ヴァレリーの死
「オラオラ、道を開けなっ!」
ルカは、拳銃の弾倉の弾を撃ち尽くすと短剣を抜いた。
声を上げ己を鼓舞して、敵が突貫してくるもののルカを前に軽くあしらわれている。
「君の同僚凄いね」
呆れ顔で剣を振るって敵を斬り捨てて行くのは今回に限り共闘相手となった男だ。
「あぁぁ……時折、一緒にいるのが嫌になる」
あいつと行動を共にしてるだけでアホに見えそうだし、思考が歪んだ人間に見られそうだ。
文字通りの血路を外をめざしてひたすら走る。
「きゃっ!?」
血濡れの通路で足を滑らせて、俺たちの護衛対象であり雇い主が甲高い悲鳴をあげて転倒した。
「痛ッ……」
速やかに立ち上がって走り続けなければならないのに、ユリアナ王女は足を押えて座り込んでしまった。
この状況で捻挫でもして走れなくなったか……?
「殿下!」
そこに戦闘メイドが駆け寄る。
「アル……私に構わず逃げてっ!」
周りには、この状況を俺達を討ち取る好機とみたのか敵兵が集まり始めている。
「ルカ、イゼリナ、俺の分まで働けるか?」
俺達を逃がすために自らの命を差し出した王女、傍から聞けば美談になるかもしれない。
けれども置いて逃げるという選択肢は俺達には最初から存在しない。
「ルカ様の獲物が増えたってわけだな!」
「問題ないよ」
二人ともまだ余裕がありそうだ。
ここからは俺が王女殿下を背負って行くしかないからな。
「殿下、俺の背中につかまってください」
腰を下ろして、おぶさるよう促す。
「でもそれでは、お前が……」
この期に及んで、まだそんなことを言うのかよ!
俺達には王女殿下を見捨てるという選択肢がないんだ。
「うぐッ……そろそろ限界っ」
その時、苦しそうな声が後ろから漏れた。
後ろを振り向くと、苦悶に表情を歪めた共闘相手の男が脇腹から夥しい量の血を流していた。
敵の槍に突かれたらしい。
「ヴァレリー!」
今にも崩れ落ちそうな共闘相手に駆け寄ろうとするミシェル。
「ミシェル……最後に二つ頼まれてくれ……」
口を開くのもやっとといった様子で敵を牽制しつつヴァレリーは言った。
「最後なんて言わないで!」
とめどもなく流れる血を手で押え傷を圧迫し止血しようとするミシェル。
しかし流血は、その小さな手から溢れ出る。
「そろそろ限界なんだ……頼むから聞いてくれ」
「うぉぉぉっ!」
その声をかき消すような気合いをあげて敵が斬り込む。
「ッ……」
傷が開く痛みに声を漏らしつつも振り上げた剣を相手よりも先に振り下ろし敵の首を跳ね上げた。
「一つ目は、ポシェットから柘榴を出して火をつけて欲しい」
ミシェルの目は、涙を湛えて今にも溢れそうだ。
震える手で、ヴァレリーのポシェットを開けて柘榴を取り出す。
そして火打ち石で導火線に火をつける用意をした。
「二つ目は……ッ……ミシェル……生きろ…生きてくれ」
体に残った全ての力を出すような声音でヴァレリーは、喀血しながら彼の最大の望みを伝えた。
「ヴァレリーがいなくなったら私……私……何をして生きてけばいいの?」
きっと彼らは長いこと組んできたタッグなのだろう。
信頼の置けるパートナーを失ったとなれば、自分さえ見失ってしまうかもしれない。
それは、俺にとっても同じだ。
「レナード……ミシェルを頼む」
言い募るミシェルを制するようにヴァレリーは、言うと火打ち石で柘榴の導火線に点火した。
俺は、ヴァレリーが少しでも悔いを残さないよう力強く頷き返す。
それを見てヴァレリーは、にこやかに笑った。
「王女殿下に死なれると、俺たちは追われる身になるからな。大人しく背負われてください」
そこまで言うと状況が状況だけに流石に、王女殿下は俺の背中へと体を預けてくれた。
「全員、建物の外まで強行突破だ!なりふり構わず走れ!」
ルカ、イゼリナ、戦闘メイド、そしてミシェルに指示を出す。
柘榴を後ろ手に持ったヴァレリーとの永遠の別れを拒むかのように呆然と武器も構えずに立っているミシェルの腕を強引にイゼリナが掴んで走り出す。
「……掛かってこい!」
ヴァレリーが喀血しつつも叫ぶと、敵兵がそれぞれの獲物を構えてヴァレリーに斬りかかる。
そして―――――閃光と轟音。
「嫌ぁぁぁぁぁぁっ」
ミシェルの絶叫が響く通路にひしめいていた敵兵は、ヴァレリーもろごと爆煙をあげて消え去っる。
やっとのことで、建物の外へと抜け出しルカ達が侵入に使った縄をつたって崖下へと降りる。
手の皮が剥けないように手袋をしたが摩擦で手が痛む。
崖下まで降りてしまえば、後は尾根沿いに下るだけだ。
「今までで一番のバッドエンドだぜ……」
珍しく元気の無いルカが呟くように言った。
「そうだな……」
丘下に陣取る騎士達の元へと辿り着くまで、誰もそれ以上口を開かなかった。




