51話 旅立ち
失う、全てを。
消える、大切な者が。
希望は滅びた。
運命に逆らおうなどと思わぬことだ。
???「運命に抗うな?寝言は寝て言えクソッタレ」
「お前のせいで僕のルミアが!許さない!絶対に許さないぞ!!!」
ヲォルトが発狂したかのように滅茶苦茶な攻撃を連発する。
癇癪を起こして辺りの物を振り回す子供のようだ。
冷静になれば隙だらけなのだが顔から煙を吹き横たわるルミアの存在がルシファーの冷静さを奪う。
「うっ!」
無理に反撃に出ようとしたルシファーは腕を深く斬られてしまう。切断されなかった分まだましだろう。ルシファーは悪魔であり魔族ではない。切断されれば最後再生しない。
「クソ・・・」
腕の傷を抑えつつも視界の端には常にルミアを捉え続けている。しかしルミアが動く気配はない。ルシファーは後ろに距離を取り光りの魔方陣を、展開させる。
「グレイプニルの抱擁!!」
魔方陣から光の紐が複数飛び出しヲォルトに向かっていく。
「こんなの当たるかぁ!!!」
ヲォルトは小指程の太さの光の紐を剣で次々と叩き落としていく。
ドラゴンスケイルの切れ味はそれほど良くない。切断系統の神器の中では最低クラスだ。しかし、この神器は装備した者の身体能力を限界以上に強化する。ルミアが先ほど初陣であるにも関わらず魔族を蹂躙出来ていたのもドラゴンスケイルの影響を受けていたからだ。
「うおあぁぁああぁぁああ!!!」
ヲォルトは四方八方から迫り来る紐を全て叩き落としている。
一本でも当たったら身動きが封じられる事をヲォルトは頭ではなくもっと原始的な、本能に近い部分で感じ取っている。
だから全ての意識を紐に集中させどうにか対応しているのだ、その場から動く余裕はない。
ヲォルトを足止めできればとりあえずは十分。ルミアの元に一直線に向かう。
「ルミア!おい!!目を開けろアミーゴ!!」
先ほどのヲォルトと同じようにルミアを呼び体を揺する。やはり反応はない。
「大丈夫だ、安心しろ・・・ルミア、お守りがあっただろ、まだ間に合う」
ルシファーとルミアを囲むように光の魔法陣が展開する。
「・・・我の命をお前に分けよう」
温かい光がルミアを包む。
「あ゛ぁ゛・・・・・・・」
ルミアの黒い口が地獄から這い出てきたような人の物かも分からぬような声を漏らす。
「ルミア・・・息を吹き返したか・・・」
「それ以上・・・僕のルミアに・・・触れるなぁッ!!!」
光の外側からドラゴンスケイルがルシファーの背中に突き立てられた。
「ガッ・・・!?お前ッ!!」
まさかグレイプニルを防ぎきるとは・・・だがこれで良かった、あのままこの人間を相手にしていたらルミアの回復は間に合わなかっただろう。
「それは僕のだ!僕の物なんだ!!離れろよ化け物!!」
突き立てた剣をより深く刺す。切っ先はルシファーの腹部から顔を覗かせた。
「うぐっ・・・話を聞け現勇者ッ!!ルミアはまだ助かる・・・!!!邪魔を・・・するな!!」
「何!?本当か!??」
ヲォルトの目つきが変わり剣を雑に引き抜く。ヲォルトもまた藁にもすがる思いだ。
ルシファーから流れ出る血がルミアの紫のドレスに染みていく。
「・・・ッッ!・・・フー・・・フー・・・ルミアの命はもはや風前の灯だ・・・このままでは助からぬ・・・」
「どうすればいい!?」
「よい・・・全て我がやる・・・今、我の生命力をルミアの体に封じている」
「?」
「我の命を・・・ルミアに移しているのだ。お前に攻撃されなければ・・・我の命だけで足りたのだが・・・」
すまんな、せっかく渡したのに。我の待ち望んだ二代目の勇者よせめてお前は、生きるのだ。
ルミアの背中のドラゴンスケイルがルミアの体内に溶け込んでいく。神器の力を生命力に置換させる、これしか手立てがない。
「これで・・・辛うじてだが、一命は取り・・・留めたは・・ず・・・だ」
その言葉を待っていたかのようにルミアが浅い呼吸を始める。
今にも消えてしまいそうなほどか弱い、しかし確かに息を吹き返したのだ。
「よかったル「ルミア!!!」
ヲォルトがルシファーを突き飛ばしルミアの上半身を抱き起こす。
「ぅぐぁッ!!」
ルシファーはもう立ち上がる力さえ残っていなかった。
「・・・現、勇者・よ・・・この国、から、はな・・れ、ろ・・」
「なんでだ!ルミアをちゃんと治療しないと!!」
「ゲバ、ルトと・・・イロウ、ゲフッ!ヒュー、ヒュー・・・予言士は、ルミアを、殺そうと・・・して、いる・・・」
「馬鹿なことを言うなッ!!騙されないぞ!!」
「さっきの・・・爆発は、予言士の仕業・・・頼む・・ルミアの為・・なんだ・・・我を、信、じろ・・・」
「・・・そうか」
ヲォルトは半信半疑、いや、半分も信じちゃいないが万が一事実であった場合のことを恐れた。ここにきてようやくルシファーの言葉を受け入れたのである。
「首の、お守りは・・外す、な・・・治癒の、助けに、なる・・・」
「・・・わかった行きましょうルミア様」
ヲォルトはルミアを抱き上げ歩きだす。ルミアの手からナイフが滑り落ちたがヲォルトは気がつかなかった。
ルミアの命を救ったルシファーに一度も目を向けることなく木々の向こうに消えていった。
「ルミア様・・・大丈夫ですか?」
ルミアの目が開く。
焦げた顔、濁った瞳。
控えめに言って不気味だ。
「ね・・・ぇ?あなたは・・・誰?」
「ルミア様・・・?」
「ねぇ・・わたしは、だれ・・・?」
「!?ルミア様、もしや記憶が・・・?」
「いたいよ・・・くるしい、よ・・・なにも、わからない・・・こわい、よぉ・・・あなたは、なに?」
ヲォルトは歩みを止めルミアを木の根元に座らせた。
「僕はヲォルト、ルミアさ・・・ルミアの恋人だよ僕達は両想いだったんだ」
ヲォルトの言葉はルミアの耳に届いていない。それどころか己の言葉さえ聞こえない。爆発で鼓膜が破れているのである。
しかしヲォルトがそんな事に気が付くはずもない。
ルミアの顏にヲォルトの顏が迫りルミアの視界全てを覆った。
ルミアの焦げた唇がひび割れ赤い雫が滲む。痛くても拒むだけの力さえルミアには残っていなかった。
ヲォルトの口腔に人が焼けた独特の悪臭と血液の鉄臭さが広がる。嗚咽しそうになるがそれでも満足だった。
「あれ!?どうしたの!?こんな所に人間が!?大丈夫!?あれ・・・その子の服・・・ルミア?」
背後から聞こえた声にヲォルトは振り返った。
「・・・」
そこに居たのは蜘蛛の魔族だった。
「ルミア!?大丈夫!?僕だよ!ハエトルだよ!!何があったの!?ねぇ君も人間だよね!?ね!?何があったの!?」
「僕とルミアはこれから旅に出る、二人きりで。誰にも邪魔はさせない」
「待ってよ!ルミアがそんな状態じゃ・・・」
「うるさいぞ、虫けら如きが」
剣閃がハエトルの足を奪う。
「うわあ痛い!!何するの!?足6本になっちゃった!僕は・・・」
「話を聞くつもりはない!!」
ヲォルトは再び剣を振るう。
「なんで!?なんで!?」
ヲォルトの剣戟を今度はジャンプで躱し、そのまま近くの木に飛び移り上に登り身を隠す。
「降りてこい!!殺してやるぞ!!」
「・・・いいよ、そっちがその気なら僕だって容赦しないから」
「こっちのセリフだッ!!」
身構える前にハエトルの体がヲォルトの脇腹に直撃する。
砲弾でも当たったかのような衝撃で足が地面を離れた。
「!?」
吹き飛ばされた事に気が付いたころには体は木に打ち付けられ呻き声をあげていた。
切断したハエトルの足は既に生えている。
「今わかったよ、君、ルミアが言ってた、ルミアを苦しめてる奴なんでしょ?」
「ウソだ・・・なんて速さ・・・」
剣を杖代わりにして体を起こす。
「ルミアは今日ルシファーと出かけたんだ、君・・・ルシファーに手を出したの?」
無機質で冷徹な4つ目がヲォルトに突き刺さる。ヲォルトの背筋を冷や汗が伝う。否定しないと、そうして油断を誘ってから不意を突いて一気に倒そう。
「い「答えなくていいよ、君みたいな奴は嘘をつくもん」
ヲォルトの声を遮ったハエトルの体は今、ヲォルトの目前に迫っていた。
なんだコイツの速度は!?
咄嗟に手をクロスさせハエトルの突進を耐えるが衝撃にヲォルトの全身の骨が軋む。
「グゥゥッ!?」
ヲォルトの視界に既にハエトルはいない。
「ど
ヲォルトの体がふわりと上に持ち上がる。
「!?」
腕が何かに引っ張られている。それを理解した時には既に体が
樹上にまで放り投げられていた。
「君が僕の突進を防いだ時に糸を付けたんだ、見えた?」
下からジャンプで追って来たハエトルが
問うと同時にヲォルトの足に
牙を突き立てる。
「ぎゃぁぁあぁあぁぁああぁ!!!!」
そのまま牙を離さず空中で激しく回転する。
そしてその勢いで地面にヲォルトをハンマーのように振り下ろした。
「ウギャアアァアアァアア!!うあぁ!!ひっ!!ひぃっぃい・・・!!ああ・・っく」
衝撃の強さと痛みで呼吸が上手くできない。
「ルシファーは僕なんかよりずっと強いよ。もし君がルシファーに勝ったんだったら思いあがらないほうがいい、ルシファーは人に優し過ぎるんだ。僕も人は好きだけどルシファーほど心は広くないんだよ」
ハエトルの足に力が入るのが分かった。また突っ込んでくる。
軌道がわかってるならいくら早くとも対処のしようはある。
真っ二つにしてやる・・・!!痛めつけられた体を無理して奮い立たせる。
「ハァ・・・ハァ・・・フーッ!!」
ハエトルを睨み剣を腰より下に構える。
いつでも逆袈裟を仕掛けられる構えだ。
来い!絶対に仕留めてやる!!
ハエトルが動いた。真っ直ぐな軌道、捉えた、ここだ!!!
剣を左下から右上に振り上げた。タイミングは完璧でハエトルを確実に切れたはずだった。
しかし剣は空を切っただけで終わった。
僅かに影の動きを見たヲォルトは
何が起きたのか分っていた。
こちらに真っ直ぐ向かってくる途中急激に横に逸れて姿を消したのだ。
ヲォルトの背中に鋭い痛みが走る。
「うげぇ!!」
ハエトルの硬い足で背中を引っ掻かれたのである。
背中の傷から血が流れ出ているのが分かる。大怪我とまでは
いかないだろうがそこそこ深い傷にはなっているだろう。
振り向きざまに剣を振るがそんな闇雲な攻撃がハエトルを
捉えられるはずもない。
「どうやって背後に回り込んだ!?」
「突進の途中で木に糸を飛ばして軌道を無理やり変えたんだ」
つまりハエトルの攻撃はどこから来るのか想像がつかないという事だ。いや想像はできるのだろうが対処しきるのは難しいだろう。
無理だ、こいつには勝てない・・・ヲォルトが絶望する。
勇者の剣を手にしてから初めて勝てない敵に出会った。
手足がガタガタ震えだし腰を抜かし尻もちをついた。
ヲォルトの感情が一気に恐怖に傾いたのだ。
「来るな!来るなァ!!」
「・・・君ほどその剣が相応しくない奴もそうそう居ないだろうね」
ハエトルの殺気がヲォルトの体を一層震え上がらせる。
「嫌だあぁぁあぁあ!!」
「うッ!?」
止めを刺そうとしたハエトルが火球をぶつけられて吹き飛ばされる。
「ヒヒッ!!」
「よ、預言士様・・・!助かった・・・」
ハエトルが起き上がる。
「イロウ・・・君はルシファーを裏切ったね」
「ヒヒ、人聞きが悪いねぇ・・・初めから利用してたのさぁ!!青龍教もルシファーもぉ!全て私の掌の上なのさァ!!!」
「もういい、喋らないで」
「待ちなぁ、ヒヒッ・・・虫の王・・・アンタと戦う気はない」
「関係ないよ」
「ヲォルトぉ!死にたくないならルミアを人質にしなぁ!!」
「なんてことを!?」
ヲォルトは四つん這いでルミアの元に駆けていく。
「動くな、虫の王ぉ・・・ルミアの首が飛ぶよぉ?」
「卑怯者・・・」
「ヒヒッ!賢いと言っておくれよぉ、抵抗もしたらダメさねぇ・・・わかるだろぅ?」
「・・・」
イロウが直径3メートルはあろう火球を作る。
ハエトルがルミアの方に視線を傾ける。
そこには震えた手で愚者が勇者の首元に刃物を
当てている。
「ヒヒッ!!」
イロウが火球を投げた。
「え?」
迫る火球を前にヲォルトの視界がスローモーションのように遅くなる。無だ。なんの感情も湧かない。頭が理解を拒んでいる。
「お前の速度なら火球を避けてルミアを救うのぐらい容易いだろぉ?だったらルミアをもっと焼いちまうのがいいのさぁ」
「ルミア!!!!」
ハエトルはルミアの前に飛び出した。
今ハエトルの速度でルミアを動かせばきっと死んでしまう。
これしか選択肢はなかった。ヲォルトと違って自分は助かるという選択は脳裏によぎりさえしなかった。
「や・・だ・・・・・だめ・・・・」
ルミアの声は爆音にかき消されそのまま気を失った。
「なにしてるの・・・?早くルミアを・・・連れて逃げてよ・・・」
ハエトルはまだルミアの前に居る。正面の敵を見据えて、後ろにいる敵にルミアを連れて逃げるように諭す。
「・・・あ」
「早く!!次が来る!!!」
「あ、ああ!!」
ヲォルトがルミアを抱き上げる。
「この先、ルミアを苦しめたら必ず僕が君を殺しに行く、覚えておいて」
自分は付いていけない。
だって。
「ヒヒッ!随分足が取れちまってるねぇ
大丈夫かぇ?」
「平気だよ、足・・・まだ3本あるし・・・!」
イロウはこの後、ルミアも手にかける気かもしれない、だったら命の限り立ち塞がるよ。
「呆れる位バカで助かるよぉ・・・おかげで仕事が楽に済むけどねぇ・・・」
「ルミアを助けるのは・・・当たり前なんだ」
バランスの悪い3本でそれでもなお力強く立つ。
「僕達はマブアミーゴだからねッ!!」
「・・・虫の王、アンタはイシェドの書に居た方が幸せだったじゃないかえ?まぁ、どうでもいいことだけどねぇ・・・」
走り去るヲォルトの背後から何回も何回も爆音と閃光がやって来てはヲォルトを追い抜いていく。
夢中で走るうちに音も光も弱くなっていった。
それでも走り息も絶え絶えになりながらやがて樹海を出る事ができた。
追手はない。逃げ延びることができたのだ。息を整え自分の腕の中のルミアを見る。状態の割に安らかに呼吸をしている。
さっきよりも、呼吸は深くなっている。ヲォルトは気が付く筈もないが。
「僕のルミア・・・もう、離れないから」
これがルミアの旅立ち。記憶も思い出も故郷も、文字通り全てを失った。ヘレンとの思い出のナイフもないルシファーから貰った勇者の剣もない。
ただ唯一残ったのは鱗のお守り。過酷な旅の中、彼女はこのお守りだけを心の拠り所に自分の記憶を追い求めてゆくことになるのである。
これ以降この物語にルミアは登場しません。
ルミア&ヲォルト 生存確定。
現在の生存確定者
???・???・??
ヘレン
ルミア・エア・ペンナ
ヲォルト・チープ・ダクト・パチン
残り生存枠 1
因みにこの生存確定はあくまで魔王の花の物語の中での話なので
今後あっさり死ぬやつもいるかもしれません。
エピローグを書く予定ですがこのエピローグは魔王の花の物語の外の扱いです。
つまり確定枠の一人が死ぬ。
・・・といっても世界線が分かれてるので
生存ルートも死亡ルートもある。
同日:ノアの結界内、クビクニにて
「もうすぐ頂上ね~、コンちゃんは落ちないようにしっかり掴っててね~」
「ハーイ!」
ウツケは僅かな足場を器用にスイスイ上がっていく。日が沈み辺りは大分暗い
流石の動体視力だ。コンは楽しみで目がらんらんと輝いている。
「おっとと・・・」
最後の一歩で足場がガラガラと崩れたが難無く安全な場所に飛び移る。
「着いたね!後はとーちゃん待ち!」
「まったくタワケはだらしないわねぇ」
一方崖の下では伸びていたタワケが起き上がった。
「いってぇ・・・なんで俺ばっか・・・いつもそうだ・・・ったく」ブツブツブツブツブツ・・・・
いつもより多く愚痴をこぼしております、許してあげて下さい。
それぐらいの権利は多分ある。
ふう、とため息をつく。
ま、もうふたりは登頂してるだろ、全力で行くか。
コンとウツケのペースに合わせていただけでこんな崖本気を出せば数分で
登り切れるしな。
一歩踏み出すと物凄いスピードで崖を登り始める。
瞬時に最適な足場を見極めてかつ最短距離最高速で駆け上がっていく。
単純な動体視力ならウツケより上なのだ。
「ふ、俺が本気を出せばこ」
ゴガス!!!
「キャイン!!!」
落石がタワケの脳天に直撃した。
「はらほろひれはれ・・・あ~~れ~~~・・・」
再びタワケが重力と引力に愛されて落ちていく。
ウツケとタワケはこの時気が付かなかった。
ルシファーの魂を用いたこの尻尾の形状をした岩山の
一部が崩れた意味に。




