第35話 決別と「誰か殺して」
ルミアがいきなりぶっ飛んだ?
作品キーワードにちゃんと『狂気』って入ってますぜ。
前話の後書きで説明した通り素質はあったんです。
そして前話から10年過ぎました。
自身の狂気に気がつき、それを拒否しながら生きてきた。
気が付けば10年もの歳月が過ぎ去っていた。私も兄のゲバルトも19歳になった。
兄は15歳の時正式に王座に就き、権力を振りまくようになった。
税率を上げて国民から金品を巻き上げ、私服を肥し、反対するもの達を城から追い出したり処刑したりして徹底的に敵を外に追い出していった。
そしてついに去年奴隷制度の復活を果たした。それまでに起きた暴動は全て勇者率いる軍隊により壊滅させられ国民は失意と絶望の中現状を受け入れ始めている。
現状喜んでいるのは貴族や兵士、権力を持っている者だけだった。
・・・10年も経てばお父さんの、エア国王の遺志など形骸化・・・風化にまで至っている。
当時預言士を信じエアに石を投げた者達も今やお父さんが健在だった頃の時代に焦がれるばかり。正直いい気味としか思わない。
私の生活に大きな変化はなく、城を抜け出して町に遊びに行く日々だ。そういえば兄の私に対する攻撃は暴力ではなくネグレクトに変わった。
私の食事が出ないことが多いし、話しかければ無視される。まぁ、もともと話はしないけど。
「ZZZ・・・・zzz・zZZzzZzZZzz」
「はぁ・・・」
机に突っ伏して寝息をたてる甲冑を見てため息が出る。閑古鳥の鳴く食事処に来て料理を待っている間に寝てしまった。
数年ぶりの再開なのに。この人の睡眠はなんとかならないものなの?
「あ!ルミア様!!」
背後から嫌な声がする。
あぁ、もう頭が痛い。
「あ、ヲォルト久しぶり!元気だった?」
「ああ!聞いてよ!君の暗殺を企ててる集団を壊滅させてきたよ!!」
「・・・!」
(ダメ、ガーダー、反応しないでそのまま寝てて)
ガーダーが起きたのを察しヲォルトに気が付かれないようにサインを送る。
「・・・」
よし、通じた。
「あれ?その寝てる人って、まさか」
「違うよ、人違い。私の護衛。ほら、ちょっと鎧の形違うでしょ?」
「そう言われれば少し違う気が・・・」
「でしょ?それよりさっきの話、場所は何処だったの?」
呼吸するように嘘を吐き絡めとるように話を切り替えた。
それだけで簡単に勇者は騙される。単純で助かる、これでゲバルトの言いなりじゃなければ味方にできるのに。
「それが城のすぐ近くの住宅街だったよ、大胆だよね」
「!」
「どうしたの?嬉しくないかい?」
ヲォルトの問いを無視して問い返す。
「本当に私の事狙ってる人達だったの?」
「間違いないさ!ゲバルト様が言ってたんだ」
「・・・そう、ありがとう。じゃあバイバイ」
「ねぇ!せっかくな「バイバイ」
「・・・うん、じゃあまた!」
ヲォルトが店を出るとガーダーが体を起こした。テーブルの上の握り拳はプルプル震えている。
「・・・やられたね」
「もう町中では・・・無理か?」
「・・・私じゃ力になれない、ゴメンね」
ガーダーはゲバルトに反発して城を追い出された。
現在は反乱軍を結成して各地にアジトを構えている。
そのアジトの一つを勇者に潰されたのだ。
エアに心酔していた貴族の家でそこにはいつか起こる反乱に備え、反乱軍の武器や薬、食料などが蓄えられていた。勿論全てをそこに集めていた訳ではないが。
ガーダーの事も快く受け入れてくれたらしい。
・・・貴族であればゲバルトに疑われることはないはずだったし、彼も十分過ぎるほど慎重に事を運んでいた。バレる方が不自然な位に。
「預言士の・・・能力は本物ということか・・・?」
だとしたら・・・ルミアはどうなる?本当に預言通りにこの子は破滅を呼び込む存在なのか・・・?
ガーダーが私の顏をじっと見る。葛藤しているみたい。
・・・嫌だなこの目は。ガーダーが悪いわけじゃないけど、あの召使いを思い出して嫌だ。
ガーダーからこの目を向けられるとは思わなかった。これは私の酷く心を揺さぶった。彼も相当追い詰められている。そう分かっていても心苦しい。
「大丈夫?」
「ああ・・・」
「・・・私邪魔だよね、帰るよ」
ガーダーは頭を抱えたまま返事をしなかった。
今日は数年ぶりに会えることになったのに嫌な日になっちゃったな。
この世界に私は一人だ。
この人ゴミの中に誰も人が居ない。
こんな命なら生まれたくなかった。
私が居なければ、もしそうだったら世界はきっとこんなに歪んでない。あぁ、どれだけ時間が経っても人を刺した感覚が忘れられない。寂しさを感じれば感じるほど強く、強く、その感覚が濃く蘇る。
私が壊れたのはいつから?私は治る?それとももっと壊れるだけ?
誰も居ないところが欲しい。
・・・そうだ、樹海には魔族が多くて人がいないらしい。
魔族は見たことないけど、刺しても大丈夫だよね?
もう限界なの。抑えられる気がしないの。何かを刺して壊したい。肉から刃を引き抜くあの快楽を・・・もう一度。あと一回だけでいい。10年も我慢したよ?もういいよね。
町の出口はどこ?
ちゃんと調べていこう。
樹海の位置も。
私は明日、樹海へ行く。
半分死ねたらいいなって
期待しながら。
お願い
これ以上壊れる前に誰か
誰もいない所で
私 を 殺 し て
あ~あ、壊れちゃった。
大切な物は同時に弱点でもあります。
最後の一押しなんて些細な物なのかもしれませんねぇ。
ルミアはガーダーが追放されてから心を許せる相手は現れず
何年も孤独でした。自分で嫌われようとしてましたからね。
大切な人も作らないようにしていました。
きっと死んだりしてしまうと思っているからね。
だから『大切になってしまった』ガーダーと
久ぶりに会えるのをとてもとても楽しみにしていました。
その楽しみは勇者の報告によって全て壊され
追い詰められたガーダーが悪気もなく、ルミアが壊れる最後の一押しをしました。
・・・第一話、第二話でのルミアの振る舞いを覚えてますか?
心の中はどうなのでしょう?あの行為、本当はどういう意図があったのでしょう?
次回は第一話をルミアの心に沿って観てみましょう。
次回第36話 偽りの裏側




