
その場に居合わせた誰もが遠巻きに様子を窺っていた。
「ほんとね、なら提案するわ。お前達の後ろにいる二人の身柄を私達に引き渡すことと貴方の任務内容を聞かせてくれることを条件に、見逃してあげる」
リステリカは、強気に出てきた。
五人組のうち生き残った二人には俺達も聞きたいことがいくつかあるのだ。
その身柄を手放すわけにはいかない。
「それでは、俺達に少しの利もないな」
即答で提案を蹴ると引き連れている男たちに軽く目配せをした。
それに合わせて、男達も銃口を俺達に向ける。
「昔の誼で見逃すって言ってあげてるのにあんたも馬鹿ね」
チラリとルカとイゼリナを見るが二人とも焦った様子は無い。
「生憎、脅しや恫喝の類は嫌いでな」
「そもそもこの人数差、十中八九そっちに勝ち目は無いはずよ?」
相手は五人、対してこちらは三人。
リステリカ達の拳銃の装弾数が俺達と同じ六発だとしたら、リロードまでに五人で計三十発。
そもそも勝ち目が無い勝負を仕掛けるわけが無い。
勝機は、どこにあるのか?
答えは今までの経歴だ。
リステリカ達の得物は、短剣や暗器の類いで一方の俺達は、銃を中心に【冥府からの使者】で活動してきた。
麻薬事件の際、リステリカ達に襲撃されたがその時、彼女らが使っていたのも短剣だった。
ということは、拳銃を持ったのは最近のことであると考えられる。
未熟な技術により精度は劣悪、そして接近戦での早撃ち、これらの問題を解決するには練習するに限る。
その点、俺達三人は銃をメインの商売道具にしていただけあって扱いには慣れているつもりだ。
だから勝機は十分にある。
「十中八九のうち一や、二の勝ち目を拾うのさ」
実際問題、勝ち目はそれ以にあると見ている。
どの道、接近戦に持ち込めばリステリカ達は、剣を抜くに違いないだろう。
そしたら距離を置いて拳銃を撃てばいいだけの話だ。
「随分と強気なようね。なら、試してみる?」
リステリカ達も数に頼んで強気の姿勢を崩さない。
その時、峠の上から怒号と喧騒が聞こえた。
チラリと見れば、砂埃をあげて疾走する馬車の一団が近づいてきていた。
「どうやら試す必要は無いらしいわ」
馬車は、リステリカト俺達の間に止まった。
「逃げるのかっ!?」
「いづれ、殺り合う日は来るわ」
リステリカは、一声残すと馬車と共に去っていく。
「追うぞ!」
「追いかけっこか、負けらんねぇな!」
乗ってきた馬の元まで駆け戻る。
「お前達にも話を聞きたい。馬から降りてもらおう」
馬に跨ったところで国境警備の兵に囲まれて身動きが出来なくなってしまった。
「こんなことしてる場合じゃねぇ、道を開けろ!」
ルカは、国境警備兵に対して銃口を向ける。
「大人しく降りろ」
国境警備兵は、数名でマスケット銃をルカに向けた。
「チッ」
ルカは、リボルバー拳銃を下ろし腰元のホルダーにしまった。
俺もイゼリナも馬から降りると周囲を固められて詰所へと連行される。
「お待たせしました!」
そこへ、鈴のような声音が響いた。
「何奴か!」
一斉に振り向く国境警備兵達。
「助かった!」
声の主は、王女殿下の元へ向かわせていたミシェルだ。
そしてミシェルから、通行許可証を受け取る。
その通行許可証には、王家の紋章が刻まれている。
「こういう事だ。仕事熱心なのは、構わないが俺達はおかげで大きな魚を逃しそうだ」
通行許可証を国境警備兵の一人に渡す。
時間をくわされたから、憎まれ口の一つも叩きたい。
「これはっ!?緊急通行許可証……お、お急ぎのところ、大変失礼致しました!」
緊急通行許可証は、照会不要の即時通行可能な代物らしい。
兵士の反応からしても主に、要人や有事の際のためのものか……。
「なら、行かせてもらうぞ」
「道中お気をつけて!」
遅れは、時間で言えば数分。しかし何時までもリステリカ達が馬車を使うはずがない。
峠を降りた場所でより足の速い馬に乗り換えるはずだ。
それまでに、追いつかなければ……!




