禁忌の書
物語は、新編に突入です。
ここからは、敵の姿も鮮明になりレナード達四人は、より強大な敵を相手に己の技術を駆使して戦っていくことになります。
引き続きよろしくお付き合いいただければ幸いです。
夜半、閉館した王立図書館に忍び寄るいくつかの人影があった。
警備の兵が、敷地を巡回しているが気づく素振りは、みせない。
そして、警備兵を意に介した様子もなく壁面の二重窓をこじ開け、侵入をしていく。
一切無駄のない洗練された動きは、場馴れしている感を漂わせる。
その日、時を同じくしてのことだった。
まだ若い青年のマルクス王国貴族、アルマータ・ガルドス伯爵が国内から姿を消したのは……。
「休暇中だったろうが呼び出してすまないな」
ユリアナ王女殿下に呼び出され、彼女にあてがわれた執務室に俺たちは新たに仲間に加わったミシェルと四人で来ていた。
正当な王位を継いだわけではないのだが、彼女は彼女の正義感で病を患う父王に変わって、ある程度の王族としての政務を担っていた。
「ご健勝のご様子、一臣下として誠に嬉しく思います」
俺らの雇い主は王族だから、挨拶はこんなもんでいいだろう。
口先だけなら貴族になれる気すらする。
「似合わん美辞麗句はやめておけ」
王女は、鷹揚に言うと咳払いを一つして話を切り出した。
「さて、時間もないから本題に移るが……」
彼女の顔は、深刻そのものだ。
よほどの事態が発生したに違いない。
「王立図書館に禁忌の書として厳重に保管されていた書物が盗まれた」
そんなものがあるということを【冥府からの使者】(オルクスと呼ばれるかつての国際的な暗殺組織)にいたときに聞いたことがあった。
内容までは知らないが、王族にとって不利益となる事柄が書かれているのだろうと勝手に見当をつけていた。
「それが何かマズイのか?」
ルカが、気だるげに訊いた。
どうやら、休暇を中断させられたことで不機嫌になっているらしい。
「私も内容までは、知らないが王族やこの国の貴族にとってかなり影響力を持つ書物らしい」
王女の言葉に迷っている様子はないから、おそらく本当に内容知らないのだろう。
「なんで内容が分からないんです?王族なら閲覧も可能でしょうに」
確認の意図をもって、一応訊いてはみるものの
「即位の儀の際に、内容もともに口伝されると聞いている。それ以外のことは知らん」
そう言われてしまえば、それっきりだ。
「というわけで、ガルドスの書を奪還してくれ。それがお前達の今回の任務だ」
誰が奪ったのか、何が目的で奪ったのか、どの組織が絡んでいるのか、その全てが分からない。
つまりは、証拠となりそうな手がかりも情報もないのだ。
「え、これ無理なんじゃね?」
思ったことをそのまま口にするタイプのルカは、そう言ってソファにゴロンと横になった。
「まぁ、そう言うな。手がかりがないわけでもない。実を言うと、アルマータ・ガルドス伯爵が、ガルドスの書が盗み出された昨日から行方不明になっている」
あとから聞いた話だが、アルマータ・ガルドス伯爵は、ガルドスの書を記したディルムッド・ガルドス宰相の血縁だそうだ。
ちなみにガルドスの書というのは、三百年ほど前に、この王国の宰相を務めていたガルドスの綴った記録で当時の帝国との戦争の記録なども含まれている。 彼は、その記録を用いて王国に対して反乱を計画し投獄された。
それほどまでに影響力を持つ書物なのだ。
「とりあえずは、アルマータ・ガルドス伯爵の居場所、または行き先を探るところからやってみます」
それが今回の事件、解決のための唯一の手がかりになるだろう。
それでダメならお手上げだ。
「必要なものは、可能な限り用意させるから、他の者の目に触れる前に、書物を奪取してくれ」
こうして、ろくな手掛かりもないまま今回の任務が始まった。




