サンベルナール峠にて
「臨検待ちの通行者は、近づくな!直ちに離れろ!」
「国境警備隊だ!武器を下ろして速やかに投降せよ!」
俺達は、夕暮れにサンベルナール峠に着いたが着いてみれば、どういう経緯かは分からないが騒ぎが起きていた。
国境に設けられた検問所で拳銃を持つ六人の集団と、マスケット銃を持つ五人の集団が睨みあっており、さらにそれを取り囲むように国境警備の兵士たちが武器を構えているといった様子で物々しい雰囲気に包まれている。
「おいおい……どうする?」
この騒ぎが収束するまでは、俺達も峠を越せそうにない。
「……六人の集団の先頭の女……もしかして……」
イゼリナは、俺の質問には答えずにある一人を凝視している。
イゼリナの目線の先にいたのは、俺にも見覚えのある顔の女だった。
「リステリカか……」
忘れもしないかつての同僚、そして麻薬事件では俺達と一戦交えている。
「どうやら……きな臭い匂いがするぜ?」
ルカは既にリボルバー式の拳銃を二丁抜いていた。
リステリカがこの一件に絡んでいるとなれば、いずれ俺たちと衝突することもあるかもしれない。
リステリカの集団は、六人でそのうち一人だけが非武装だ。
その一人が誰なのか、そして何のために越境しようとするのか今すぐにでも問いただしたい。
暗殺者が絡むのであれば、それなりに危険度も高く重要な任務のはずだ。
「二人とも聞け。俺達が介入するのは両者が激突した瞬間だ。最低どちらからも一人の身柄は拘束するぞ」
どちらも所属不明だが、リステリカが関わっているとわかれば疑いは、深まるばかりだ。
「それ以外は、殺しちまってもいいのか?」
ルカが目を爛々とさせて物騒なことを言った。
「仮にも今の俺達は、王女殿下の隠密だ。無駄な殺しはよせ。だが、見たところそれなりの手練だ。優先すべきは無論、俺達の生命にある」
向かい合う二つの集団は、どちらも隙がない。
場数を踏んでるだろうし焦っていない証拠だ。
「その男をこちらに引き渡せ」
五人集団のうちの一人がマスケット銃を構えてリステリカを脅す。
「怖い怖い、用が済んだら返すさ」
リステリカは、言葉とは裏腹に余裕そうな素振りで言った。
「つまりは、引き渡さないということか?ならば!」
男が引鉄に指をかけて引こうとした瞬間――――男の腕が宙を舞った。
「手が……ッ!?」
噴水のように勢いよく血潮が吹き上がる。
周囲から事態を見守っていた行商人や通行人達の悲鳴があがる。
「私の方が早撃ちは、得意らしいなぁ」
いつの間にか抜き出したのか拳銃をリステリカは、右手にぶら下げていた。
彼女の持つ拳銃もリボルバー式で弾倉には六発の弾丸が入っている。
麻薬を巡る事件で、戦闘になった際は短剣だったはずだが、どこかで入手したらしかった。
「くッ……調子に乗りやがって……全員、目標以外の生命はどうでもいい!殺れ!」
手首を抑えて五人組の頭目と思しき男は、叫んだ。
四人の部下は、その声に従って直ちにマスケット銃を構えて引鉄に指をかけた。
「お前達、好きなように料理してやれ」
リステリカも逃げる姿勢は見せない。
おそらくこのまま行けば、人数と近接戦闘における不利で五人組の方が負ける。
そうなれば、リステリカ達に逃げられることになるだろう。
俺達が捕らえて話を聞きたいのは、リステリカの側。
ルカとイゼリナは、既に拳銃を抜いて臨戦態勢だ。
すぐに戦闘に飛び込んで行ける。
国境警備隊の連中も、少数であるがマスケット銃を構えいる。
そして場の緊張が限界に達したのか、手首を抑えて蹲っている男が喚いた。
「何をボサっとしている!撃てッ!」
そして自らも、残った左手で引鉄に指をかける。
タンッ――――
峠に響く短く鋭い発砲音。
しかし射弾の大半は、明後日の方向に飛んでいる。
五人組の男達の放った弾丸は、五発。
しかし、その五発は命中していない。
なぜなら、彼らは発砲の直前に体のどこかしらを撃たれていたからだ。
照準がブレればまず当たることは無い。
その間にも断続的に発砲音が響く。
リステリカ達の持つリボルバー式拳銃の発砲音だ。
マスケット銃のように単発装填ではないから断続的に発砲できるのだ。
既に五人組の方は、三人が血反吐を吐いて地面に横たわっている。
本音を言えば、リステリカ達がこの件に関わっているのなら俺達の存在をここで露見したくは無かったがこれは、五人組の男達の身柄を抑えるためにも介入は、致し方ないらしい。
「ルカ!イゼリナ!リステリカの身柄を抑えるぞ!」
「【大量虐殺】のルカ様に任せな!」
リステリカ!お前は、一体誰をクライアントとして動いている?
麻薬を巡る事件に引き続いて今回のガルドスの書を巡る事件にも関わっているとしたら……その疑問を解決するためにもここで何としても彼女を捕らえる必要がある。




