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虹色の街  作者: 潮月夜
1/3

前編 

きっと雨の降る日にまた会える――。


轟音と共に目の前を電車が走り去る。僕は雨の降るホームに1人残される。そして深い溜め息をついて駅をあとにする――

雨が降りしきる中、湿った地面を見ながらトボトボと歩く。何事にも興味が湧かず、世界が灰色に見える。今までは世界は輝いて見えていた気がした。いつから変わってしまったのだろうか......


時は1ヶ月前に遡る――

スマホのアラームが部屋中に鳴り響く。そして、目を擦りながらスマホのアラームを消す。リビングに向かい、母が用意してくれた朝食を食べる。外は今日も雨模様だ。個人的に雨は大好きだ。少し非日常感があり、いつもとは違って町が見える。そして、制服に着替えて傘を持ち玄関を出る。


玄関を出て傘をさすと雨の心地よい音が響きわたる。それから少し歩き信号待ちをしていると後ろに気配を感じる。

「わっ。」

その声に僕はびっくりしてしまった。声が聞こえた方を振り返ると同級生の葵が立っていた。無邪気な顔をして

「びっくりした?」

と聞いてきた。悔しかったので僕は冗談交じりに

「最初から気づいてたけど可哀相だから付き合ってあげただけだよ。」

と答えた。そうすると、葵は悔しそうな顔をしていた。それから他愛もない話をしていると学校に着いた。


葵と一緒に下駄箱で外履きから上履きに履き替えて、教室へと向かう。僕はいつも通り葵と話しながら教室の後ろから入り、自分の席に着く。朝のチャイムの音と共に担任の宇多先生が入ってくる。連絡事項を淡々と伝え職員室に戻っていった。それから退屈な授業を乗り越え、あっという間に昼休みになった。僕は入学当初から専ら弁当派だったので、ランチョンマットを机に拡げ、黙々と食べ始める。それを隣の席の葵が見て

「今日も一人ぼっち堪能してるね〜」

と嫌味混じりに言ってきた。僕も少し嫌味気味に

「毎日、一緒に食べてるのはどこのどちら様だったっけな〜」

葵の耳が赤く染まり始めたのがはっきりと分かった。葵は恥ずかしそうに

「別に私は他にも食べる人は居るけど、可哀想なあんたに付き合ってるだけよ。そんな嫌なら今度からは別の子と食べるわよ...」

怒りと悲しみが混じった様な言い方に少し罪悪感が湧いた。

「ゴメンね。一緒に食べようぜ。僕も葵が居て良かったよ。」

葵は急に顔を背けて

「あんた、良くそんな痛いセリフ言えるわね。」

僕は少し苦笑いしてしまった。密かに僕は葵とご飯をたべる事が楽しみなのだ。いつも少し多めに葵は弁当を詰めてくる。毎回、食べきれないからと渡してくる。だから毎回、僕は弁当を小さくする事を提案するのだがお茶を濁されてしまう。僕には全く理解できなかった。楽しい時間はいつの間にか過ぎ、5限の予鈴が鳴った。2人の机を離し、お互い授業の準備を始める。空は曇り、雨が降り続いていた。


午後の授業も少し退屈気味に受け、やっと授業が終わった。終礼が終わり、部活動へと向かう。僕は囲碁将棋部に入部している。この学校で一番地味な部活だと思う。部室に入ると誰も居らず一番乗りの様だ。適当に椅子に座り先輩を待つ事にした。そう言えば、葵はバスケ部で大活躍している。僕にとって葵はどこか違う世界に住む人の様な気がする時がある。眩しくていつまでも届かない様な感じ...。そんな事を考えていると部長が入ってきた。

「おー、来てたのか。そろそろ副部長も来るから待っててね。」

丁寧な口調で言う。僕は直ぐに頷きながら

「分かりました。」

と言った。10分程、経って副部長もやって来た。

「ごめんね~。日直でさ日誌を書いてて...。」

部長は副部長に何時もの様にツッコミを入れた。

「お前、日直じゃ無いだろ。後輩の前で先生に叱られてたなんて言えないもんな。」

副部長はまずいという顔をして

「お前、何で言.....いや、何でもない。部活を始めるか。」

何があったのかある程度、察しつつ囲碁の準備をする。この部活に入ったのは、元々帰宅部志願だったがある日、勧誘され入部体験をした。先輩が2人の小規模な部活だったが、先輩達が優しく、雰囲気が良かったのでついつい入ってしまった。囲碁将棋部と言いながら、ほぼ雑談部であるのは公然の秘密である。先輩と雑談をしながら囲碁をしていたらあっと言う間に時間が経ってしまった。用事があったので少し早く切り上げる事にし荷物を持って先輩に別れを告げ部室を出た。昇降口を出て、雨が降り続く空を見つめながら傘を指して体育館の横を通る。その時、衝撃的な言葉が耳を貫いた。

「葵ってうざいよね~。」

「確かにうざいよね~。」

ついつい、身構えてしまった。頭がフリーズした様にぼーっとしてしまう。30秒程経っただろうか。急に意思がはっきりとした。それから、忘れたい気持ちが大きくなり、何時もより早く歩く。そんな事はない、聞き間違えだと思いながら――。家に着くと母がおかえりと言ったがぼーっとしながら部屋に直行してしまった。制服も脱がずに用事の事も忘れ、布団に潜り込み頭の整理をする。きっと聞き間違えだと信じ込む様に...


「...ゃん...お兄...お兄ちゃん...起きてよ...」

その声で僕は起き上がる。妹が不服そうな顔でこちらを見る。

「やっと起きた。今日、一緒に買い物行くんじゃなかったの?あと、何か塞ぎ込んでるみたいだけど何かあったの?」

一瞬、驚いてしまう。確かに妹は察しが良いと言うか、空気を読める様な性格だ。でも、ここまで来ると少し怖いような...。

「ごめん。一緒に行けなくて...何もないよ。大丈夫、大丈夫...」

妹は怪しそうに顔を覗きこむ。

「本当だよ。本当」

妹は少し不思議そうな顔をして

「そうなの?まー大丈夫ならいいんだけど。思い詰めてるような雰囲気を感じたんだけどな~」

ブツブツ言いながら部屋を出て行こうとする。それから思い出したかのように

「あとご飯だから、下に来てね~」

と言い残し出ていった。取り敢えず、ご飯でも食べるかと思い、リビングへ向かう。


リビングへ行くと、母が台所でせっせと準備をしていた。僕に気づいた母が

「もう少しで準備できるから待っててね」

と言った。食卓テーブルの父の前に座った。そうすると父が見た瞬間

「お前、何かあったか?」

直ぐにお茶を濁すように

「何にも無いよ。」

と答える。父も妹と同様に不思議そうな顔でこちらを見る。母は料理を食卓テーブルに運びながら

「何いってるのよ。いつもと変わらないじゃない。」

と言った。父は直ぐに

「何か雰囲気が少し暗い様な気がしないか。」

「気のせいよ。きっと」

「そうかな~。何か違うんだよな~」

多分、この父の察しの良さを妹も受け継いでいるのだろう。逆に僕は母の能天気さを受け継いでしまったらしい...。食卓にはすき焼きが並んだ。忘れていたが今日は父の誕生日だった。だから、妹と約束して買い物の予定だったのだが...妹には申し訳ない事をしたと改めて思う。それからの食事はゆっくりとした時間が流れ、今日の出来事をすべて忘れてしまう様な不思議な時間だった。食事を食べ終えて、ケーキとコーヒーが出てきた。家族の他愛もない話で落ち着いた僕は思いきって葵に連絡することにした。スマホの連絡先から葵を選び発信する。葵は予想以上に早く出た。

「葵ですけど、どうかした?」

その時、ふと話すことを何も考えていなかった事を思い出す。

「あの、えっと、元気?」

「どうしたの急に。構って欲しいの?」

「いや、そういうわけじゃ無いんだけど...」

それ以上、話すことが分からなくなってしまった。スマホを耳から遠ざけ、通話の終了ボタンを押す。自分の中で焦燥感がじわじわと広がっていくのを感じた――。


こちらの作品はマルチエンディングで制作されています。

前編に関しては共通ですが後編は2つ(BE・HE)あります。

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