第30話 奪還
「貴殿らは、王女殿下の奪還を支援してくれる味方、ということでよろしいな?」
目の前にいるのは、頬を返り血で染めた一人の騎士だ。
「はい。経緯の程を明かすことはできませんが、必ずや王女殿下の身柄を奪還してみせましょう。その代わり、王都への応援要請は今少し待っていただきたい」
俺達五人は退却した騎士たちを追いかけ、こうして話し合いの場をもっていた。
「それは、出来かねますな。対外的な面でも内面的な事情もそれを許さないので」
そして俺たちは王都への支援の要請を止めるよう説得していた。
なにせ、このままいけば東部諸侯と王家との戦闘は免れない。
仮にそうなってしまったとすれば、多くの禍根を残すことになるだろう。
それは、安定した統治を揺るがす事態だった。
「……どうか、それだけは!!」
「なりませんな」
もはや説得に対しては聞く耳を持たないか……。
「……わかりました。それでは失礼させていただきます」
なら、もうここにいる意味はない。
「期待しておりますよ。それと何かあった場合はこちらに知らせを」
騎士の言葉を背に設営された陣から出ていく。
「なかなか堅物だったね」
交渉に失敗したというのに共闘相手の男は浮かべた笑みを崩さない。
「だいたい、リスクに気付けないからあんな間抜けなことになったんだろうが……」
ルカは相変わらずの物言いだ。
「そうだな……あいつも自分の保身考えたら絶対俺らの提案に乗るべきだだろうな」
ただ王女殿下を人質に取られだけとあれば王都に戻り次第、処刑か最低でも騎士を罷免させられるだろう。
「そこは、忠義の騎士と言ったところじゃないかな?」
そう言って共闘相手は、笑った。
言われてみればその通りでそういう忠義の通し方もあるのかもしれないなと思った。
「とりあえず王都から軍が派遣されるのは間違いなさそうですね」
イゼリナの声に誰もが賛同を示す。
「来れば戦闘状態になるのは間違いないな。俺たちにできることは、戦闘に突入する前に王女殿下の身柄を奪還することだ」
王女殿下の身柄を奪還すれば、東部諸侯と王都から派遣された軍が戦闘する理由は、無くなる。
理由があるとすれば、自らの保身のために東部諸侯が籠城戦を行うということくらいだろう。
しかし、糧秣を焼き払われた東部諸侯の軍に長期にわたって籠城する力は残されていない。
「砦の見取り図ならここにあるよ」
共闘相手の男は、懐から紙を取り出す。
「随分と仕事が早いな」
「君達の来る前から侵入してたからね。君たちの物よりは、正確だと思う」
得意ぶるでもなく、あっけらかんとした様子で彼は言った。
「幽閉先に検討はつくのか?」
残念ながら俺達の用意した地図に、砦の屋内の様子までは記載していない。
「可能性としては、地下の牢屋と北側の貴賓室に拘束されているかのどちらかだと思うよ」
これから交渉の材料となる王族の身を何処へ置くのか……。
十中八九、王女の身は貴賓室だろうな。
「なら今晩のうちにでも仕掛けてしまおう」
「でも、何も計画を練ってない」
イゼリナが、止めに入るがそれを共闘相手の男が手で制する。
「君たち女性陣は夜半くらいに北側の斜面方向に来て欲しい」
そう言う男の背の背をつつくと振り向いて目配せを一つ。
「鴨が来たみたいね」
彼と俺の目線の先には街から坂を上って砦で向かおうとする男が二人―――――やることは決まっていた。
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