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第20話 死因

マフマフ

灰色のずんぐりムックリした雪だるまのような体形の猫型魔族

マスコットキャラクターのような愛くるしい姿をしており

見た目にふさわしく非常に人懐っこく特に

小さい子供に積極的に擦り寄る習性がある。

森の入り口付近に生息していることが多い。


体毛は本来は白なのだが毛に付着している粉が灰色なので

灰色に見える。


森の付近で遊ぶ子供を発見しては愛らしい仕草で子供の心を掴む

日が暮れるまで子供と遊ぶと森に帰っていく。

一度遊んだ子の顏をよく覚えており知った顏を見つけると

積極的に構ってもらおうとする。


体毛に付着した灰色の粉には微弱な毒が含まれている。

毒は徐々に人体を浸食する。

症状は病気で衰弱していくようにゆっくり

症状が現れる。

特徴的な症状が無い為、原因不明と診断されることが多い。


マフマフは自身の粉の匂いをたどることができる。

アリが獲物の所まで匂いを頼りに列を作るのと同じである。

そして何日も過ぎた後、夜な夜な粉の匂いを辿って

遊びに通ってくれた子供の家に忍び込み

毒で衰弱した家族全員を食い荒らす。

またたどり着いた家が大人数であったり

毒が回っていない人間が居た場合は引き返し

別の夜に集団で襲撃する。


個々の戦闘能力は低く1匹であれば子供でも退治が可能

その為毒を利用し確実に捕食できる機会を常に伺っている。

ゲバルトが地下牢より解放されて約一年が過ぎ去る、二人の年齢は9歳になった。この頃のエア国王は病に伏せりベッドから出ることは殆ど無くなっていた。


両親が心配していたゲバルトもすっかりおとなしくなりここ最近の日課は給仕長になったマウスリップと共に食事の準備することだった。


「いやーゲバルト様も手慣れたものですね」


マウスリップが金髪を揺らして感心した様子でゲバルトの包丁さばきを覗き見る。


「マウスリップのおかげだな、へへへ」


雑談を挟みながらゲバルトとマウスリップは手際よく調理をしていく。ゲバルトもマウスリップ程ではないが慣れた手つきである。


地下牢から解放されてすぐに料理をし始めて1年程経っている。さすがに腕も上達したものだ、ルミアに石をぶつけていたのと同じように繰り返してコツコツ上達させてきたのである。


「さ、ゲバルト様仕上げのスパイスを入れてください」

「はいよ了解!隠し味の秘密の粉!!」


褐色の小瓶に入った灰のような粉、それをさらさらとティースプーン一杯分スープに混ぜる、これで特製スープの完成である。


完成したスープを見てマウスリップが爽やかな笑顔で言う。


「いやー、これでまたエア国王が苦しんでくださるといいですね!」

「全くだ!それはともかく今まで一番美味くできたんじゃないか!?」


秘密の粉が入った小瓶を懐にしまうとゲバルトはお膳にスープを乗せて軽やかなステップで厨房の外へ向かう。


「じゃあボクちんはパパのとこ行ってくるよ」


ゲバルトは厨房からエアの部屋に料理を運ぶ。その様子を見て召使いや大臣は微笑ましく見守っている。ゲバルトが改心したのだと心から思っているのだ。


「ご機嫌麗しゅう、エア国王・・・」


いやらしい笑みでエアの部屋に現れたのは預言士であった。


「お前か、私がバカだったよ。もっと早く気づくべきだった。

ゲバルトに毒を盛らせているのだろう?そして儂の最後を利用する為にここに来た、違うか?」


「お気づきでしたかぁ、その通りさぁ・・・ゲバルト王子は

お前に毒を持っているよぉ。そしてお前ははもう助かる見込みはない、じわじわ衰弱して死んでいくのさぁ。そして死ぬ前にまだやってもらいたいことがあるよぉ、お前はルミアに王位を継承させるつもりだがそれをゲバルトに譲ると遺書を書いておくれ」

「残念だが王位はルミアだこの国に貴様ら二人の出る幕はない」

「無駄な足掻きだよぁ・・・」

「むぅ!?」


予言師が手を掲げると紫ともピンクとも取れる怪しい光がエア国王の視界を包む。


「私の能力は精神の弱い者を支配する能力さぁ・・・あんたもう床に伏して1年以上、身も心も衰弱した状態でこの力から逃れることはできない、私の言うことは絶対さぁ・・・さあ、遺書を書くのさぁ!!」


この事態に顏を歪めたのは意外にも預言士の方であった。


「いつまでも人の心を弄ぶ気だ?儂は貴様などに屈することはない」


洗脳が効いていないのだ。預言士は想定外の事態に困惑せざるを得なかった。


「なんて精神力だい・・・この期に及んで支配できないとは・・・」


しかしすぐにいつもの不快な笑みが預言士の顏に戻ってきた。


「フン、まぁ、他に手立てはある、幸いお前さんの息子の心は弱いままだからねぇ・・・ついでに最後の予言をしてやろう。お前は数刻の命さぁ、せいぜい悔いがないように過ごすがいいよぉ・・・ヒヒヒヒ!!!」


捨て台詞を残して預言士がが闇に消える。


「言われずとも分かるさ、自分の命の残り位はな・・・」


それから数分してしばらくしてゲバルトがエアの部屋をノックする。


「料理持ってきたよ今日は特に美味くできたぞ!ボクちんの特製料理さ!!」


ゲバルトを部屋に招き入れ、苦しそうに一呼吸おいてからゆっくりと口を開く。


「ゲバルトよ家族みんなを呼んで来てくれないか?大切な話がある。この食事はその話が終わった後にいただくとするよ」


穏やかな微笑みエアはそう言った。その穏やかな微笑みの裏に隠された決して揺るがない決意。そしてゲバルト自身に突如芽生えたよくわからない感情。それらに押されてゲバルトは静かに頷きルミアとペンナを呼びに部屋を飛び出していった。


エアは理解している、これが最後の一家団欒だと。


初めに部屋に入ってきたのはペンナだった。エアと目が合うと一瞬目だけを伏せてから穏やかに笑いかけてエアの居るベッドに静かに歩みをすすめた。


・・・儂が呼んだ意図を察しているな。


次に顔を覗かせたのはルミアだった。表情を不安に曇らせたまま「お父さん」と呼びかけてペンナを追い抜きベッドに駆け寄った。


・・・嫌な予感は感じているか。


最後に部屋に入ってきたのはゲバルトであった。しどろもどろした様子でどこが落ち着きがなく、そわそわしながらルミアとペンナよりもベッドから離れた位置に立ち止まった。


・・・安心しろ、毒のことは誰にも言わん。


「お父さんお話って何?」


ベッドに両手をつき不安な表情のままルミアが訊ねた。そんなルミアの頭をわしゃわしゃと撫でながらエアは「みんなと急に話したくなっただけだ」と優しい笑顔で答えた。


エアの言葉を聞きゲバルトは誰にも悟られないような、かすかなため息を漏らす。実は毒のことがバレていてここで毒を盛られていると暴露されるのではないかと内心不安で仕方なかったのだ。安堵したゲバルトは数歩だけエアのベッドに近づいた。


そして、たわいのない会話がひたすら繰り返された。思い出話、楽しかったことに嬉しかったこと苦しんだこと、それぞれのエピソードたち。部外者がこの会話を聞いても退屈に思うだけだ。


しかし、ここにいる4人は全員そのどうでもいい会話を噛み締めるように大切に、大切に・・・


そしてどれくらいの時が流れたのだろうか。

やがてエアが笑みを浮かべて「満足だ」そう呟いた。


「さてわしはそろそろ疲れてきてしまった、すまんがまた一人にしてくれんか。ああ、ゲバルトは話がある、残ってくれ」


皆が心配そうな顏をしたのを見てエアはやらしい笑顔で「覗くなよ?」と茶化してみせた。


「そんな趣味はありません!じゃあルミア行きましょう」


ペンナがルミアの手を引き部屋から出て行く。


「お父さんまたね!」


不安が失せすっかり笑顔になったルミアが手を振り扉が閉められた。ペンナはエアの望みを汲み、普段と変わらぬ態度を取った。それにはエアも気が付いていて感謝してもしきれない。


「ありがとうペンナ・・・すまないな、ルミア・・・」


ルミアの『またね』という言葉がエアの心に深く突き刺さる。

それでも最後に見るルミアの顔が笑顔で良かったと同時に安堵も覚えた。


「ゲバルト、お前には少し退屈な生活をさせてしまったな、すまなかった」

「どうしたんだよ、改まっちゃって気持ちワルい」


エアは鼻で笑う


「いいじゃないか、たまには息子と腹を割って話してみたくもなるもんだ」


「ていうかパパ、スープ冷めちゃったよほら飲んで飲んで」


ゲバルトが毒のスープを勧めてくる。ゲバルトにスープの皿を手渡されてエアはスープを見つめる。


「ゲバルトお前は料理がうまくなったな、最初のスープなんて飲めたもんじゃなかったぞ」

「え!?美味いって言ってたじゃんかよ!」

「バカだなぁ、建前だ建前!ほんとはゲボ吐きそうな程不味かった」


ニヤニヤとねちっこくゲバルトにそう語る。


「ボクちん頑張って作ったんだぞ!!」

「あぁ、そうだろうなぁ。そうじゃなきゃ1年でここまで上達しまいよ」

「な、なんだよ・・・褒めたいの?けなしたいの?」

「お前は気に入った事に対しての集中力が凄まじい。お前の誇っていい点だ、コツコツ努力することを知っている、それがお前の強みなんだ」

「・・・ボクちんの強み?」

「ああ、そうだ自信を持てゲバルト。繰り返し、積み重ねていくのがお前の力だ。誇っていい」

「力・・・か」

「自信が無く、不安だから誰かの足を引き、自分より下に下げようと必死になる。弱い人間の特徴だ、そして人間は誰しもが

意図しているしていないに関わらずやっていることでもある。

ゲバルトよ、真に強い人間などいない。自分の弱さを受け入れろ、そうすれば少なくとも道を踏み外すことはないだろう」

「・・・・・」

「すまんが、王位はルミアに譲る。ゲバルトよ、兄としてルミアを支えてやってくれ」


ゲバルトは息を飲み、静かに力強く首を縦に振る。

父の事を初めてカッコイイと思った瞬間であり、自信も愛されていたことを自覚した瞬間でもあった。


ゲバルトの覚悟を決めた表情に満足したしたエアはスープを口に運ぼうとする。


「あ!パパ駄目だ!!」


止めようとしたゲバルトにエアは笑って答えた。


「知ってて飲むのだ、安心しろ儂は毒で倒れるのではない、ただ、病に倒れ自慢の息子に看取られるだけのこと」


エアが豪快にスープを飲み干す。


「パパ!!」


「うむ、こんな美味いスープ・・・初めて飲んだ、儂は満足だ・・・ありがとうな、ゲバルト」


エアはそっと目と閉じ、その目が開かれることは二度となかった。

エアがゲバルトに残したものは最後に・・・嘘ですなんでもないです

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