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第32話 戦闘メイド


 「ここも違う……」


 複雑にめぐらされた通路を行きかう兵士たちに紛れて行ったり来たりしているが一向に攫われた王女殿下の居場所を見つけることはできない。

 何も考えずに飛び込んでしまったのは失態だったわね……。

 ユリアナ王女殿下のことになるとすぐに前が見えなくなってしまうというのは自分でも自覚はある。

 それで何度も危険な目にあってきた。

 でも今回に限っては危険の度は、段違いに高かった。


 「どうしても行かなくてはならないのですか!?」

 「そうよ、アル。王族である私が出向かなくては解決できるはずもないわ」

 「しかし、お命が……」

 

 独立を目論み反乱を画策する東部諸侯を王国に引き留める必要性は私にも理解はできている。

 でもそんな人たちのもとに王族が自ら出向けばどうなるか、答えは明白だ。

 最低でもその身を拘束されるのは間違いない。

 そんなことは簡単に予測できたからこうなることは分かっていた。

 もちろん、考え直すように申し上げた。

 でも正義のために走り出せば止まらないのが王女殿下だ。

 今回も例に漏れず止めることが出来なかった。

 そんなことを考えながら走っていると人にぶつかった。

 砦の中の通路なんてそんなには広くない。

 考え込んでいて、しっかり前を見てなかったからぶつかったのは仕方ないことだった。

 でもそれは致命的だった。


 「む、女……?」


 ぶつかったのは砦の中の兵士なのだが、ぶつかった瞬間に被っていたフードが頭から脱げてしまっていた。

 慌てて被り直すがもう遅い。


 「怪しげな奴。者共、ここに怪しげな女がいるぞっ!」

 

 腰のレイピアを抜いて脱兎のごとく走り出す。

 しかし、男の声に反応した他の兵士たちが剣や槍を構えて道を塞ぐ。

 退路も絶たれた。


 「観念して投降したらどうだ?」


 ねぶるような視線をこちらに向けながらさっきの男がそう言った。

 投降しようものなら私は、何をされるかわかったものじゃない。

 それを考えると死んだ方がマシにすら思えた。


 「するわけないっ!」

 「ってことはどうなってもいいんだな?」


 別の男がそういうと勢いよく突っ込んできた。

 繰り出される一撃は体重の乗った重い刺突だ。

 しかし、避けてしまえば隙が生まれる。


 「ぬおっ?」


 男の刺突を跳躍して避けて、体勢の崩れかけた男を踏み台にさらに跳躍。

 私を囲むように構えていた兵士たちの後方に着地。

 後ろを見ることなく走り出す。

 どこへ逃げればいいかもわからず、とにかく外へ外へと、建物内から出ることだけを考えて走った。

 どこをどう走り回ったかは分からないが、外へと続く扉が通路の向こうに見える。


 「待てやぁッ!」


 後ろには、息を切らせながらも追いすがる兵士たち。

 さすがに私も息が切れてこれ以上走るのは厳しい。

 足を止めるべきではないのに、足が止まってしまう。


 「ようやく観念したか?」


 息を切らせながら兵士たちがにじり寄る。

 素の体力では、女よりも男の方が上だということを実感させられる。

 私も抵抗するためにレイピアを構えるが、この状態で戦闘をできるかは怪しいところだ。


 「素直じゃねぇなぁ?抵抗すると痛い目見ちゃうぜぇ?」


 そう言って一人の男が振りかぶった剣を力任せに振り下ろす。

 私のレイピアでは防げない……そう思って諦めかけたときだーーーーーー


 ダンーーーーー

 聞いたことも無い短い破裂音のようなものが響いた。


 「な、何だっ!?」


 剣を振り下ろしていたはずの男の腕が宙を舞う。

 男は、手首から先を失った手から血潮を噴いた。


 「これがさっき言ってたメイド服の女性かな?」

 「言った通り戦闘メイドだろ?」


 兵士達とは反対側、つまり私の背後には二人の男。

 誰かも分からない二人に私は救われたのだ。


 「ちょっと待っててな」


 男の一人がそう言うと手に握った鈍色にびいろの物体から再び破裂音を響かせた。




 



 

 

 


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