第20話
塩と金の足取りを追いかけるうちに聞き覚えのある名前を見つけた。
ヴェゼール商会――――――。
前回の麻薬の密輸事件においてもその名前を聞いた。
「ほんとにその商会に塩を売ったんだな?」
「間違げぇねぇ」
塩職人の男は、取引について記されている紙を俺らに見せてきた。
それには確かに、拙い字で買い取り者ヴェゼール商会とありヴェゼール商会の人の手によるサインもあった。
麻薬の密輸事件については、王国の調査機関が引き続き調査を行っているが、ヴェゼール商会は一切の証拠を残していなかった。
「わかった。邪魔をしたな」
既に十人近くの職人たちのもとを回ったが、どこの職人たちも同じことを口にした。
「どいつもこいつもおんなじことばっかり口にするせいでちっとも足取りが追えねぇ」
ルカは、道端の石を蹴って不満をぶつけていた。
ヴェゼール商会は、メラーム海沿岸での影響力が強い商会だが急に台頭してきた組織で謎が多いのだ。
ひょっとして、どこかの国のバックアップがあったりしてな……。
「この後、どうしましょう」
イゼリナが気落ちした様子で呟いた。
「予想じゃ今頃は、塩の値段の高騰が挙兵のための軍資金集めだって確証を得てるはずだったんだけどな……?」
現状は、とてもじゃないがそんなに進んではいない。
価格の高騰にヴェゼール商会が関わっていそうではあるがその確証を得られず、挙兵のための軍資金集めだなどと考える余裕はない。
すでに、このバイエルンに来てから一週間が経過していた。
「これじゃ、王女様に叱られちまうぜ?」
「ああ、わかっている。状況報告を知らせる手紙は、毎日送ってるが……」
前回の事件は一週間もかからないうちに終わった。
それを今回も期待しているのなら、困りものだ。
すでに砦の整備も終わりつつあり戦の準備は整いつつあった。
「何かいい手は……?」
焦燥感に駆られて、頭を悩ますが妙案は浮かばない。
「これは、もう短期決戦か!?」
首謀者の暗殺―――――ルカの言わんとしていることは手に取るように分かった。
その手段を選べば、考えることから解放される。
しかし、それだけは避けなければならなかった。
「それはダメだ……反乱を助長しかねない」
見栄っ張りな貴族だしプライドは高い。
殺されたままでいるとは到底思えなかった。
「レナード……」
右側にいた、イゼリナが肩をポンポンと叩いてきた。
「どうした?」
「反乱を止めることは、できなくても遅らすことはできる」
イゼリナが丘陵地帯の一角を指さした。
その先にあるのは、砦だった。
そういうことか……確かに、そこには可能性があった。
「砦の武器庫または、糧食庫を焼けばいいのか……」
戦に必要なものがそろわなければ挙兵はできないだろう。
「お、砦に突入しようってか?」
ルカも俺の言葉を聞いていたのか乗り気でそう言った。
「やるとしても隠密行動だけどな?」
ルカに釘を刺して置いた。
放っておけばルカは、好き勝手に暴れ出してしまいそうだ。
「動かないよりはマシだぜ」
小さな肩をぐりんぐりんと回してやる気十分と言いたげなルカだった。
早いに越したことはない。
飯でも食べたら、計画を練ろうか。




