第54話 奮い立つ風前の火
どう思うかね?
どうと言われましても・・・
ただの転生者の記録ですよね?
ああ、そうともただの記録だよ
でも人数が少なすぎやしないかね?
! 言われてみれば・・・
しかも授けた力の一覧を見てみたまえ
地味なものばかりですね、身体機能が
やや発達してる程度のものが大半・・・
とてもマリアを支配する気があるようには
そう、そして他の神の記録もまた
同じようなものだ
なぜですか?
どの神も転生者を利用してマリアを
手中に収めようと躍起になっているのに
コレは儂の推察だが送り込んだ者の存在が
無かったことにされている
どういうことです?
まさに神隠しだよ、過剰な力を持つ者を
送り込むと存在を抹消される
我々神の記憶からさえも
事実改変・・・ではこちらも
同じ力を与えた転生者を送り込んでみては?
とうの昔に送っているはずだよ
何人・・・いや何百人かもしれん
なんせ我らの記憶も剥がされているだろうからな
では神が直接マリアに赴くしかないのでは?
そんな己の身を危険に晒すことはせんよ
少しおだててやるだけでその気になってくれる
転生者なぞ腐る程いる
まあそうですね
手違いとか、お詫びとか言えば大多数はすんなり
受け入れますもんね
殆どが体のいい嘘ですが
神だからとて根から善良な存在ではないからな
善良な存在が戦争などせんだろう?
人間の勝手なイメージだ
我らが全知全能の神ゼウスを見てみろ、浮気三昧ではないか
そして妻のヘラはそのたび浮気相手に
苛烈な罰を下している
間違っても神は清く正しいだけではない
人間はいつも神々の闘争に利用される道具だ
・・・マリアにはどんな神がいるのでしょうか?
さあ、わからんよ
・・・儂はあの星を諦める
ゼウスにこのことを知らせますか?
いや、必要ない
この程度のことには気が付いているだろう
諦めはしないよ、神なんて人以上に欲深いものだからね
「西門も魔族軍に封鎖されて・・・ぐぁ!!」
反乱軍は自主的に民間人の避難及び護衛に当たっていた。
国の外へ逃れる道を確保するため、ガーターを筆頭とした反乱軍たちが町中で魔族との戦闘を繰り広げている。
町の外へ出る道が塞がれていることをガーターに知らせた反乱軍の一人がガーゴイルに足を斬りつけられて転倒した。近くの反乱軍がガーゴイルを囲み四方から剣や槍を突き立て、負傷した仲間を助ける。
「ベイル・・・!!」
ガーターが斬られた兵の名前を呼び駆けつけようとする。
「行って下さい!!ワイバーンも迫ってます!貴方が護るのは兵士じゃないでしょう!!」
迫り来る魔族の大群を前にして移動に支障を来す者を庇う余裕はない。それは誰もがわかっていた。
「!!・・・ッ・・・撤退だ!!引き返すぞ!!」
苦楽を共にした仲間を見捨てる。ベイル本人の決断にせよ、辛い決断に決まっている。
だが迷う時間さえ与えられない。切り捨てるものは切り捨てなければ一瞬で全てを失うことになるのだ。ルミアと復讐を天秤にかけた時のような半端な選択を繰り返すわけにはいかなかった。
「何処に行けば!?」
取り乱した様子で他の反乱軍が叫んでいる。ここが一か八かの最後の希望だったのだ。他の門は全て塞がれていた。
「城へ・・・避難する!!籠城戦に持ち込むぞ・・・!」
「でも城の門はゲバルトの兵士たちにより閉鎖されていると!!」
「・・・生き残る可能性があるのはもうそこしかない・・・!門は我々で抉じ開けるまで・・・!!」
ガーターの指示に従い反乱軍は城の方へと引き返してゆく。負傷した仲間を置き去りにして。
「・・・すまない」
ガーターの消えそうな声はベイルに届くはずもなかった。
「くそ、ここまでか・・・」
取り残されたベイルは辺りを見渡す。人の死体、魔族の死体。
散乱する武器や瓦礫。燃え盛る家。まさに絵にかいたような地獄絵図・・・いや、この惨状は絵で表現できるものではない
だろう。女子供みな平等にはらわたを体外に撒き散らして絶命している。その全てが目を見開き苦悶に満ちた表情だった。
四肢全てを奪われている死体もある。この世の終わりと表現するのに最適の状況だ。
ゴブリンがベイルに駆け寄る。反乱軍の死体から奪ったであろう剣を持って。
「タダで死んでたまるか・・・!!」
ベイル剣を握る手に力を入れ直し無理をして素早く立ち上がる。
「くっ!!」
負傷した足を無理に動かしたせいで傷口が血を吐き出す。だがそんな事を気にかけている場合ではない。どうせ死ぬんだ、一秒でも長く仲間が逃げる時間を稼いでやる。
「オラァ!!」
ゴブリンの剣撃ごと巻き込むように剣を振り下ろす。
ゴブリンの剣撃で多少ベイルの剣の軌道はずれたが問題なくゴブリンを切り裂く。再生する前に剣を6回突き立て止めを刺す。肩で息をしながら視線を上に戻すと蝙蝠に近い容姿をした魔族が数匹接近してきている。
・・・もう限界だ。魔族襲撃から数時間戦いっぱなしだった。
俺はよくやった方だ・・・・・・・
・・・・・・・・・いやだ、死にたくない。まだ生きたい。
「なめるなぁぁぁ!!」
蝙蝠の魔族に剣を振り回す。狙って振っているが軸足が使い物にならない。軽々と蝙蝠は空を舞い剣閃の外へ逃れる。
「うおぉぉおおぉ!!」
蝙蝠は待っている、疲労で剣が鈍るタイミングを。
程なくして蝙蝠が待っていた時がきた、剣速が鈍ったのだ。
すかさず襲いかかってきた蝙蝠たちはバラバラにされて石畳に散らばった。誰かに助けられた、ベイルが顔を上げる。
「親父・・・なんでここに?」
口の端の丸まった髭を軽く引っ張りながらレイピアを構える男が居た。
「ベイル・・・まだ、やれそうか?」
男の声は酷く潰れていて声も小さく非常に聞き取りずらい。
「親父はもう戦える体じゃないだろッ!!服屋にでも引っ込んでてくれ!!!」
服屋の店主は息子の言葉に対して微笑むだけだった。
斧を持ったガーゴイルが二体迫ってきている。その後ろにはワイバーンと下級魔族が数えきれない程控えている。服屋の店主はガーゴイルの前でピタリと動きを止める。
二体のガーゴイルはお互いに目配せし店主を左右から挟むように同時に飛びかかる。
「ふ!」
店主は軽く息を吐きレイピアを逆手に握り、右のガーゴイルの腕と体を貫き攻撃を封じる。
そして、そのままガーゴイルの体を反対のガーゴイルの方へ移動させた。振り下ろされた斧は店主の目論見通りに盾にしたガーゴイルの体を切り裂く。
「!?」
味方を斬り動揺したガーゴイルの隙を付き喉をレイピアで突く。対人間ならこれで済むが魔族故に追撃が必要になる。空いた手でレイピアの切っ先を握りバルブのようにレイピアを回し目いっぱいの殺意を込めて首を捩じ切った。
「フーッ・・・フー・・・ガフっ!」
店主の息が上がり血を吐いた。
「親父っ!無理だ!!逃げろって!!」
「どうせもう長く無い・・・最後はお前の隣がいい」
「畜生・・・」
ワイバーンがゆっくり迫ってくる。下級魔族がワイバーンを追い抜きこちらに来る。戦いにはならないだろう、始まるのは一方的な蹂躙だ。
「待て」
魔族が進行を止めた。声を出したのはワイバーンだった。
「人間よ、何故逃げぬ?そこの髭よ、貴様は体が病に蝕まれているのではないか?何故そんな状態で戦う?」
「昨日・・・懐かしい夢を見た、スラムに向かう少女の夢を。
意志さえあれば守れるものがあると教えられた。だから私は今ここに立っている」
「その決意、敵にしておくには惜しい、我らと共に来ないか?卑怯な人間に組することはない、後ろの人間も助けよう」
「親父!騙されるな!!」
ベイルが叫ぶ。
「卑怯とは?我々が何かしたと?」
苦虫を嚙み潰したように顔をしかめたワイバーンが「ルミアと言う女が我らの魔王を裏切り暗殺した」と辛そうに言う。
「ゲホッ!!・・・知らない名だ」
「そうか、存在を隠されてたのは本当らしいな。紫のドレスにソバカス顏が特徴の若い娘だ、差し出せば我らも侵攻を止めてもいい」
「・・・ルミア、光か。フ、あの子によく似合ういい名前だ」
「心当たりがありそうだな」
「ああ、益々ここを退けなくなった」
青い顏で店主はレイピアを構えた。ガーゴイル相手に無理な扱いをしたため刀身は僅かではあるが歪んでいる。
「親父、付き合うよ地獄の底まで」
ベイルが店主の隣に立つ。
「・・・ふむ、交渉決裂か。実に残念だよ、だがその覚悟に免じて私が直々に相手してやろう。こい、勇敢なる者どもよ」
ワイバーンは下級魔族に目配せした。手を出すなという事らしい。死にかけのたった2人、勝ち目なんてない。だけど引けない理由がある。
彼らもまた選びし勇者か。
全て、灰になる




