第57話 最後の爆炎
青年の最大の過ちは城の中に入らなかったことだろう
「もしもーし!聞こえますか~?返事しないと首を捩じ切っちゃうぞ~☆彡」
大型の鳥魔族の背中で空色の髪の青年が大型の鳥魔族を脅している。
「 !!!」
「はい、聞こえませ~ん残念でした!」
青年の足に切れ味抜群の氷の刃が出来上がる。
「 !!!」
「聞こえねぇつってんだろボケ」
青年が鳥の前に飛び出して足をギロチンの刃のように振り下ろした。
切断した頭部を背後から迫る魔族に向けてオーバーヘッドキックで蹴り飛ばして迎撃。血しぶきを上げ落下しようとする胴体を足場にその場から飛び退く。魔族が四方八方から迫っていたのだ。
空中で靴底に細い氷柱をびっしり生やしてハーピーの顔面に着地する。
「ごめーん、わ・ざ・と!許してくれよな!!」
更に力を込めて氷柱が頭部を貫通したのを確認して次の獲物へと飛びかかる。
ずっとこの調子でかれこれ10分以上は地に足を付けず戦い続けている。何匹かの魔族は青年を無視して城に向かうも反乱軍の弓部隊に射落とされている。
「なんだよ、あの青髪のバケモンは・・・」
テラスで震えながら兵士が零す。反乱軍も異様な戦闘を繰り広げている青年に対し恐怖を感じていた。
着実に魔族は減っていき空の見晴らしは良くなっていく。
その様をみて希望を抱く者もいた。
絶滅まであと数刻。
―― 広場へ続く道 ――
燃え盛る家と魔族と人間の死体に囲まれ3人が立ち尽くしている。ガーダーと応援に駆け付けた兵士一人とマイリアンだ。
「俺は・・・何も守れはしないのか・・・」
「これだけの魔族を殺ったんだ・・・上出来ですよ、元隊長!!へへへ・・・」
肩で息をしながらマイリアンは笑う、まだ余裕はありそうである。
道の奥から背の低い人影が歩いてくる。この状況で焦る様子もない、人間ではないのは明白だ。更にその後ろから大量の人ならざる者の影が見えてくる。やがて炎が人影の正体を暴いた。
「預言士・・・!!」
「ガーダーァァ・・・いい殺意を持ってるじゃないかぇ?ヒヒ」
ガーダーが剣を構え臨戦態勢に入った。預言士は後ろの魔族に動くなとサインを送る。魔族達は預言士に従い行進を止める。
「待てよ!ゲバルト様は預言士様との対話を望んでんだ!!」
「お前さん、何で生きてるのさぁ・・・?」
不思議そうに預言士が首を傾げる。聖書によればゲバルトと共に死んでいる筈。そしてアイツからゲバルトという名が出た以上ゲバルトも生きているということだろう。・・・一体なにがあった?
以前エアを洗脳しようとして失敗したのは聖書に書かれていない事をして手順を省略しようとしたからだ。だが今回は違う、全て聖書に従った行動なのに。
「まぁ、いいかぇ。私自ら正せばいいだけの事さねぇ・・・」
「・・・見ろ、アイツは話をする気な」ドッ
ガーダーの背中に強い衝撃が走る。激痛を伴いながら胸から突き出た槍を見た。
「テメェ何してやがる!?」
背後からガーダーを槍で貫いた兵士にマイリアンが蹴りを入れる。
「オイ!元隊長!!オイ!!」
マイリアンの呼びかけにガーダーが応えることはなく、預言士を睨んだまま静かに呼吸をしている。
「自分の命の危機よりも殺意の方が強い!!本当に稀有な奴さねぇ・・・!!退魔の魔力を宿す人間よりも希少価値が高いよぉ!!!ヒヒヒヒ!!!!」
「なんで隊長を刺したんだあぁん!?」
「ヒヒ!おかしいと思わなかったかいぃ?」
「何がだ!?」
「奇襲だったとはいえ火は町を包むのが随分と早かっただろぉ?」
「?」
「ヒヒ・・・やはりグズだねぇ私の力は洗脳する力さぁ・・・ここの兵士たちに侵略の下ごしらえをさせておいたのさぁ・・・」
「!! ゲバルト様がッ!!」
マイリアンが城へと駆け戻っていく。ゲバルトに何かあったら王に自分が王になれない。守り抜かねばならないのだ。
「ガァーダーァァ・・・お前を私の仲間にしてやるよぉ」
「こ・・・とわ・・・る・・・」
「ヒヒ・・・拒否権はないよぉ」
紫の光がガーターを包む。例の洗脳である。しかし、ガーターが抱えている異常とも言うべき強烈な殺意が稀有な現象を引き起こす。
ガマへの復讐を捨てきれない弱い心は紫の光の支配を許した。そして、復讐を果たすまで死なないという呪詛のような意志は予言士の放った光を命の糧に変換し始めたのだ。
「うが・・・ッあぁ!!・・ぅ・・!!ぐぅッ!!あ・・・・・・」
そして、その過程が終了する前にガーターは苦しみもがきながら息を引き取った。
「後で迎えに来るよぉ、ガーターァァ・・・」
―― 城内 ――
なにが起きた?いや、この表現は適切ではない。なにが起きている?
「やめろ!やめてくれ!!」
年端もいかない幼女に斧を振り下ろす兵士の前に立ち塞がって、ボクちんはそう叫んだ。
「ゲバルト様ぁ!!」
斧が届くより先にマイリアンが王に刃を向ける不届き者を突き刺した。
「マイリアン!助かった!!一部の兵士が急に無抵抗な者を襲い始めたんだ!!皆を助けてくれ!!」
「アイサー!任せてください!!」
マイリアンは暴走している兵士を手際よく排除していく、王座に胸をときめかせながら。マイリアンとは違いゲバルトの手は恐怖に震えている。いや、これも適切な表現ではない。全身が強ばり震えている。汗をびっしりかいて、その場から全てを置いて逃げ出したいと願っている。
「ぎゃああああぁぁぁあああ!!!!」
悲鳴と爆音が同時にエントランスに木霊した。その爆発にマイリアンが巻き込まれたのをゲバルトは目撃してしまった。
「ヒヒ、なんだぃ・・・あっさり吹き飛んじまったねぇ。もしやと思ったが・・・やはり、ただのグズだったようだねぇ」
「預言士!!もう侵攻をやめてくれ!!頼む!!助けてくれ!!国が欲しいならお前にやる!!だから・・・だからこれ以上民を巻き込まないでくれ!!!」
ゲバルトは必死に叫んだ。声の限り。国民の命を助けてくれと懇願した。
「ゲバルト・・・随分勇敢になったじゃないかぇ?お前はそんな奴じゃなかっただろぉ?それとなんでまだ生きてるのさぁ?」
「そんなことはどうでもいいんだ!!こんなバカげたことはもう・・・!」
「ヒ!バカはどっちだいぃ?」
預言士は笑いながらのそりのそりとゲバルトに歩み寄っていく。逃げ出したい気持ちを無理やり抑え込んだ、ゲバルトは腰を抜かしてしまいその場に尻餅をついて立てなくなってしまった。
「自分の妹を酷な目に遭わせてきたのはお前だよぉ・・・?自分の両親を殺したのもお前ぇ!!イヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!愉快だねぇ!!『笑いが止まらんわ』!この国は亡びるのさぁ!運命は決まっている!!」
預言士の顏がズイとゲバルトの前に迫る。
「無能でグズな役立たずはさっさと死んじまいなぁ!!」
「・・・そうだボクちんは救いようのないグズだ、だから死ぬべきなんだ・・・」
「今更気が付いても手遅れだけどねぇ!!もう誰も助かりゃしないさねぇ!!」
「ボクちんはお前と一緒に生きてきた・・・だから、一緒に行こう」
「はぶ!!?」
ゲバルトが赤い宝石を握りしめている。それを理解したのは宝石を口に突っ込まれた直後だった。
「ずっと一緒に居たんだ!!地獄の底まで付き合ってくれ!!」
「やべろぉぉぉぉぉ!!!!!」
ゲバルトが預言士の下あごを拳で突き上げ宝石を無理やり咀嚼させた。
ルミアに渡したティアラの宝石の部分は預言士が一番魔力を多量に込めた部分だった。
宝石の部分だけでゲバルトと預言士の体を木端微塵に吹き飛ばすには充分過ぎた。
運命は必然。
天使は聖書を抱き
神の懐へ帰還を果たさん。
次回 最終話 燃え尽きる




