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第五話 疑問




まず、『しあわせのふうせん』についてしっかり理解しなければならない。



「『しあわせのふうせん』ってなんなんだ?とりあえずアリアの為に『幸せ』を集めなきゃならないのはわかったけど、もっと詳しい話を聞かせてくれないと俺だってこれからどう立ち回ればいいかわからないからな。」

「そうね。まずそこから話しましょうかしら。」



「この世界には『魔法界』と『人間界』って言う二つの世界で成り立ってるんだけどね?魔法使いが住んでいるのが『魔法界』で、あなた達が普通に過ごしてるのが『人間界』って呼ばれてる。基本、お互いこの二つの世界に干渉し合うことは避けられてるんだけど。魔法使いが『魔法界』にいる分には大丈夫なんだけど、『人間界』にいるには魔力が足りなくなって体調不良をきたしちゃうの。だから随時魔力を補給してくれる『使い魔』が必要なの。まぁ、『魔法界』から『人間界』に干渉したのは私を含めて二人しかいないけどね。」


「えっ!つまりアリアは…」

「ええ、禁忌を破ったことになるわね。しかも、一人目は十歳上の私の姉さんだし。私の家のカーリー家は魔法使いとしては名門だったけど、二人の跡取り候補の不祥事でかなり動乱してるっぽいし。あと、『人間界』の人間を初めて『使い魔』にしたのも多分私が最初なんじゃないかしら。」

「はぁ!?」

「正直、知ってた『しあわせのふうせん』と全然変わってるところはないけど。」


…なんて奴だ。

なぜそんなことを何度もしでかすのか。


「何で禁忌を破ったんだ?」

「うーん…家出、かな?」

さらっと爆弾発言。

家出の為に禁忌まで破るのかよ。

「まぁちょっとした反抗期って奴かな〜。」


「そうか、それより、『使い魔』って意外に変わってるんだな。普通、なんか、こうドラゴンとか鳥とかそう言うモノが多いんじゃないのかなぁ、と。」

「うん、ドラゴンとかもいるわよ。」

「いるのか!?」

「『使い魔』は家系によって変わるのよ。ドラゴンを『使い魔』にする家系もあるし、ゴブリンの家系もあるわ。カーリー家は『使い魔』の中でも一、二を争う優秀さを誇る『しあわせのふうせん』を『使い魔』にする家系なの。」

「優秀、ねぇ…」


この身体のどこが優秀なんだか。


「ここまでは予備知識みたいなものよ。『しあわせのふうせん』について教えてあげる。あなたがまずすべきことは人々の『不幸』の吸収よ。そうね、試しに、私の『不幸』を吸収してみて。」

「また念じるだけでいいのか?」

「そうよ。大体の行動はあなたが念じればできるわ。ほら。」

「わかったよ。じゃあ、行くぞ…」


(アリアの『不幸』を吸収しろ…)








ググググッ!!


「!!」


再び腹が押し広げられる感覚が起き、ムクムクと膨張し始める。


朝食の時のような甘さはなく、容赦なく体が膨らんでいく。


「くっ、がっ、はぁっ…!」


しばらくして膨張が止まる。


時間にして十秒ちょっとだったが、全体的に大きくなった気がする。


「これが『しあわせのふうせん』の特殊能力の一つ、『吸収』よ。それと逆の行動に『排出』があるわね。これはさっきやったでしょ?これは文字通りあなたが吸い込んだ『不幸』を体内で『幸せ』に変換して排出するの。

『排出』された『幸せ』は特別なことがない限り私に行って魔力に変わるわ。『排出』させる対象を変更させることはできるけど私の許可が必要だからね。とりあえず『幸せ』を排出したら私に送られると考えてもらっていいわ。」


「あぁ、わかった。」

「ちなみに、一回の『排出』につき、魔法を使わなかったら一ヶ月は生活できる魔力ができるわね。」

「そんなにか!?」

「そう、これが『しあわせのふうせん』が優秀な『使い魔』って言われる理由の一つよ。魔法使いに供給する魔力量は一番と言っても過言じゃないわね。」

「なるほど…」

「それと、『しあわせのふうせん』の中でもあなたにだけ、かかっている魔法があるわ。それが『認識阻害魔法』よ。契約した時に強力なのをかけたんだけど、これは他人にあなたが『しあわせのふうせん』であることをバレさせないための魔法よ。今、あなたは周りに『いつも通りの船橋 風太』って思われてる。あなたの母親にも妹の百合ちゃんにも『いつも通り』って思われてるってわけ。だからバレてないのよ。」

「なるほど…」


それなら、こうやって空に浮いていても誰も気づかないか。『いつも通り』だと思ってるんだから。


「あと、この服は何なんだ?さっきはスルーしたけど。」

「あぁ、これは『魔法界』のマジックアイテムの一つなんだけど『着せ替えガム』っていうの。」

「…なんか青いタヌキがポケットから出してきそうなネーミングだな…」


「…まぁ、名前の話は置いといて、実はこれ、『しあわせのふうせん』の能力を応用した道具なんだけどね。

『しあわせのふうせん』って念じることで行動できるわよね?それを応用して念じることでその人の体に合った服を着させるのがこの道具よ。ま、これはまだ世の中に出回ってないんだけどね。」

「なんでアリアが持ってるんだ?」




「父さんからパクったのよ。」

「…」

真面目にコイツの道徳を疑う。


「これ作ったの父さんなんだけど、家出ついでにもってきたのよ。今使ってるのは『魔法界』でも『人間界』で考えても私とあなただけね。」

「お前なぁ…」

「別にいいのよ。家掘り返せばいくらでもあるんだから。それで、質問は終わり?」

いや、まだ重要なことが残っている。


「『愛里お姉ちゃん』、ってどういうことか教えてもらおうか。」

「あぁ、それね。私、今日からあなたの家族になったの。」






おい待て。

「か、家族?」

「そ、船橋 愛里。(ふなばし あり)

あなたと同い年の姉。っていう設定だから、二人きりの時以外はアリアって言うのはやめて。」

「ちょっ、いくらなんでも…」

「何言ってんの。さっきも言ったけど、魔法使いと使い魔の関係は切っても切れないもんなのよ。」


コイツにはモラルというものがないらしい。

「…母さんと百合にはバレてないだろうな?」

「当たり前じゃない。二人にはしっかり超強力な催眠術をかけておいたんだから。」

「それと、学校のクラスは?」

「もちろん、あなたと同じクラスよ。」

「はぁ…」




これは今日から大変だな。



「質問は以上。全部了解したよ。」

「そう、なら良かった。これからはどんどんあなたに働いてもらうからね。」


そう言われて、さっきからちょっと引っかかっていたことに気づいた。





「…なぁ、アリア。お前さ、俺のこと『あなた』って呼んでるだろ。」

「え?それがどうかしたの?」

「いや、どうもこうもないけどさ…

その。俺たちは既に契約をしてるんだろ?だからさ…いつまでも他人行儀みたいな感じはやめようぜ。さっきは二人がいたから名前で呼んでたっぽいけどさ…」





ーーーこれからは、二人がいなくても『風太』って呼んでくれないか?




返事はなかった。


しばらくすると、クスッと笑い声が聞こえた。


「う、ふふふ…」

「な、なんだよ。俺の言ったこと、そんなに変かよ!?」

「いいえ、別に。向こうではあんまり人を名前で呼ぶことはなかったから。

ついその癖が残ってたのかも。ええ、いいわよ。そのくらいの『使い魔』のわがままくらいなら許してあげるわよ。『風太』。」


「なんだよ、それ…まぁいっか。」

「そんなことより、ほら、見えたわよ。あなたの学校。」

「あっ…」


いよいよ、か。



気持ちの良い朝の空の旅は終わった。

ほとんどの疑問も解消された。



そして、常に騒がしくて、平和な学校生活が始まる。

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