王女救出
何やら騒がしくなったから、もしやと思って建物内に入ると一人の女性が大勢の兵士に追われていた。
「噂の戦闘メイドかい?」
共闘相手は、そう言うと銃を抜いた。
「らしいな。助けるか」
夜半になってから始める予定だった王女の身柄奪還は予定よりもはるかに早まって始まりそうだ。
俺もリボルバーを抜いて構える。
疲れて動けなくなってしまったのかその場にへたりこみながらもやっとのことでレイピアを構えた戦闘メイドに剣を振り下ろそうとした男の腕を狙って引鉄を引く。
その動作に、躊躇はない。
さすがに人を殺しすぎてそういった感覚が鈍ってしまっている、なんてこともないだろう。
そんなのはルカだけで十分だ。
「先を越されたよ」
共闘相手は、薄い笑いを浮かべると涼し気な顔のまま、やはり躊躇なく引鉄を引いた。
暗殺者なんてのは、そんなものなのかもしれないな。
仕事となれば、身分性別に関わりなく躊躇いなくその命を摘み取る。
「は、腹が熱いっ!焼けるようだっ!」
「ひっひぃぃぃっ」
拳銃という飛び道具を前にして、怖気づいた砦の兵士たちは面白いように一方的に撃たれていく。
中には果敢に間合いを詰めて斬りかかってくる奴もいるが、俺のリボルバーは速い装填を活かして相手の間合いに俺が入る前に確実に撃ち殺していく。
六発撃てば弾切れで、その間は共闘相手が俺を庇ってくれる。
戦闘中に言葉を交わさなくても相手は一流の暗殺者、お互いの考えてることぐらい察することは可能だ。
「このまま、身柄を確保してさっさと逃げるか」
「案内は任せてくれて構わないよ」
涼しい顔のまま弾込めをする共闘相手は、既に砦の内部まで熟知しているようだった。
「流石だな」
「しっかり内部の見取り図は読み込んでおいたからね」
共闘相手の男を先頭に拳銃を撃ちつつ走り出す。
兵士たちは、もはや銃口を向けただけで道を開けて逃げ出す始末。
それでも後背を突かれるのは面白くないから適当に敵の数を減らしておく。
「お、彼女たちも突入したみたいね」
少し離れた方からも銃声が響き始めた。
イゼリナやルカ、それに共闘相手の男のパートナーも俺達の動きを察して建物内に突入したらしかった。
「アイツらもわかってるな」
いずれこのままでは、多勢に無勢で弾薬も尽きるだろう。そうなれば剣で戦うまでだがそれは体力の消耗が激しいから可能な限り避けたい。
三人増えたところで状況はあまり変わらないが、それでも時間は稼げるだろう。
「それにしても段々、警備が厳しくなってきてないか?」
貴賓室に近づくにつれて、敵兵の数が増えている。
「そうだね、僕も弾薬に余裕はないからあんまり無理はしたくないんだけどね」
共闘相手の男は、仕方ないなという顔をすると腰野ポーチから鉄でできたような見た目の何かを取り出した。
そしてそれに火をつける。
「目をつぶってた方がいいかもね」
「なんでた?」
男は、鉄製のそれを敵に向かって投げつけた。
「何を投げっ!?」
投げつけられた敵兵が、そう口にした瞬間ーーーーー通路が眩い光と耳を劈くような音に満たされた。
そして、頬に生ぬるい飛沫がかかる。
指で拭ってみると、べっとりと指に付着した。
血糊だ。
前の通路を見れば、通路を塞ぐように複数の敵兵が肉塊へと変わっている。
全身バラバラになって、意識が一瞬で飛べば幸運な方で見るからに重症を負って呻いている敵も見受けられた。
「これはひどいね。使うんじゃなかったよ」
共闘相手の男は、もう一つさっき投げたものと同じものを手にしていたが再び投げることはなくポーチに戻した。
【冥府からの使者】として暗殺稼業に明け暮れていた頃、風の噂に聞いたことがあったが、目の前で今見たものがそれなのかもしれない。
西側の国に、ザクロという危険な暗殺道具があると。
「…それがザクロなのか……?」
鮮烈な光景が脳裏に焼き付いて消えない。
「耳聰いね」
話に聞いたのと実物を見るのでは大きく違う。
せいぜい一人の殺傷がやっとの物かと思っていたが、実物はそれを斜め上に超えて十人近い敵を一瞬で消し去る程のものだった。
「いたぞーーっ!」
しかしそんな考えに浸っている場合では無さそうだ。
「新手だね」
今度は後ろからだ。
前の敵もまだ複数残っているから、囲まれた形になった。
「前は頼んだ」
「後ろを頼むよ」
リボルバーの弾倉に弾を込めていく。
そしてすぐさま抜けるよう腰元の剣の柄の位置も確認した。
「な、なんなのだ……まるで獣が暴れ回ったような……」
後ろから来た敵は、通路に散乱する肉片に唖然とする。
「怪しげな技を使いおって!者共、数で押し包んで討ち取ってしまえ!」
しかしそれを敵の頭目と思しい男が声を張りあげて一蹴した。
「うおぉぉぉっ」
怖さを殺すために大声で叫ぶ兵達。
得物を煌めかせて、突撃してくる。
「こいつは、骨が折れそうだ」




