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第17話




  第17話




 王都クラディウールから長距離移動の馬車を乗り継いで東へ三日。

 

 「ふぃ〜っ、これでようやく馬車生活からもおさらばだぜっ!!」


 ルカがそう言うのも無理はない。

 広くない乗り合いの馬車に一日十時間以上は揺られていたのだからな。

 長距離移動用の馬車ということで一応、乗客の負担を減らすような工夫は凝らしてあるのだがそれにしても三日は長かった。

 宿で体を伸ばして寝ることはできるものの、揺られ続けたせいで全身が痛い。

 伸びをすれば全身がバキバキと悲鳴をあげそうだ。


 「宿に向かおう」


 宿はすでに、王女が手配をして馬車の切符と一緒に確保してくれていたので道中、その日の夜を心配しなくて済んだのは、本当にありがたかった。


 「今日の晩飯が楽しみだぜっ!!」

 「お夕飯が楽しみです♪」


 二人とも長旅の疲れはどこへやら、夕食に思いを馳せていた。

 ここはフィリップ公爵領の中心都市、バイエルンだ。

 そしてバイエルン近郊のコルドベルク丘陵地帯はブドウやオリーブ、小麦の大規模な生産地でもあるため美食の街としても名高い。

 

 「今日ぐらいは、楽しんでもいいよな」


 以前【冥府からの使者】に属していたころにも、何度か任務先や任務の経由地として訪れたことがあったが美食や観光なんかはそっちのけで任務に就いていたから、俺も美食の街がどれほどのものかは知らない。

 だから、少しばかり楽しみにしてきた。

 これからの活動の拠点となる宿に到着する。

 別に豪華な宿というわけではなく智衆向けの一般的な宿だ。

 フロントで受付を済ませて自室に荷物を置きに行く。


 「あとでここで落ち合おう」

 「おう」

 「了解しました」


 女性陣はツインルームへ、俺はシングルルームへ向かう。

 木の内装は華美でなく落ち着いた雰囲気を醸し出し、部屋の窓から外を眺めれば賑わう夜の街並みが見えた。

 あいつらを待たせるわけにはいかないな。

 多分、早く夕食を食べたくてしょうがないだろうからもうフロントのあたりにいるかもしれない。

 フロントのそばに行けば、予想通り二人とも待っていた。


 「遅ぇぞ」

 

 イゼリナもうんうんと頷く。

 

 「悪いな」


 二人を連れて、食堂のテーブルにつく。

 メニュー表を開けば、地元の特産物を活かした料理の名が並んでいる。

 俺の注文は決まったので二人の方の様子を見るとすでにもう決まっていたらしくウェイトレスに注文を伝えていた。


 「これと、これと、これにこれをつけてデザートもつけてくれな。で、食後に珈琲を」

 

 ルカは、メニュー表を指さしながら(本人曰く、細かい文字を読むのがめんどくさいとのこと)


 「ポルチーニのクリームパスタにズッキーニの花のフリッティ、オッソブーコ、デザートにティラミスをエスプレッソと一緒にお願いします」


 イゼリナは、パスタに揚げ物、煮込み料理、デザートとバランスよく注文していた。

 俺は、


 「アラビアータと、ブルスケッタ、ハムの盛り合わせに、ブッファラとバケットでワインは、五年物で」


 飲むためのチョイスだ。

 五年前は、ブドウの当たり年で非常にいいワインが作れたという話を聞いていたので五年物のワインを注文しておいた。


 「かしこまりました」


 ウェイトレスが去ってからしばらくしてサラダが運ばれてきてそれを食べ終わった後に見計らったようにパスタが出てきた。


 「うめえっ」

 「久々のポルチーニです」


 二人は目を爛々と輝かせて目の前の美食に没頭していた。

 何と言うか微笑ましい光景だなと思いつつワイングラスを傾ける。

 芳醇な香りがたまらなく、奥深い味わいが味の多様性をみせてくれる。

 そんなにアルコールは強いほうじゃないのでこれをもっといっぱい味わえないのが残念でならない。

 テーブルには次々と料理が運ばれてくる。

 ルカの注文はそのほとんどが肉でジビエから牛の第二胃を料理したトリッパまであった。

 食べることに没頭していて、会話がない。

 こういう料理って普通は会話を楽しみながら時間をかけて食べるんだけどな。


 「さすがは、美食の街ですね♪」


 イゼリナがフォークを置いてようやく口を開いた。


 「お前も来たことがあるだろ」

 「えぇ、エルメリーンの際にこの街に立ち寄りました」


 エルメリーンというのは、二年前にこの街にいた司教の名で対立派閥との勢力争いで、毒殺を仕掛けられたことで有名である。

 その毒殺を防いだのがイゼリナで、来襲した十名余の刺客をすべて仕留め暗殺を仕組まれたことを教会内外に公表し司教の命を守り抜いたのだ。

 俺たちは、身バレや顔バレをするわけにはいかないから公表したのは司教自身であったが。


 「あれは、見事な手腕だったな」

 「ほめられると気恥ずかしいですね」


 手際の良さは何ともイゼリナらしいといえた。

 

 「でも、そのときは仕事に忙しくって全然、おいしいものを食べられなかったんですよ」

 

 まぁ、そうなるだろうな。

 イゼリナ単身にはいささか、大きな仕事だったしな。

 

 「お待たせいたしました」


 ウェイトレスが、再び料理を運んできた。

 イゼリナの前に置かれたのは、オッソブーコという料理で子牛のすね肉を長時間煮込んだ手間のかかる一品だった。

 周りを人参とズッキーニ、玉ねぎが色鮮やかに飾っており、とろとろな食感となったお肉の祭壇のようになっていた。

 

 「少し欲しいですか?」


 俺は無意識のうちにじっくりと見つめていたらしくイゼリナが取り皿に取り分けてこちらに差し出してきた。


 「すまない」


 少し恥ずかしいが受け取る。

 柔らかく煮込まれたそれは、骨髄まで僅かも残さずに食べることができた。

 口の中にいれれば今にもとけそうな食感。

 酸味で肉の味を引き立てる完熟したトマトで作られたソース。


 「美味い……」

 「幸せですね。こんな時間が続けばいいのに」

 

 俺も、こういうのを頼んでおけばよかったか……。

 この街にいる時間はそれなりに長いだろうから次の機会にでも食べることにしよう。

 

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