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第9話 破滅へ続くルミアのナイフ

『しかし回り込まれてしまった!!』


『χダニャンはキ〇ラの翼を天に掲げてワープした!』


ドゴーン!!


『なんと!χダニャンは天井に頭をぶつけてしまった!!』


(てーれれれーれれー♬)

『χダニャンは力尽きた』


『χダニャンは小説家になろう最下層でキ〇ラの翼を使い

天井にぶつかり力尽きた』


『おきのどくですがχダニャンは 過去編からの脱出を諦めました』

「・・・」

 

窓の外に飛び出したヘレンは駆け寄ってくる薄汚いフードの男に囲まれた。視界に居るのが9人、様子を伺い隠れているのが3人、この3人は汚いフードこそ被っているがその下の服装を見る限り身なりがいい、正体はやはり城の兵士だろうとヘレンは当たりを付ける。このボロを着てる奴は兵士に雇われた賊でおおよそ間違いなさそうだ。


「コイツ毒矢が当たったのにピンピンしてやがる!?」

「運よく服にだけ刺さっただけじゃねぇか?掠っただけで死ぬ毒だぜ」


男たちは『服に刺さっただけだった』で全員納得した、ヘレンに服に血は付いておらず穴も見当たらないので疑問を持つものは居なかったのだ。


ヘレンは確かに致死毒を体内に取り込んだ。

()()()()()生きていない。


「おい、それよりコイツ割といい体してるじゃねぇか!?」

「へへ、持って帰って楽しんだ後始末すりゃいい」

「いいや飼おうぜ、もったいねぇ」


ヘレンは眉を潜めてナイフを握り締め正面に突進する。賊共は下卑た笑い声をあげながら武器を構え迎撃体勢に入った。


ナイフを振り抜く、首筋を狙ったその銀の閃きを賊は軽々避ける。


「おっとぉ!お嬢ちゃんそんなん振り回したら危ないぜぇ!?」

「チッ!」


舌打ちと共に追撃しようとヘレンはもう一歩深く踏み込む。しかし、もう一人の賊が左側から正に文字通りの横槍を入れてくる。


「クソ!」


間一髪で槍を弾くとその隙を突かれてしまう。後ろから剣の柄で頭を殴られてしまった。多対一、薄汚い連中のクセに連携が取れていた。いや、薄汚い連中だからこそ連携に長けているのか。何にせよだ、その一撃は十分なものだったらしい。


「うあ・・・」


短くうめき声を上げ、足元がふらつく。賊はもう、武器を使うことさえしなかった、ヘレンを囲み殴る蹴るを繰り返す。腹部や顔にも容赦のない攻撃に晒される。声を出す間もないほど絶え間なく注がれる暴力。倒れるとこなく、なんとか耐えていたヘレンだったが血反吐を吐きながらついに膝から崩れ落ちてしまった。


その体勢のままくしゃくしゃになった顔で取り囲む賊達を見上げていた。


「お、泣いたぜコイツ!!たまんねぇ・・・!!」


ヘレンが両手を上げナイフを地面に落とした。誰がどう見ても戦意喪失し降伏したのは明らかであった。


「ね、狙いはルミア様ですよね!?身柄は渡します!!ですから私は見逃して下さい・・・お願いします、お願いします・・・」


両目から大粒の涙を流し震える声で懇願する。


「どうか・・・どうか・・・」


先ほどルミアに「大丈夫」だと声をかけた勇ましさは欠片もない。そのヘレンの命乞いはルミアにも聞こえていた。


ドクンと心臓が一回だけ強く脈打った。そうだよね、痛い目にあうのは私だけでいいもんね。ショックだったのは一瞬だけで、その後は自分でも驚くほど冷静だった。


店に居る人は皆外に出ようと必死だしヘレンも外、襲ってきた人たちもまだ入って来ないかな。


人はたくさんいるけど、誰も私のことを見ていないなら独りでいる事と変わらないよね。一筋だけ、涙を流してもいいよね?最後の涙だし、誰にも見られてなければいいよね。


これでいい、この最後でいい。私が居なくなればきっと皆が幸せになれるから。


私は世界の敵、誰かの前で泣いてはいけない。その資格なんてないから。生まれるべきではなかった命が消えるだけ。あるべき形に戻るだけ。


わがままが許されるとしたら、「怖い」と言葉に漏らしてもいいだろうか?


「駄目だ、お前は俺達のオモチャになるんだからよ」

「ギャハハハ!!便器の間違いじゃねぇのか!?」


賊たちがジリジリとヘレンとの距離を縮めていく。


「そんな・・・」


ヘレンが絶望し体を震わせながら視線を地面に投げかけた。


「じゃあ俺はガキを始末するぜ」

「て、テーブルの下に居ます!教えたんです!!み、見逃して・・・」

「駄目だつってんだろ」

「テーブルの下だな?へへへ」


賊の一人が窓に手をかける。賊の気配を察知したルミアは覚悟を決めて泣き止んでいた。お父さんとお母さんにもう一度会いたいと、きっと許されない願いを飲み下して。


そしていよいよ賊の一人が店内に飛び込んできた。

勢いよく飛び込み過ぎたのだろう。テーブルに顔面から着地し前歯を4本空中に躍らせながら縦回転でレジのあるカウンターにこれまた頭から突っ込んでど派手に轟音を響かせた。


カウンターに穴を開けて足だけが見えるその様は犬〇家のあのシーンを連想せざるを得ない。そのシーンを知る者はヘレンを含めこの場には居ないが。


「へ・・・?」


ルミアが状況を飲み込めず恐る恐るテーブル下から出て窓を見る。その視界に飛び込んだのは窓を掴んでいる男の腕とヘレンの背中。男の腕は肘から上が無く血がボタボタ零れている。


「ヘレン・・・」


凄惨な光景なのだがさっきまでの恐怖は粉微塵に吹き飛んだ、ルミアの目に止まったのはヘレンの背中だけだった。ヘレンは私を見捨てて居なかったのだ。


「どう、楽しめた?ヘレン劇場。アタイなかなか演技派でしょ?」


ヘレンはヘラヘラ笑いながら残りの賊を見据えた。

ボコボコにされた顔面には既に傷一つ無くなっていた。笑ってはいるが目の奥には怒りの炎が滾っている。


「こ、こいつ・・・ッ!!」


・・・長い事『ヘレン』で居過ぎた。心が沸き立つような冷静ではいられない感覚。これが本当の『怒り』というものらしい。もう、零面相は名乗るべきではないかもしれない。『ヘレン』の他にも先客の『カテーナ』もいる・・・。心が無い頃にはもう戻れない、戻らない。


ルミア様を傷つけようとしたことが許せない。コイツ等が土下座で命乞いしたところで許さない。


「いつの間にそこまで行った!?」

「見えなかった?おっそ」


ヘレンが賊共を嘲笑しながらナイフの切っ先を向ける。


「かかってこいクソ野郎共、ミンチにしてやる」


瞳に怒りの色を残したどこまでも冷たい目。


「「!?」」


その視線に射抜かれた賊共はゾワリと肌を泡立たせる、恐怖が全身を苛む。まるで相手の手の内に閉じ込められてしまったように錯覚さえ覚えるのだ。ヘレンを前にした賊達は全員が冷や汗を額から垂らし膝を震わせる。


「ちょ、調子に乗るんじゃねぇ!立場ってもんを分からせてやる!!」


敵の一人が半ばやけくそ気味に、飛びかかるようにして剣を上から力任せに振り下ろした。


ヒラリと花びらが舞うような最低限の動きで攻撃を躱し、剣を振り下ろした相手の耳元でそよ風にも攫われてしまそうな声でそっと囁く。


「小指から・・・」

「う!?」


相手が反射的に飛び退きながら剣を横に薙ぐ。

剣を握るその両手に小指が無い。


剣の軌道は後退しつつも的確にヘレンの首筋を狙い澄ましたものだった、しかしヘレンは前へ踏み込みつつグンっと頭を沈める。剣閃が頭上を掠めるが相手が下がっただけ距離を詰めた。

一連の動きは速く激しいものにも関わらず、どこか優雅さを感じさせる。そして同じように耳打ちを繰り返す。


「薬指・・・」


宣言と同時に指が減っていく、賊の思考は恐怖に染まりきるのには十分過ぎた。


「うわぁぁぁああぁ!!」


敵は両手合わせて6本の指で剣を握り、メチャクチャに剣を振り回し始めた。


不規則に放たれる斬撃をヘレンは全て躱していく。

その様は空中で舞う一枚ひとひら花びらを素手で鷲掴みしようとしているようなそんな滑稽さがあった。


「中指・・・」

「人差し指・・・」

「親指・・・」


ポロリ、そんな軽い表現が似合うほどあっさりと剣を振り回していた敵の指が取れたていく。


指と同時に滑り落ちる剣を地面に落ちる前にヘレンが拾って持ち主に返す。握るための指が無いから心臓に刃を握らせてやった。


声をあげることもなく賊が苦悶の表情をしたまま人形のように倒れ込む。その賊が動き出すことはもうない。


ヘレンが10本の指を地面に捨てて血の滴るナイフを舐める。


「・・・質が悪い血ね」


ヘレンの猟奇的な行動、刺された男が垂れ流す液体が血溜まりになっていくのを見てから残りの賊達が口を開いた。


「に、逃げろぉぉ!!バケモンだあぁぁぁあぁ!」


一番よく聞き取れたのはその声だったが全員が全員似たような意味の言葉を口走ると正に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。隠れていた兵士3人も一緒に逃げ出した。


「逃げられると思ってるの?まず、全員の足を貰おうかな・・・」


ヘレンの体からバチバチと電気の音が鳴り手を前にかざした。


「ヘレン止めて!!」


背後にある店のから声が聞こえた聞きなれた声が。


「へ!?え、わ!!ルミア様もしかして観てた!?」


また迂闊なことをしてしまった。あんな光景絶対に教育上よろしくない事間違いなし。しかもルミアに怖がられてしまうだろう。もう楽しくお話はできないかな・・・と覚悟をする。


「ヘレン・・・もう私の為に手を汚さないで」

「!」


 ルミアの瞳はは真っ直ぐヘレンを映している。


違う、これは『ヘレン』を見る目だ、『零面相』を見る目ではない。


「私が怖く・・・無いんですか??」

「うん怖くないよ、だって守ってくれたでしょ?最初見捨てられたと思ってショックだったけど」

「げぇ!まさか聞こえてました!?ヘレン劇場・・・!!」


ルミアがニッと笑いその後に言葉を足した。


「でももう私の為に誰かを傷つけないで、お願い」


その提案はハイそうですかと飲み込めない、また誰かが襲ってくる可能性も十分ある。


「いえ、それはできません先ほどのようなことがあればお守りしなければ」

「・・・じゃあ、あたしが自分の身ぐらいは守れるようになる!!」

「ど、どうやって・・・?」

「ヘレン私に、戦い方教えて!!!」

「はぁ!?ダメです!危ないですよ!!」


ルミアがジト目でヘレンを見る。


「いいんだ?お母さんにヘレンが私を捨てようとしたって言いつけようかな・・・」

「あー!ズルいですよ!!脅しですか!?」


ヘレンが窓に駆け寄ってきて窓に手を掛ける。

まだ窓を握ってる男の腕が邪魔なので引っぺがして後ろにブン投げる。


「・・・わかりましたよ!!コレ差し上げます!!」


 ムスっとした顔でヘレンがナイフを差しだした。


「ありがとう、ヘレン」


ナイフを受け取りルミアが微笑む。まだ血の付いたナイフはルミアの手に吸い付くように馴染んだ。


―― 城内:隠し通路 ――


ろうそくの明かりもない闇の続く通路で預言士は白紙の本を指でなぞりほくそ笑む。


「これでルミアはナイフを肌身離さず持つようになるよぉ・・・全ては・・・神々の身心のままに・・・」

過去編からの脱出を諦めたガチ勢のχダニャンです。

ブックマークが5になった、なぜだ。

みんな不幸になる話なのに。


ヘレンのナイフは人工過密都市エデン跡地にある

魔力の結晶から作られた神器です。

ポンとルミアに渡すとは使命より大切なものを見つけたのでしょうか。


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