後編(HE)-暇乞編-
僕は衝動的に家を飛び出した。ただ葵に会いたい。その思いだけが先走った。
自分でも驚くほどの速さで葵の家に着いた。インターホンを押そうとしたら玄関のドアが開いた。葵だった。葵は不思議そうな顔でこちらを見つめる。僕は話そうと思ったが息が上がり上手く話せなかった。葵はそんな僕を見て言った。
「行こっか。」
僕は何処へ行くのだろうと思ったが葵が僕の手を握り、引っ張った。彼女の背中はいつもより心細く見えた。
着いたのは公園だった。夜の公園は薄暗く不気味な雰囲気を放っているはずだがその時は不思議と感じなかった。公園のベンチに二人で座る。流れで繋いだ手は離せないでいた。葵は俯いたまま言う。
「自分の正義って貫いちゃ駄目なのかな?」
僕は首を横にふる。
「私は正義を貫いたら嫌われちゃった。」
涙が今にも溢れそうな声で言った。僕は葵の手を強く握りしめる。そして僕は答える。
「正義を貫くのはすごい難しい事だ。でもそれが出来る葵は素直に凄いと思う。確かに周りは嫌ったかも知れない。でも僕を含め味方はいるはずだよ。」
葵は泣き崩れながら答える。
「いつまでも味方でいてくれるの?裏切らない?」
僕はもちろん首を縦に振る。葵はそれを見て笑った。
「最後のわがまま聞いて欲しい。どうしても伝えたい事があるの。私あなたの事が――」
「好きだった」
でもその顔は少し悲しげな表情をしていた。そして続ける。
「多分、これから良い奥さんを貰って結婚する時があると思う。でもね、いつまでも私の事を覚えていて欲しい。私はずっとそばであなたを見ているから。泣いている時は励ますし、笑っている時は一緒に喜ぶ。」
遠くから微かにパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえる。
「もう私は行かなきゃいけない。最後にあなたと会えて良かった。ありがとう。」
風が吹き葵の体は砂のようにキラキラ輝いて消えてしまった。
僕は葵の家に向かった。そこには泣き崩れる両親と葵が乗ったタンカーがあった。救急隊員が脈を確認する。しかし首を横に振り、顔に布をかけた。そして手を合わせた。
あれから2ヶ月が経った。色々な事があっと言う間に過ぎ去った。僕は塞ぎこみ部屋にこもった。部屋にドアをノックする音が響く。僕はドアを開ける。目の前に妹が立っていた。
「いつまでこもってるの!出かけるよ!」
妹は強く服を引っ張った。僕は一瞬迷ったが頷いて出かける事にした。支度を終え久しぶりにカーテンを開ける。雨が降りしきる日だった。
傘を持って玄関を出る。雨が傘に当たる音は心地よかった。妹は特に用事等は無いようで色々な場所を歩き、色々な店を回った。最後に葵と話したあの公園に着いた。その頃には雨が止んでいた。そこからは綺麗な虹が見えた。僕たち兄妹はつい見とれてしまう。妹は虹を見ながら話す。
「実は昨日、夢を見たの。葵さんがね笑いながらお兄ちゃんを連れ出して欲しいって。明日は雨だからお兄ちゃんも喜ぶはずだって。それで最後にこの公園に連れていってあげてって言われたの。多分これを見せたかったんだね。」
僕は葵が笑って見ているような気がした。僕はこの虹の見える街で一生懸命生きていこうと思った――。
こちらの作品はマルチエンディングで制作されています。
前編に関しては共通ですが後編は2つ(BE・HE)あります。