第25話 決心
「面白くない事態になっているわ」
ユリアナ・マリア・オートヴィルは、その美貌に苛立ちを浮かべながら一通の書簡に眼を通していた。
それは、東部に領地をもつ貴族からのもので東部の窮状を伝える内容だった。
「ヴェルディを呼んでちょうだい」
侍女に宰相を呼ぶように命じるとユリアナは、椅子から立ち上がると書簡を引き出しの中へしまった。
しばらくして、いそいそと顎髭を蓄えた男が部屋を訪れた。
「王妃殿下のお呼びと聞き及びとるものもとりあえず、急ぎ参りました」
へりくだった言い方であるが、言葉にそれほどの敬意は感じられない。
「ご苦労であった。単刀直入に要件を話す」
「はっ、何なりと」
侍女に目くばせをして下がらせた。
「私は、明日にも東部領へ出立したい」
「それは、どういう成り行きで?」
宰相は、いぶかしむような表情を一瞬だけ浮かべた後そう訊き返した。
「東部諸侯が、何を画策しているのか、そなたも聞き及んでいるだろう。なんとしても我が王国からの離反は防がねばなるまい」
「それは、そうですがこのタイミングで行けば飛んで火にいる夏の虫なのでは?」
宰相は、反乱の危険性があるから今、行けば身に危険が及ぶ可能性があると苦言を呈した。
「私がいかねば、他に誰も行くまい」
「それは……そうですが……」
ユリアナ・マリア・オートヴィルの決意は固いのか、そう言われても退く様子も怯む様子も見せない。
「一応、忠告はしておきましたからな?」
「その忠告を聞いたうえで私は、こう言っているのだ」
「では、慰問という形で明日の朝、出立できるよう取り計らっておきましょう」
宰相は、そう残して深々と頭を下げて退室していった。
「殿下、私はどうにもあの男に異心があるように見えてならないのですが……」
先程、宰相ヴェルディを呼びに行った侍女が、部屋に戻ってきてユリアナに言った。
「癖があることは、間違いないだろうが……」
「癖というか……何か悪い企みをしているというか、そんな雰囲気があるんです」
その侍女の足取りは、普通の人のそれではなく音も存在も感じさせないような足取りだ。
「今回は、レジーナにも同行してもらう。いざとなったらそのときは頼むよ」
ユリアナはそう言って侍女に頭を下げた。
「主人に頭を下げられるなど恐れ多い、同行の許可が降りなくても同行しますよ?」
レジーナは拳を体の前で構えて戦うふりをした。
「まぁ、いざというような事態にならないようにしていただけると一番助かるんですけどね?」
「必要なことは必要なことだ。それは、できない相談だな」
ユリアナの言葉に、レジーナは苦笑を浮かべた。




