新しい同僚
結果から言えば、東部辺境領における大規模な反乱は避けることができたと言ってもいいだろう。
反乱に加担した東部諸侯は、その多くが大挙して押し寄せた王国軍に投降し事態は沈静化した。
それでもカール・フィリップ公爵は、千余りの兵と共に南の山地に立て篭り抵抗し続けているらしい。
そのうち糧食が尽きれば、投降するとみて王国軍は包囲するだけに留めている。
王女殿下が捕えられるという予想外の事態が発生したが、身柄を奪還したから俺たちの仕事にケチをつけるものにはならない。
「三人ともご苦労だった。それに加えて加勢してくれたヴァレリーとミシェルの二人にも感謝している」
既にヴァレリーは、この世の人では無かったが王女殿下は、労いを忘れなかった。
それだけではなく、遺体は回収出来なかったにしても王城を見渡せる丘に彼の墓地を用意していた。
「私が三人の仕事を疑って駆けつけたために余計な仕事を増やしたことは、申し訳なく思う。それで、これが報酬だ」
砦で救出した王女殿下の侍女であるという戦闘メイドが、俺たち四人の前に報酬の入った袋を置いた。
「それとだ、アルのことを紹介しておこうの思ってな。彼女は、レジーナ・アルディアだ。仲良くしてやってくれ」
名字もあるから、やはり彼女も貴族なのだろう。
というよりかは、高貴な身分の世話役は大抵、高貴な身分なのだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「先日は助けてくださり、ありがとうございました」
彼女は砦で俺達が助けたことに謝辞を述べた。
「見事なレイピア捌きでしたよ」
彼女が逃げ続けられたのは、運だけじゃなく彼女の技量があったからだろう。
「さて、報酬も渡しましたしアルディア殿の挨拶も済んだようですし、彼らには引き取って貰いましょう」
話が一区切りとなるタイミングを見計らっていたかのように、王女殿下の背後に控えていた宰相が口を出した。
一瞬、王女殿下は顔をひそめたが、それ以上はなく俺達は退出することにした。
「で、どうするんだ?」
どこか他人に話を聞かれずに落ち着けるところがいいと、俺達三人のセーブハウスでミシェルと今後について話すことにした。
俺の問いかけに一拍間が空いて訥々《とつとつ》とミシェルが話し始めた。
「私は…十三歳からこの稼業で生計を立て始めました……。そのときから先輩であるヴァレリーが、手取り足取り私の面倒を見てくれました。……でももうそのヴァレリーは、いません」
ミシェルは、僅かに涙を滲ませたがそれを拭うと言葉を続けた。
「一人残された私に出来ることは……これ以外には、きっとないと思います。だから……だから……私を仲間に入れてくださいっ!」
それは、つまり今後もその手を血で汚し続けるということ。
ここでミシェルの申し出に許可を出す人間は俺だ。
既に王女殿下からは好きにしろと言われている。
だからこそ、俺が許可を出したことによって年下の少女の手を汚させ続けるというのは忍びなかった。
でもそれが、大切なパートナーを失った末に彼女の決めた選択だとして、それを無下にすることもまた忍びない。
「そうか……」
この少女は、ルカみたいに暗殺稼業が天職というわけでもなく、イゼリナのように比較的なんでもこなせる万能タイプというわけでもないだろう。
だからこそ、余計に彼女の申し出を無下にするのも、承諾するのもいたたまれないのだ。
「わかった……だが、一つだけ言わせてくれ。お前の命は、ヴァレリーから託されている。そのことを忘れるなよ?」
ヴァレリーが自分の命を賭して守った命だ。
だから絶対に自分を粗末にするような真似をして欲しくはない。
「はいっ!」
こうして俺達は一人の仲間を新たに得ることになった。
とれる戦略の幅も広がるだろう。
今後、どんな難題が降りかかるとも限らないならそうであるに越したことはない。
そんなことを考えつつ暫くの休暇を満喫するのだった。




