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糾弾のクロニクル ~王女と暗殺者たちは暗躍する~  作者: 袋石ワカシ
ガルドスの書を追え
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行方不明の参考人


 「アルマータは、行方不明なのです」


 アルマータ・ガルドスの屋敷を訪ねたが俺達が面会できたのは、アルマータ伯では無かった。


 「それは、どういう……?」


 目的の人物が行方不明という事実を飲み込めずに思わず聞き返してしまう。


 「ですから、我が兄アルマータは、今朝方から行方不明なのです」

 

 俺達の前で困ったような表情を浮かべる女性は、シルフィーナ・ガルドス、つまりはアルマータ伯の妹だった。


 「なんでもいいんです、何か情報は無いんですか?」


 ここに来て唯一の手掛かりであるアルマータ伯までいないのでは、完全に詰みだ。


 「セヴェップを呼んでちょうだい」


 シルフィーナが侍女に、そう言ってしばらくするとセヴェップと呼ばれた男が室内へ入ってきた。


 「この人達に、お兄様の行方不明に関して知ってることを話してあげなさい」


 セヴェップと呼ばれた男は、齢六十を超えているだろう長身痩躯の老獪っといった風体だ。

 食えない男であることが簡単に想像出来る。


 「そうは言われても困りますなぁ、私も今朝起きたらアルマータ様がいらっしゃらないといった話を聞かされた次第で、前兆も何もなかった故、本当にわかりませぬ。力になれないこと、あいすいませぬ」


 おそらくアルマータ伯の側近だろうこの男が知らないということに若干の違和感を抱く。

 彼が側用人や側近であるならば、アルマータ伯から何か言われていて然るべきだ。

 そうであるのに、隠そうとするのなら……この男もガルドスの書に関わっているということか……?

 思案に耽っているとルカが椅子から立ち上がると、瞬時にセヴェップ野傍に寄った。


 「隠してんじゃねぇぞ?」


 ルカがナイフをセヴェップの喉に突きつける。


 「誰ぞあるか!」


 セヴェップが、声を上げ人を呼ぼうとするのをルカが器用に首元から腹部までを掻っ捌くようにナイフを動かして豪奢な服を切り捨てた。


 「ひぃっ!?」


 セヴェップが慄いて短く悲鳴をあげた。


 「何事ですか!?」


 応接間の外から走る足音と共に屋敷の者達だろう男の声。

 イゼリナとミシェルに足止めをしろと目配せを送る。

 この状況下では、下手に誤魔化すよりもセヴェップから情報を聞き出した方が良いと判断したからだ。

 しかしイゼリナが行動に映るよりも早くシルフィーナの一言で屋敷の者達は、動きを止めた。


 「気にするな!少しばかりセヴェップに尋ねたいことがあって訊いているだけだ、お前達は仕事に戻れ」


 いきなり訪ねてきた俺達が同じ室内で武器を使っているのにも関わらず、シルフィーナは微動だにせず毅然とそう言い放った。


 「尋問を続けてください」


 助けてとでも言いたげに目線を送るセヴェップに一瞥いちべつくれるとシルフィーナは、落ち着いた声音で言った。


 「良いのですか?」

 

 仮にもガルドス家の家臣だ、尋問を穏便に済ませたいが無論、場合によっては怪我をすることもあるだろうから一応許可を求めると


 「私もこの男が何を隠しているのか気になりますので一向に構いません」


 と紅茶を啜りながら答えた。


 「だそうだぜ?さーて楽しい尋問の時間だ」


 ルカは、生き生きとした表情でセヴェップの喉元にナイフを突きつけた。


 「お、お前らに私を殺すことは出来まい」


 服を断ち切られたときの狼狽は何処へやら、余裕ぶった表情でセヴェップは言った。


 「お前一人を殺したぐらい別に構わない」


 俺は、拳銃を抜いてセヴェップの開いたままの口に銃口を向けた。


 「なら殺してみろよ、若造が!」


 しかしセヴェップも老獪そうな見た目に反することなく、そう言ってみせた。


 「この、減らず口が!」


 イゼリナが顔面に蹴りを見舞う。

 

 「東方の国のことわざじゃ、口は災いの元って言うらしいな」


 俺は、致命傷にならないように狙いを肩に付けて引鉄を引いた。

 乾いた銃声に反してセヴェップの肩は血に濡れる。


 「ヒィッ……!?」


 引き攣った顔で俺の顔を見上げながら藻掻くように下がろうとするセヴェップは、老獪でも何でもなく、老いぼれた小心者だ。


 「これで少しは話すつもりになったか……?」


 再度銃を突きつけて問いただす。


 「は、話すっ!話すから許してくれぇッ!」


 股間を濡らしながら喚くように言った。


 「最初から言っときゃ、痛い目見ずに済んだのになぁ?」


 ルカがナイフの腹でセヴェップの頬をペチペチと叩く。


 「命だけは、命だけはッ!」


 これぐらいしてやれば素直に話すだろう。

 ルカに目配せを送ると、ルカはナイフを降ろした。


 「さて、知ってることを洗いざらい吐いてもらうぞ?」


 自分の家に使える者が死の危険に晒さらすのを容認したシルフィーナの意図が別にあるようで気になるもののセヴェップの口を割っただけでもよしとしておくか。

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