王女救出
「ったく、臭ぇ……」
ルカが、鼻をつまんで床に転がる肉塊を蹴飛ばしつつ歩く。
俺たち五人が五人ともに外套を返り血で赤黒く染めていた。
殺した敵兵の数は、軽く百人は超えてそうだ。
まさに、足の踏み場もないといった状況。
「北側の貴賓室は、こっちだ」
さっきまでいた通路に敵が集まってくれたため、貴賓室までの道は敵が少ない。
「待てぃっ!」
貴賓室への廊下を、一人の槍を持った大男が塞いだ。
「武器を下ろして投降しろ」
大男は、自分の発言が当然履行されるだろうと思っているような様子で言った。
「悪いが、それはこっちのセリフだ。武器を下ろして道を開けろ。命だけは助けてやる」
こちらは王女救出という任務を抱えているのだ。
「フン、小僧に女どもが舐めた口をききやがる」
男は槍を構えて、その体格に見合わない走りで間合いを縮める。
「悪いが、付き合ってられん」
俺の言葉を、待っていたかのように俺が言い切ったタイミングでルカが剣を抜いて走り出す。
あっという間に詰まる彼我の距離。
「死ねやぁぁぁっ」
裂帛の気合いと共に男が突き出した槍をルカは、迷わず剣で断ち切った。
「なッ!?」
男は、カランと落ちた槍の穂先に目を落とす。
ルカは、槍の柄に沿うように剣を走らせ男の手首を切り落とし振り向きざまに背中へと剣を突き立てた。
拳銃で撃てばいいのでは?と思うかもしれない。
しかし、これがルカなりのやり方だ。
相手の得意なフィールドで戦闘を挑み相手を圧倒する。
命を奪うだけでなくプライドまでも完膚なきまでに叩きのめすのだ。
「口だけだったぜ」
血糊を男の服で適当に拭うとルカは、剣を鞘へと戻した。
大男を倒してからは、立ち塞がる敵もなく貴賓室に到着。
そこに敵の姿がなかったのは、さっきの男が貴賓室の警備をしていたからだろう。
貴賓室の扉を、慎重に開けて中の様子を窺う。
中に敵兵がいた時を想定しての動きだ。
しかし部屋の中には、窓辺の椅子に腰掛け物憂げな表情を浮かべる王女殿下しかいない。
「お迎えに参上致しました」
部屋の隅の彼女に、聞こえるよう少し大きめの声で話しかける。
「……っ!レナード、イゼリナ、ルカ……それにアルまで……」
大きな瞳に、涙を湛えたユリアナ王女殿下は涙を見せまいとそれを手で拭った。
「もうダメかと思った……私が、迂闊だった。それでアルを巻き込んでしまった……それにお前たち三人の仕事ぶりを疑ってしまった。許せ……」
まぁ、今回は俺たち三人も手こずってしまったわけだからそれは、俺たちにも責任があるだろう。
それに、予想よりも早く進んでいた反乱の計画と準備に焦って、来たのかもしれない。
「謝罪は、王都へ戻ってからでも聞けます。今するべきは、ここからの脱出です。お早く!」
そんな王女殿下に、戦闘メイドが諭すように言った。
ここまで血路を開いてきた訳だが、いつ新手の敵が来るかもわからない状況だ。
なるべく急ぐに越したことはない。
「王女殿下、走れますか?」
走れないのなら背負うという選択肢もある。
歩かれるよりは、マシだろう。
「それくらいはできます。貴方達に無理をさせて、自分だけ楽をしているようでは王族失格ですから」
ユリアナ王女殿下は、気丈だ。
履いていたドレスの裾を走りやすいように切りはじめた。
「これで準備は終わりです」
身一つで、貴賓室に拘束された彼女に持ち物はないから準備は、それだけだ。
「先頭は、ルカに頼む。イゼリナは俺と一緒に後方で追いすがる敵を払うぞ」
「僕も、後尾を守るよ」
共闘相手の男が剣を抜いて言った。
「よし、行くぞ」
止まれない七人の脱出が始まった。




